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記憶と心臓を求めて  作者: hideki
本編
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第百十一話 嘘だと言ってくれ

「さて、これで一段落か」

「まだ、終わってないわよ」


 円との誤解も解け、その犯人も捕まった今、せっかく一休みできると思っていた刹那の前に凛が立ちふさがる。その眼にはまだ闘志の炎が燃えていた。


「いや、あの連戦だったしさ、無理しない方がいいよ」

「余計なお世話よ。さぁ、さっさと続きをしましょう」


 そう言って凛が多節棍を構える。どうやら彼女は完全にやる気らしい。が、当の刹那はすでに闘志など皆無である。


「いや、やっぱり今回は中止で、また次回ってことで、ね?」

「ダメよ。今すぐやるの!」

「いや、中止だ」


 今にも凛が刹那に飛びかかりそうな所で間に入ったのは王だった。その後ろには先ほどまで貴賓席に座ってい息子と妻の姿もある。


「お父様!」

「お父様ッ?」


 今、お父様と言ったか?

 ただ一人凛の素性を知らない刹那は、凛と王の顔を交互に見やっている。


「凛、彼との決闘は中止だ。彼は我が都にとって、とても重要な客人だ」

「客人?」


 凛は訳が分からないといった風に父親の顔を見る。そして、その原因の男も近年まれに見る訳の分からなさに頭が混乱していた。


「お父様って、どういうこと?」

「凛は王の娘、つまり王女だ」

「へ?あ、円!」


 いつの間にか刹那の足もとに来ていた円が刹那の疑問に答える。


「え?今なんて言った?王女?あの子が?」

「そうだ」


 確かに聯賦に凛が次期統治者候補というのは聞いていたが……。そうか、統治者候補ということは、王の娘ということなのか。しかし……


「嘘だろッ?だって、王女って、もっとこう……お淑やかで、高貴な感じじゃないのッ?」


 刹那は両手を使って考え付く限りのお淑やかさを伝えようとした。まるで動いていないと耐えられないといった様子だ。

 嘘だと言ってもらいたい。そう願いを込めて円を見た。なぜだろう?両手が震えてしまう。

 だが、円は無慈悲にも顔を横に振った。


「それは俺も納得がいかない所だ。しかし……残念ながら事実だ」

 

 心底辛そうに円が顔をそむける。そんな……そんなことって……。


「嘘だ!俺は信じないぞ!なぁ、嘘だろ?嘘だって言ってくれよッ?」


 こんなことがあってたまるか!


「刹那、目を背けるな。残念ながらこれが現実だ」

「そんな……。この世には神様はいないのかよッ?」

「ちょっと、どういう意味?」

「こんな乱暴な言葉遣いの王女がいてたまるかよ!」

「余計なお世話よ!」


 凜が自分を指差した刹那の指に今にも噛みつきそうになる。やっぱり、王女というよりも野生児に近い。もしかして、彼女は野生動物に育てられたのではなかろうか?


「円もそうだったけど、君ら二人とも失礼過ぎ!私が王女で不満があるって言うのッ?」

「「大アリだ!」」

「上等だァッ!表出ろコラァッ!」

「あ~、そろそろ良いかね?」


 刹那達の口論に王が申し訳なさそうに入ってくる。娘の前では流石の王も形無しのようだ。


「君……え~」

「刹那です」

「刹那君。まずは謝らせてもらいたい。君が罪人で無いことは我が息子、蓉から聞いた。聞けば、どうやら、息子のわがままに君を巻き込んでしまったようだ。本当にすまなかった」


 王が深々と頭を下げる。


「あ、ちょっと、もういいですから。頭上げてください」


 相手は堅要の王。その相手に頭を下げさせるのはさすがの刹那も気が気ではない。先ほどの強さを見れば、その気持ちは尚更だ。


「ところで、君はこの都に何かを探しに来たんじゃないのかね?」

「えぇ、そうですが……まさかッ!何かご存じなんですかッ?」

「具体的に何を探しているのかは分からないが、君をある所に連れて行くことは出来る」


 王は刹那たちを城の後ろにそびえ立つ神殿へと案内した。そこは巨大な石を積み上げて造られた場所で、一つ一つの石が綺麗に長方形に切りそろえられ、それが規則正しく積み上げられている。


「堅要の王には血統が変わろうと伝えられてきた言い伝えがある。それは『風と水を操る者がこの都に訪れた時、彼の者を神の待つ場に案内せよ』というものだ」


「風と水って……」

「そう、まさに君だ」


 暗い通路を進みながら王が言う。にしても、どこに向かっているのだろうか。


「お父様、これから行くところって」

「あぁ、緋炎(ひえん)様の像がある所だ」

「緋炎様?」

「堅要の人々が信奉している神の名だ」


 刹那の横を歩く円が説明する。その神様が自分と何の関係があるのだろうか。

 神殿に入ってから十分ほど歩いた所で通路は終わり、とても広い場所に出た。部屋の広さはあの闘技場の三分の一ほどの大きさだが、天井は優に十五メートルは超えているだろう。だが、刹那たちの目を引いたのはそこに立っていた巨大な像だった。

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