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13章……初めての看病

 爽奈の部屋のドアが開き、紗弥菜が警戒しつつ玄関に足を踏み入れる。

 ドアを静かに閉め、靴を脱いで部屋に上がる。綺麗に整え、ついでに脱ぎ散らかしてあった爽奈の靴も揃えてやった。

 部屋に繋がるドアを開けた。クーラーがついておらず、その汗が今にも滝のように出てきそうな部屋で爽奈は、ベッドに入って眠っていた。しかも分厚い布団までかけて。これではまだ嘘か本当なのか分からない。

「インターホンも鳴らしたし、ノックもしたのよ」

 一応、一言言っておく。黙って入ったからって、後でぐちぐち言われないようにする為だ。

「久々に入ったけど、相変わらず凄い部屋ね……」

 独り言をつぶやき、部屋を見渡す。

 床には無数の人形が置かれ、あまり足の踏み場がない。それはテレビ周りも変わらない。それどころかゲームソフトがケースが開けっ放しなものや、中身がその辺放り出されたり、極めつけはぬいぐるみの頭や体の上に乗せられてものがあった。アニメのDVDも床に山積みにされてたり、ゲームソフト同様にぬいぐるみの上に乗せられてある。

 床に置いてあったぬいぐるみを拾い上げ、悲しげに見つめる。

「可哀相に。折角創ってあげた人形が、こんな扱いをされてるって知ったら、真優は嘆くに違いないわね……。それにしても、無性に整理整頓がしたくなってきたわ」

 こうまで酷いと整理整頓しがいがありそうだ、と指の関節を鳴らす。

「おか……あ……さん……」

 か細い声が耳に入った。何だろう、と耳を澄ます。

「あつ……い……よぉ……」

「暑い……? 暑いなら、クーラーをつけるわよ?」

 床に落ちていたリモコンを拾って、スイッチを入れる。1分近くの間があったが、涼風が部屋中に流れ始め、徐々にではあるが熱気を奪い取っていく。

「はあ~、涼しい」

 専門学校から一気に爽奈の部屋まで駆け抜けてきた紗弥菜は、クーラーの前に立って極楽気分を味わった。

 横目で爽奈の様子を窺う。大きな反応はないが、心なしか呼吸の間隔が短く、喘いでいるようにも聞こえてきた。

 枕頭ちんとうに移動してじっくり観察する。やっぱり、息苦しそうに呼吸を繰り返していた。

「まさか……」

 爽奈の額にかかる髪を除けて、掌を押し当てる。汗の水っぽい感触と焼けるような熱さに、紗弥菜の眼が驚愕に見開かれた。

「凄く熱い……と、いうことは……本当に風邪!?」

 よくよく見れば、顔中や首などは大小粒のような汗にまみれていた。

「ど、どうしよう……。私、看病したことないわ……」

 祖父母のどちらかが風邪を引いても母親が看病していたし、両親のどちらかが風邪を引いたとしても、紗弥菜はうつるからと言われ、看病に携わることは皆無であった。引いたら引いたで周りがちやほやするように看病してくれるものだから、されるがままであり、看病のノウハウなんて意識したこともない。ゆえに、何も分からないのだ。それでも、何らかの講義で「幼児が風邪に罹患りかんした時はどうするのか?」と、それぞれ考えたことがあった。

「とにかく、その時に考えた通りにやってみればいいのね。みんなも良いって言ってくれてたし……。で、まずは……」

 ベッドの横のタンスに眼が行く。人の家のタンスを勝手に開けるのは、爽奈か泥棒だけだと思っていたがまさか自分もなるとは、とでも頭に浮かんだらしい。とりあえず、進まぬ顔でタンスを引く。そこには、年不相応の幼げな下着が割りと几帳面に並べられて入っていた。 

(ほとんど白ばっかり……本当に、はたちになったのかしら?)

