表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/28

11章-2…オリジナリティ満載……?

 1時間ほど経った後、次に侑治郎は2歳児クラスに入室した。

 5人と人数は少ないが、少しながらも喋れるようになる時期だけあって、悲鳴に似た叫び声や、訳の分からない言葉を大声で言い放っていたりする園児が居た。

 と、1人の園児が侑治郎の存在に気づいた。足にしがみつくや、凄まじく高いテンションそのままに揺らし出した。

「せんせー、ぼくねー、ピーポーを見たんだよー」

「ピーポー? ……あ、救急車ね。へえー、何処で見たの?」

 侑治郎がしゃがんで園児の視点に眼を合わせつつ、優しく微笑む。

「うーんとねー、えーっとねー。『レスキューレンジャー』だよー」

 園児の言った単語で、何を言わんとしたか理解した侑治郎は、得意気に返す。

「あー、『レスキューレンジャー』ね。先生も観てるよ。レッドが消防車で、ホワイトがピーポーだよね」

「そーだよっ。でも、ホワイトのほうが強いもんっ」

 嬉々として断言した男子園児の近くに女子園児がやってきた。

「ちがうよ。モノクロのほうが強いよっ」

 だが、違う男子園児が不服そうな顔で異議を唱える。

「えー、カムフラージュが1番だよー」

 意見をぶつけ合う園児達を、微笑ましそうに静観する侑治郎。そこに、白い布が敷かれた長机に隠れるようして何ごとかの準備を進めていた真優が、ひょこっと顔を出した。

「侑さーん、ちょっと来てー」

 足に引っ付いていた男子園児を優しく離し、2人の輪に改めて加えてやると、長机の後方に周った。そこには真優が台本を何度も小声で読み返しながら、自作の人形を動かしていた。

 ずり落ちそうな眼鏡を慌てて直しつつ、侑治郎ににこっと笑いかける。

「本当、ちょうど良かったよ。今日は特別篇で登場人物が3体から倍の6体に増えるから、声の種類が限界で……。なるちゃんなら楽勝なんだけど、私は素人だしね」

「と言うことは、俺は人形劇のお手伝いと」

「うん、侑さんは他のことをして遊びたいだろうけど、人形劇が終わったら、ということでひとつ」

 真優はぱん、と手を合わせて懇願した。

「いや、俺は全然かまわないよ。むしろ良い経験になるしな。で、俺の役は何なんだ?」

「新潟県の絶滅危惧種として有名だったトキのトキ麻呂と猿のモンの助と直江兼続」

 侑治郎の顔色が瞬く間に変わる。 

「な、直江だと!?」

 みなさんの一般的な公家の印象は、太っていてお歯黒で変な所に書かれた眉だと思う。それを2頭身にして某国体風にアニメ調にしたトキの目とくちばしを拝借したようなもの。つまり、後ろから見れば単衣ひとえぎぬ烏帽子えぼしを被った公家にしか見えないが、正面から見れば何処かで見たようなアニメ調のトキが、公家の格好しているのだ。それがトキ麻呂の正体である。

 猿は茶色の短パンに、ど真ん中に茶色の字で『I am MONKEY』と書かれた白地の半袖を着ており、つばのついた帽子――これもまた『I am MONKEY』と書かれている――を被っている。両目が小豆のように小さく、どことなく愛嬌がある。こちらも可愛くアニメ風に仕上がっていた。

 最後の直江兼続だが……。

「真優。お前さ、これはまずいんじゃないか? 絶対、滋賀県からクレームが来るぞ」

「商品化されるはずもないから、大丈夫だよ。個人で楽しむ分だし、某小型哺乳類みたいに訴えられないだろうし」

「ずいぶんと強気だな……。まあ、いいけど。で、名前は何て言うんだ?」

「そうだねぇ、色々と候補はあったんだけど、最終的に『愛にゃん』になったよ」

 今や全国的に人気者(猫)となり、"ゆるキャラ"ブームの火付け役となった『ひこにゃん』にあやかったのだろう。兜の「愛」文字以外はまんま『ひこにゃん』だった。

「あ、『愛にゃん』……!?」

 純粋な歴史好きの侑治郎は、腹をえぐられるような衝撃を受けて、絶句した。彼は『ひこにゃん』でさえ、そりゃないわ、と思っていたからだ。

「実は、他にも伊達政宗から取った『伊達にゃん』とか、加藤清正から取った『かとトラ』とか、斎藤道三から取った『どーさんまむし』とか一杯あるんだよ」

 人形を入れてあった大き目のかばんから、パクリに近いものやら独創性の高い人形が続々と出てきた。

 唖然としながらもキャラクターに光るものがあったらしく、侑治郎は手にとってみた。

「『伊達にゃん』はそのまんまだけど、『かとトラ』はいいな。男の子には人気出そうな凛々しい面構えをしてるし。『どーさんまむし』は、まんま某アのつくモンスターに見えてならないんだが……。ま、別に商品化しないから、いいのか」

