第二十話 新しい刀
刀の刃はまるで透明なガラスのように透き通っていた。柄巻は薄い緑色をしており、黒色をしていた神威とは全く異なる。
「ふぅ~~、終わったよ」
そう言って男が刹那の前に神威だった刀を差し出す。刹那は訳も分からず、とりあえず目の前に差し出されたその神威だった刀を手に取った。
「軽!」
普段振るっている神威と同じ感覚で持った刹那だったが、その刀の驚くほどの軽さに思わず声を上げてしまった。大体、重さは神威の三分の二程度だろうか。
「その刀は飛旋。神威の倍の速度くらいで振れるはずだよ」
「へぇ~そいつはいいや」
男の言葉の通り、刹那が飛旋を振ってみると神威の時よりも軽々と振り回すことが出来た。
「新しい刀もあげたし、そろそろ行きなさい」
「あ、はい、どうも」
その自然な流れに刹那は思わず踵を返してそのまま部屋を出ていきそうになる。だが、何か違和感を覚えて、ふと立ち止まった。
何か忘れている気が……あ。
「あの、神威は?」
「気づいちゃった?」
いたずらを見つかった子供のように男が舌を出す。その姿に軽くイラっとしたのは刹那だけではないはずである。その証拠に、円はイラ立ちを隠そうともせず舌打ちした。
「いや、気づきますよ。それで神威は?」
「今持ってるじゃないか」
男は飛旋を指差す。しかし、刹那が持っているのはどう見ても神威ではない。
「あの、これじゃないんですけど?」
「ははは、冗談冗談。でも、君にももう分かってるんだろ?神威の出し方」
「え?それは……」
男の言うとおり、刹那は神威がどこにあるのかなんとなく想像できていた、いや、分かっていた。
たぶん――
刹那は神威のことを思い浮かべる。すると、刀がまた鈍く光り出し、一瞬にしてその姿を神威へと変貌させる。
「ふぅ」
一息ついて神威を眺める。この重さ、この握り心地、間違いなく今まで自分が持っていた刀だ。
考えるだけでこの刀は神威に変わる。
なぜかは分からないが、そう確信があった。そして、実際に飛旋は自分が思い浮かべただけで神威へと姿を変えた。
「よく出来ました」
「いったいなんだ今のは?」
一人置いてきぼりを食らっていた円が刹那に回答を求める。
刹那としても何なのかを説明をしたいのだが、何と説明してよいのかわからない。
まごつく刹那を見かねたのか、男が刹那と円の間に割って入る。
「どんな仕組みも何も、そういうもんなんだから仕方がないって。円君、君が炎を操れるのと同じだよ」
「…………」
納得するどころかますます男への疑いを強くしたのか、円は刺すような視線を男へと向けた。
「何者だ?」
「だから、慌てないの。そのうち分かるからさ。焦るニャンコは貰いが少ないよ?」
「貴様……」
円の刺すような視線にも、男は飄々と構えまったく気負いする様子はなかった。そして、そのまま刹那の方へと視線を向ける。
「さて、刹那君、そこまで出来たなら、飛旋の特徴も分かってるよね」
「へ?」
まずい、ちゃんと聞いてなかった。
今の刹那は飛旋が神威に変わった仕組みよりも、なぜ自分がそれを知っていたのか、を考えるのに必死だった。おかげで、全く話を聞いておらず、素っ頓狂な声を返してしまった。
「特徴だよ、特徴。円君にも見せてあげなよ」
「え?特徴?あ……あぁ、特徴ね、はいはい、特徴特徴」
「お前、分かってるか?」
空返事の刹那に円の呆れたような視線が向けられる。その間に男は奥へと向い、片手に箒をもって戻ってきた。
「飛旋の力を使うならこれが一番でしょ」
そう言って男は箒を持った右手をまっすぐに伸ばした。今、箒は床と平行に刹那たちから見て一文字になるように持たれている。
「さぁ、刹那君」
男に促されて、刹那は頭の中で飛旋の姿を思い浮かべた。すると、神威が光り出し、また飛旋の姿へと変わって行った。飛旋を見つめながら、刹那は男が何を意図しているのか考え、その結論として、男から離れ飛旋を構えた。
「おい、刹那、何をする気だ」
「なに、簡単なことだよ。飛旋でこの箒を切ってもらうのさ。そこから動かずにね」
刹那の代わりに円の問いに答えた男は驚きの色を隠せない円の顔を見てニヤリと笑う。