 1段目は下着しか入ってなかった。シャツを取り出して2段目を引く。すると、視界一発キャラもののパジャマを発見した。それを無表情で取り出す。

 枕頭に戻って持って来た物を、寝ている爽奈の頭の横に置く。布団をめくって全体を露にすると、パジャマのボタンに手をかけた。1つずつ外して行き、最後の1つを取って左右に開く。

「なっ……!?」

 たまげた紗弥菜は二の句が次げず、魔法にでもかかったように固まった。

 無理もなかった。何しろ、爽奈はシャツも着ずにパジャマ1枚で寝ていのだから。

 息をするのも忘れて見入ってた紗弥菜は、ふと我に立ち返ると、首を激しく横に振った。

「そ、そうだ。タオル! タオルで拭かないと!」

 脳内に起こった様々な想見そうけんや妄想を、抹消せんばかりにあえて大声で言った。

 風呂場の近くにあった3段のボックスケースからタオルを2,3枚引っ張り出すと、うち1枚を四つ折にして爽奈の汗ばんだ体を、りんごのように満面を赤く染めつつも、拭いていく。その後は、頭の横に置いておいたシャツとパジャマを、起こさないように着せた。

 次にズボンを脱がす。細いことは細いのだが、あまり肉付きがよくなく、色気が感じられないほどであった。大して汗は掻いていなかったが、一通り拭いておく。新しいズボンに取り替え、ひとまず終了である。

(ふう……。あ、そういえば氷枕を忘れてたわ)

 失念していた氷枕を冷凍室から出して、先ほど取り出したタオルで巻き、今まで使っていた枕と交換して頭の下に敷いた。

「で、次が問題ね……」

 台所の方を忌々しげに睨む。

(でも、他に誰も居ないんだし……やるしかないわね)

 タンスの上に畳んで置いてあった爽奈のエプロンを身に付け、ついでにヘアゴムも借りて背に流してある自慢の黒髪を、うなじの所で束ねて結んだ。

 またしても失礼とは思いながら、冷蔵庫と冷凍庫を開けて目ぼしいものがないか確かめる。因みに、紗弥菜が作ろうとしている料理はお粥である。料理素人でも比較的簡単にできる料理なのだが……。

(冷凍のご飯と卵と鰹節か……。野菜はまだ送られてきてないのかしら?)

 爽奈の実家は農家である。米も野菜も作っているらしく、月に1度とは言わずに何度も送られてきている。1回分の量が多大でその都度4人は、ありがたくおすそ分けを貰っている。おそらく、農地を沢山所有していて裕福なのだろう。

(まあ、いいわ。やれるだけやってみなければね)

 流し台の下の収納場所から小振りの片手鍋を見つけ、水を張って火にかける。因みに、水の量は溢れんばかりだったりするが。

(次は食材を切っていけば、いいのよね……?)

 ラップに包まれていた冷凍のご飯を、まな板の上に置いた。鍋を出す時についでに出した(刺身)包丁を右手に持ち、左手をご飯を半ば覆うように据える。その状態で(刺身)包丁の刃先をご飯に入れた。当然、がっという硬い音がしたが、気にせずそのままゆっくり引いていく。すると、このままでは左手の中指の先端部を切断しそうになることに今更気づいたらしく、

「あれ? ……危なっ!」

 慌てて左手を手前に引っ込めた。

(うーん、どうやって切ってたのかしら? このままじゃ指がなくなってしまうし……あ、それなら両手を包丁装備にしたらいいんじゃない)

 かくして左手に文化包丁、右手に刺身包丁という、何かのゲームに出てきそうな中ボスキャラっぽい格好に変貌してしまった紗弥菜。料理人じゃなくても、一般の主婦から見たらお叱りを喰らいそうだが、残念ながら注意をする者は1人も居なかった。

 だん、だん、と、米を包丁で荒々しく切っていく……と言うよりも若干粉砕していき、見事米のかけらを編み出してしまった。それを沸騰してぐらぐら煮立っていた鍋の中に、1粒ずつお湯が飛ばないよう、鍋の端に滑らせて投入していった。