「そういうこと。おっと、早く始めようよ。他の遊びをする時間がなくなっちゃうよ」

「分かった、分かった」

 最初の場面に登場する人形が長机の上に配置され、真優は園児達を集めようと立ち上がって呼びかける。

「みんなー、お人形さん達のお話を始めるよー」

 すると、今まで各々騒いでいた園児達が、欣喜雀躍しながら長机の前に集まってきた。

「わあー、クマえもんだぁー」

「せんせー、早くー」

 園児達のお気に入りのキャラクターを呼ぶ声と、急かす声が交互に混じる。

 そんな園児達の様子に、真優は満面に喜びをほとばしらせて、鷹揚おうように頷く。

「うん、分かったよー。今日はね、新しいお友達も出てくるから、ちゃんと観てるんだよー。分かったー?」

「はーい!」

 園児達が甲高い声とともに、腕がちぎれんばかりに挙手する。

 真優がしゃがみ、ひそひそ声で言う。

「それじゃ、侑さん。始めるね。台本を見て出るタイミングをしっかり守ってよ」

「おう、任せろ」

 真優は膝立ちとなって、熊の人形を動かし出した。


「あれれ、おかしいなぁ~。ここに、はちみつのつぼを置いてたはずなんだけど」

 膝近くに置いてあった柴犬の人形を、長机の上に登場させる。

「おや、どうしたのかな。クマえもん。何か困ったことでもあったのかね?」

 クマえもんをポチ太郎の方に、鋭く振り向かせる。

「あ、ポチ太郎じいさん。おはようございます。ちょうど良かった。僕のはちみつのつぼを知りませんか?」

「はて、知らないのう。わしは今来たばかりだからな」

 更にここで三毛猫の人形を投入する。

「あらあら、2人とも何をしているの?」

 先ほどのポチ太郎の登場と同様に、はっとしたようにクマえもんを、みけこの方に振り向かせる。

「あ、みけこさん。おはようございます。僕のはちみつがなくなったんですよ。一緒に探してくれませんか」

「ふん、冗談じゃないわ。あたくしのご主人様をご存知よね? お菓子工場の社長なのよ。そんなくだらないことなんか、したくないわ」

「そ、そんなぁ……」

 クマえもんを落ち込んだように見せる為に、突っ伏す。

「おや、そんなことを言ってもいいのかのう。君のご主人様を雪崩から助けたのは、このわしじゃぞ。その命の恩人の友達のお願いを断ると言うのかね。猫は犬より優しくない生き物とは、よく言ったものだ」

「むむぅ……分かったわよ! あたくしも探せばいいのでしょう!? ほら、いつまで寝ていらっしゃるの? 早く起きた起きた!」

 みけこを勢いよくクマえもんの傍まで寄せ、前足で胴体を蹴っ飛ばさせた。

「あぎゃーっす! いたたた……みけこさん、いきなり何をするんですか。痛いですよ……」

 みけこを持ち上げ、クマえもんの背中に乗せて突っ伏させる。

「お黙り! 早く探すのよ!」

「は、はい……」


(何と言う台本だ……)

 侑治郎は、改めて読み返した台本に溜息が出る思いだった。

(いくら子供向けと言っても、ストーリーが最初から破綻してちゃ意味ないんじゃなか。まあ、まさかこれを紗弥菜が書いたわけじゃないよな……。そうだとしたら――)

 疑念が尽きない侑治郎の隣に、真剣な表情で演じている真優が居る。その真優の両足が、ぱたぱたと床を鳴らし始めた。

「これは俺の出番がきたってことか?」

 声をひそめて問うと、両足の動きを一旦止めてから、片足ずつ振り下ろした。

「『そう』か……」

 腹をくくる。台本の出来はどうであれ本人は慣れない作業に、おそらく悩乱しそうになりながらも書き上げたのだろう。その頑張りを無下にはできない。

(よし、やってやろうじゃないか)

