第8話 銀髪弓使いは命中から
セリニは見下ろす事で見つかる。一部が微かに輝く小さな岩の前に立っていた。
「岩は初めて」
淡々とした声を出しながらに微かに輝く岩に触れたセリニ。すると岩の一部分が消滅してパネルが目の前に出現する。
「銅鉱石……他と同じで素材用のアイテム」
手に入れたアイテムの使用用途を確認を終えてパネルを閉じると同時にセリニは前を見る。
周囲は木々と長い草で覆われている。
「いるかな」
その光景を背にしながらセリニは警戒しながら視線を泳がせる。
「いる……よね」
淡々とした声を出すと同時に視線は固定される、いるのは手に木の棍棒を持つ全身に毛が無い小柄で暗い緑の体色のモンスターであり、その姿に覚えがあったセリニは呟いた。
「何度見ても……ゴブリンだよね?」
モンスターの名前を口にしながらセリニは周囲に目を向ける。
「周りにモンスターはいない」
口にした言葉は正しくセリニを除いて動くものはない。
「距離も……いいところにいる」
その様な事を確信を込めた声色で言い放つセリニであるがゴブリンがいる場所は遥か遠くであり、その容姿をギリギリ視認できる距離――具体的に言うなら遠くから見た信号機のランプの色合いをギリギリ確認できる程度の大きさに見えていた。
「当てる」
自身に命じる様に声を出した刹那に左手に粒子が現出、それは瞬く間に広がりある形に成形されると粒子は霧散――入れ替わる様に手元に残るのは一張の弓、その長さはセリニの身長の半分程であった。
「次こそ」
決心した言葉の流れに続くように右手に矢が現れるとセリニは手早い動きで矢を番える。
「慎重に……慎重……」
緊張感を滲ませて深い息を何度も吐き出しながら標的に狙いを定める。
――そして。
「……!」
弓に留められていた矢が空気を鳴らす音と共に放たれる。宙を駆ける矢であったが途中で失速した後にゴブリンの近くにばたりと落ちる。
「また……駄目だった」
成り行きを見たセリニであったが既に慣れた様子であった。
「もう一回!」
故に矢が外れた事に気後れを見せないで手元に第二の矢を出現させるが――同時に遠くにいるゴブリンが動きを見せる。
「!」
微かな動きであったが既に幾度も見た動きの前兆である事を察した。
――今度は一回!
内心では驚きを隠せなかったが身体は既に動いている――その動きはこの場から逃げる事であり、ゴブリンが矢が放たれた方向に動き出した時には既にセリニはそこにいなかった。
「逃げ切れたよね?」
その出来事から数秒後。
息を乱す事なくセリニは周りを見る。
立ち止まった場所は自身の身長の二倍ほどの大きさの岩が置いてある平地、その周囲は長い草で包まれた場所であり、周りに動く生き物はいない。
「良かった」
一息つくセリニは今も持ち続けている弓に目を向ける。
「また当てられなかった……初心に戻したのに……」
先に見た光景を思い返した呟きが口に出る。しかしその光景は既に何度も見ていたセリニはそれよりも気になった事が声として溢れる。
「最初に気づくなんて」
モンスターは矢が外れると同時に自身に接近とする動きを見せていた。セリニはその動向が気になっている。
「最初の頃は……五回撃てたのに」
そう口にしたセリニは岩に背を向けながら弓矢を初めて出現させた頃の事を思い返した。
※ ※ ※ ※
川岸から森林に入ったセリニはちょっとした事を目撃した後に早速弓を出現させる。RPGで定番の武器を実際に使える事に歓喜を感じる最中にモンスターを遠くに動く影を見つけて確認するとプレイヤーではなくモンスターであった。遠距離に立っていた為に弓矢の練習にちょうどいいと思い、矢を出現させて放つ。しかしそれは命中する事なく外れる。
全ての矢を必中させようと思ってなかったセリニは矢は無消費で使える為にさして気にする事なく、矢を続けて放った。
その後に撃った四発全て外れてしまうが、続けて撃つ為に新たな矢を出現させる――だがモンスターも沈黙を破り動きを見せる。それは自身がいる場所に向けていた。
狙う対象との距離が縮まれば矢は格段に当てやすくなる為に単にモンスターを倒すだけであるなら、その場で待機して近づいた時に矢を撃つだけでいい事に気づけた。
だが今のセリニはある理由からモンスターとは遠距離で対峙しないと駄目だと強く心に秘めている。
更に遠距離にいるモンスターに矢を当てる事に執着している状態であった為にその発想が浮かんだ刹那にその場から離れてモンスターを撒くと、離れた位置にいるモンスターを見つけては弓矢で狙う。
その動きをひたすら繰り返していた。
※ ※ ※ ※
「一度も命中していないんだよね」
岩を中心点としてその周囲を円の形で歩きながら森に入った後の事を脳裏に浮かべ終えたセリニはパネルを出現させて常に表示されている現実の時間に目を向けると溜息を出した。
「一時間経過してる……」
攻撃を当てる事が出来ない時間がそこまで経過していると思っていなかったセリニは唖然とする。
――弓矢は遠距離から狙い撃つものな……筈なのに……。
――当てられないわたしが悪いのかな?