 次に卵をお椀の中で割り、箸で溶いていくのだが、溶き方が独特だった。普通は空気が入るように溶く。が、紗弥菜の場合は、まるで園児が適当に落書きをするかの如く、箸をせわしなく横に往復させるだけだった。白身と黄身が混ざった卵を今度はどうするかと思いきや、そのまま鍋に投入してしまった。

 材料に入っていた鰹節も右手で一掴み分を入れたが、そのせいでお湯が吹きこぼれてしまった。慌てて火を消し、おたまである程度お湯を捨てる。再度点火すると、思案顔になる。

 どうやら味付けに悩んでいるらしいのだ。去年の講義の中で作ったはずだが、驚くほど憶えていない。

 紗弥菜は煎じ詰める。

(確か味噌は入ってた気がするわ。あと……しょうゆもちょっと入ってたわ。多分)

 しょうゆを円を描くようにひと回し分投入し、見慣れた子どもの禿頭が画いてある味噌のふたを取って、おたま約半分ぐらいをごっそりすくい、火も弱めずに鍋の中に落とした。

(多分……あと5分ぐらいね。部屋にアクポカスを取りに行くし、流石に弱火にした方がいいかしら?)

 まるで血の池地獄のように、時折ぼこっと大泡を浮き上がらせ、ぐらぐら煮立ったているお粥のようなものを目の端に入れる。火の危険性は理解していたので、弱火にして一旦部屋に戻り、スポーツドリンクを取って来た。それをコップに注ぎながら、そろそろかと火を止めた。

 最終的に米の分量と水の分量が同一、またはどちらか一方が少なくなかったので、米と卵と鰹節の味噌スープのようなものが完成した。中身をどんぶりに移し、飲み物の入ったコップとどんぶりをお盆に乗せて、枕元まで持って行く。

 苦悶の表情を浮かべ、小さく喘いでいる爽奈の顔に浮かんだ汗を、タオルで拭き取りながら、記憶を辿る。

(本当、入学してからの付き合いだけど、こんな爽奈は初めて見るわね。……似合わない……。やっぱりあんたは、馬鹿みたいに元気であるべきよ)

 心頭でつぶやきながら、しかし起こすまいと優しく拭くことによって、爽奈を励ます。

 拭き終えたところでお粥をレンゲで主に米の部分だけ掬い、ふうふうと十分に冷ます。口に持って行くのだが、開こうとしない。軽くぺたぺたと唇を叩いてみたり、口の下を同様に叩く。だが、全くの無反応だった。

 紗弥菜は脳漿のうしょうを絞った。味はどうであれ食べてもらわねば、まともに風邪のウイルスと戦えないと思ったからである。脳中にあれやこれやと案が浮かぶも、使えないものばかり。その都度、頭を振って忘却の彼方に投げ棄てる。やがて案が尽きたらしく、レンゲで爽奈の唇を叩いていたが、あることを閃き、全動作が静止した。

(口移し……)

 たちまち顔から火が出るほど赤くなり、面映くなった紗弥菜は、爽奈から眼を逸らした。動悸が胸郭を打ち破らんばかりに激しくなり続ける。レンゲを持っていない左手で、心臓の辺りを押さえた。しかも頭の中も大混乱に陥っており、2つの二大組織を治める為に、深呼吸を数回繰り返す。

 だいぶ落ち着いた頃合に、出てきた案を冷静に解析してみる。

(何度やっても口を開かないんだから、口移ししか方法がない。仕方、ないわね……)

 お粥を少量口に含み、噛み砕かなくてもいいほど柔らかいが、それでも噛み砕く。そして、爽奈を直視する。

(やっぱり……何だかんだ言って可愛いわね……こいつ)

