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記憶と心臓を求めて  作者: hideki
本編
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第五十二話 穿つ

 巨大ムカデが顔を上げ、再び刹那の方へと顔を向けた。狙いを完全に刹那に定めたようだ。相手が退いたおかげで階段までの道は開けたが、これでは下手に背中を見せることはできない。


「くそっ」


 刹那が神威を構える。だが相手はあの大きさだ。太刀打ちできるだろうか?

 しかし考えている暇はなかった。巨大ムカデが再び刹那に襲い掛かってきたのだ。


「くっ」


 刹那は横に避けながら巨大ムカデに切りつけた。だが、相手には軽い切り傷が付いた程度で致命傷には程遠い。避けながら攻撃しなければいけないため腰を入れることが出来ず、威力は半減してしまっている。


 くそ、全然効いてない。

 認めたくない現実に思わず舌打ちが出る。どうにかして奴に致命傷を与えることはできないか。

 そんな刹那の思いとは裏腹に相手は考える時間を与えてはくれない。巨大ムカデはすぐに態勢を立て直すと、再び刹那に飛びかった。また避けつつ攻撃を加えるか。だが、それでは意味がない。


「――ッ!」


 その逡巡のために刹那の動きが一瞬遅れた。相手の巨大な顎が彼の頭をかみ砕こうと迫る。だが――


「考え事なら後にして!」


 巨大ムカデの頭が揺れる。その顔面めがけて凛の多節棍が伸びたのだ。完全な横からの不意打ちに巨大ムカデは面食らったのか後ろに後退する。


「おぉ!」

「感心してないでさっさと逃げるわよ!」


 凛に腕を引かれ刹那は階段の方へと走って行った。階段は暗く、先が見えないが、なんとか足元は確認できる。足場は良いとは言えないが、速度を落とすわけにはいかない。彼らのすぐ後ろには巨大ムカデが迫っていたのだ。


「あれ完全に怒ってないか?」

「知らないわよ!」


 心なしか巨大ムカデの動きが荒々しい気がする。先ほどの凛の一撃が引き金になったのかもしれない。


「とりあえずこのまま上に上がって外に出ましょう!」

「この階段がそこまで繋がってなかったら?」

「その時はまた考える!」


 なんとも頼りない話だが、今はそうするしかないだろう。事実、退路は断たれてしまっているわけだし。


「とにかく今は――あッ!」


 刹那の方へ振り返りながら走っていた凛が階段に足を取られてその場に倒れた。その隙を待っていたかのように巨大ムカデが速度を上げる。

 凛はまだ立ち上がることが出来ない。肩に担いだ多節棍が狭い通路に引っ掛かっているのだ。獲物のうちの一体がもたついていることを感じ取ったのか、巨大ムカデはますます速度を上げた。

 身動きの取れない凛とまっすぐに迫ってくる巨大なムカデ。刹那は、神威を抜いた。


「仕方ねぇか」


 刹那が凛と巨大ムカデの間に立つようにして神威を構える。


「何してるのよ!私のことはいいから!早く逃げて!」

「そういうわけにはいかないよ」


 女の子を残して生き延びたとあっては男がすたる。なにより、寝覚めは最悪に悪そうだ。

 こちらは足場の悪い階段、対して、向こうは掘り進むように来ているから足場は関係ない。どう考えてもこちらが不利だが……。


「来いよ化け物」 


 先ほどは避けることを前提にしていたために威力が半減した。今回はそれはしない。どうせ退路が無いんだ。こっちから突っ込んでやる!


「おぉぉぉぉ!」

「――ッ!ちょっとッ?」


 刹那は神威を順手にそのまま巨大ムカデに突撃した。切りつけるのではない、相手を貫くのだ。

 狙うは一点。巨大ムカデの顔面。

 あの顔に神威を突き刺す。一瞬でも躊躇すればあの巨大な顎に噛み砕かれるだろう。


 ビビるな――


 神威を握る手に汗が滲む。考えないようにしてもどうしても最悪の結末が頭をよぎる。しかし、足を止める訳にはいかない。勢いを無くせばそれだけ死が近づく。

 巨大ムカデは目の前、あと五秒ほどでぶつかる。一秒が何十秒にも感じられた。相手をしっかりと見据える。

 巨大ムカデが目と鼻の先に着た。そして――


 今だ――


 足に力を込めて一気に地面を蹴る。

 そのままの勢いで相手の顔面に飛び掛かった!


「オラァァァ!」


 神威を真っ直ぐに押し込む。

 刃のぶつかる音と肉を切り裂く音。

 神威が殻を貫通し、そのまま顔の奥まで突き進んだ音だ。


「うぉ!」


 顔面に走る激痛に巨大ムカデが暴れまわる。神威を握ったままの刹那は左右に揺られ、狭い通路に体をぶつけてしまう。反面、それは今の攻撃が効果があったことを表している。

 だが、まだ安心はできない。今、刹那は巨大ムカデの顔と顎の間にいる。顎を閉じられればそのまま胴体を噛みちぎられてしまう。そうなる前に一気に神威を引き抜かねば。


「ッ――」


 右腕に鋭い痛みが走った。どうやら相手の顎が突き刺さったらしい。だが、刹那によそ見をする余裕はない。


「こなくそぉぉぉ」


 突き刺した神威を今度は力いっぱい下に振り切る。肉を切り裂きながら神威が移動する。そして、巨大ムカデの顔から神威が抜けた。


「―――ッ!」


 声にならない声を発しながら巨大ムカデは顔を引いた。と、そのまま倒れ、ピクリとも動かない。どうやら、勝負はあったらしい。


「や、やった」


 緊張が解けた刹那はその場に座り込んでしまう。これでようやく一安心といったところか。


「そいつ死んだの?」


 巨大ムカデの方をチラチラと見ながら凛が近付いてきた。


「たぶん」


 神威の切っ先で突いてみるが反応はない。どうやら本当に絶命したようだ。


「そっか。……それにしても何考えてるのよ。一歩間違えたら死んでたわよ」


 凛が手を差し伸べてくれる。今は素直にその好意に甘えておこう。


「結果オーライってことで良いじゃん」

「まったく……」


 呆れかえった顔の凛だったが、それでも少しうれしそうなのは当面の危機が去ったからだろうか。


「邪魔者もやっつけたし、行くとしますか」


 ふらついた足取りながら、刹那は階段を上って行った。

 それから十分ほど階段を上った所で階段は終わり、刹那たちは広い場所へ出た。そこは何か大きな建物だったようだが、あの巨大ムカデの起こす地震にやられたのか、今は見る影もない。

 だが、刹那たちの関心はその建物の窓であったであろう所から見える外の景色だった。

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