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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

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短編集

屋上で始まった歪んだ恋 ~嫌いなはずの指先が、雨の日に溶けていく~

作者:

【重要】作品に関するご注意

 本作には以下の要素が含まれます。苦手な方は閲覧をお控えください。

・合意のない性的行為を想起させる描写(R15範囲内)

・精神的・肉体的な支配、共依存の関係

・脅迫・撮影などの犯罪行為が肯定的に描かれる展開

・歪んだ愛情表現、モラルに反するストーリー展開 本作は完全なフィクションです。


 実在の人物・団体・事件とは一切関係なく、いかなる犯罪や暴力を助長する意図はありません。

 ショッキングな内容や、キャラクターが「壊れていく」過程に抵抗がある方は、読み進める前にご注意ください。 無理に読まなくても大丈夫ですよ。

 ご自身の心の準備が整ったときにお読みいただければ幸いです。




 冷たいコンクリートの床に、ほおが容赦なく押し付けられていた。

 表面のざらざらした粒が肌に食い込んで、ちょっとした痛みがじんわり伝わってくる。


 体温を奪うような冷たさが、ほおから首筋へゆっくり這い上がってきて、

 全身の血が一気に引いていくような気がした。

 息が詰まる。浅く、速く、肺が勝手に震えるように上下するのに、ちゃんと空気が入ってこない。

 鼻の奥まで、カビの湿ったくさい匂いと、古いほこりの粉っぽい匂い、そして彼女の汗と体温の混じった、むっとする熱気がいっぱいに広がっている。


 吐き気が喉の奥でぐるぐる回って、胃がきゅっと縮こまる。手首を掴まれていた感触が、まだはっきり残っている。

 指の形が、皮膚に赤く浮かんだ跡みたいに疼くのに、今はもう、誰も私の腕を押さえていないはずなのに、体が鉛みたいに重い。

 指一本、動かせななかった。

 まるで見えない鎖で全身を縛り付けられたみたいに、ただ震えることしかできない。

 遠くで、ビルの屋上を吹き抜ける風が、低くうなる音を立てていた。


 コンクリートの隙間から、夜の冷たい空気が忍び込んで、(まく)れ上がったスカートの裾から太ももに触れる。

 肌がぞわっとあわ立って、鳥肌が一気に広がる。


 下着はもう、かかとのあたりに絡まって、足首を締め付けるように垂れ下がっている。

 さっきまで無理やり広げられた脚の間が、まだ熱く疼いて、ねばねばした感触が残っている。

 終わったはずの痛みが、下腹部に鈍く響き続けて、体が勝手にびくびくと震えを繰り返す。


 視界の端に、彼女の黒い髪が揺れているのが見えた。街灯の薄い光が、屋上のコンクリートに淡く反射して、彼女の輪郭をぼんやり浮かび上がらせている。

 その影が、私の体の上に落ちて、重たくのしかかってくる。


「……やめてって、言ったよね」


 掠れた声が、喉から零れ落ちる。

 ほとんど音にならず、空気に溶けて消えていく。


 でも、目の前にしゃがみ込んでいる彼女は、ゆっくりと口角を上げて、にっと笑った。


「言ったね。でも、聞こえなかった」


その声が、耳の奥まで冷たく響いて、私の心臓を、ぎゅっと握り潰すように締め付けた。


 声がかすれて、ほとんど音にならない。

 でも、目の前にしゃがみこんでいる女の子は、にっと笑った。


 「言ったね。でも聞こえなかった」


 黒い髪が肩に落ちて、私の視界を半分ふさいでしまう。

 彼女の瞳は、ガラス玉みたいに冷たくて、でもどこか楽しそうだった。


 名前は知らない。いや、知りたくもない。

 このビルの屋上に来る前までは、彼女のことを同じクラスの、ちょっと目立つ子くらいにしか知らなかった。


 なのに今、彼女の指が私のほおをなぞっている。さっきまで私の中に入っていた、あの指と同じ指だ。

 ぞっとした。吐き気がした。


 でも体はまだ言うことを聞いてくれなくて、ただ涙が横に流れていくだけだった。


「泣いてる顔、かわいい」


 彼女はそうつぶやいて、私の唇に自分の唇を重ねてきた。

 もう、拒否する力なんて残っていなかった。舌が無理やり入ってくる感触に、胃がきゅっと締め上げられる。


 それでも、どこかで変な熱が下腹部に溜まっていくのを感じてしまって——自分が壊れていく音が、頭の中で響いた。


