風呂上り
三題噺もどき―きゅうひゃくじゅういち。
浴室のドアを開けると、何かが目の前で揺れた。
真っ黒なそれは人の上半身の形をしているが、頭や手はない。
表面はどこかつるりとしていて、ただゆらゆらと揺れている。
「……」
まぁ、ただのアンダーシャツなんだけど。
妹が部活で着ているやつだろう。その後ろにももう1枚サイズ違いの者が並んでいる。
更にその後ろには、ユニフォームらしきものと、中学校の体育服。
見覚えのある服だ。私も約1年半着ていた体育服だ。
「……」
夏休みに入ってから、多少洗濯物は減ったものの、妹2人は運動系の部活をしているので先にその分だけ回したのだろう。
というかむしろ、運動する時間が増えて、汗をかいたりする分、余計に洗濯物は増えていそうだ。……この時期に外で運動なんて考えたくもない。自転車こぐのだって嫌なのに。
「……」
それを私が風呂に入っている間に、干したと。
洗濯が終わった音楽が聞こえはしたので、そんな気はしたが……あまりこう、風呂に入っている間に脱衣所だろうとなんだろうと入られるのはいい気はしない。
ま、今に始まったことじゃないし、嫌なら鍵をかければいいのだけど、それをしていない時点でたいしたことではないのだろう。
「……」
浴室の扉のすぐそばに置いてあるワゴンから、タオルを取り出す。
各々使うタオルは決まっているので、間違えないように。
私はもうだいぶ使い古した―と言っても2年くらい―グレーの少しふわふわしたタイプのタオルを使っている。
「……」
妹はなかなか派手な色合いの、星の柄がついた固めのタオル。
末っ子はバスタオルではなく、スポーツタオルを使っている。
母は私のタオルと色違いの物を使っている。
「……」
まぁ、ふわふわしたタイプのタオルではあるが、もうだいぶそれも失われている。
いい加減変えた方がいいんだろうけど、なんかこれと似たようなタオルがどこにも売っていないんだよなぁ。
「……」
顔をごしごしと拭きながら、ごわごわになりつつある感触を肌で感じる。
顔をこうやって拭くのはよろしくないらしいが、ふやふやと拭いたところでぬれたのが残っている方が嫌なので無理だ。
「……、――った!」
顔を拭きながら、一旦浴室内に戻ろうと後ろ向きに歩き出した所。
肘を思いきり、浴室の扉にぶつけてしまった。
じんじんと、麻酔がかかったように痺れて感覚が一瞬失せる。
ぶつかった個所から腕、指先までじりじりと痛む。
「――、」
こういうのって、地味に痛みが響くのは何なのだろう。
というか、肘ってぶつかると結構いたいのはほんとに勘弁してほしい。
しかも、かなり局所的にぶつかったので結構しっかり目に痛い。
「――、……」
中途半端に扉を開けていた私が悪いが。
思わず、意味もないのに扉を睨んでしまう。
跡なにも見ずに後ろに歩いたのも悪かったな。
「……」
まだ少し痺れているような腕を軽く振り、もう片方の手で水を拭き取る作業を再開する。
タオルの片方が床に落ちそうになったが、咄嗟に足でカバーし、ついでにそのまま足も拭いていく。……そろそろ剃らないといけないな。
「……」
ようやく落ち着いた痛みと痺れに、二度とこんなことはしない、と誓いつつ、残りを拭いていく。あとは半身と、頭くらいだ。
最近、髪をまた短く切りなおしたので、拭き易くてありがたい。
頭を洗うのにさして時間が掛からないのもいい点だ。
「……」
わしゃわしゃと適当に頭を拭いていく。
その度にはらはらと髪が落ちていく。
人間、毎日何本くらい髪が抜けていくモノなのだろうか。
「……」
最後に、身体に着いた髪の毛を払い、浴室を再度出る。
出てすぐのところには、もじゃもじゃのマットが置かれている。
まだ誰も風呂には入っていないので、濡れていない。
―あ、失礼」
「……」
さて着替えるかというタイミングで。
ノックもなしに母が扉を開けてきた。
「……」
次から鍵かけようかな。
お題:アンダーシャツ・星・麻酔




