第71話 銀髪弓使いのダンジョン攻略 その1
目に見える部分全てが岩で覆われた洞窟。
陽光――月光を阻むその場所は本来なら暗闇に包まれるのが正しい状態だ。
だが洞窟を構成する一部の岩から輝きが放たれている。
閃々とした光が常時照射されている。
詰まるところは行動に支障をきたさない程度に洞窟の暗闇は排除されていた――それ故紫の衣装を纏う銀髪の少女とスライムの戦いがはっきりと映される。
「最後かな」
弓矢を構えて放つセリニ。
スキルを交えていない普通の弓と矢であったがどちらも白い輝きで包まれていた。
飛んだ矢の先にいるスライムがそれを受けると貫かれ、粒子となって消滅する。
「終わった」
セリニがそう口にすると同時に弓矢から白い輝きが消失して通常の状態に戻った。
「魔力纏い草のおかげで楽にスライムを倒せた」
自身の弓矢に変化をさせた道具の名を上機嫌な様子で口にしたセリニ――しかし数秒後には真逆な声色となった。
「全部使って……もう無い」
ダンジョンに入る前に手元にあった十個の魔力纏い草を使い切っている事を自覚していた為であった。
――まだ全然進んでないのに。
セリニは後ろに目を向ける。
そこには大きな穴があり、それはフィールドと洞窟を繋ぐ出入り口であった。
「楽しくなったから……つい」
洞窟に入った直後にスライムとの戦いが始まると早々に武器による攻撃が魔法属性になるアイテム魔力纏い草を使用して弓矢を放った。
すると予想通り矢はスライムに通用した事を確認したセリニは底意から楽しい気持ちを抱きそのまま戦いを続行した。
魔力纏い草の効果が切れるとタイミングを見て再び使用する。
そんな事を繰り返していたがその勢いのまま最後の一つを使用――その結果スライムを効率よく倒すのに必要なアイテムが手元から無くなる事態となった。
「もっと……集めてから入ればよかったかな」
洞窟に入ることを最優先にしていたセリニだがスライム対策になるかもしれないと思った時点で魔力纏い草を大量に採取してからダンジョン攻略を開始べきだったと後悔する。
――多分……目的のボスモンスターは……スライムだよね。
洞窟に入ってから戦ったモンスターの大半はスライムに連なるモンスター達な為にセリニはそこから推測した。
しかし前向きになれる事もあった。
――スライムに普通のダメージを与える手段は増えたけど。
セリニは洞窟に入ってから新たな攻撃手段を入手した。
――HPを全部削るのは無理……だよね。
だがそれだけで倒せるほどボスは甘くないと思ったセリニはこれからどうするべきか考えようとした矢先――何かが止まって矢を番える音が耳に届くとその方向に目を向ける。
そこにいたのは茶色のスライムだった。だが頂点の部分からチェスの駒に類似した部位が生えており、それがぎこちない動きで弓矢を構えている。
「……」
よく見る造形のスライムの頭部の上に人形を増設した異形を最初に目にしたときは驚いて声を上げた。
そしてその隙に攻撃されていたセリニだったが戦いを続けて見慣れていた故に思考は冷静であり、周囲を見渡す。
――周りは……気づいていない。
少し離れた場所に別のスライムがいる状況であったが行動範囲はそこまで広くないのか自身に向かって来ない。
それを把握したセリニは即座に弓矢を構えた。
その動作が終わるや否や――スライム側が矢を放つ。
「――」
自身に矢が飛んでくる状況となったがセリニにとって想定内で狙い通りの展開だった。
一歩進めば当たりそうになる距離までスライムの矢が近距離に迫ったその刹那――息を整えた銀髪の少女は矢を放つ。
「成功!」
喜びの声と同時に発生したのはスライムの矢とセリニの矢の衝突であった。
それが起きた結果、双方の矢は同時に消滅した。
――これで……二回目!