――それとも……始めたばかりだから……。
――もしかして……撃ち方が悪い?
色々な憶測が脳裏に巡り廻り、セリニは歩を止めて混乱していた。
しかし彼女は気づけない。当てられない最大の原因は携える武器が『弓』であるという事に。
そもそも『弓』は『長弓』と比べると矢が届く最大射程が短い。
その為に最初に狙うべきは中距離であった。
とはいえ放たれた矢が徐々に勢いがなくなる事を考慮した偏差撃ちであれば長距離の目標に当てる事は不可能ではない。だがセリニは長距離の敵を狙うゲームをプレイする機会がなく、接近して戦うゲームをプレイしていた為にその事に気づかない。
しかし距離が空いた敵に何度も攻撃を当てる事が習得条件の一つである一時的に視力を強化可能なスキル【遠見の眼】を使い、矢の軌道の変化を把握する事が出来たかもしれないが、その様なスキルがある事や習得可能条件を明確に知るチャンスの一つであるゲームをプレイ開始する寸前に行われるチュートリアルをスキップしている為にそのチャンスが知る術がないセリニが当たらない理由を考えた結果――思考は見当違いに進んだ。
――そういえば……普通じゃない矢の撃ち方をしていた。
何度攻撃しても当たらない事に気づいたセリニはどうすれば当たるのか考えた結果、普通じゃない方法で矢を撃てば当たる。そんな案が浮かぶと即座に実行に移した。
「色々な撃ち方を出来る様になったけど……」
その結果、跳躍した後、落下した後。走りながら等様々な状況で矢を撃つ事が出来る様になったセリニだが――
「一回も……当たってない」
放たれた矢は目標としていたモンスターに当たる事は一度もなかった。そして普通に放った時以上の外し具合であったと思い返すとセリニの口から深い溜息を吐き出すと同時に後ろ向きな事が浮かび始めたが手に携えた弓が目に入ると反転する様に考えが変わる。
「けど……色々できて面白いかな」
少し練習しただけで様々な弓矢の撃ち方が可能になったその事実を思い返すとそれは喜ばしいと思えたセリニは笑みを浮かべる。
「きっと無駄な一時間ではなかった」
自分に言い聞かせる様に呟いたセリニはパネルを出現させるとアイテム欄を表示する。
「これだけの素材が手に入ったんだから」
セリニの目先には『薬草』『煙茸』『毒茸』といった様々なアイテム名が書かれている。
それらは狙撃できるモンスターを探す傍らに採取していたアイテムであった。
「オンラインゲームでも変わらない」
目的地に進む最中に宝箱を探してアイテムを探す事や採取して素材を得るのも好きであったセリニはVRMMOでも同じであった事に安心感を抱いた。
そして手に入れたアイテムは彼女にとって役に立つ物でもあった。
「鏃も作成できる」
弓を武器として選択した為に初期スキルとして【鏃作成Lv1】を習得している。
早期に楔を使う予定が無かった事から作成するのに必要な素材となるアイテムを見ていなかったセリニであったが素材に該当するアイテムを習得すると同時に作成可能な事を知った。
「すぐに作れるけど……」
作成系列のスキルは場所や状況を問わずに使用可能である為にこの場で鏃を作成する事も可能であったが……
「一度も当てた事ないのに」
大半の鏃はモンスターに当てないと効果を発揮しない。そう考えると一度も命中していない自身が作成する意味がない、セリニはそう捉えてしまう。そしてそれ以外にも理由があった。
「町以外で作成したら勿体ない」
スキルを使えば楔を作成可能であるがフィールドで作成した楔は町に戻ると同時に自動で消滅してしまう。
――昔……ひどい目にあったんだよね。
