第百六十五話 資格
そこは不思議な空間だった。陽燈と陰軌が並び立ち、彼らのちょうど真ん中を境にして、陽燈側が白、陰軌側が黒の空間になっている。あたりには何も無く、ずっと先までこの空間は続いているようだ。
刹那は今、ちょうど白と黒の真ん中に立っている。
「おめでとう刹那、君は新しい刀を手に入れる資格を得た」
陽燈にそう言われても刹那には訳が分からない。資格とは一体なんだ?それにここはどこだ?
「ここは?」
「細かいこと気にしちゃだめだよ」
「そうそう。向こうは騒がしかったから、ちょっと僕らのいる場所に移ったの。ここは別にどこってわけじゃないよ。さあ、新しい刀を……」
「まだだ。あの男の人はどうなった?」
姿を消されたあの昼の民の男。彼はどうなったのか。
「あぁ、彼なら元の場所に戻したよ。今頃友達と再会でも喜んでるんじゃない?」
陰軌のその言葉を聞いて安心した。あの男は生きていたのだ。しかし、一つ疑問が残る。
「なんであんなことをした?」
なぜあんな真似をしたのか、それが刹那には分からない。すぐに元に戻したというのなら、彼らが言っていた償いの意味もないはずだ。
「あれはね、君を試したんだ」
「試した?」
陽燈の顔を見返すと、彼はにこにこと笑いながら続けた。
「そうさ、君が先代と同じかどうか、ね。もし君が先代と同じような人間だったら、新しい刀は渡さないつもりだった」
まただ。先代と言うことは、自分と同じような人間がいたのだろうか。
「俺と同じように刀を集めていた人間がいたのか?」
「そうだよ。その彼も大和を旅して刀を集めたんだ」
驚いた。自分と同じことをしていた人間がいたとは。ということは、その人物を調べれば自分の正体が分かるのではないか?
「先代はどこの誰だったんだ?」
「それは秘密」
即答されてしまった。だが、ここで引き下がるわけにはいかない。
「じゃ、じゃあ、一体どんな人だった?」
その質問に二人の神々が顔を見合わせる。
「う~ん、どうする陰軌?」
「教えてあげてもいいんじゃない陽燈?」
何やら二人でこそこそと話し合っているが、刹那からは詳しい内容は聞き取れない。しかし、なにやら話してくれそうな雰囲気だ。
それからしばらくして陽燈が刹那の方へと再び顔を向けた。
「先代はね、とても酷いやつだった。気に入らない人間は片っ端から手にかけるようなね。彼のせいで滅びた街は一つや二つじゃない」
「何を隠そう僕らの町もそうだったのさ」
「黄夜も滅びたのか?」
「正確には滅びかけたんだけどね。僕らがなんとか止めたのさ」
彼らの話を聞くに、先代は相当厄介な人物だったらしい。
「教えてくれ。その先代って誰なんだ?」
「それはいずれ分かるよ」
二人の神々がまた「ねー」と言いながらお互いを見やる。
「さっきも言った通り、君が先代と同じような人間だったら新しい刀は渡すつもりはなかった。また同じことを繰り返すことになりそうだからね」
「でも、君は彼とは違った。君は他人の為に怒れる人間だったから。そんな君になら、僕らの刀を授けても良いと思えた」
先ほどから笑っていたのだが、今の神々の笑顔は今までとは違う、何か慈しむような温かさがある。
「刹那、神威を貸してくれる?」
言われるがままに刹那は神威を彼らに差し出した。すると、神威が自然に宙に浮き、陽燈と陰軌の間で止まったではないか。
「それじゃあ、僕たちの力を授けるよ」
陽燈たちが両の手のひらを神威に向ける。見る見るうちに神威が二つになり、それぞれが白と黒の光の球に包まれた。
「神威が二つにッ?」
宙に浮いていた二本の神威は再び中心に集まると、光の球は消えうせ、そこに現れたのは二本の刀だった。一本は刀身から柄まで見事なまでの純白、対してもう一本は刀身から柄まで漆黒に包まれた刀だった。
「この白い刀は皓月、もう一つの黒い刀が影月、その力は……もう分かるよね?」
刹那は黙って頷いた。今までと同じ様に使い方が頭の中に自然と浮かび上がってきたのだ。
「おめでとう。これで君は全ての刀を揃えたことになる」
なるほど。双剣だから二つで、ここが最後の場所というわけか。
「これで君には全部の刀を集めてもらったわけだけど、最後に行ってもらいたい所がある」
「行ってもらいたい所?」
「そう、神座山さ」
「神座山?」
ずいぶん大層な名前がついた所だ。
「そこに行けば、刹那、君が何者なのか分かるはずだよ」
「俺が何者か分かる……」
ついにこの時が来た。この旅の最終目標、自分が何者なのか、なぜ記憶が無いのか、その答えがそこにある。