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第3話 学校のマドンナとの遭遇

「とりあえず、眠る場所を探さないとな」


 家にはもう帰れない。

 財布も家の中にあるけど、もうあの家に取りに行く気にはなれないし何より行ったところで入れてもらえないだろう。

 なんで俺がこんな目に。

 一体何をしたっていうんだよ。

 怒りがこみあげてくる。

 でも、そんな感情を抱いても無駄だ。


「全部なくなったな」


 彼女、親友、友達、家族、居場所。

 全てを失った。

 だが、もう悲しいとは思わない。

 どうでもいい。

 どうせ誰も信じてくれない。

 なんでみんな俺を貶すんだよ。

 そんなことしなくてもいいじゃないか。

 確かに浮気されて悲しかったし苦しかった。

 でも、あそこまでしなくてもいいじゃないか。

 浮気されたのはもちろん悲しいし悟に裏切られたのは腹立たしくもあった。

 でも、2人がそれで幸せなら俺は納得しようとしたのに。

 それが、あそこまで嘘を広められて居場所まで奪われた。

 どうしてそんなにひどいことができるんだろう。


「こんなこと考えても金が増えるわけじゃないし、今日寝泊まりする場所が湧いてくるわけでもないのにな」


 今この世の中の不条理を呪っていてもどうにもならない。

 俺が一番に考えるべきことは今日をどう乗り切るかということだ。

 家に居場所はないし財布はないから金もない。

 泊めてくれそうな友人は今日すべていなくなった。


「本当どうしてこうなったんだろうな」


 街中でぼそりとそうこぼすくらいには詰んでいた。

 だって先が見えないどころか今日生きて行けるかどうか怪しいのだから。

 この時期に制服と羽織っているジャケットくらいじゃあこの寒さを切り抜けることなんて到底できない。

 このまま凍死するかもしれない。


「それもいいのかもな。このまま生きててもどうしようもない。高校には行きたいけど行ってもどうせ虐められるのがおちだ。家にも帰れない。逆に今ここで死ぬことができれば案外楽なのかもしれない」


 街中を歩いて行きついた公園のベンチで座り込みながらそうこぼす。

 誰の返答も帰ってくるなんて思ってないのに口に出してしまうあたり俺って人間は相当に救えない人間らしい。


「死ぬことが楽ってそんなわけないじゃない」


「え?」


 ベンチに座りながら俯いていたらいきなり声をかけられた。

 一体誰から?


「あんた、死にたいの?」


 俺の目の前にいたのは学校で名前と顔を知らない人がいないくらいには有名な女生徒だった。

 名前は天音あまね 永遠とわ

 俺と同じ高校二年生。

 クラスは違うけど俺でも名前と顔は知っていた。

 白色の長く美しい髪と澄んだ空みたいに綺麗な青い瞳。

 噂によればハーフで両親は会社の社長なのだとか。

 はっきり言って勝ち組。

 そして今の俺とは全くの対極に位置する人間だった。

 全てをもって生まれた彼女とすべてを失った俺。

 面白いくらいに類似点が無い。

 あるとするなら同じ地球に住んでいる人間というくらいだろうか。


「なんで無視するかなぁ? あんた死にたいのって聞いてるんだけど?」


 俺が反応を示さなかったのが気に食わなかったのか機嫌が悪そうにもう一度問いを投げかけてきた。


「どうなんですかね。俺もはっきりとはわかってないっすね。ただ、何もしなくてもこのままいけば俺は死んじゃいそうですけどね」


「へぇ~何もしなくても死ぬかもってどういう事? 病気とか?」


 あまり興味がなさそうだけど、なんで質問してくるんだろう?

 まあ、悪意とかを向けられない分楽ではあるんだけどさ。


「いや、別に俺は健康体ですよ。ただ、家に帰れなくなって手持ちのお金もなくてこのまま野宿したら死んじゃいそうだな~ってだけですよ」


「なにそれ。家に帰れないってなんで? 鍵忘れたとか?」


「それなら普通に帰れるんですけどね。追い出されたんですよ。母親から」


 つい数時間前の出来事を思い出して泣きそうになる。

 全く自分が情けなくて仕方がない。


「あんた、そんなに悪いことしたの? そんなに悪いことをしてそうな人間には見えないんだけど? そういえば、あんた私と同じ学校通ってるよね? 名前教えて」


「柳です。柳空」


「柳って噂になってたあの柳?」


 天音さんは目を見張る。

 でも、それ以上のことは何もせず俺から距離を置こうとしたり罵倒してくるようなことは無かった。

 それがなんだかとてもうれしくなった。


「やっぱり天音さんも知ってるんだね」


「まあね。でも、別にそれであんたに何かしようとは思わないから安心して。私は噂を鵜呑みにして他人を攻撃するような終わってる人間じゃないからさ」


「ははっ。少しありがたいかな。今日はずっと悪意を向けられてきたから天音さんみたいに噂を知ってなおそういう感情を向けてこない人っていなかったからさ」


 親にすら信用してもらえなかったのに天音さんは信用というまでではなくても噂を鵜呑みにしないでくれる存在がいると思うと本当に少しだけ救われたような気分になる。


「もしかして、家を追い出されたってそういう理由?」


「……お察しの通りです」


「そっか~それは辛かったねって簡単に言えないね。きっとあんたは私が想像できないくらいに辛い思いをしてるんだろうしね」


 天音さんは気を使ってくれているのか明るい声音で同情をしてくれる。


「あはは、なんか気を使わせたみたいでごめんなさい。天音さんはどうしてこんな時間に公園に? もう暗いですし女性が一人で出歩く時間ではないと思うんですけど」


 時間はもう9時を過ぎているし今は真冬だから日は完全に落ちきっているから真っ暗だ。

 街灯はあるとはいえこの公園付近は人通りが少ないからやはり危険だ。


「ちょっと散歩かな~まあ、確かに少し遅い時間になりすぎちゃったね。せっかくだから送ってってよ。あんた今暇でしょ?」


「別にいいですけど、不安に思わないんですか?もし、俺が噂通りの人間だったらって」


 普通幼馴染に無理やり迫ったという噂が流れてる男に家に送ってと頼む人間なんているだろうか?

 いや、いない。

 いるとするなら頭のおかしい人間か天然か痴女かの三択になってしまう。


「ならないね。今会話をしてみてあなたがそんなことをしない人間であることくらいはわかるし。あんまり私を見くびらないでよね」


 ふんっと顔を背けながらそういう。

 学校では全く見ない仕草だったし喋り方も学校にいる時と違う。

 こっちが素なんだろうか?


「そっか、悪いことを聞いた。そういう事なら家まで送らせていただきますよ。お嬢様」


 膝まづきながらきざなセリフを言ってみる。


「やめてよねそう言うの。まあ、エスコートよろしくね? ナイト様?」


 天音さんは少し嗜虐的な笑みを浮かべながらそういった。

 学校にいるときとキャラが違い過ぎないか?

 学校では清楚で上品なお嬢様キャラだったはずなんだけどな~

 そう考えながら俺は彼女についていくのだった。




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