第75話 銀髪弓使いは初めてのパーティーから
「なら……その……ギガントスライム・アペイロンは……どうなのですか」
セリニが口にしたモンスターは元々討伐する予定であったギガントスライムが強化されたボスモンスターの名。
そしてそれを一緒に倒そうと誘ってきたのが――目の前で座っているリーザロッテであった。
「一人で挑んで、負けたの」
「そうですか……」
リーザロッテが敗北したことは初めて聞いたが予想していた内容であった。
何故なら既に倒していたのならば自身とパーティーを組まずに別のことに取りかかる。
そう想像できていた――しかしそれを表に出すのは相手に失礼だとして心の内に留めたセリニは敗因を聞いた。
「あの……どう倒されたのですか?」
「ギガントスライムの攻撃を防いだ隙を突かれてお供にやられた」
「お供?」
ボスモンスターに直接倒されたわけでないと言ったリーザロッテはその詳細を話した。
「ギガントスライムもそうだけど、同時に普通のスライムとも戦う」
リーザロッテが話したことは自身が遊んだゲームでも時折見るパターンであり、セリニは瞬時に理解できた。
「その……もしかしてギガントスライム・アペイロンのお供は……強化されているんですか?」
ボスモンスターと同様に強くなっていてそれによって倒された。安易な想像を口にしたセリニ。
「強化……されていると言えばされている」
お茶を濁す言い方であり、聞いた直後にセリニは疑問が噴出する。
「その……一際変わった仕様なのですか」
セリニの言が届いた直後にリーザロッテは詳しく話し始めた。
「お供の数は変わらないんだけど、尽きないの」
「尽きない?」
「普通のギガントスライムの時のお供は一度倒せばその間にギガントスライムと一対一で戦えるんだけど、アペイロンの時はそれがなかったから為す術なく倒された。ボス本体に一撃も与えられずにね」
「無制限に……現れ続けるんですか?」
今までの会話からそんな予想をしたセリニだがリーザロッテは頭を横に振る。
「数は減っていたからそれはないと思う、とは言っても一分も戦ってないから、情報は殆どないけどね」
そこで言葉を切ったリーザロッテは改めるように正面に座る銀髪の少女に視線を向ける。
それに驚いたセリニに声が届いた。
「それでセリニに共闘を申し込んでるの、そっちにもメリットはあるよ」
「メリット……」
唐突に言われたセリニは一体何なのか考えた。すると自身にとって好ましい状況となっていると気づいた。
「強いモンスターと……戦えることですか?」
リーザロッテが倒そうと提案したモンスターの弱くなったバージョンとさえ戦っていないセリニだがこれまでの会話から強敵なのは間違いないと思え、自身が赴くままな気持ちを言葉とした。
「……」
それを聞いたリーザロッテはきょとんとした顔を見せて沈黙する。
――駄目……でしたか。
その姿を見たセリニは自身の発言がリーザロッテにとって明後日の方向な考えだったのではと脳裏に巡り、後悔の波が全身を包みそうになった。
「言われてみたら……確かにそれもありね」
しかし顎に手を当てて考える仕草を見せながらリーザロッテはセリニの言を肯定的に捉える。
――よかった……よね?
聞いたセリニは安心したが不安感も拭えていない最中にリーザロッテは先に話したメリットに関して具体的なことを話し出した。
「でも目に見えるメリットもあってそれは倒せば確実に一つのイディオス装備が手に入る」
――イディオス……装備?
――イディオススキルは……ステータス欄にあったけど。
そう断言したリーザロッテだが聞き手であるセリニは聞こえた装備アイテムが何なのか知らず、過去のゲーム経験からも具体的な中身を想起できないネーミングであった。
「ごめんなさい……イディオス装備は……どんな装備なのですか」
故に疑問を頭に浮かべたセリニはリーザロッテに尋ねると答えが即座に返ってきた。
「ボスモンスターを倒すことで入手できる特別な装備」
「――なるほど……そのタイプですか」
ボスクラスのモンスターを倒すと普通に進めるだけでは手に入らない特殊な道具や装備が手に入る。それはRPGゲームも遊んできたセリニにとって馴染み深い流れであり、見知ったものを目前に出されたような心境となって瞬く間に理解した。
「ギガントスライム・アペイロンから手に入るのはプレイヤーがその時に装備していた武器よ」
「……確実ですか」
強力な武器の入手はHPが低い自身にとっては必須だと思うセリニはリーザロッテの提案を魅力的に感じる。
しかしそれはそれとしてイディオス装備に関して気になることを尋ねた。
「あの……ボスモンスターによって……手に入る装備の種類は変わるんですか?」
少し前に聞いた言い方からそう推測したセリニの問いにリーザロッテは答えた。
「そうみたい、手に入れたイディオス装備か、イディオスの欠片を入手すればどの部位の装備を手に入れるか把握できる」
そう明かしたリーザロッテ。
――イディオスの欠片?