 気合が入る侑治郎。決意を示すように人形を3体長机の上に登場させた。


「くけーっこっこ。お主らそこまででおじゃる」

 真優が3体を次々に振り向かせる。次いで、ポチ太郎の首を軽くかしげる。

「お前ら誰じゃっ?」 

「よくぞ訊いてくれた。わしは、トキのトキ麻呂でおじゃる。で、隣が」

「ウキウキウッキー! ミーはニホンザルのモンの助でござる! その隣が」

「それがしは、愛と正義を大事にする愛にゃんと申す」

 侑治郎がトキ麻呂をずいっと前に出す。

「われら3人揃って……」 

 真優がみけこの前足の右を指のようにして、つぼを指す。

「ちょっと待ちなさい! 真ん中の猿が持ってるつぼは何!?」

「ウキ? これは……ミーのでござる!!」

「嘘よ! つぼにクマえもんって名前が書いてあるもの!」

 真優が、クマえもんの動作を緩慢から俊敏なものに変える。

「あっ――! それ、僕のだよ! 何で君達が持ってるの? 返してよ!」

「そうよ、返しなさいよ!」

「そうじゃ、返せ! 嘘つきは既に泥棒になっているは本当のことだの」

 侑治郎がトキ麻呂を高々と上げて、急激に落下させ、長机をどん、と打ちつける。

「くけーい、口々に煩いでおじゃる! モンの助は、そんなことをする猿ではおじゃらん! のう、モンの助」

「ウキキ、そ、そうでござる。ミーほどお利口な猿が、はちみつなぞ盗むはずが……はっ!?」

「モンの助……お主は本当に嘘をついておらぬか?」

「キキッ……、そ、それはその……」

 侑治郎がモンの助に愛にゃんをぶつけるように、近づけていく。 

「それがしは、嘘は嫌いだ。本当のことを申さねば、お主の首をはねてやろうぞ」

「ウキ……キ……、も、申し訳ない! ミーがクマえもんのはちみつを盗りました!」

 侑治郎がモンの助の首を前に倒す。

「いいえ、許さないわ! 嘘は絶対についちゃいけない。それに、人の物を盗ることもよ。2つの悪いことをした悪人なんか、信じられるわけがないじゃない。ねえ、みんなもそう思うでしょう?」

 真優がみけこの顔を園児達に見えるように、正面に向ける。

「そうだ、そうだー」

「モンの助なんて、きらーい」

 園児達の率直な非難の声が教室中を包んだ。

「ウキッキッキ……そ、そんなぁ……」

「まあ、待つんじゃ。わしもさっきは、とてもじいさんとも思えないことを言ってしまった。それから、反省して冷静に考えてみたんじゃが、モンの助のしたことは確かに悪い。しかし嘘をついたのは、自分の身を守ろうとしたから、つい、出てしまったのだろう。嘘も悪い。だがのう、つい出てしまったことをあれこれ責めるのは、可哀想と言うもの。みんなもそう思わんか?」

 真優がポチ太郎をみけこのように、正面に向ける。

「ポチ太郎、むずかしいよー」

「わかんなーい」

 園児達は渋面を作る。ちんぷんかんぷんでさっぱり分からない様子だ。

「そうじゃな……。例えば、みんなのお父さんやお母さんが大事にしている物を壊したとしよう。当然大事な物だから、怒るだろう。みんななら、どうする? 正直に言う? 嘘をつく?」

 少し考えた後、1人の児童が快活に言う。

「嘘をつくー」

「それは何でじゃ?」

「だってパパとママ、こわいもん」

「それじゃ。君はモンの助と同じことをしようとしている。モンの助を悪くは言えないぞ」

 すると、周りの児童達が発言した児童を責め出した。

「いーけないんだ、いけないんだ」

「だめだよー、ちゃんといわなきゃ」

「おっほん。君達もその子と同じことを言おうとしてたんじゃないのかな?」

 教室が一気に静まり返った。どうやら、図星だったらしい。

「君達も嘘をつかないようにするんじゃぞ。それに、人の物も盗っちゃ駄目なんじゃぞ。パパやママやお友達にも嫌われちゃうからのう。分かった人ー?」

「はーい!」

 児童達は、元気一杯に腕を振り上げる。

「それじゃ、モンの助のことも許してくれるかなー?」

「うんっ。ゆるしてあげる!」

「モンの助、ごめんねー」

 侑治郎がモンの助を正面に向ける。

「キキキー、みんなありがとう。ミーは反省するでござるよ」

 それから、クマえもんの方に向き直り、

「キキッ、クマえもん、悪かったでござる。どうかこの通り」

「頭を上げてよモンの助。僕はもう怒ってなんかいないよ。みんな仲良くしていこう」

「キッキ……かたじけない」

「うむ。クマえもんも許したことで一件落着じゃな」


 真優が立ち上がっておもむろに宣言する。

「はーい、今日はこれで終了です。明日も楽しみにしててねー」

「はーい!」

「今日はね、お手伝いをしてくれたお兄さんが居るんだよー」

 真優に促されて立ち上がる侑治郎。

「みんな、ちゃんと聞いてくれてありがとう。お兄さん、嬉しかったよ」

「みんな、拍手ー」

 拍手が園児達から起こる。侑治郎は笑みを浮かべて、それに応えた。

 その後他の遊びも行ったのだが、人形劇が長過ぎたせいでろくな遊びが出来なかったと言う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