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記憶と心臓を求めて  作者: hideki
本編
107/180

百七話 激突

「「「「「!!!!!!」」」」」


 人が優に千人は入るであろう闘技場の観客席は歓声をあげる人で一杯だった。特にこれと言って娯楽も無く、何より血の気が多い民族でもある。皆、王族の人間が罪人を倒す姿を期待しているのだろう。

 刹那はその歓声を聞きながら、ただ一人闘技場に立っていた。観客たちの声に圧倒されそうになりながらも、しっかりと地面を踏みしめて立つ。


「ふぅ」


 一呼吸して心を落ち着ける。ここには自分の味方は一人もいない。そこかしこから聞こえる野次がそう実感させる。そして、自分には信頼していた仲間もいなくなったのだ。今、自分は本当に一人になってしまった。


 これは想像してたよりもキツイな――


 昨日のショックから立ち直れていない上にこの観衆だ。正直、自分のいつもの実力を出し切れる自信がない。だが、そんなことなどお構いなしに相対する相手は自分を倒すために全力を出してくるだろう。ならば出し切らなければ自分に未来はないのだ。

 と、客席から聞こえてきていた歓声が一気に止んだ。人々の視線が一気にそちらに向く。そこにいたのは決闘用の服装に身を包んだ凛の姿だった。

 ワインレッドを基調とした服には胸に花の装飾品が付いている。ゆったりとした袖口とズボンは金色の糸で縫いつけてあり、高貴な雰囲気を醸し出している。そして、背中には以前刹那を苦しめたあの多節棍が背負われている。


「罪人の枷を解け」


 王の号令で刹那の背後に立っていた兵士が刹那の両腕にはめられていた手枷を外す。自由になった手首をさする刹那に神威が渡される。

 本来なら罪人に渡される武器は支給されたものなのだが、今回は凛の口利きもあり特別に神威を使うことが許されたらしい。円と凜、裏切り者たちからのせめてもの餞別というやつだろうか。


「両者、中央へ」


 王の号令で刹那と凛はそれぞれ中央に歩を進めた。そして、お互いに腕を伸ばせば届くくらいの距離で静止する。


「もう分かっていると思うが、王族が勝った場合、罪人は刑に処される。しかし、罪人が勝利した場合は刑は白紙にされ、無罪放免という形になる。勝負はどちらかが『参った』と言うか戦闘不能に陥るまで続ける。この決闘は神聖なものであり、一切の不正は認められない。発覚した時点で相手側の勝利とする。では、両者構え――」


 それぞれが武器を構える。会場が一気に緊張に包まれる。


「始め!」


 その合図とともに二人の距離が縮まる――そして、武器がぶつかりあった。


「刹那、聞いて。君は勘違いしてる」


 凛が刹那と鍔ぜり合いをしながら話しかけてくる。


「……」


 刹那は全く答えない。もはや凛の言葉に耳を貸すつもりはなかった。また騙されるのは真っ平ごめんだ。


「刹那!話を聞いて!」

「黙れ!円とグルになって俺を騙したんだろ!」

「違う!それは誤解よ!」


 だがその言葉も今の刹那には届かない。

 刹那がいったん距離を置いた。


「ふぅ~」


 意識を神威に集め、念じる。神威が光を帯び、その姿をみるみるうちに変えていく。そして、一際大きな光りを放った後、神威から突風が吹き荒れた。

 その場にいた誰もが何が起きたのか分らなかっただろう。

 ただ一人状況を理解している刹那が飛旋を振るう。その切っ先から風の刃が凛めがけて飛んで行った。


「「「「――ッ!」」」」


 目の前の信じられない光景に誰もが息をのむ。ただ一人、凛を除いて。

 刹那の風の刃を凛は全て多節棍で受け止めた。


「前もそうだったけど、ホントに驚かせてくれるわね」


 初見の人間に見切れるはずがないのだが、やはり、この相手はかなり手ごわい。


「こっちこそ驚いた。まさか受け止めるとはね。だけど、次はそうはいかない」


 刹那と凛の間の空気が張り詰める。もう、凛にも躊躇はない。


「本気で行くわよ?」

「上等!」


 凛が一気に刹那との距離を詰める。それに対して刹那は飛旋の切っ先を下に向けて振るった。先ほどの風の刃とは違い、刹那を中心にして風の渦が発生し、まるで風の壁を纏っているかのようだ。

 多節棍の先と風の壁が当たる音がする。音から判断するに風の壁はなかなかに強力なようだ。素手で触れればたちまち皮膚は切り裂かれてしまうだろう。


「前に戦った時の君の戦い方を参考にしたんだ。これでこっちには近づけ――ッ!」


 目の前には刹那の予想を裏切る光景が広がっていた。なんと、凛は風の壁をものともせず、真っ直ぐに刹那の方へと歩いてきたのだった。

 凛の服や体が風の壁にぶつかり切り裂かれていく。しかし、凛は一向に歩みを止める気配はない。


「前に戦った時のことを参考にさせてもらったわ」


 そう言うと、凛は刹那に強力な突きをお見舞いしたのだった。


「ぐっ」


 凛の突きをなんとか飛旋で受けた刹那だったが、飛旋は刀身自体が薄く、防御には向いていない。受け切れなかった力がそのまま刹那の体に襲いかかり、一メートルほど後退させられることとなった。


 強い――


 以前戦った時も手ごわい相手だったが、今の凛はあの時からさらに強くなっている。なんというか、戦い方が変わった。

 以前の彼女はこんな風に突き進むような戦い方はせず、相手との距離を取り、確実に相手を追いつめていくような戦い方をしていた。しかし、今の彼女にはそれがない。自分へのダメージを全く顧みない代わりに、その迷いのない攻撃はこちらとしても脅威だ。これは厄介な相手になってしまったものだ。


「そらそらそらァッ!」


 凛の間髪のない攻撃は確実に刹那を追いつめていく。刹那としてもどうにか反撃に移りたい所だが、彼女の絶え間ない攻撃がそれを許さない。

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