新たなゲーム用語が現れてそれが何なのかと思った刹那にリーザロッテの声が届いた。
「イディオス装備をドロップするボスモンスターが落とすアイテム、それを集めてもイディオス装備が手に入るわ」
「そういう……ことですか」
あるアイテムを一定数手に入れた後にそれが纏まって一つのアイテムとなる。
そういった要素があるゲームはそれなりに遊んだいた事もあってリーザロッテの説明を聞いたセリニはすんなりと受け入れられた。
――……スキルの欠片も。
自身が既に入手しているアイテムにもリーザロッテがさっきから話している要素が含まれている。
そう考えたセリニであるが相手の声が聞こえた事もあり、そちらに意識を集中した。
「それでなんだけど――セリニはギガントスライム・アペイロンを倒すのを協力してくれる?」
少量の緊張感が含まれた声風で語ったリーザロッテ。
それに対するセリニはその言に応じる答えはとっくに決めていて、それを表面に出した。
「はい……是非とも協力したいです!」
強敵と戦えるだけでなく、強力な武器も手に入れるチャンス――それを逃す選択肢はセリニの内側には存在しなかった。
しかし自分自身に対する膨大な不安感もまた存在する。
――初めて……パーティーを組む……わたしなんかで……大丈夫……なのですか……。
オンラインゲームで他のプレイヤーとパーティーを組んで行動する。それが発生するのは必然だ、
しかし生まれて初めてな経験で――失敗しないか――足手まといにならないか――様々な緊張感が身体に纏わりついたセリニ。
「ですけど……その……わたしは……他の人とパーティーを組……初めてのパーティーなのですが……」
そこまで口にしたが――その先の言葉が思いつかないセリニが声が堰き止めた瞬間に――
「レベルが同じだけじゃなくてそこも同じなんだ」
リーザロッテは驚きながらそう言い――その言葉の意味を察したセリニは予想外であり驚きを露わにする。
「え……そう……なんですか」
「そういうこと、わたしもパーティーを組んで戦うのは今回が初めてだから気にしなくて大丈夫、気軽にやりましょ」
明るい様子で述べたリーザロッテ。それを受けて幾分か緊張感が和らいだセリニは改めて声を出した。
「はい……よろしくお願いします」
その声が途切れるとリーザロッテはこれからの事を話し出した。
「じゃあ先ずはドレインスライムを倒すところからね」
しかしそれは聞いたことがないモンスターが加わった内容であり、セリニは頭の上に疑問符を浮かべながら首を傾げる。
「ドレインスライム……ですか?」
「ギガントスライム・アペイロンと戦う為に倒すべきモンスターね」
聞いたセリニはどうしてそうなるのかと思ったがドレインスライム――その名から想像できる能力から予想した事柄を口にした。
「その……もしかして……ドレインスライムがギガントスライムの力の源を吸ってる……だから倒せばギガントスライム・アペイロンと戦える……そういった展開ですか?」
冷静な色合いで言い切ったセリニにリーザロッテは頷いた後に応じる。
「そういう展開よ、ドレインスライムは分体に力の源である水晶を吸収してる。それを排除すればギガントスライムの力が元に戻ってわたし達と戦える」
そう答えたリーザロッテは続けて言葉を紡いだ。
「だからドレインスライムは中ボスポジションだけど、甘く見ないこと」
注意するように言ったリーザロッテにセリニは「はい」とすぐに反応した。
――中ボスが厄介……それはよくありますよね。
今までのゲームの経験から速やかに理解したセリニにドレインスライムに関わる情報がリーザロッテの言葉を介して流れ続ける。
「わたしの感覚だけど、ギガントスライムと同じくらいの強さだったよ」
「そんなに……ですか」
ダンジョンのボスと同等。
自身の想像以上の強さだと明かされたセリニは驚きを口にする。
「とは言ってもあなたならギガントスライムは楽勝だから、深く考えずに普通に戦えば倒せるよ」
「そうなのですか」
ギガントスライムと対峙したことがない故に半信半疑なセリニは声と顔を浮かべる。
だがその反応は想定していたのかリーザロッテは触れずに言葉を連ねる。
「ドレインスライムをどう倒すかなんだけど……」
パーティーを組むからには戦術を組むのは必然であると理解はできたセリニ。
――作戦……だよね?
