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04章……唖然、呆然、何だこれ

 この日は午前中で終了となり、昼前には下校時間となった。

 担任が教室を出て行くと、生徒達もそそくさと教室を後にする。どうやら、学長の支離滅裂の文章と内容は、容易には受け入れがたいものだったらしい。

 小さい体を伸ばしつつ、爽奈が3人に向けて言う。

「さて、と。私達も帰ろっか」

 と、眼の隅に侑治郎の姿が映った。席を立ち、ロングホームルーム時に貰ったプリントや筆記用具を鞄に詰めている。

「おやおや、でかい人はまだ帰ってなかったみたいだね」

「もしかしてあんた、あの円城寺って男に一目惚れしたの?」

 紗弥菜が意地悪気に笑みで口を歪めつつ、ちょっかいを出した。

「はぁ? 何を言っちゃってんのかな。んな訳ないに決まってんじゃん。そういうことを言うあんたがそうなんじゃないの」

 爽奈はぎろりと紗弥奈を睨みつける。しかし、童顔のせいかあまり迫力がない。

「残念。私は、あんなに背が高すぎる男なんか嫌いなの。そうね。私と同じぐらいがいいわ。やっぱり、目線の高さが同じ方が安心するもの」

 紗弥菜が目をつむって悦に入った。

 そんな紗弥菜を見た爽奈は、鼻で一笑に付すとにべもなく言う。

「だけどさ、男は嫌かもねー。だって、大抵の男ってのは自分より背の低い女を選ぶって、おっ父が言ってたしねー。それに、ただでさえ身長が低いことに、コンプレックスを持ってる男も居る訳で。そいつにしてみれば、これほど嫌な女は居ないだろうねー。まあ、特別な考えの奴な億が一の確率でほいほいあんたに寄ってくるかもねー」

 自分の男性理想像を、金づちで叩き割られたような衝撃を受けた紗弥菜は、怒りのあまりに目を吊り上げて切歯扼腕する。

「くぅっ……! 言わせておけばべらべらとっ。大体あんたに寄ってくる男が万が一

居たとしても、あらかた――」

 言いかけた紗弥菜に、成佳の優しい声音が割って入る。

「親睦の意味も含めて円城寺さんを誘って、お昼ご飯を食べましょうか。ちょうど昨日作ったカレーの余りが沢山あるのよ。1人じゃ食べきれないし、みんなと一緒に食べた方が美味しいし」

 カレーという単語に瞬く間に反応した爽奈は、瞳を輝かせながら問う。

「なるさん、まじっすか! おかわりしてもいい?」

「勿論よ。沢山あるから、好きなだけ食べていいわ」 

「やった――っ! なるさん大好きっ!」

 成佳に抱きつき、胸に顔をうずめて喜びを爆発させる。暫時、感触を確かめてから満足そうに顔を放した。勢いそのままに、今にも教室から出て行こうとする侑治郎の前に回りこむ。

「っと! な……何か用?」

 いきなり行く手を遮るように現れた爽奈に、面食らった有治郎。

「でっくん、君はカレーは好きかね?」

「でっくん? ……まあ、好きだけど。……それが?」

 呼ばれたこともない呼称に驚きつつも、正直に答えた。

「じゃあ、ちょっくらこっちに来て。あとね、質問に質問で返すもんじゃないよ」

「ああ、ごめん。って、ちょっ……」

 爽奈にいきなり腕を引っ張られ、少しよろけそうになる。それでも、姿勢を低く構えて付いていき、何とかすっ転ぶという醜態を晒さずに済んだ。10歩ほど進んだ後、事の成り行きをなすすべもなく見物していた3人の許へ辿り着く。

「なるさん。でっくんはカレー大好きだって!」

 爽奈の溌剌とした声を受け、成佳は莞爾と笑って頷く。

「それじゃあ、行きましょうか。自己紹介とかも私の部屋で食べながらでも」

 成佳が、何が何だか分からないといった顔をしている侑治郎に向けて言った。

「は、はあ……」

 突然過ぎる展開についていけない侑治郎だった。


 成佳の部屋に入ると爽奈は、真っ先に鞄や罰ゲームで持って来たランドセルを投げ捨て、ベッドに勢いよく飛び込んだ。

「はふぅ~……やっぱり人のベッドって、柔らかくて気持ちいいねぇ」

 四肢を伸ばし、ごろりと仰向けになる。ほっておけばそのまま眠ってしまいそうである。

「ちょっと爽奈! ちゃんと靴を揃えなさいよっ!」

 紗弥菜が爽奈の脱ぎ散らかした靴を指差し、怒っている。

 だが爽奈は、ベッドがふかふかしていて気持ちいいのか、大儀そうに首だけ玄関に向けるだけであった。

「お~、その声は紗弥菜ではないか。あんたもこっちにきて一緒に横になろうよ。そしたら、あんたの胸を枕代わりにするからさー」

 応じる声も間延びしていて、今にも眠りそうだ。

「絶対嫌よ! ……仕方ないわね、私が揃えてあげるわ。今度からは気をつけなさいよっ!」

「おうよー。さぁっすが良い眼鏡をしていることだけあるわー」

「あ、ありがとう……。で、でも、別に嬉しくなんかないんだからねっ!」

 頬を朱に染めつつ穏やかな顔で爽奈の靴を揃える。やっぱり靴も小さく、23cmあるかどうかの物だ。

「さやっちゃん優しいね」

 振り向いた目の前に、にこにことしている真優が居た。褒められて照れたらしく、紗弥菜はますます頬を赤くする。眼鏡を取り外してもてあそびながら、

「そんなことないわよ。私は当然のことをしたまでよ」

 わざと無愛想な表情を作り、そっぽを向いた。

「ふふ。やっぱり、さやっちゃんは可愛いなぁ」

「ま、真優~。いい加減にしないと、ほっぺをお正月の餅みたいにするわよっ」

「ごめんごめん」

 エプロンをつけた成佳が、2人に声をかける。

「紗弥菜ちゃんに真優ちゃん。悪いんだけど、お皿にご飯とカレーを盛ってくれない? 私はサラダを作るから~。あと、サラダを取り分けるお皿とフォークとスプーンもお願いね~」

 その指示を聞いていた侑治郎は、半ば慌てたように発言する。

「あ、俺もなんか手伝うよ」

 成佳は侑治郎を向き、微笑みながらも首を横に軽く振った。

「円城寺さんは、ゆっくりなさっていて下さい。なんせ、今日は円城寺さんの歓迎会兼昼食会ですからね。主賓の方に手伝って頂くなんて、申し訳ないですし。そこにテレビのリモコンがありますから、テレビでも見てて下さい」

「分かりました……」

 思わず丁寧な口調になってしまう。少しがっかりとした表情になるも、ベッド近くのテーブルの前に座り、その上にあったリモコンを手に取り、テレビの電源を入れた。ふと、視線を下に移し、テレビラックの2段目には薄型のゲーム機があった。更に視線をテレビの横にやると、棚の中にはおびただしい量のゲームソフトやアニメのDVDが、所狭しと収納されていた。


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