自身が放った矢が相手の矢と衝突したらどうなるのか気になっていたセリニはこれまでの戦いで何度も試していた。
しかし殆どが失敗に終わり、初めて成功したのは洞窟の中であり、再び起こせた事に喜びを感じる。
――もう一回……したい。
飛んでる矢に当てる感覚を忘れないために繰り返そうと思ったセリニはスライムが矢を再び番えている隙に接近しようと思ったその最中にある場面を目にした。
――切り離して。
想像通り弓矢の準備をしているスライムであったが身体の一部分が矢の形となってそれを引き抜くと弓に番えた。
想定外の生成方法であった故に驚いたセリニであるが足は止めていない。間近に接近しており、既に弓矢の準備を終えていた――そしてスライムの矢が放たれた途端に洞窟に声が響く。
「【弓術・貫穿】」
スキルの名を伴いながら放たれた矢は一瞬で白き輝きに包まれるとそのまま直進するとそのままスライムが放った矢に衝突する。
「そうなる」
呟きを漏らしたと同時に自身が放ったスキルの力を得た矢は相対する矢を打ち砕く。
普通ではない矢と普通の矢を衝突させたらどうなるか試した結果であり、勢いそのままに後方のスライムを貫いた。
しかし手応えは軽く――一撃では倒れない。
「――」
その結果は予想済みであったセリニは既にスライムに接近――足に仕込んでいる短剣が姿を現すと同時に蹴りの一撃を与える。
しかし二撃でも倒れない――だが銀髪の少女はそれも予想済みの流れ。
――これで。
故に次の行動は仕込み短剣を戻しながら体勢を直すと同時に起こしている。
セリニの手元には手のひらサイズの石が一つ。
それを無造作に投げるとスライムにコツンと当たった途端に石が輝きを放つと爆発――直撃を受けたスライムの身体は四散して消え去った。
「爆裂之石の効果は抜群だね」
このダンジョンに入った後に入手したアイテムの名を楽しそうに呟いた。
爆発属性のアイテムであり、効果は投げて当たると同時に爆発して防御力を無視した貫通ダメージを与える。ダメージの数値はプレイヤーのレベルが上がるとそれに合わせて上昇する。
そんなシンプルな効果であった。
それを気に入ったセリニは早速スライムに対して使用。すると普通の弓矢で攻撃するよりも早く倒せることに気づけた――そこからアイテムのダメージは軽減しないのだろうと推測した。
「けど……後二つ」
しかし確定で入手する手段がなく手元にある数では正直ボスが相手では心許なかった。
「どう……」
準備不足だったと痛感しながらここから先は何をするべきか考え始めたセリニ。
だがその矢先に――
「――お嬢さん、ダンジョン攻略は初めてかい?」
不意打ちで届くのは老人の声――嗄れながらも地の奥底から這い上がってきたと錯覚させる程に低い声色だった。
それを聞いた瞬間に底知れない恐怖を抱いたセリニは驚愕すると同時に大声を上げる。
「はっ――――はい!!」
周囲に他のプレイヤーがいない事を前提として動いていた故の大音量であり、洞窟内に自身の声が響き渡った――その事実に気づいた途端にセリニの心身は凍りついた。
――め……迷惑をした!!
聞いた事がない声であった為に話しかけたものが知らないプレイヤーであることに気づいていたセリニは一瞬でとんでもないことをやらかしたと察した。
「ご……ご……ごめんなさい!!」
声が聞こえた方向に身体を向けながら大慌てで謝罪したセリニ。
しかし勢いそのままに声を出した為にその声も大声であり、更に迷惑をかけたと考え始めたが――相手はセリニの声に反応する様子もなく黙ったままであった。
「?」
それが不思議に思ったセリニの前に立つのは青い杖を携えて身体を黒い布で覆う。長い髭を生やした老人であった。
――初めて見る。
そのような姿のプレイヤーを町の中で見かけなかったセリニは困惑するが老人の頭の上を見た途端に――感じた事に対する答えが現れた。
――NPC。
その老人の頭の上には白いマーカーがあった。それはプレイヤーではない証であると電子説明書を通してセリニは知っていた。
――人……みたい。
開始直後にフィールドに飛び出した事もあってNPCと会話するのは初めてなセリニ。
――き……緊張する。
相手がNPCと頭では分かっているがマーカーを除けばプレイヤーと異なる点を見いだせない故に焦ったセリニは目が泳いだ最中にパネルが現れた。
「選択肢……」
パネルには『はい』と『いいえ』が表示されていた。
――ダンジョン……攻略……言ってたよね?