 素直な感想である。口喧嘩をしていてつい悪く見勝ちになってしまうが、爽奈は年不相応も相まって特に可愛く見えるのだ。

 身を乗り出して顔を近づけていく。

 心臓がまただんだん高鳴ってきた。

 爽奈の真一文字に引き結ばれた桃色のふっくらとした唇に、紗弥菜の程好く潤った唇が重なった。ふんわりとした感覚に理性が吹っ飛び、頭がどうにかなりそうだったが、そこを懸命に耐えた。舌で爽奈の唇を舐めて開き、閉じられた歯を舌先で突く。すると、少し隙間ができたので少量ずつお粥を流し込んだ。

 口に含んだお粥がなくなると、唇をそっと離して爽奈の喉仏を見る。微かに浮き出た喉仏が嚥下していたので、胸を撫で下ろした。

 残りのお粥やスポーツドリンクも口移しで、時間をかけて食べさせ(飲ませ)た。途中から必死だったからいいものの、改めて振り返ってみると、胸をぎゅっと締め付けられ罪悪感に駆られる。

(私は何てことをしたんだろう……禁忌を犯してしまったような、そんな気分だわ。いくら口移しと言っても、キスはキス。しかも女同士で……)

 以降顔をベッドに埋めて思考を停止させた。ただただ、自分の中に新しく芽生えそうな何かを必死に抑える。

「ありが……と……お……」

 かすれたような声が聞こえてきた。

 その声に紗弥菜は、がばっと顔を上げてずれた眼鏡を直し、まじまじと爽奈を注視する。

「ありが……と……お……」

 口元に笑みを湛えながら、爽奈は無意識にかすれた声で謝辞を述べていた。

 紗弥菜の双眸に涙が溢れてくる。

「さ、紗弥香さやか……」

 聞き慣れない名前を、声を震わせて漏らす。

 紗弥香とは、紗弥菜が15歳の時に他界した当時10歳だった妹のことであり、容姿がまるで爽奈と似ていた。

 どうやらその夭折ようせつした妹と爽奈が重なって見え、あたかも妹が喋っているように見えているらしい。

「紗弥香っ……!」

 完全に爽奈が、死んだ妹の紗弥香にしか見えなくなって一声叫ぶと、眼鏡を外して両肩を優しく掴んだ。そして、今や紗弥香にしか見えなくなった爽奈の顔を、感涙に咽びながら穴の開く程見詰めた。

 紗弥菜は、紗弥香が死んで以来一切泣かなかった。止めどなく次から次へと流れ出る涙は、約5年分を思わせるような量であり、ぽたぽたと爽奈の顔を濡らしていったのだった。


「あら、真優ちゃん」「あ、なるちゃん」

 成佳と真優が同時に、驚いた表情でお互いを発見した。

「帰省は明日じゃなかった?」

 真優が、肩にかかった荷物や両手に持った紙袋を揺らしながら、成佳の隣にやってくる。

 一方の成佳は、両手にスーパーの袋を持っていた。中身がぎっしりと詰まっていて、今にも底抜けせんばかりである。

 2人が並んで階段を上がり始めた。

 少し切れ掛かった息を整えながら真優は、憂慮に暮れた様子で答える。

「……うん。そのことなんだけど、そーちゃんから送られてきたメールが気になって、前倒ししたの。なるちゃんは何か急用でもあった?」

「ううん、違うわ。そう、真優ちゃんの所にも届いたの。実は私の所にも届いて、それを読んだ瞬間居ても立っても居られなくなって、帰ってきたのよ」 

「やっぱり、なるちゃんにも? そーちゃんは、冗談でもそんなメールを送らないでしょ。だから、余計に心配で心配で……」

「ねえ。杞憂に終われば1番良いんだけど……」

 2人は爽奈の部屋の前に立つ。真優が右手に持っていた紙袋を地面に置いて、インターホンを押す。しかし、うんともすんとも返事がないし、出てこない。もう一度押してみる。だが、結果は同じであった。

