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記憶と心臓を求めて  作者: hideki
本編
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第百四十九話 外道

「無様だな、義衛」


 覚悟を決めたその時だった。義衛の耳に聞き覚えのある声が届き、それを皮切りに自分に降り注いでいた攻撃の手が止んだ。


「この声は……」


 自分はこの声の主を知っている。忘れようとしても忘れることの出来ない忌々しい記憶の奥底に、この声の主はいる。


「誇り高き騎士様が聞いて呆れるな」


 その声は常に移動しており、出所が安定しない。どうやら自分の居場所を悟られないように動き回っているようだ。この臆病な手口は昔から変わらない。


「貴様こそ、こそこそと。そうやって誰かの影に隠れないと生きていけないのか?相変わらず気が小さいな義外(ぎがい)

「ふん、何とでも言うが良い。私の獲物はお前ではない。わざわざ姿を見せてやる必要もあるまい」

「なに?」

「ここに若造が来ているだろう?その若造を渡してもらおうか?」


 目的は刹那だったか。しかし、なぜ彼を?


「貴様が刹那君に何の用があるかは知らんが、断る。客人を貴様などに渡しては騎士の名折れだ」


 どんなに自分が窮地に陥ろうと、絶対に相手に屈することはしない。騎士の誇りに懸けてだ。


「あの若造はお前が考えているよりも価値がある。私ならそれを有効活用できる。大人しく渡せ」

「断る」


 どこにいるとも分からない相手に対して、義衛は目を閉じることで自分の意志を示した。

 自分はどうなっても構わない。だが、あの客人には指一本触れさせるものか。


「そうか……仕方あるまい」

「ッ!」


 何かの爆発音。

 そして、それに続いて何かが燃えるような焦げくさい臭いが辺りに充満する。


「あれは……」


 爆発音の先、城の窓から火が上がっていた。濛々(もうもう)と立ち上る煙は瞬く間に広がって行き、次に次に別の場所からも火が上がっている。


「お前があの若造を渡さないと言うなら、この城は跡形もなくなるまで燃やされることになる。どうする?」


 義衛が今までたった一人で守り抜いてきた城は一瞬にして火の海と化してしまった。大切にしてきたものを目の前で奪い取る。義外のした行為はもっとも下種なものだ。しかし、義衛は動じない。


「何をされようとわしの意志は変わらん。断る」


 決して揺らぐことのない意志で義衛はどこへ潜むとも知れない義外を睨みつけた。だが、周りに見えるのはどれも同じような姿の黒騎士たち。奴はどこに潜んでいるのか。


「ふん、相変わらず話の通じん奴だ。あの時と全く変わらんな?あの時もお前はそうやって私の要求を跳ね除けた。その結果、どうなったか忘れてはいまい?」


 その言葉を聞いた瞬間、義衛の両目が見開かれた。そして、先程まで全く動じなかったその顔が見る見るうちに鬼のような形相に変わっていく。


「あの時は……そう、お前の部下だったか。素直に城を明け渡していればあの若い騎士は死なずに済んだのにな?」


 その挑発にも義衛は応えない。しかし、拳は強く握りしめられ、歯は今にも音を立てて砕け散りそうなほど強く噛み締められている。


「あの騎士の言葉は今でも覚えているよ。『己の主と城を守れるならば命など惜しくはない』だったな。お望み通り、命を刈り取ってやったわけだが。御大層なことを言っていた割に最後は呆気なかったな。あの串刺しの体はどこに埋まっているんだ?そこの小汚い石の下か?」

「義外!貴様ァァァァ!」


 立ち上がろうとする義衛の体を黒騎士たちが押さえつけ、再び地面に押し付ける。何度でも立ち上がろうとする義衛だが、黒騎士たちがそれを許さない。


「良い顔になった。私はお前のその顔が大好きだ。さて、それではゆっくりと探させてもらおうか」


 どこかで義衛のことを見ているのだ。声に明らかに喜びの色が見られた。この義外と言う人物は相手を苦しめて心から喜んでいる。


「これだけ火が回っても出てこないということは、ふむ、もう外に出てしまったのかな?」


 城はもはやそのほとんどが炎に包まれ、巨大な松明のようになっている。義衛は何も出来ず、拳を握りしめただその様を見続けているしかない。


「しかし、周りは私の部下たちが包囲している。我々が包囲する前に逃げたとは考えにくいし。となると、何か特別な方法を使って逃げたと考えるべきか。ふむ、時間が無いな。仕方ない、端から端まで調べるとしよう。おい」


 義外の声に反応し、数人の黒騎士が動き出した。その行く先は英霊たちが眠る墓石だ。


「義外、貴様何を?」

「なに、流石の私の部下も火の中には入れないからな。とりあえず、目の前の怪しそうな所を調べさせるのさ」


 次の瞬間、黒騎士たちが墓石の一つを取り囲み、それを倒し、地面を掘り始めた。その周りには次々に土が盛り上がっていく。


「――ッ!止めろ貴様ら!」

「無駄だ。あれらは私の言うことしか聞かん」


 義外の言うとおり、黒騎士たちは止まることはなく、ついにあるものを見つけた。


「どうした?なんだ、棺桶か、そんなものを見つけても仕方がない。いや、その下に何かあるかもしれんな。おい、それを出せ」

「止めろ!」


 黒騎士たちが義衛の言葉を無視し棺桶を外に出しそれを乱暴に地面の上に置いた。


「どうだ、下に何かあるか?」


 義外の質問に黒騎士の一人が首を左右に振る。


「ふん、時間の無駄だったか。まあいい、おい、その棺桶を壊してしまえ」

「義外ッ?」

「何、ただの気晴らしだ。気にするな」

「貴様ァァァァァ!」


 許せない。この外道は死者の魂すら侮辱しようというのか。

 黒騎士の剣が天高く振りかぶられ、それが英霊の眠る棺に振り下される。


 だが――


「おい、何やってんだお前ら。罰当たるぞ」


 その声の先、そこには刀を腰に携えた一人の青年が立っていた。

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