老人が話していた事を思い返したセリニは『はい』の選択を選んだ。
すると再び口を開いた。
「そうであろう。憑き人の宿命じゃ」
「つ……憑き人?」
いきなり知らない単語を言われて困惑するセリニ。
しかしそうなってしまったのは当然であった。
本来ならツインファンタジーワールドを始めた直後のチュートリアルの中でその単語は現れる。
そしてチュートリアルをしていなくても街にいるNPCと会話をすれば聞く機会はあった。
然れども銀髪の少女はそれらの機会に触れずにここまで来てしまった――それだけであった。
――もしかして……。
だがセリニの困惑は既に収まっている。現実での出来事なら感情の乱れは続いていたがここはゲームの世界であり、そこから自身の立場から推測すると冷静になってある回答が頭に現れた。
――ゲームプレイヤーの事を?
ゲームの主人公が特殊な力を宿していることは珍しくない。指針のゲーム知識を根拠として推測したセリニ。
そしてその答えは正しい。
憑き人はツインファンタジーワールドに於ける際立った戦闘の才を持つ者達の総称であり、プレイヤー全員が憑き人と呼ばれる存在であった。
――きっと……間違ってないよね。
自身の推測のみであったが正解と思ったセリニであるが疑問を感じていた。
――憑き人……何に憑かれて?
そう指摘されたからには自分自身――ツインファンタジーワールドの主人公は特殊な事柄に巻き込まれているとセリニは考えた。
――だけど……今はダンジョンを。
しかし今は洞窟の探索を優先したいセリニは主人公の出自に関する事を遮断すると決めたその傍らに老人の声が耳に届いた。
「だが無理は禁物じゃダンジョンには必ずある『ガイアの安らぎ』で休めるのを知っとくと良いぞ」
――ガイアの……安らぎ?
老人が知らない言葉を言い終えると同時にある方向に指を向ける。
セリニは指の先に目を向けると通路があった。
しかしその先は行き止まりであった。
だが場違いな装飾が施された木製の扉が岩肌に設置されている。
「あれを開ければ」
そう言いながら老人が立っていた方向に目を向けたセリニであったが――そこに誰もいない。
「え」
別の場所に移動したのかと思い周囲を見たセリニだが老人らしき人影は一切ない。
「居なくなった?」
数秒前に出会った人物が忽然と消え去って置いてきぼりにされる。
普通なら恐怖心を抱くかもしれないが――そもそも普通ではないと最初から理解していた故にセリニは淡々と状況に関して呟いた。
「ゲームイベント?」
ツインファンタジーワールドは本日始めたばかりであり、自身が知らない流れが起きても不思議ではない――寧ろ当然であるとセリニは思えた。
故にその思考は消え去った老人が何者なのかに向けられた。
「あの人は……ボスキャラ?」
只者ならぬ雰囲気を感じ取れた事もあって意味深長に出てきたと思い、自身の想像を口にする。
ゲームを攻略することが好きなセリニであったが断片的な情報をヒントとしてゲームの物語を考案することも楽しいと感じていた。
その為に老人の正体が何なのか深掘りしようと思ったが――洞窟を騒がせる足音と殺意の横やりによって中断となる。
――イベントが終わった直後に。
心の内側で声を漏らしたと同時に跳躍したセリニは地面に目を向ける。
そこに居るのは棍棒を振り下ろすゴブリンの姿であった。
「――」
現在攻略しているダンジョンにはスライム以外のモンスターが出現することを既に知っていたセリニは見知った顔で弓矢を構えると落下しながら放つとゴブリンの頭部に直撃する。
――現実なら終わってるよね。
何度目かの光景を見ながらそんな事を考えたセリニだがゲームの世界では関係ない。ゴブリンは仰け反りながらも健在であった――しかし目の前に着地しながら弓矢を構えた銀髪の少女が言い放った言葉の列が止めとなる。
「【弓術・拡射】」
解き放たれた輝く矢は無数に分裂――射貫かれたゴブリンは霧散した。
「とりあえず……」
ゴブリンを倒したセリニは先の老人が口にしていたガイアの安らぎに興味があり、向かおうと考えながら扉に目を向けようとする最中に――それを邪魔する者達を見つける。
「石型の」
セリニの前に現れたのはサッカーボール程度の大きさの岩に短い手足が装着された。そして正面に目と口の形が彫られたモンスターであった。
「二体」
現れた数を口にするセリニ。