「真優ちゃん、入ってみましょう」

 不安を面に表しつつ、成佳が言った。

「そうだね……」

 同じく真優も不安を隠そうともせず、頷きながらドアを開く。

 2人が靴を脱いで玄関に上がる。その際、すぐ傍に台所が視界に入るのだが。

「な、何これ?」

「あらあら……」

 真優と成佳は、その惨憺たる様を発見した。いや、発見してしまったと言った方がいいのかもしれない。

 流し台には、鍋や包丁やまな板などが無造作に放置され、周りには調味料や食器が整頓されていなかった。

「台所を片付けないなんて、そーちゃんにしては珍しいね」

「それほどまでに切迫してたのかもねぇ……」 

 爽奈は、一応自炊をきちんとしている。使うたびに必然と台所くらいは、整理整頓しようと心掛けるものだ。実際爽奈は、部屋はごちゃごちゃとしているが、台所は綺麗にしてきた。だから、この有様はありえないのである。

 台所は後で片付けるとして、2人はひとまず部屋に入った。

 そこには床に正座をし、腕を枕にベッドに突っ伏して寝ている紗弥菜が居るではないか。

「あれー、さやっちゃん!?」

 思わず真優が目を丸くして驚きの声を挙げた。

 爽奈が紗弥菜の部屋に赴くことはあっても、その逆は滅多なことではなかったからだ。

「ふふ。やっぱり、2人ともは寝顔も可愛いな~」

 紗弥菜の頬を指で突っついたり、爽奈の頬を延ばしたり、寝ていることをいいことにやりたい放題の真優。

「こーら、2人とも気持ち良さそうに寝ているんだから、いたずらしちゃ駄目よ」

 黙って見ていた成佳が、真優の行為を諫めつつ寝ている2人を見やった。

「あら?」

 何かに気づいたらしく、小首をかたむける。爽奈と紗弥菜の口元に小さいながらも、ご飯粒が付いていたからである。もしやと思い、表情そのままに思考を駆け巡らす。

「どうしたの? それにしても、そーちゃんはただの風邪で良かったね」

 今の成佳に真優の言葉は一切聞こえない。

 思索に没頭している様子だったので、真優は慌てて口をつぐむ。

 やがて結論に達した成佳は、ふうっと優しく息を吹いた。そして、爽奈と紗弥菜を交互に見ると、ふっと笑みが浮かんできた。

(どうやら、今まで以上に仲が良くなったみたいね)

「どうしたの?」

 真優は、遠慮がちな眼を成佳に向けた。

「何でもないわ。さ、鍋や食器を洗ってお粥を作るわよ。真優ちゃんも手伝ってね」

「はーい、洗い物なら任せておいて」

 笑顔を輝かせて返事する真優。

 そこに、どたどたと足音荒く入って来る者が居た。

「爽奈! 大丈――」

 1人だけ意味を履き違えた侑治郎が、物々しい格好で登場した。Yシャツネクタイ、黒のズボンとここまでは普通だ。が、持ってるものが右手に金属バット、左手にフライパンと戦闘態勢でる気満々である。頭には何処から拝借したのか「安全第一」と書かれた黄色いヘルメットを被り、腹の中には週刊誌を仕込ませていて、防御面の強化も事欠かない。

 しかし、大声を出して気持ち良さそうに寝ている2人が、起きてしまうことに危惧の念を抱いた成佳は、侑治郎の口を軽く押さえた。

「しっ! 侑治郎さん、強盗とか暴漢などそういう類じゃないんです。爽奈ちゃんは、風邪を引いただけなんですよ」

「ふぇ? ふぉおなの?」

 侑治郎は、素っ頓狂且つ間抜け声で訊ねた。

「そうなんですよ」

 言いながら、口から手を放す成佳。

「そ、そうなのか……。ああ、穴があったら入りたいとは、このことなんだろうなぁ……」

 降伏した兵士のように侑治郎は、両手持っていた武器を床に置いた。その場にうずくまり、頭を抱える。

 その後の侑治郎の落ち込み具合は尋常じゃなく、しばらくそのまま姿勢でぶつぶつと独り言をつぶやいていたと言う。

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