アイテムを無意味なタイミングで使いすぎて敗北した経験があった為に考えなくアイテムを消費する事は避けたいと思ったセリニだが……
「鏃……使いたい」
好奇心から効率等関係なしに矢に鏃を装着したくなり、どうするべきか悩み始めた――その瞬間。
「!」
微かに揺らめく音が届いた。その音に異物さを感じたセリニは周囲を見渡す。
――いるね。
草を掻き分けながら進むモンスターを確認できたセリニはパネルを消すと同時に岩の後ろに隠れた。
――ミスした……かな?
しかし自身の動きに対してセリニは後悔の気持ちが現れる。
――ここから離れた方がよかった。
隠れる選択を選んだがそれはモンスターの近くで足を止めるも同然であった、モンスターと接近する事を望んでいない為に動く事を考え始めるセリニだが……
――今離れたら気づかれるよね。
耳を通じて足音がいまだに聴こえている。モンスターがこの場から離れていない証拠であり把握しているセリニはどうするか考える。
――当てられたらきっと一撃で……。
攻撃を受けた結果を想像した瞬間に倒される予想をする。
防御力のステータスにポイントを割り当てしていない。それを自覚している事が理由であった。
そしてステータス以外にも明確な根拠がセリニの中に存在する。
――知らない誰かかも……。
森林に入ったセリニはその直後にモンスターと戦闘の最中のプレイヤーの姿を見つけている。人がいないと考えた最中に見かけて驚いたがそれ以上に驚いたのは戦闘の結末であった。
――すぐにやられてた。
装備として鎧を着ている見かけからしてセリニよりも防御力が高い容姿のプレイヤーであったがモンスターの攻撃を二発受けただけで倒されてしまう。
――攻撃を受けたら……わたしもきっと……
その光景を目撃したセリニは自身が同じ目にあったらHPが一瞬で空っぽになる。そんな光景が脳裏を過ぎた為に攻撃に当たらない立ち回りが必要だと判断しており、それが遠距離から攻撃を続けているもう一つの理由であった。
――足音……。
考え事している最中にもモンスターは動き続けている事を音を通じて気づいたセリニは何をするべきか思考を巡らす。
――ダメージは避けないと……駄目。
あらためて状況を考えるが結果は既に終着していた――逃亡する事を考えていないセリニの選択は一つしかなかった。
――先手……必勝……。
自身がダメージを受ける前に相手に倒しきるだけである。
幸い先制できる有利な状況であった。
「大丈夫……やれる」
セリニの口から漏れる心配の色に染まる自分自身を気遣う声――その声とは裏腹に無駄な動きはなく矢を弓に番えていた。
――仕方ないよね。
同時に遠距離から矢を当てる。それを中断する事を対しての感情が心の中に現れる。
――だけど……中途半端になるけど……。
――これが終わったら……続けよう。
何とか心の中で区切りを打ち込んだセリニは息を軽くと同時に岩陰から飛び出しながら弓矢を構えてそのまま放とうとする。
「!」
だが状況に気づいたセリニは矢を放つ動作を中断する。
「誰も……いない」
目の前に広がるのは森林だけでモンスターは何処にもいない。正面から対峙するつもりであったセリニは虚を突かれる。その一方で他のモンスターがいるかもしれないと思い周囲に弓矢を向ける。
「やっぱりいない」
森林が目の前に広がる――停滞したかの光景であり、セリニの危惧は外れる。
「いないね」
緊張の糸が解れたセリニは胸に手を置きながら息を吐いた。
「良かった」
だが一安心したのも束の間――今自身のした行動を客観的に考えた結果。
「――――!」
セリニは一人絶句する。
――わたし……怪しすぎる!
