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記憶と心臓を求めて  作者: hideki
本編
133/180

第百三十三話 化け物が何ぼのもんだ

 各々がそれぞれの武器を片手に目の前の巨大生物に挑んでいく。刹那もその列に参加したかったが、いかんせん武器は手元にあるモップだけ。流石にあの化け物相手にこれでは心もとなさすぎる。


「神威が必要だな」


 その場を船員たちに任せ、刹那は自分の部屋へと向かうため階段を駆け下りた。手前から三番目の扉が刹那が借りた部屋だ。

 しかし、階段を降り終え廊下を走る刹那の目に映ったのは予期せぬ状況だった。


「マジかよ……」


 最悪の事態だ。あの化け物の襲撃のせいだろう。二番目の部屋の前の廊下の天井が崩れ、それより奥、刹那の部屋のある方まで人っ子一人通れない状態になっている。瓦礫を退けようにも自分一人の力ではこれだけの量は……。


「ここは俺に任せておけ」


 足元から黒い物体が飛び出した。円だ。彼は軽い身のこなしで瓦礫の隙間へとスルスルと体を潜り込ませていく。


「円、大丈夫か?」

「あぁ、こちらはそれほど被害を受けてないようだ」


 それを聞いて安心した。あとは円が神威を持ってきてくれるのを待つだけだな。だが――


「――ッ!」


 突然の振動と轟音。

 それと同時に刹那の方の天井にまでヒビが入る。


「なんだ?」


 どうやら先程と同じように上であの化け物が暴れているらしい。一刻も早く自分もあそこに向かわなければ。


「円、まだかッ?」


 そう声をかけて数秒。円からの返事がない。


「おい、円ッ?」


 再び声をかけるが、返事はなし。嫌な予感がする、まさか、あちら側で何かあったのか?


「くそっ」


 瓦礫に手をかけ、片っ端から退けていく。なりふり構っている余裕はない。これだけ数が多いのだ、急がなければ。


「――ッ」


 手に走る鋭い痛み。破片で手を切ってしまったらしい。だが、そんなことを気にしている暇はない。円が向こうで大変なことになっているかもしれないのだ。


「くそっ、どんだけあんだよこの瓦礫!」


 退かしても退かしても出てくる瓦礫。時間がないというのに――


「何をしているんだ?」

「見て分かんねぇか?瓦礫退っけてんだよ!」

「なぜ?」

「なぜってそりゃ、円が向こうで生き埋めになってるかもしれね……あれ?」


 声のした方を振り返ってみる。そこにはよく見知った顔の黒猫。彼の足元にはよく見知った刀が鞘に収まって置いてある。あれ?


「円、なんでこっちにいるんだ?」

「そんなもの、向こうからこちら側に戻ってきたからに決まっているだろうが」

「おまッ、返事無いから生き埋めになったのかと思ったぞ!」

「俺がそんなヘマをするわけがないだろう。それより、急ぐぞ」


 このかわいくない態度!こちらは怪我までして無事を確認しようとしたというのに。……まあいい、確かに今はグズグズしている暇はない。

 刹那たちが外に出ると、そこでは船員たちがあの巨大生物相手に奮闘していた。いや、よく見てみれば、あれはイカだ。何本もある足で船員たちを翻弄し、そして、船を傷つけ続けている。


「あまり前に出るな!(つか)まれたら一溜りも無いぞ!」


 律夏が声を張り上げている。そこへ刹那と円も駆けた。


「律夏さん、大丈夫っすか?」

「ん?刹那?おぉ、刀取ってきたのか」

「こっからは俺らに任してくださいよ」


 刹那がそう言うと同時に、彼の神威が赤く発光する。


「へへ、新しい刀がどんなもんか試してみっか」


 巨大イカの足の一本に近づき、刹那が紅煉を上段に構える。すると、その真っ赤な刀身があっという間に炎を纏い始める。刹那は炎を纏った紅煉を巨大イカの足めがけて振り下ろした。


「!!!!!!!」


 肉が焼ける音とともに紅煉が食い込んでいく。刹那が力を込め、そのまま紅煉を振りぬくと、彼の胴体ほどの太さのある巨大イカの足が真っ二つに切り裂かれた。


「どんなもんだい」

「お前だけに良い格好をさせるわけにもいかんな」


 円が一歩前へ出る。そして彼の瞳が真紅に染まった――


「燃えろ」


 その一言を合図に、巨大イカの足のうちの一つに火がついた。その不測の事態に慌てたのか、巨大イカが慌てて足を後ろに引っ込める。


「なんだよ円、中途半端だな」

「ふん、お前のは焼き切っただけだろうが。あれには炎の矜持がない」


 お互いに軽口を言い合いながら刹那たちが巨大イカとの距離を詰めていく。そこからはまさに破竹の勢いだった。二人の炎が次々に巨大イカを襲い、後退させていく。


「すげっ」


 刹那と円の戦いぶりを船員たちはただただ眺めることしかできなかった。あそこに混ざれば、逆に足手まといになりかねないからだ。


「そろそろ終わりかな」


 自分たちの優位を確認し、一瞬、ほんの一瞬刹那が油断しかけた時だ。彼の左側にあったイカの足が動き、そちらに気を取られた瞬間、その反対側から別の足が振り払われた。


「刹那!避けろ!」

「え?――ッ!」


 一瞬、視界が真っ白になり意識が飛びかけた。

 刹那が防御するよりも早く巨大イカの足が彼の右半身に触れ、次の瞬間、刹那の体は宙を舞い、船の甲板に叩きつけられた。


「刹那!」


 円が刹那の元に駆け寄ろうとするが激しく揺れる船体がそれを許さない。巨大イカが暴れているのだ。どうやら、予想外の相手の出現に相当焦っているらしい。


「刹那!早く起きろ!」


 円の声が聞こえる。立ち上がらなくては……。だが足に力が入らない。

 刹那にトドメを刺そうと、巨大イカの足が伸びる。刹那はまだ吹き飛ばされた時の衝撃から立ち直っていない。


「刹那!」

「うちの客人に手出すんじゃないよ!」


 その声と共に何かが刹那と巨大イカの間に割って入る。おさげにした髪を揺らして、巨大イカの攻撃を凌ぐ姿。頼れる副長、律夏だ。


「――ッ!律夏さん!危ない!」

「――ッ!」


 巨大イカの足は一本ではない。先ほどの刹那と同じように、空いている他の足が彼女に迫った。

 巨大な足が律夏と刹那を薙ぎ払おうと振りかぶられる!


「――ッ!……あれ?」


 痛みが無い。あの状態では自分たちに避けるすべはなかったはずだ。刹那がゆっくりと目を開く。


「怪我ねぇか?律夏、刹那?」


 そこには、金色の槍を片手に持った雷の姿があった。

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