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記憶と心臓を求めて  作者: hideki
本編
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第百四十話 やばいかも?

 鍵を抜き取ろうとした刹那だったが、あと一歩の所で失敗。頭領を始めとして、その他の山賊たちも目を覚ましてしてしまった。


「その手に持ったもの、返してもらおうか」


 刹那の手首をつかむ手に力が籠められる。ピクリとも手が動かせない。見た目通り相当の馬鹿力だ。


「ツッ!」

「お前、どうやってあの縄解いたんだ?ん?」


 まるで万力で潰されているような力強さに思わず顔をしかめてしまう。その反応が愉快なのか、頭領はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべると更に力を込めてきた。


「誰が、言うかよ」

「そうかそうか。じゃあ、この腕はもう使いもんにならねぇな」


 ミシミシと骨の軋む音がする。


「グッアァァァ」

「骨の軋む音が聞こえるなぁ。ん?そろそろ、完全に潰れるかぁ?」


 もう限界だ。これじゃあ、あと数秒も持たない。手が潰される――

 刹那が諦めようとしたその時だった。


「てめぇ、大人しくしろ!」


 刹那の後ろから山賊の怒鳴り声が聞こえ、それと同時に頭領の手から力が抜けた。


「どうした?何騒いでる?」

「あの猫又のガキです。アイツ、いきなり火ぃつけやがって……」


 そう言いながら報告に来た山賊は左手首に息を吹きかけて撫でている。どうやら手にやられたようだ。


「ほう……おい、連れてこい」


 頭領が報告に来た部下に鍵を渡した。しばらくして、山賊に連れられて真貴耶が現れた。先ほどとは違う、鎖のついた首輪をさせられている。


「頭領、連れてきやした」

「おう。ほら、こっち来い」


 頭領が真貴耶の首輪に繋がれた鎖を引っ張り、無理やりに起き上がらせる。


「――ッ!おい、乱暴は止めろ!」


 刹那の制止など全く聞く耳を持たず、頭領は無理やり真貴耶を自分のそばに引き寄せた。


「あの猫が来るのを待とうと思っていたが、こんなオイタをする様じゃ、少し痛い目に遭ってもらうしかないな。おい、剣を貸せ」


 部下の山賊が頭領に片手持ちの剣を差し出す。頭領は刹那から手を放しそれを受け取ると、代わりに無理やり引き寄せた真貴耶の喉元に剣の刃をちらつかせる。可哀想に、真貴耶は喉元に突き付けられた刃物におびえ動けないでいる。


「くそ」


 相手は六人、神威はどこかに隠されているのか見当たらない。そして、真貴耶が人質に取られている。これはかなりマズイ状況だ。


「おい、猫」

「ヒッ」


 頭領に見下ろされ真貴耶が小さな悲鳴を上げる。この男に対する恐怖が染みついているようだ。


「お前、勝手に炎出したんだってな?」

「ゆ、許して……」

「いいとも。俺だって鬼じゃない。その代り、ん?分かってるな?」


 真貴耶の喉元にサーベルが押し当てられた。真貴耶はヒッとまた小さな悲鳴を上げると、泣きそうな顔で刹那を見た。


「お兄ちゃん、ごめんね」


 真貴耶のその言葉と共に刹那の左腕の袖が炎に包まれる。


「――ッ!くそっ!」


 刹那は腕を振るってその炎を消そうとしたが、一向に消える気配はない。猫又特有の消え難い炎だ。


「無駄だ。コイツが炎を消えないようにしてるんだからな」


 転がりまわりなんとか火を消そうと躍起になった刹那だが、火は腕の先から肩の方へと伸びてきていた。山賊たちはそれを楽しそうに笑いながら見ている。おそらく、いつもこんな風に相手に火をつけているのだろう。


「ダメ押しだ。おい」


 頭領の声に合わせて真貴耶の視線がまた鋭くなる。この状態で体に火をつけられれば、火だるまになってしまう。


 ヤバい――


 炎は容赦なく刹那の腕を侵食し、その勢いはすでに胸まで達しようとしていた。真貴耶が調節してくれているのか見た目ほど炎の温度は高くないようでまだ服は完全に燃えているわけではないが、それも時間の問題だ。