周囲にモンスターがいたのであれば警戒していたと解釈される行動だった。しかしモンスターが既に離れている状況であった為に傍から見ると一人で弓矢をあちらこちらに向ける変な動きをしているプレイヤーに見られる。
学校では日頃から周囲の視線を気にしながら過ごしてきた故にそんな発想が浮かび上がったセリニは頬を熱くしながら慌てた様子で周囲を見る。
「い……いないよね」
変わる事なく静止した景色が少女の周囲を覆う。確認を終えたセリニは深い息を吐き出しながら隣に置いてある岩に背中を預けた。
それから五秒後――
「うん……矢を当てるのを頑張ろう」
落ち着きを取り戻したセリニは先に中断した事の続きを開始しようとしたその瞬間――目の前にパネルが出現する。
「?」
唐突にパネルが出現する事に慣れてきたセリニは感情を表に出さずに疑問を浮かべながらパネルに目を向ける。
「スキル」
パネルに表示されているのは新たに習得したスキルをセリニは確認した。
「【探知軽減Lv1】……見つかり難くなるスキル?」
スキル名からの推測を口にしながらセリニは効果と習得条件を見る。
「モンスター探知範囲で動いても気づかれる確率を下げる。鎧を装備している時は効果半減……今したい事にぴったり……鎧は……装備していないわたしには関係なさそう」
今やりたい事や自身の装備との相性を口にしながらセリニはどんな条件でスキルを習得したのか目に通した。
「警戒状態のモンスターが近くにいる時に発見条件を満たす動きを……して未発見状態を維持する」
目を通すと同時にセリニは冷や汗と寒気を同時に感じ取る。
「つまり……モンスターが近くにいるって事……」
【探知軽減Lv1】を習得した条件から推測できたセリニだが慌てた様子は見せない。
――周りにはいない……いないよね。
既に周囲の確認は重ねて終えている。それが自信となっていた。
「警戒……しながら」
しかし本格的に移動を開始したらどうなるか解らない為に用心しながら進もうと決めながら岩から離れたが……
「!」
少量の何かが崩れ落ちる音が背後から聞こえる。驚いたセリニは挙動不審な姿で振り返る。
「砕けてる?」
セリニの視線の先では岩の一部に罅割れが発生していた。
「これって……書かれてた」
それを見たセリニは電子説明書を見た時に覚えておこうと思った情報と一致している事を察する。
「短剣で……」
罅割れに対して武器が必要だとセリニは【始まりの短剣】を出現させようとするが……
――せっかく出したのに弓矢を戻すのは。
――本来の使い方で……ないと思うけど……。
手元に既に武器があった故にセリニは「弓でいいよね」と淡々と口にしながら短剣を手元に出す事なく――罅割れに向けて無造作に弓を振る。
すると岩の一部分が森林を賑わす破裂音を伴いながら砕け散る。しかしセリニの身体にはそれ以上に気になる感覚が刻まれていた。
――弓で直接攻撃するのも……面白いかもしれない。
――NEW WORLD2に最初からあったゲームで振った剣と……そこまで変わらないみたい。
矢を一度も当てていないがそれでも矢が放った時の感覚や放たれた矢が勢いよく飛んでいく様子を見る事を楽しんでいた。
そして今回ツインファンタジーワールドで初めて武器を振ったセリニであったがその感覚は別のゲームで剣を振った感覚に近くとても満足している。
――問題なく……使える。
弓を遠距離武器ではなく、剣や斧の様に近距離武器として使う事に抵抗感があったセリニであったが、心の中で撤回する。それ程に使い勝手の良さを感じた。
――でも攻撃力は半減。
弓本体での直接攻撃は矢による射撃の半分の数値。その事を事前に確認していたセリニは気にする。
――あのメリットはどれくらい……。
だが弓による直接攻撃には矢による攻撃よりも優れている点が存在する。
「モンスター相手じゃないと意味ないね……」
しかしそれはオブジェクトが相手では関係ない要素の為に落ち着きを取り戻す最中――セリニは視界の先に変化が起きていた事に気づいた。
「壊れてる……」
「罅割れが起きている大きなオブジェクトは……破壊できる」
周囲に生える現実でも見かける様な大きさの木のオブジェクトであればプレイヤーやモンスターの攻撃を受けると折れて倒木となる。
だがセリニの目の前にある岩の様な巨大なオブジェクトは基本的に破壊する事は不可能である。
しかし一部分が破損している個所がある場合はそこを攻撃する事で目に見える変化が発生する。