既に出会って倒しているモンスターであるために落ち着いていた。
――最初の時は……時間がかかった。
その外見からも想像できるが防御力が高く。初遭遇したときのセリニはその硬さに手間取っていた。
――二回目は……普通に倒せた。
だが次に遭遇した時は魔力纏い草の効果が発揮しているタイミングであり、その時は瞬く間に粉砕した。
その出来事から目の前のモンスターは魔力による攻撃に弱いとセリニは気づいているのだが……。
――今は……魔力纏い草を持っていない。
攻撃を魔力にするアイテムをつい先ほど使い切ってしまった為にその手段は封じられていた。
セリニが色々と考えている間に石型のモンスターは動き始める。
「――あれで」
敵の動きに気づいた途端に思案を中断して戦闘に思考を向けたセリニは防御力が高い敵に有効なスキルの名を冷静な声色で紡いだ。
「【暗影変異・黒之鋭刃】」
セリニの身体から現れた暗き影が集い――集束した箇所は弓であった。
影に染まった弓幹に後付けされるのは黒き鋭利な刃――その形状はまるで両方の柄に刃が取り付けられた剣であった。
銀髪の少女の武器の形が変わると同時に二体の石型のモンスターは跳躍した――
「――」
その瞬間に前に踏み込んでいたセリニは黒き刃が装着された弓を大きく振り抜く。
その軌跡の先にいた二体の石型のモンスターは斬撃音と同時に両断された途端に跡形なく粉砕――それと同時に黒き刃が破裂音を伴いながら霞となって消失する。
「二体同時に倒せた!」
セリニはその結果を喜んだ。
弓に暗影変異・黒之鋭刃を付加するのはこれで四度目であったが複数のモンスターを斬り伏せるのは初めてに出来事だったからだ。
「刃がある武器はいいね」
そんな感想を口にしたセリニだが同時にある感情が湧き上がる。
――武器を剣にすれば……いつも使えたんだよね。
ツインファンタジーワールドは弓矢で戦うとセリニは既に決めていた。
だが――だからといって弓矢以外の武器や戦い方に対する未練が完全に消えたわけではなかった。
――暗影のスキルを使えば……代わりになるよね。
暗影変異・黒之鋭刃を与えた弓の形は風変わりな剣に見えたセリニは内側より現れた未練を再び身体に抑え込んだその刹那――洞窟に音が響いた。
「!」
途端にセリニの眼前に現れるのは自身に体当たりするスライムの姿であった。
「瞬迅」
他のモンスターが同時に襲撃してくる可能性を考慮してスキルでの回避を選択したセリニは――瞬間移動を終えた直後に弓矢を構えたが――
「【――――】【――――】【――――】」
微かな人の声が羅列となって耳に届くと同時に現れるのは青色の水球。
風切り音を鳴らしながら飛んできたそれが直撃したスライムは粒子となって消え去った。
「魔法?」
唐突に現れた水球に疑問符を浮かべながらセリニは水球が放たれた方向に目を向ける。
そこには岩肌に設置されている扉の中に入る人の姿があった。
「助けて……くれたのですか?」
俯瞰すると不審な動きであるがオンラインゲームである故に他のモンスタープレイヤーであるとすぐに気づいたセリニは状況からそう判断した最中に背後から音が聞こえると振り向いた。
「スライム!」
現れたモンスターは既に攻撃態勢となっており、セリニは反射的に弓矢を構えると静かにスキルの名を口にした。
「【暗影流出・黒き浸透】」
黒き影で染まった矢は放たれるとスライムに直撃――その体は黒い衝撃で散ったと同時にセリニの前にパネルが現れる。
「『スライムの欠片』」
スライムからのドロップアイテムを目にしたセリニは同時にある変化に気づいた。
「無くなった」
暗影への序開のスキルを使用する時に消費するゲージが0になっていた。
――HPと……MPで使えるけど。
しかしその場合は消費するものが変わるだけで使用可能ではある。
――それは避けたい……かな。
単に敵を倒し尽くすだけならMPはどんどん消費しても問題なかった。HPに関しても自身にとってはさして問題ではない。
しかしセリニには最終目標があった。
――ボス相手に使うMPが無くなりそう。
使いたい相手に使えなくなったら意味が無い事をセリニは把握していた。
――命喰禍爪ならゲージを使わないで済むけど。
回復するスキルは既に使えるセリニであるが……
――クールタイムもあるから時間が掛かる。
――間にMPを消費していたら……意味が無い。
暗影変異・命喰禍爪の再使用には一分必要であり、それだけだと効率が悪いと思えた。