「さて、そろそろいいかなぁ?」


 頭領が刹那を覗き込もうとしたその時だった。刹那の体にまとわりついていた炎が凄まじい勢いで燃え上がり、そして、一瞬で消えてしまったのだ。


「なに?おい猫!何やってる!消せなんて言ってねぇぞ!」

「ぼ、僕じゃない」


 予想外の事態に頭領だけではなく、真貴耶までが混乱している。だが、刹那には何が起きているのか容易に想像できた。


「え?うわぁぁ!」


 山賊の一人の声が辺りに響いた。体に火がつき、あっという間に彼を火だるまにしてしまったのだ。これは、アイツの仕業に違いない。


「円!」


 刹那の視線の先、山賊たちの後ろには目を真紅に染めた黒猫、円が立っていた。

 円は刹那の方へと近づいて行く。山賊たちはその不気味な相手に思わず道を開けてしまっている。


「ち、近づくんじゃねぇ!コイツがどうなってもいいのかッ?」


 頭領の剣が真貴耶の喉元に近づく。だが、円は全く止まる気配がない。


「おい!聞いてんのかッ?」

「うるさい、黙っていろ!」


 円の瞳が再び赤みを増したと思うと、頭領が真貴耶の鎖を放した。見れば、鎖は赤くなっており、頭領はその手を労わるように撫でている。


「真貴耶おいで」


 刹那に呼ばれ真貴耶が彼の元へと走る。


「さて、真貴耶も助けたことだし、神威を取り返して、とっととずらかるとしますか」

「くそ、調子に乗るな」


 仲間の火を消した山賊たちは刹那たちを取り囲むように広がった。コケにされたと感じたのか、皆怒りで顔が歪んでいる。


「邪魔だ。燃えろ」


 自分たちを取り囲む山賊達を一瞥し、円が呟いた。そして、山賊たちの体が次々と炎に包まれていく。突然の事態に慌てた山賊たちは各々が火を消そうと必死だが、先ほどの刹那のようになかなか火が消えない。


「馬鹿な……」


 先程までの余裕の態度が嘘のように頭領は呆然としている。先ほどまで優勢だった自分達があっという間に劣勢に立たされてしまったのだ、ムリもないだろう。


「お兄ちゃん、これ」


 真貴耶が何かを口にくわえて刹那の足元に走ってきた。それは刹那の愛刀、神威だ。


「おぉ、よ~し、俺もやるか」


 神威が光を放ち、その刀身が見る見る赤く染まっていく。そして、炎を纏い、紅煉へと姿を変えた。


「ほらよ」


 刹那が紅煉を軽く振るうと、切っ先から炎が伸びた。


「すっごい!」


 真貴耶が驚きの声を上げる。自分たち以外の種族が炎を操るのを見るのは初めてなのだろう。


「さて、お遊びはこれくらいにして……」


 刹那が山賊たちの方へと紅煉を振るおうと構えたその瞬間、頭領は地面に腰をつき、一人ガクガクと震えていた。その瞳は刹那を真っ直ぐに見据え、恐怖に染まっている。


「ん?」

「さ、災厄の子」

「は?」

「災厄の子だぁ!」


 頭領の言った言葉の意味が分からず刹那が呆けていると、山賊たちはあっという間に逃げて行ってしまった。その場に残された刹那たちは訳が分からずただその背中を見送ったのだった。


「なんだったんだあいつ等……まあいいか。とりあえずこれで一安心だな」

「僕、帰れるの?」

「あぁ、そうだよ。お母さんの所に帰ろう」

「やったぁ!」


 真貴耶が喜びのあまり飛び上がっている。よかった、これで万事解決だ。


「にしても円、ちょうどいい時に来てくれたぜ」


 刹那の感謝の言葉に円は反応しない。おかしいな、いつもならここで嫌味の一つでも返してくるところなのだが?


「円?」


 何かあったのかと相棒の顔を覗き込もうとした刹那の動きが止まる。

 円の瞳が真紅に染まっていた(・・・・・・・・・)

 そして次の瞬間――


「燃えろ」


 その言葉と共に刹那の視界は真っ赤に染まったのだった。

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