表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

高度資本主義社会の放埒(ほうらつ)

作者: 時田 全

『高度資本主義社会さん、あなたちょっとばかし調子に乗り過ぎていやしませんか?』

 高度資本主義社会は葉巻を咥え、本革の大きなソファに脚を組んで優雅に腰掛けていた。

 『いえいえ、そんな滅相もない。僕はただ皆の要求に応えているだけですよ。』

 高度資本主義社会の前には顔も名前もない人がいた。顔も名前もない人は簡易的なパイプ椅子に腰掛けていた。タバコも飲み物も持っていなかった。

 高度資本主義社会は店員を呼んで一本30万するワインを注文した。

 『顔も名前も無いあなた。あなたも何か飲みませんか?』

 『私はこんな高い店で飲めるものなどありません。贅沢することに美徳をかんじませんから。』

 そう言うと顔も名前も無い人は一度鼻を鳴らした。

フン!

 『所で、最近あなたの良くない噂を聞きましたよ。』と顔も名前も無い人が言った。高度資本主義社会は特にその言葉に動じる事も無く、顔も名前も無い人が次に何を言うのか、葉巻をふかして待っていた。

 『あなたは常に新しい物を生み出さなければ生きていくことができない。そうですね?』葉巻から出る白い煙が薄暗い空間に揺蕩う。

 『えぇ。そうです。それが何か?』

 『あなたにとってその重要とも言える新商品の開発がどうやら手詰まりを起こしているそうです。特に東の国の工場長がもうこれ以上アイデアが無い。と嘆いていました。』顔も名前も無い人はニヤリと大胆不敵な笑みを浮かべた。その言葉を聞くなり高度資本主義社会の顔色が少し悪くなった。

 『けれど、まだ西の国や南の国や北の国が残っています。私は特に心配はしておりません。』と高度資本主義社会が言った。その時ウェイターがワインとワイングラスを持ってやってきた。

 『この人にも同じものを。』と高度資本主義社会が言うとウェイターはかしこまりました。と言って下がっていった。

 『高度資本主義社会さん私は入りませんよ。ワインなど飲めないし、ましてやこんな高価なもの。とんでもない。』ウェイターがワイングラスを片手に戻ってくると、2人分のワインを注いで下がった。

 『さぁ、乾杯しましょう!』高度資本主義社会はワイングラスを持ち上げた。

 『あなたは一体何に乾杯するというのです。これから消えてしまうかもしれないあなたはこんな所でこんな事をしていて良いのですか?』顔も名前も無い人は静かにゆっくり、説得する様なテンポで言った。

 『僕は消えたりしない。僕はもうずっと昔から人気者なんだ。だから消えたりしない。』高度資本主義社会は少しばかりイラついた様子で語気を強めた。

 『おやおや、あなたらしくも無い。けれどあなたはもう少しで消えることになるのですよ。私があなたの次の存在なのですから。』

 高度資本主義社会は相手がどういう存在かを理解すると、狼狽して革張りの高級なソファから転げ落ちた。

 『ゆ、ゆ、許してくれ!決してそういうつもりじゃなかったんだ。』

 『許すも何もあなたは用済みって事なんです。時代は次の大いなる手を求めているのです。それに気がつくのが少しばかり遅かったですね。』

 顔も名前も無い人はそれだけ言うと立ち上がり、高度資本主義社会を哀れな目で一瞥し、その場から去っていこうとした。

 『待ってくれ!何が欲しい?金か?金ならいくらでもある!だから許してくれ。』

 『いいえ。金など必要ありません。あなたも必要ありません。あなたには消えていただかなければなりません。かつてあなたの友人の共産主義さんが消えていったのと同様に。』高度資本主義社会はその場で泣き崩れ話も出来なくなってしまった。顔も名前も無い人は入り口に向かって歩き出した。それは社会という名前が付いた入り口だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