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記憶と心臓を求めて  作者: hideki
本編
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第五十一話 その先で見たものは

「なんだ……これ」


 整然と並べられた円柱形のガラス張りのケース群。機械につながれ、不気味に光る得体の知れない緑色の液体に満たされたそのケースの中には、奇妙な動物が収まっている。

 種類で言えば、左から犬と鼠と鳥だ。頭が二つ付いているとか、足が五本あるとかそんなことはない。ただ、そこにいる動物たちはどれも巨大(・・)なのだ。

 本来小鳥という分類をされるであろうその鳥はまるで大鷲のような姿で、鼠は軽く刹那の頭ほどある。犬に至っては刹那の倍以上の大きさがあるのではないか。


「なにこれ?こんな大きな種類がいるの?」

「いや、たぶん、誰かに無理やりこんな姿にされたんだろ」


 刹那には一人だけ心当たりがあった。自分の私利私欲を満たすためには全く躊躇しない男。あの老人ならこんな実験をしていても不思議じゃない。


「生きてるのかな?」


 凛が鳥のガラスケースへと近づく。刹那も同じように近づいて見てみたが、ガラスケースの中の鳥は腐敗が進んでおり、体の所々が痛んでいた。この機械が生命維持を行っていたのかもしれないが、故障してその機能が止まってしまったのかもしれない。他の動物たちも同様だ。 

 と、その列の中に一つ違和感があるものを見つけた。


「あれだけガラスが割れてる」


 鳥のケースから二個隣のケース、中の液体は全て出てしまったのか今は割れたケースだけが残されている。中の動物は……どこにいったんだ?

 辺りを探そうとした刹那の耳に、凛の声が届く。


「ねぇ!あれ!上に繋がってるんじゃないッ?」


 凛が指差した先には確かに上りの階段があった。アレを上れば外に出られるかもしれない。


「やった!」


 思わず刹那たちは駆け出していた。この暗く不気味な場所からもこれでおさらばだ、どこら辺に出られるかは分からないが、外に出たらまずは円を探そう。

 すでに刹那の心は外に出た後に向いていた。

 しかし――


「きゃッ?」

 

 大地が揺れる。

 先ほどの揺れよりも大きい。というか、ますます大きくなっている。動物たちの入ったガラスケースが耐えきれずに次々に割れていく。刹那たちもとてもじゃないがまともに立っていられない状態だ。


「早く階段へ!」


 この調子ではここも埋もれてしまうかもしれない。這うようにして階段へと急ぐ。階段まであと少し――と、突然階段の横の壁が崩れた。


「え?」


 地震の揺れのためか?いや、違う――アレはッ?


「化け物!」


 階段の横の崩れた壁から現れたその生物には鋭い対の牙があった。それは左右から獲物を挟み込むために生えているようで、今もカチカチと音を立てながらぶつかり合っている。頭からは二本の触角が生え、獲物を探すように左右に揺れていた。それは巨大なムカデだった。その大きさたるや先ほどの犬の比ではない。顔だけでも三メートルはあり、顔から少し先が穴から出ている程度だが、それでも優に五メートルは超えている。体全体を合わせたらどれだけの長さになるのだろうか。そして、その顔に違和感を覚えた刹那だったが、違和感の理由はすぐに分かった。


「なんなのよ、コイツ?」


 巨大ムカデが動くたびに刹那たちの足元が揺れる。まるで地震が起きているかのようだ。


「なるほど、アイツが土の中を移動してたからあんなに揺れたのか」

「感心してる場合じゃないでしょ」


 巨大ムカデがずるずると穴から這い出てくる。二本の鋭い牙が開いたり閉じたりを繰り返している。あれに噛み付かれたら一溜まりもないだろう。


「気持ち悪い」

「何言ってんの。君の武器と同じような形してんじゃん」


 確かに凛の多節棍のうねる姿はあの巨大ムカデに瓜二つである。無数に付いた反しもまるで足のようでより一層ムカデらしさを際立たせている。


「冗談じゃないわよ、あんなのと一緒にしないで」

「そっくりだと思うけどなぁ」

「あ゛?」


 凛の鋭い視線が刹那を捕らえる。正直、巨大ムカデよりも恐ろしい。


「すいません、なんでもないです」

「で、どうするの?あれじゃあ通れないわよ」


 穴から這い出た巨大ムカデは階段を塞ぐようにして歩いている。あれでは近づくことも出来ない。


「まあ襲ってこないし、通り過ぎるのを待てばいいんじゃない?」


 刹那の言うように最初は巨大ムカデも彼らを無視するように歩いていた。だが、その動きが止まり、触覚がグルグルと動き回り、そして、また止まる。しばらくすると頭がある方向を向いた。

 その先にいたのは、もちろん刹那たちだ。


「ねぇ、ちょっとヤバいんじゃないの?」

「いやいや、まさかそんな……」


 巨大ムカデの顎がカチカチと開閉を繰り返す。まるで獲物を見つけた喜びに手を叩くかのように。


「ねぇ、アレって私たちを食べる気なんじゃないの?」

「まさか~」


 顔が少し後ろに反るような形になる。その姿は獲物にとびかかる蛇を思わせた。


「ねぇ!アレって!」

「逃げろ!」


 刹那のその言葉を合図に三者が一斉に動いた。刹那と凛はそれぞれ左右に飛び、巨大ムカデは二人めがけて飛びかかった。

 なんとか避けることが出来た刹那たちだったが、巨大ムカデの直撃を受けた壁は亀裂が走り大穴が開いている。もしあれに直撃していたらと思うと身の毛がよだつ思いの刹那だった。

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