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記憶と心臓を求めて  作者: hideki
本編
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第五十四話 嫌な邂逅

 そこにいたのは二人組。一人は白衣をまとった老人で、よほど気になるのか、膝をつき、わざわざ燃えカスを手に取っている。そしてもう一人、ここからでもわかるほどの鮮やかな金髪は、首をもたげ、老人を見つめている。

 ただの老人と子供。はたから見ればそれだけの真実に、しかし刹那は一瞬で鼓動が早くなるのを感じた。

 全身の毛が粟立つ。自分の体の全神経が警戒信号を発しているのがわかる。

 巨大ムカデの時とも、凛と相対した時とも違う、恐怖と嫌悪が混じり合った、とても気持ち悪い感覚。


「ちょっと、何固まってるの?」


 凛が刹那の視線を追って振り返る。


「あれ?ここに人なんていたっけ?」


 と、巨大ムカデの死骸を見下ろしていた者たちがこちらに歩いてきた。そのうちの一人は気さくに手など振っている。


「知りあい?」

「爺さん……」

「なぜ奴がここに?」


 こちらに手を振っていた白衣の老人は刹那たちの前まで来ると足を止めて刹那と凛をそれぞれ交互に見回した。


「久しぶりじゃのう刹那君、こちらはお友達かな?」

「まあそんな所だよ」


 一見好意的に話しているように見えるが、決して神威から手は離さない。用心の為だ。


「偶然だとは思うが、君がここに来るとは、因果じゃな」

「聯賦、貴様何しに来た?」


 円は真っ直ぐに聯賦を睨みつけた。刹那とは違い、円は露骨な敵意を隠そうともしない。


「いや~、なに、久しぶりに実験の成果を確認しにきたんじゃが、どうやら死んでいたようでな。あれ、君がやったのか円君?」

「だったらなんだ?」


 次は貴様か?

 そう問いたげな瞳を円が向ける。聯賦もそれは感じたようで、先程までの好意的な笑みから一転、何かを秘めたような怪しげな笑みを浮かべると、自分の手足となる者の名を呼んだ。


「礼をしなければならんのう。Ω」


 聯賦に呼ばれ金髪の少年がこちらに歩いてきた。その両目には相変わらず生気がまるで感じられない。


「少し遊んであげなさい」

「はい、ドクター」


 Ωが一歩前へ出る。それだけで刹那と円の周りの空気が張りつめる。


「ちょっと、こんな小さな子相手に何構えてんのよ」


 二人の剣呑な雰囲気を感じ取り、一人だけ状況の理解できない凛が刹那たちの間に割って入る。


「女、すっ込んでいろ、怪我するぞ?」

「は?何言って――」

「危ない!」


 刹那が凛に飛びかかりそのまま横へ倒れた。Ωの右腕が凛の頭があった場所を掠めたのだ。Ωの右腕はひじから先が鈍く光り、まるで鎌のようになっている。


「今度は鎌か、ずいぶんカッコいい腕になったな」

「……」


 前回の戦いの後、聯賦に改造されたのだろう。しかし、刹那の渾身の嫌味もΩ相手では全く意味をなさなかったようだ。


「ちょ、ちょっと、あの子どうなってるの?」


 目の前の信じられない光景に凛が目を丸くする。無理もない。初めて見た時は刹那も同じ反応をしてしまった。


「話すと長いから省略するけど、目の前のあの爺さんと子供は普通じゃない。下手すりゃこっちが殺されちまうぐらいにね」

「そう……わかったわ」


 凛は立ち上がると、おもむろに多節棍を構えた。その顔にはすでに混乱と迷いはなく、ただ一心に目の前の相手を見据えていた。


「ちょ、ちょっと?」


 この娘は話を聞いてなかったのか?ヤバい相手なんだぞ?


「さっきのムカデみたいな化け物ならまだしも、人の形をしてる相手を前に尻尾巻いて逃げるなんてまっぴらよ。私も戦うわ」

「そんな――」

「いいじゃないか刹那。戦力の増強は歓迎だ。それに自分でやると言っているんだ」


 円はそう言っているがやはり関係ない人を巻き込むのは気が引ける。


「さっさと終わらせて勝負するわよ」

「え?」


 あぁ、そういうことか。やれやれ、つくづくめんどくさいことになった。

 しかし、今それより問題なのは……。


「さて、三対二……と言いたいところだが、刹那、いけるか?」


 あの子供と戦えるのか、と円は言いたいのだろう。あの日から刹那はこんな日が来ることは覚悟していた。いつかはあの少年に神威を向けなければいけないと。しかし、その時は考えていたよりも早く来てしまった。

 出来れば戦いは避けたい。しかし、相手がそれを許さない。


 やるしかない――


 刹那はゆっくりと目を閉じ、神威を握る手に力を込めた。


「……大丈夫だ。やれる」

「だそうだ。これで三対二だが、貴様ら相手に卑怯だとは思わん。だが、帰るなら今のうちだぞ?」


 出来ればこの忠告を素直に聞いてもらいたいものだ。しかし、やはりと言うべきか聯賦達にその気配はない。


「ふふ、そう言われて引き下がるとでも思うのかね?」

「忠告はしておこうと思ってな」


 一触即発。

 双方いつでも相手に飛び掛かれるような状態だ。


「女、足だけは引っ張るなよ?」

「誰にモノ言ってんのよ」


 お互いに視線を合わせず、しかしなぜか息の合ったその雰囲気は、まるで往年の相棒を思わせた。そこで、今度は本来そのような空気を醸し出すべき刹那の方へと円が声をかける。


「刹那、準備は?」

「あぁ、こっちはいつでも大丈――っ」


 鋭い痛みが右腕に走った。どうやら、先程大ムカデに噛みつかれた所が今頃効いてきたらしい。


「どうした刹那?」

「いや、なんでもない。いつでもいける」


 痛いと言ってもそこまでじゃない。戦えないほどではないだろう。それに、目の前にいる相手は怪我をしているからと容赦をしてくれるとは到底思えない。


「いっちょやりますか!」


 刹那のその言葉を合図に、両者が真っ向からぶつかった。

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