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記憶と心臓を求めて  作者: hideki
本編
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第百三話 円脱出作戦 

 刹那を助け損ねた次の火、円は起きてからずっと窓の外を眺めていた。


「ふぅ~、食べた食べた、アレ?何やってるの円?」


 朝食を終えた凜が部屋に戻ってくるなり円に声をかけた。


「兵士たちの動きを見ていた」


 振り向くこともせずに、円は外を見続けている。


「どうやら巡回組と常駐組がいるようだな。一定間隔で行ったり来たり。ご苦労なことだな。あれなら何とかやり過ごせそうだ」

「やり過ごすって、外に出るつもり?」

「あぁ。この部屋には出口はそのドアと窓だけか?」

「えぇ。でもドアの前には兵士が立ってるし、窓の方も見張ってるはずよ」

「ふむ」


 となると、やはりあの作戦で行くしかない。出来れば堂々とドア出ていきたいと思っていたが、警戒されている今の状況ではそれは難しいだろう。


「どうするの?」

「兵士に捕まるほど俺はトロくはないつもりだが、神威を探さなければならない。力を貸してくれるか?」

「何を手伝えばいいの?」

「まあ聞いてくれ」


 円に耳を貸すため、凛がしゃがみこむ。

 そして、円は神威を探し出すための作戦を凛に伝えた。


「ちょっと!それホントにやるのッ?」


 円の作戦が信じられないのか、凛は目を白黒させている。おそらく、彼女のこんな顔はめったに拝めないことだろう。


「仕方がないだろうが。俺だって出来ればこんなことはしたくない」

「でも……」

「今の所これしか方法がない。俺には時間がないんだ。頼む」


 誇り高き猫又が頭を下げる。

 その事実と姿を目の前にして、嫌だと言えるほど凛は非情ではなかった。


 * * *


「準備はいい?」


 凛が小声で確認する。


「いつでもいいぞ」

 

 どこからともなく円の返事が聞こえる。

 凛の協力を取り付けた円はさっそく行動に出たのだった。

 この作戦が失敗した場合、もっと見張りの数などを増やされてしまうかもしれない。絶対に失敗できない状況の中、円の脱出作戦は始まった。


「ちょっといいかしら?」


 凛が部屋から顔を出し兵士に声を掛ける。


「はい?なんでしょう、凜様?」

「トイレに行きたいんだけど、いい?」

「ハッ!問題ありません!」


 兵士に確認を取り凛が部屋を出る。その姿はいつもの短いスカート姿では無く、長い丈のゆったりとしたワンピース。活発ないつもの印象とは一転、こういった姿をしていると、ある程度育ちの良い娘に見えるから不思議である。


「凜様、おトイレまで同行を……」

「アナタは女性に恥をかかせる気かしら?」


 後ろに着こうとする兵士を凛が右手で静止する。普段の凛からは想像もできないようなお淑やかな動きだ。


「――ッ!失礼いたしました!」


 兵士はその場で敬礼すると、すぐに凛の部屋の前に戻った。それを確認すると、凛はゆっくりとトイレの方へと歩いて行く。


「上手くいったな」

「当然よ」


 凛のスカートの中から円の声が聞こえる。円は凛のスカートに隠れて部屋を出て、そのまま神威が置かれている部屋へと向かい、神威を持って外へ出ようというのだ。


「それにしても、『女に恥をかかせる気?』とは、くくく」

「何がおかしいのよ?」

「いや、別に。気にするな」


 思い出しただけでも笑いがこみあげてくる。

 実は先ほどのやり取りの時、円は笑いを堪えるのに必死だったのだ。

 しかし、兵士の前から移動するまで決して声を出すわけにはいかなかった。長い廊下を歩き、兵士に声が聞こえなくなる距離に移動するまでの数秒間は地獄の様だった。

 今までこれほど辛い数秒間があっただろうか?


「ここだわ」


 凛は扉の前で立ち止まる。そこは倉庫として使われているが、罪人の所持していた武器などもそこに保存されている。


「気をつけてね」


 凛は部屋の扉を開けると、スカートの裾を持ち上げた。そこから円が速やかに飛び出し、そのまま部屋のドアをくぐる。


「世話になった。またな」


 円が中に入ったのを確認すると、凛は扉を音もなく閉め、そのまま立ち去った。

 向かった先はトイレでは無い、弟、蓉の部屋だ。

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