 どれくらい時間が経ったのか、もうわからない。

 彼女がようやく体を離したとき、私はもうちゃんと息ができていなかった。

 胸が大きく上下して、肺が痛いくらいに空気を求めているのに、うまく吸えなくて、ただ浅く、浅く、繰り返すだけだった。


 制服のブラウスはボタンがいくつも外れてしまって、胸が半分以上、はだけてしまっている。

 冷たい風が肌に触れて、ぞわっと鳥肌が立つ。

 彼女は満足そうに、私の乱れた姿を見下ろしながら、ゆっくりとスマホを取り出した。


「記念に撮っとこっか」


「……やめて」


 声が小さくて、ほとんど震え声だった。


「やだ。こういうの、残しておかないと忘れちゃうでしょ?」


 シャッター音が、何度も何度も鳴った。

 フラッシュが目に刺さるように痛くて、まぶたをぎゅっと閉じても、白い光が残像になって残る。

 私はただ、顔を背けて、歯を食いしばることしかできなかった。

 唇の内側が、血の味で鉄っぽくなる。それから彼女は、私の耳元にそっと唇を寄せて、

 優しい声で、でも冷たい声で、囁いた。「ねえ、綾」初めて名前を呼ばれた気がした。

 心臓が、どくんと、嫌な意味で大きく跳ねる。

 体が一瞬、固まって、息が止まりそうになった。



「これから、毎日こうしてあげるね。……嫌いにならないでよ?」


 その言葉が、頭の奥にずきんと突き刺さった瞬間——私は、初めて彼女の目を見返した。

 そこには、狂気みたいなものとも、執着みたいなものともつかない、


 なんだか異様な光が揺れていた。なのに、なぜかその光に、吸い込まれそうになる自分がいた。

 嫌悪と恐怖と、そして、名前もわからない何か。それらがぐちゃぐちゃに混ざり合って、私の胸の奥で、ゆっくりと、形になり始めていた。


 次の日、学校に来るのが怖かった。

 制服のスカートを、何度も、何度も確かめた。

 ブラウスも、一番上のボタンまできっちり留め直す。

 それでも落ち着かなくて、鏡の前から何十分も動けなかった。

 でも結局、鏡に映る顔は、昨日の夜に泣き腫らしたみたいに赤くて、みっともなく見えた。

 見ているだけで、胸の奥がきゅっと締め付けられる。


 授業中も、ずっと彼女の視線が背中に刺さっている気がした。

 黒板を見るふりをして、でも視界の端で彼女の影が動くたびに、心臓がどきどきした。

 

 昼休み。 お弁当を食べる気にもなれなくて、

 人ごみを避けるように廊下を歩いた。

 誰にも会いたくなくて、静かな場所を探していた。


 美術準備室なら、昼休みは誰も使っていないと知っていたから。

 ここなら、誰も来ないはず。

 そう思って、足が自然とそちらへ向かった。

 中に入って、そっと扉を閉めた。

 誰もいない部屋の空気が、少しひんやりして、ほっとした。

 ここで少し休んでいると、美術準備室の扉が、静かに開いた。 


「やっぱりここにいたんだ」


 彼女の声が聞こえた。

 私は教室の裏に縮こまって隠れてたのに、すぐに足音が近づいてくる。


「隠れても無駄だよ。綾の匂い、すぐわかっちゃうから」


「……来ないで」


「だめ」


 彼女は私の前にしゃがんで、顔をのぞき込んできた。

 昨日と同じ、冷たいのに熱っぽい目。


「ほら、見せて」


 彼女の手が私のスカートに伸びてくる。

 慌てて太ももを閉じたけど、すぐに膝の裏をつかまれて、無理やり開かされた。


「やだ……ここ、学校だよ……」


「知ってるよ。だからドキドキするんでしょ?」


 彼女の指が、ゆっくり内ももをなで上がってくる。

 昨日よりゆっくりで、まるで自分のものだって確かめるみたいな動き。

 私は声を我慢しようとして、唇をぎゅっと噛んだ。

 血の味がした。


「昨日より濡れてるね」


 彼女が耳元で囁く。


「嘘……そんなはず……」


「嘘じゃないよ。ほら、自分で触ってみて」


 彼女は私の手を掴んで、自分の指と一緒にそこへ導いた。

 嫌なのに……熱くて、ぬるぬるしてて、自分が信じられなかった。


「ねえ、綾」


 彼女の息が耳に当たる。


「嫌い?」


「……」


 答えられなかった。嫌いのはずなのに、彼女の指が動くたびに、頭の中が真っ白になって、何も考えられなくなっちゃう。

 

 自分の体が勝手に反応するのが怖くて、気持ち悪くて——でも、それ以上に、この指がもっと奥まで入ってきて、私をぐちゃぐちゃに壊してくれるのを、どこかで待ってる自分がいる。


