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記憶と心臓を求めて  作者: hideki
本編
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第五十三話 地上へ

「地上だ!う~眩しい!」


 地上に出た喜びに我を忘れ、刹那たちは外へ飛び出していた。時間にすれば一時間ほどだったのだろうが、体に感じる光はまるで数年ぶりのような温かさを感じる。


「やっぱり私の予想通りだったでしょ」


 凛がどうだとばかりに胸を張っている。確かに、彼女の発見がなけれ刹那たちはここにいなかったかもしれない。それだけではなく、あの時彼女が巨大ムカデの攻撃を防いでくれなければ、自分は今頃地上を通り越してもっと上の方に行っていたかもしれないのだ。


「確かにね。今回ばかりは君に――」

「刹那!」


 刹那の言葉を遮って聞き覚えのある声が聞こえてきた。その声の主を確認しようと振り向くと、そこには見慣れた黒猫が駆ける姿があった。


「円!」

「ん?そいつは?」


 円が凛の方へと視線を向ける。その瞳は、予想だにしない相手の登場に戸惑っているようだ。


「お久しぶり猫ちゃん」


 対して、凛は余裕すら感じられる雰囲気で手など振っている。巨大ムカデを前にした時も思ったが、なかなか胆の据わった女の子だ。


「なぜここにいる?」

「あ~、話すと長いんだけど――ッ!」


 揺れる地面。

 これはまさか――


「この揺れはッ?」

「嘘でしょッ?」

「どうしたんだ?」


 円が二人に事情を聞くよりも早く、彼らのすぐ近くの地面からあの巨大ムカデが飛び出してきた。

 流れる深緑色の血液。

 興奮した様子で開閉する両顎。

 もし目があったのなら、その瞳は怒りで燃えていたに違いない。


「アイツ、まだ生きてたのかッ?」

「なんだあの化け物はッ?」


 ただ一人事情を知らない円は、凛を見たときよりもさらに困惑した瞳で刹那に問いかけた。だが、今は悠長に説明している時間はない。


「詳しいことはアイツをやっつけてからだ」


 刹那が神威を抜く。その切っ先はあの怒れる顔へ。


「まったく、勘弁してほしいわ」


 凛が多節棍を下す。その両端はあの巨大な体を絡め取るために。


「円、油断するなよ、アイツは……」

「敵なんだな?それなら――容赦はせん!」


 円がその瞳を深紅に染めた。それは……奴を焼き尽くすために!


 その数秒後、ご多分に漏れず巨大ムカデが炎に包まれる。

 予想外の事態に体を動かすことで対処しようとした巨大ムカデだったが、円の炎がその程度の動きで消えるわけがない。まるで天に助けを求めるかのように伸ばした体は、しかしなす術無く巨大な火柱となってあっという間に燃え尽きてしまった。こうなればもう襲ってくることも無いだろう。


「えッ?」


 あまりの一瞬の出来事に、状況についていけない凛が動きを止める。


「ふん、他愛もない」


 円が呑気に毛づくろいを始める横で、今度は凛が驚く番だった。口をあんぐり開けて、ただ一点、消し炭になった巨大ムカデの死骸を見つめている。


「さすが円、決めてくれるねぇ」

「ちょっと!今のなんなのよッ?」


 一人だけ置いてきぼりをくらった凛が刹那に詰め寄る。


「円は猫又だからね、火を出すのはお手の物さ」


 さも当然とばかりに刹那が言う。それを聞いた凛は口を閉じるのがやっとの様子だ。


「猫又……」


 その言葉をゆっくりと咀嚼するように、凛が言葉を反芻する。今、彼女の頭の中では「猫又」と「炎」という単語を結びつける作業が全力で行われているに違いない。


「刹那、そんなことは良いからさっさと行くぞ。ここに居てもロクなことがなさそうだ」

「それもそうだ」

「ちょっと待ったぁ!」


 刹那たちがその場を立ち去ろうとすると、先程まで全力で状況を理解しようとしていたはずの凛が立ちふさがった。


「ここで逃がすわけにはいかないわ。勝負しなさい!」

「おい刹那、お前そこら辺の問題は解決したんじゃなかったのか?」


 凛と二人でいた刹那を見て、円は凛とのわだかまりが解けたと考えていたようだ。だがしかし、刹那にそこまでの甲斐性が無いこともよく分かっている円は、呆れ顔で刹那の顔を見た。


「いや~、実は後回しにしてただけだったり」

「面倒事は先に片付けておけ」


 この時ほど円の言葉が身に染みたことはない。生涯、刹那は何か失敗をしてはこの言葉を思い出すことだろう。


「なにブツブツ言ってんのよ!ほら!勝負するわよ!」

「え~、めんどくさいからまた今度にしようよ」

「ダメ!」


 千歳一隅のこの機会を逃してなるものか、と凛が刹那に詰め寄る。ヒジョ~に、ヒジョ~にめんどくさいが……やるしかないようだ。


「仕方ない。それじゃ――ッ!」


 神威を引き抜こうとした刹那の動きが突然止まる。凛の後ろ、燃えカスになった巨大ムカデを見下ろす者たちがいたのだ。

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