それは説明書に書かれており、岩の罅割れを見て思い返して実行したセリニは目の前の状況に満足するが同時に――
「あの大きな樹にも……確か……」
町からフィールドに出た後に立ち寄った大樹の根元の一部が損壊している部分があった。そんな少し前の記憶が呼び起こされた。
「あの時……思い出してれば」
その部分が破壊された為に大樹が倒れた。今更ながらも倒れた原因に気づけたセリニは少しばかり後悔を感じる。
「別にいいけど」
しかし少し吹けば消える程度の感情であり、すぐに立ち直る。
――ここまで来たお陰で……スキルを三つ手に入った。
普通に進んでレベルを上げていたら、泳ぐ事もなく、モンスターから隠れながら動く事もなかった。そう推測したセリニに今の状況を楽しむ気持ちとなっていた。
「あれ」
岩の破損は一部で健在であった。そして新たな岩肌が現れる。それを見たセリニは岩に変化が起きている事に気づいた。
「もしかして素材」
その一部分は光っている。セリニは見た瞬間にそれはアイテムが採取できる目印であると気づいて触れた。
「鉄鉱石……新しいアイテム」
手に入れたアイテムの名前を口にしたセリニは流れから想像できた事を続ける。
「破壊した先にはアイテムを拾える場所が……ある?」
破壊できる部分があるオブジェクトを破壊したのが初めてである為に確定ではないがセリニはそう見解する。
「また見つけたら……」
再び破壊可能部分があるオブジェクトを発見する事を考え始めた耳に草が揺れる音が届いたが同時に……
「!」
セリニの目の前にパネルが出現、意識が書かれた内容に向いた。
「【隠密採取Lv1】……新しいスキル……それも採取の!」
アイテム採取が好きなプレイヤーにとって僥倖と言える文字列の並びであり、セリニは貪る様にスキルの内容を確認する。
「モンスターと戦闘にならない状態を維持すると採取可能回数が増加……」
スキル内容の確認を終えたセリニは複雑な感情が浮かび上がる。
――素材が増えるのは……嬉しい。
採取の回数は無限ではない。有限であり、一定の回数採取すると暫くの間採取する事が不可能になる。
そのゲームの仕様を知っていたセリニは素材を探す事が好きである為に採取できる回数が増加するスキルは本来なら嬉しいものであった。
――けど……戦えないのは。
しかし戦闘も好きである為に得られたスキルを活用すると戦闘を避けないといけない。
そう考えてしまった為にどうするべきかと迷いが生じる。
「……………………」
「どんな条件で」
幾ら考えても心が決まらない為に気を紛らそうと自身がどの様にスキルを習得したのか確認する事にした。
そんなセリニの狭間を這うが如く――背後に忍び寄るのは小さな黒き影。
「技巧力が10以上……もしくは作成スキルを習得……」
無表情な声風で独り呟くセリニに忍び寄る黒き影は徐々に距離を縮める――歩むに音は付加されない。
「そしてモンスターに見つかってない状態で採取を続ける……行動によってスキルを習得できる……思ったとうりだね」
納得しているセリニの背後に立つ黒き影の手元には銀色の短剣。切っ先を向けると風を裂く音を鳴らすが――音は衝突音に塗り替えられる。
「!」
音源は短剣と弓が衝突によって発生したものであった。
――な……なに……。
弓の持ち主であるセリニは目の前の事態に驚愕している。
微かに音が聴こえて背後に振り返ると刃が迫っていた――その事に気づくと同時に脊髄反射の様に身体が動いて迫り来る刃を弓で防いだ。
それが今の状態であり思考が一切追いついていなかった。
――相手は。
だが泣き言を言える状況でない事を把握出来ていたセリニは刃の持ち主に目を向ける。
――ゴブリン。
視界に入るのは想像どうりの敵であった。
――けど……初めて見る。
そのゴブリンの全身は銀色の装飾品が施された黒いローブで覆われている。右手には短剣が握られている。
ローブを身に纏うゴブリンを既に何度か見ている。だが色は紫でその手には杖を持っている魔法使いを彷彿とさせる姿であった。
しかし目の前のゴブリンのローブは色が異なり、その造形も動きやすそうなものである。セリニはその様な所感を抱いた。
――背後からの不意打ち。
そして相手の攻撃手段を加える事でセリニはその正体の予想が出来た。
――暗殺者の……。
そんなタイプのゴブリンがいる事に驚いたセリニだがその感情は心の中にしまい込んだ。敵の刃が自身に向かっている――それの対処が優先である。
――あれ?