 それが、一番信じられなかった。


「嫌いじゃないんだ」


 その瞬間、彼女は私の首筋に強く歯を立てた。

 痛みと、熱と、何かよくわからないものが一気に溢れてきて、私は声を抑えきれずに、小さく喘いでしまった。

 彼女はその声を聞いて、満足そうに唇を離した。


「可愛い声、出たね」


「……最低」


「うん。でも綾も最低だよ」


 彼女は私の顎を掴んで、顔を上げさせた。


「だって、嫌なら本気で拒むよね?本当は求めてるくせに、被害者ぶってるんだ」


 目が合った。

 彼女の瞳の中には、私が映っている。

 怯えて、震えて、それでもどこか彼女を求めているような、歪んだ自分がいる。


「これから毎日、こうやって綾のこと、壊してあげる」


 彼女の指が、また奥まで入ってくる。


「でも、壊れきる前に……ちゃんと私のものになってね」


 痛い。気持ちいい。怖い。欲しい。

 全部がぐちゃぐちゃに混ざって、私はもう、何も考えられなくなっていた。

 ただ、彼女の匂いと、熱と、耳元で繰り返される「綾」「綾」「綾」という呼びかけだけが、世界の全てみたいに感じられた。


彼女は私の手を握って、指を絡めてきた。


「今日から、放課後は私のところに来て」


「……」


「来なかったら、昨日の写真、みんなに見せちゃうよ?」


脅しだ。わかっているのに、なぜか胸の奥が、ぞくぞくした。


「来るよね?」


 彼女が首を傾げる。私は、ゆっくりと頷いた。


「……うん」


 その一言で、何かが決定的に変わった気がした。

 嫌悪も、恐怖も、全部飲み込んで、私は彼女の指に、自分の指をきつく絡めた。

 これが恋なのか、ただの依存なのか、まだわからない。

 でも、もう後戻りできないことだけは、はっきりとわかっていた。



 それから、毎日が続いた。 放課後の美術準備室、屋上、時には空き教室の隅。

 彼女はいつも私を探し出して、壁にそっと押し付けて、指を絡めて、唇を奪って、そして耳元で「綾」と呼ぶ。

 最初はただの脅しだった。

 写真を見せられたくない一心で、足が勝手に彼女のところへ向かっていた。


 でも、いつからか——脅しがなくても、体が彼女の匂いを求めてしまうようになっていた。

 ある雨の日の放課後。 彼女はいつものように私を連れ込んで、

 濡れた制服のまま、ぎゅっと抱きしめてきた。


「今日は特別に、ゆっくりしてあげる」


 彼女の声が少し低くて、いつもより優しい響きがあった。

 私は抵抗しなかった。もう、私自身彼女を求めていたのかもしれない。


 彼女は私のブラウスを、一枚ずつ丁寧に外していった。

 ボタンを外すたびに、冷たい空気が肌に触れる。

 でも彼女の指がすぐに覆って、温かさを残してくれる。


「綺麗だよ、綾」


 彼女の唇が、鎖骨に落ちて、胸の谷間に滑って、

 そして下へ、下へ。 私は天井を見上げながら、震えていた。


 痛みはもう、ほとんどなかった。 代わりに、熱い波が体中を駆け巡る。

 彼女の舌が、私の敏感なところを優しくなぞるたびに、頭の中が真っ白になって、声が漏れてしまう。


「……あっ」


「もっと聞かせて」


 彼女は私の腰を抱き寄せて、深く、深く入ってくる。

 私は彼女の肩に爪を立てて、必死にしがみついた。 嫌いじゃなかった。


 もう、嫌いじゃなかった。

 彼女が私を壊そうとしているのではなく、彼女がいないと、私の方が壊れてしまいそうな気がした。

 クライマックスが近づいたとき、彼女は私の耳に唇を寄せて、そっと囁いた。


「好きだよ、綾」


 その言葉が、胸の奥にずきんと突き刺さった。涙が溢れた。

 でもそれは、悲しい涙じゃなかった。


「……私も」


掠れた声で、初めて言葉にした。


「好き……かも」


 彼女の動きが、一瞬止まった。

 そして、ゆっくりと顔を上げて、私の目を見た。

 そこには、いつもの冷たいガラス玉のような瞳じゃなくて、熱くて、脆くて、少し怯えているような瞳があった。


「……本当?」


「うん」


 私は彼女の頬に手を伸ばして、涙をそっと拭った。

 彼女も泣いていた。

 初めて見た。


「ごめん……最初は、ただ欲しかっただけだったのに」


 彼女の声が震える。


「でも、綾が泣く顔を見て、綾の声聞いて、綾の匂い嗅いで……もう、離せなくなっちゃった」


 私は彼女を抱きしめた。

 濡れた制服が、互いの体温でじんわり温かくなる。


「もう、写真は消して」


「……うん。全部消す」


 彼女はスマホを取り出して、私の前で写真を一つずつ削除していった。

 最後の1枚が消えた瞬間、彼女はスマホを床に投げ捨てて、

 私に強く抱きついてきた。


「これからは、ちゃんと恋人として……いい?」


 私は頷いた。


「うん」


 雨音が、窓を優しく叩く。

 私たちはそのまま、床に座り込んで、

 互いの体温を確かめ合うように、ただ抱き合っていた。

 痛みも、恐怖も、脅しも、全部が雨に溶けて、流れていった。

 残ったのは、歪んだ形の、でも確かにそこにある恋。

 彼女の指が、私の髪を優しくなでる。


「これからも、毎日綾のこと、愛してあげる」


「……私も」


 私は彼女の唇に、自分の唇を重ねた。

 今度は、拒否じゃなくて、求めていて。

 これが、私たちの始まりだった。


 終わったはずのあの屋上の夜から、本当に始まった恋。

 ——歪んでいて、痛くて、熱くて、

 それでも、かけがえのないものになった。

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