――何を……言われるのかな……。
しかし友達である筑波爽陽以外とは一対一でゲームのボスを攻略する作戦を立てた経験が皆無で独特の圧迫を抱く最中にリーザロッテの作戦が伝えられる。
「あなたはドレインスライムを担当、わたしはお供を担当する、後は各々で」
「……え」
あまりにも大雑把な――作戦と思えないセリニであった。
――作戦と……言ってないですよね。
――わたしの……早とちりでした。
しかしリーザロッテは倒す方法と言っただけであり、事細かい説明をするとは一口も言っていないことに気づいたセリニは心の中で反省するとドレインスライムに関して尋ねた。
「ドレインスライムも……お供が出現するのですね」
「ええそうよ、だからギガントスライム・アペイロン戦の練習にもなる。少しだけだけど……多分」
「少しだけ……ですか?」
自信が無い言い回しと声色であり、その点が気になったセリニは詳細を聞いていいのか迷ったが――リーザロッテは自ずと語り始めた
「ギガントスライムの時もそうだったんだけど、わたしの攻撃魔力が高いからなのか――一度ショック状態にした後何もさせず倒したから、HPが減った後に行動が変化するか確認できてないの、今回もそうなりそうだから」
「そうなんですか」
リーザロッテが対峙したモンスターとは一度も戦っていない為に朧気に答えたセリニだがショック状態は大ダメージを与えるチャンスであり、徹底的に攻撃した結果倒してしまい、相手の全容を把握できずに戦闘が終わる。
そんなことが発生してしまうと予想することは難しくなかった。
「本当は二人でお供のスライムを倒した後にドレインスライムに集中攻撃する予定だったけど」
――予定を……変更。
事前に構想していた内容を放棄したことを聞いたセリニはそれはどうしてなのかと思ったがリーザロッテはそのまま言葉を繋いでその理由を明かした。
「わたしが想像していた弓矢の戦い方と違っていたから、やり方を変えることにした」
「え!」
弓矢は遠距離から攻撃する武器であり、自身の扱い方が異端であることは誰かに言われずとも十二分に承知しているセリニは届いた内容が全面的にこちら側に非あると汲み取るのに時間はいらなかった。
「ご……ごめんなさい!」
身体の奥底から寒気の波濤を感じながら慌てると反射的に謝罪をしたセリニだがリーザロッテは感情に波が現れずにそのまま言葉を紡いだ。
「気にしなくていいよ、それに近距離で戦ってもらったほうがわたしも戦いやすい」
「――――え」
――たた……戦いやすい?
予想外な内容の言葉に当惑したセリニ。
――リーザロッテ……さんは……魔法を使う。
これから共闘するプレイヤーの戦闘方法を想像したセリニ。
――だから……ですか。
リーザロッテの言葉の意味に気づいた。
「わ……わたしが前に出れば……被弾を抑えられて攻撃を撃てるから……ですか」
アクション系列のゲームに於ける魔法は威力こそあるが詠唱等を挟む為に隙が多く、それをカバーする為のフォロー必須であり、その一つとして他のキャラが前に出て囮となって引きつける。
自身が弓矢を得物としながらも近距離で戦うプレイヤーだと知ったリーザロッテがその作戦を思いついたとセリニは推測する。
――違ったら。
だが外れる可能性もあり、セリニは自身の言に不安を感じたがリーザロッテは肯定する。
「そうよ、あなたがドレインスライムを戦っている間にわたしがお供のスライム達を一掃してその後ドレインスライムを一緒に倒す。シンプルでしょ?」
「は……はい……とても分かりやすいです」
返答したセリニであったが他に聞くことがあった。
「その……ギガントスライム・アペイロンも同じように……」
ドレインスライムとの戦い方をそのままもう一体のボスに転用するのか? セリニの問いにリーザロッテは「ええ」と返したが言葉を付け足した。
「けど、最初が違う」
「最初?」
懸念となった言を零したセリニ。
「気になるでしょうけど、向かう途中かボスの手前で話すから」
そう言うと同時にリーザロッテは立ち上がる。
それを見たセリニはガイアの安らぎから出るのだろうと察して追従するように立ち上がった。
「ところでその子はあなたのペット?」
リーザロッテの視線は部屋に備わったベッド――ではなくその上で眠っている黒い梟。
「は……はい!」
言われたセリニは慌てて駆け寄る。すると起き上がると羽ばたいて同時に銀髪の少女の肩に乗った。
「え……と……名前はオウルです」
「可愛いね」
言いながら笑みを浮かべるリーザロッテ。
「は……はい……」
それに同意できて頷いたセリニにリーザロッテは質問した。
「どうやって手に入れたの?」
「そ……それは……」
自身にとって初めてのフレンドであるアルーセのスキルで誕生した卵が孵化した。
シンプルに言うならばそれだけであったが、そうなるまでは一言で表せない経緯があった為にセリニはどう説明すればいいのか迷う。
「色々あって……その……」
「まあいいけど」
しかし元から深く言及するつもりが最初からなかったのか視線をオウルから扉に向けたリーザロッテは歩き始めた。
「まずドレインスライムから倒すよ」
モンスターの名を聞くと同時にセリニは心を切り替える。
「――解りました」
ボスモンスターと戦う事となる以上はおどおどしていられない。そう判断したセリニは息を吐き出して心を整えると同時に部屋から消え去っていたリーザロッテの後を追うことにした。