――いつまで……。
刃が目前まで迫っている。それに目を向けるセリニだが心には余裕があった。
――武器と武器が……衝突した時。
――持ち主にダメージは発生しない。
電子説明書に書かれていた戦闘関連を鮮明に覚えているセリニは現状況に関わる事を脳裏に浮かべる。
――武器が鍔迫り合いになった時は……。
弾かれる――吹き飛ばされる――そして鍔迫り合い。
二つの武器が衝突した時。その時の状況、武器の種類、持ち主の動きやステータス、スキルによってアクションに変化が起きる。
そして今回は鍔迫り合いとなった事を感覚から把握すると同時にセリニは別の感覚も身体に流れ込んでいる事に気づいた。
「何……これ」
見えない流れに飲み込まれる。唐突にその様に感じて気味が悪いと抱いたセリニだが――
――ゲージがこっちに来ている?
少し経つと慣れた事によりゲーム的な表現で例える事が出来る程度の余裕が現れる。
――つまり……弓で押し返せばいい!
鍔迫り合いが起きた後に感じた感覚である為に武器を動かせば何とかなる――発生した流れを読み取ったセリニは行動を起こす。
その行動に間違いはない、彼女が感じた流れは鍔迫り合いの際に起きる押し合いであり、放置していた場合、弓を弾かれて大きな隙を晒していた。
だが行動を起こした事で流れは変わる。
――短剣は受けてもよさそう。
鍔迫り合いとなった後の押し合いにも有利な状況と不利な状況がある。
セリニの得物である弓の本懐は矢を放つ事で振る武器ではない。本来なら鍔迫り合いに不利な武器である。しかしそれ以上にゴブリンの得物である一本の短剣は不利な武器であった――故に結果は即座に表れた。
「!」
鍔迫り合いが起きてから動いていなかった為に短剣に僅かに押されていた弓、されども武器の主が動きは始めた事で形勢は反転――短剣は主諸共に弾かれる。
「今」
大きく仰け反るゴブリンを見逃す道理がないと即座に動いた。
ゴブリンは一歩踏み出せば弓本体での攻撃を当てられる範囲にいると気づいたセリニは――
――初めての与えるダメージ……矢でない。
内心で思うところを感じながら接近すると弓を振るい、打撃音を伴いながらゴブリンは仰け反る。
――一撃では無理だよね。
自身がレベル1である為に倒せないのは当然の結果と受け入れていたセリニは次にどうするか考え始める傍ら――ゴブリンは後方に跳躍を開始する。
「!」
気づいた時には既にゴブリンは離れて宙の中。弓による直接攻撃は当たらない――ならばセリニの選択は一つだけであった。
「――!」
右手には最初から矢を握る――反射的に素早く矢を番える。
相手は未だに近距離、よって矢の照準を合わせるのは瞬く間に済み――セリニは矢を放つ。
「――あ」
行動を済ませた刹那にセリニは呆然とした声を出す――その間に矢はゴブリンに命中した。




