19話
天空にはまだ丸い月が輝いていて、公園の草、木を照らしていた。そして僕はポケットにある錠剤を呑みこんだ。
「話って何?」
「そ、そうね……」静香の挙動がおかしい。
「今日の月はきれいだね」
「ええ、私は太陽より月の方が好きだわ。だって――月は完全にはなれないでしょ?」
僕は静香の言いたい事を理解できなかった。
「人間だって同じ。この世に生を授かって死んでもそれは変わらないと思うの」
「違う。人間、いや霊体はこの世に生を授かって修行をすることで完全体になろうとしてる」
「どちらにしても同じじゃない。"不完全"は"完全"にはなれないわ」
静香はどこかの組織に入ってるのか、という疑問が僕の頭を駆け巡る。
「だから勉強して完全になろうとしてるんじゃない?」
「確かにそうかもしれないわ。でも勉強という労力を使うのならば完全に近づいたモノを吸収すればいいんじゃないかしら?」
「――だからね亜耶。私に"吸収"させてくれないかしら?」
文献でしか見たことがなかったが、まさか実際に存在するとは思ってもいなかった。
「いくら"静香"だろうが僕は誰にも吸収はされないね」
「そう、楽に吸収しようと思ったけれど残念だわ」
その瞬間、静香から感じられる気配が冷酷に変わる。
「吸血鬼……」
「ええ、そうよ」
「自分の意思でやってるの?」
静香は一瞬怯んで見せたがすぐにそれを戻した。
「自分の意思でやってるの!」
静香が目の前から消えた――後ろだ!
「遅いわ!」避けるのが一歩遅かったようだ。左腕を引っ掻けられた。
少し遅れて熱く焼かれたような痛みが左腕を襲った。
「くっう……」わずかな魔力を使って僕は痛覚を遮断させた後に残った魔力を両手両足に纏わせる。
チャンスは一度しかない……!
地面を跳んで静香の目の前に行って右手を思いっきり鳩尾に振りかざした。
「うっ……」苦しそうに喘ぐ静香を見て僕は顔を逸らした。
その瞬間に背中に激痛が走った。
「はっ……っ!」声にならないよう悲鳴をあげる僕は誰にやられたのかを確認するために痛みをこらえて周囲を見る。
「亜耶、大丈夫!?」
驚異的な回復能力で回復した静香が僕に走り寄る。
「凄い血が出てるわよっ!」
思考に靄がかかったように鈍くなっていく。
「大、丈夫……だから」この言葉をちゃんと言えたかどうか分からないまま意識を失った。