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記憶と心臓を求めて  作者: hideki
本編
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第二話 猫の恩返し?

「……ん」


 焚火の火が消えないように枝でいじりながら適度に空気を入れていると、小さい声が聞こえてきた。どうやら黒猫が目を覚ましたらしい。


「おぉ、目が覚めたか」

「貴様……何をしている?」


 黒猫が起き上がり刹那に近づきながら問いかけた。


「なにって、焚き火囲んで魚焼いてんだけど」


 刹那はそう言いながら焚火の傍に突き立てた魚を刺した棒を掴んだ。ふむ、良い匂いだ。


「ん、そろそろ食えるな」

「…………」

「腹減ってんだろ?お前も食うか?さっきそこの川で獲ったやつだけど、泥臭くなくて美味いぞ?」


 刹那は黒猫に魚を一匹差し出した。しかし、黒猫はその魚に見向きもしない。


「誇り高き猫又が人間の施しなど受けるか」


 黒猫はそう言うとそっぽを向いてしまった。どうやら、かなりプライドが高いらしい。


「ふ~ん、せっかく鰹節もつけてやろうと思ったのに」

「鰹節ッ?」


 その単語を聞いた瞬間、黒猫は両耳を立て、刹那の方に視線を向けた。明かに惹かれている。それを見た刹那は、おもむろに鞄から鰹節――食料が尽きた時、空腹のあまり少しかじったがあまりおいしくなかった――を出してそれを手元のナイフで小さく切り、黒猫の前でチラつかせた。黒猫は鰹節を持った刹那の手をじっと眺め、その動きを追っている。


「欲しい?」

「いらん」

「あ、そう」


 刹那はもう片方の手に魚を持って、自分から少し離れた所に鰹節と一緒においてやった。我ながら良いやつである。


「ふにゃっ」


 刹那が魚を置いて離れると、黒猫はすぐさまその魚に飛びつき、あっという間に頬張り始める。口ではああ言っていたが腹が減っていたのだろう。


「やっぱ腹減ってたんじゃねぇか」


 それから、刹那と黒猫は一言も喋らずに食事を続け、食事を終えた刹那は黒猫を放っておいて眠りについた。一応、昼間のことがあったために枕もとには武器になりそうな太めの木の枝を置いておいた。実際に役に立つかは分からないが、何もないよりはマシである。


 * * *


 次の日の朝、刹那が目を覚ますとそこに黒猫の姿は無かった。自分の心臓は抉られるどころか、服が破れた様子もない。


「ま、別にお礼言われたかったわけでもないしな」


 むしろあの猫が律儀に礼を言ってきたらそれはそれで気持ち悪い。

 そんなことを考えながら、刹那は荷物をまとめてその場を後にした。


 ――最近の自分は本当にツイてない


 刹那がそう実感したのはそれから十分もしないうちにガラの悪い男たちに絡まれたからだった。


「兄ちゃん、死にたくなかったら身包み剥いで置いていってもらおうか」


 刹那を囲むようにして、三人の男が刃物を向けている。色が褪せ、ボロボロになった服はお世辞にも身なりが良いとは言えず、いかにも盗賊といった風貌だ。


「猫の次は山賊かよ、勘弁してくれよ、もう」


 連日の不幸に感覚がマヒしつつあるのか、命の危険にさらされているにもかかわらず刹那はまったく焦っていなかった。


「俺が何したってんだよ、神様ぁ!」

「何をごちゃごちゃ言ってやがる!身包み剥いで置いてけって言ってんだろうが!死にてぇのか!」


 刹那の態度に苛立ちを覚えたのか、痺れを切らした山賊の一人が彼に向かって手持ちの短剣を突きつけてくる。

 どうやら刹那には自分の不幸を嘆く時間も与えられていないらしい。丸腰の自分では到底勝ち目も無いし、ここは素直に従った方が良いだろうか?


「今度は山賊か?貴様もとことんツイてない奴だな」


 と、その場には不釣り合いな落ち着き払った声が背後から聞こえてきた。

 この声には聞き覚えがある。記憶喪失の自分の記憶にあるのだからその相手は限られており、確かめるように振り返ると、そこにはあの黒猫がいた。

 昨日と同じ、まったく臆することなく、なんの躊躇いも無くこちらに近づいてくる。


「なんだぁ?猫が喋りやがった。お前の手品か?」


 刹那に短剣を突きつけていた盗賊が黒猫と刹那を交互に見ながら訊ねる。


「おい、そこの。今すぐその手に持ったものを下げてこの場から去れ。そうすれば余計な傷を作らなくて済むぞ」

「あ~?猫の癖に俺に指図するのかぁ?」


 山賊が刹那に突きつけた短剣を黒猫の方へと向けようとした時だった。刹那は昨日とまったく同じ、あの真紅の瞳を目撃することになる。


「俺は猫ではない――誇り高き猫又だ!」


 黒猫がそう言った瞬間、山賊の体から炎が上がる。胸の辺りから広がるようにして、ものの数秒で彼の全身を炎が覆ってしまう。


「え?あれ?うぁああああちぃぃぃぃい!」


 数秒して自分の体全体が炎に包まれたことを理解した山賊は、刹那には目もくれず一目散に逃げてしまった。残りの二人はそんな仲間の姿を目撃し、お互いに目を合わすと、逃げた仲間と同じ方向に走っていってしまった。どうやら、助かったらしい。

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