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記憶と心臓を求めて  作者: hideki
本編
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第十九話 怪しい男

靴を脱いで本堂に上がると、床は木目張りでひんやりとしていた。長い廊下をしばらく歩き、男がある部屋の前で足を止める。そして、ふすまを開けて中に入ると、刹那たちにも入るように促した。


「さ、どうぞ。あ、敷居は踏まないようにしてね」


 その部屋は廊下と同じ木目張りで広さは十畳くらいだろうか。部屋の奥に大きな神棚が置いてある以外は普通の部屋だ。


「じゃあそこに腰掛けて。あ、楽にしてくれていいから」


 男は自分から少し離れた場所を指定し二人に座るよう促した。刹那は胡坐だが神威を左わきに置き、円は座ってはいるが、いつでも動ける態勢で男を見ている。

 だが次の瞬間、刹那たちは一気に緊張を高めることになる。


「さて、じゃあ、そろそろ本題に入ろうか、刹那君、円君?」

「ッ!」

「貴様、なぜ俺達の名前を知っているッ?」


 いきなりの男の切り出しに驚きを隠せない刹那と、鋭い視線を男に向ける円。彼らはここにきて、一度もお互いの名前を呼んでいない。この男が彼らの名前を知りえるはずがないのだ。


「おっと、そんなに構えないでくれよ。君たちがここに来るのは分かってたんだ。なんてたって、そうなるようになってるんだから」

 

 飄々とした表情で意味深な言葉を吐く男。今となってはその挙動一つ一つが怪しさを醸し出している。


「どういうことですか?」

「まあ、それは追々分かってくると思うから、今はまだ教えてあげない」

「貴様、ふざけているのか?」

「もう、そんな怖い顔しないでよ。その代わり、君らに新しい刀(・・・・)あげるからさ」


 その一言に刹那と円の目に驚きの色が浮かぶ。この男は、自分たちの名前だけではなく、刹那たちがここに来た目的をも知っている。いったい何者なのだ?


「新しい刀ってことは、俺のことを知ってるんですかッ?だったら教えてください!俺は誰なんですかッ?」


 刹那は男の方へと身を乗り出した。自分の素性を知りえる人物に出会えた。これは記憶喪失の刹那にとってはとても重要なことだ。


 この男は記憶をなくす前の自分のことを知っているかもしれない――


 淡い期待が刹那の脳裏をよぎる。


「そんなに慌てなさんなって。さっきも言った通り、それは追々分かってくるからさ」


 だが、男は話す気はないらしい。

 いっそのこと、力ずくで聞き出してしまおうか?

 刹那がそんな物騒なことを考え始めるのと、男が刹那の目の前まで歩いてきたのは同時だった。そして、刹那の前でしゃがむと右手を差し出してきた。


「え?」

「悪いんだけど、神威貸してくれるかい?なに、悪いようにはしないからさ」


 突然の申し出。普通なら断るべきだろうが、この男は何か知っている。それなら――


「……それじゃあ」

「おい、刹那!」

「だからぁ~大丈夫だって」


 止めようとする円を左手で静止し、男は刹那から神威を受け取ると、元いた位置まで戻って神威を両手で持ち、自分の胸のあたりまで持ち上げた。


「それじゃあ、始めよう」


 男は目を閉じると静かに何かを唱え始めた。男が一言唱えるたびに刹那はその場の空気が張り詰めていくのを肌で感じていた。何か、これから特別なことが起こる。それは確信にも近い予感だった。


「何が始まるんだろう?」

「分らん。それより、刹那、気付いているか?あの手……」

「あぁ。あの人……」


 刹那は男の右手に視線を向けた。


「袖が解れてるよな。教えてあげた方が良いかな?」

「……そっちじゃない。あの男の周りだけ、空気の流れが違う。まるで神威に集まるようにして空気が渦巻いている」

「そうなのか?」


 円が見つめる先では男が静かに何かを唱えている。刹那の眼には特に変わったようには見えないのだが、円は動物的洞察力で何かを見ているのかもしれない。


「…………――」


 男の口が不意に止まる。

 そして、カッと目を見開き男が吠えた!


「キェェェェェーーーーッ!」

「な、なんだッ?」

「――ッ!見てみろ刹那!」

「すごい顔だ!」


 男は両目を見開き、細い眼の奥に二つの瞳を光らせている。先ほどまでの物静かな雰囲気とは違い、まるで何かに取り憑かれているようだ。


「馬鹿者ッ!そっちじゃない!神威の方だ!」


 そう言われて刹那は視線を神威の方へと移した。すると、どうしたことだろう?神威は光を放っており、その光がドンドンと強くなっていくではないか。そして、今度は刹那にもはっきり見えた。神威の周りに空気、いや、風が集まっていく姿が。


「どうなってんだアレ?」


 今や神威は全体を光に包まれ、まったく見えなくなっていた。そして、ひときわ強い光を放ったかと思うと、猛烈な風が刹那と円の間をすり抜ける。


「ん……」


 眩しさと突風から思わず目を閉じる。

 何が起きているのか全く分からない。

 状況を確認するため、刹那が目を開けると、そこには――

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