更にセリニはその身体の内側に新たな後悔が生じる。
――アイテムを買い込むべきだった。
ツインファンタジーワールドを始めたと同時にモンスターと戦えるフィールドへ即時に赴いたセリニ・
だがその前にゲームを始めた時から所持しているゴールドでMPを回復する手段を用意するべきであったと思えた。
――だけど……しょうがないよね。
――奥に進む予定は……最初から立てていない。
しかしゲームを開始した時点で今のような状況になるとは一切の予想できなかった事であった。
故にセリニは気にしすぎは駄目だと自身に言い聞かせる。
――一体だけだったのに……ゲージを使い切るのは……駄目だよね。
しかし複数ではなかったスライムにスキルを使用したのは早計だったセリニは感じる。
「倒すのに時間が……掛かるけど」
既に苦戦するモンスターではない故にそう思い溜息を吐きそうになったセリニだが――視界に現れた存在を目にしたことでその動作は中途で止まる。
――大きい……スライム。
モンスターの外見を確認したセリニ。
――いるよね。
廃墟で目にした大型のスライムであったがセリニは洞窟内でも遭遇していて既に倒している――本来なら戦いに挑む。しかし自身の事情から向かうことなく様子だけを見る。
――今のわたしだと……すぐに倒せない。
スライムに対してダメージが上がるアイテムやスキルを使える状態でもそこそこの時間を使った事を覚えていたセリ二。
時間を使うことは問題ないが――それによって生起する事が気になっていた。
――戦ってるときに……乱入されたら……。
大型のスライムを倒した後に別のモンスターが現れた。
そんな混沌とした状況は嫌いではないセリニであったが万全ではない状況では窮地に至るリスクを伴うことも同時に想起できる。
――気づいてないよね。
大型のスライムはうろうろしているだけであり、自身に向かっていない。そう結論を出したセリニは今するべき事を呟いた。
「ガイアの安らぎに……」
先に出会った老人の助言に従うことに大型のスライムから目を背けると慎重な足取りで岩肌に設置された扉に向かった。
その道中にはモンスターが存在せず足を止めることなく進めたが――セリニの歩は止まる。
「……」
目の先にあるのは岩肌から飛び出て微かに輝いている鉱石であった。
それはアイテムがドロップする場所であるとセリニは知っている。
――爆裂之石が手に入るといいけど。
スライムに有効な攻撃アイテムの入手先の一つである為に寄ることにしたセリニであるが今まで見たものと違う点を二つ見つけた。
――他のより綺麗で長い。
一つは目視できる鉱石の質感が透き通って大きい。
――何か……動いている。
そして二つ目は数秒ごとに微かに震えている。
そうセリニは思った。
――もしかして。
風変わりな鉱石を確認したセリニの脳裏にある可能性が過る。
「――――」
セリニはゲージを目を向ける。そこには黒き輝きで満たされた一つの結晶が確認できた。
「大丈夫……だよね」
ある予感が当たるかどうか気になりながらも鉱石に近づいたその瞬間――鉱石は小刻みに震えるとそのまま浮き上がり――
「トラップモンスター!」
そんな光景を見ていたセリニは動揺の色ではなく。歓喜の色で迎える。
アイテムに擬態したモンスターは過去のゲーム経験で既に体感済み――故に迎撃の為に弓を振る構えを取りながらスキルを発動する。
「【暗影変異・黒之鋭刃】」
弓に形成された黒き両刃は浮き上がったモンスターを切り裂いた――しかし一撃で終わらずにその場から吹き飛ばされて地に落ちる。
現れたモンスターの姿を見たセリニは所感を口にする。
「髪の毛……みたい」
目玉付きのゴツゴツした石に逆毛の髪を想起させる縦に伸びる鉱石が乗った――それが現れたモンスターであった。
だが鉱石は飾りではない。
そう証明するかのように浮遊したモンスターは鉱石から輝きが放たれると粒子が放射され瞬く間に形が現れそうになるが――銀髪弓使いにそれを待つ義理はなく力を込めた跳躍での接近された途端に弓による直接攻撃を受けた。
――簡単に倒れないね。
スキルを乗せた一撃を含めた二撃を受けてHPが空っぽにならないモンスターに対してセリニは追撃の矢を放つと命中するが――ダメージを受けてなおモンスターは健在であり、変化も起きていない。
――ショック状態にもならない。
通常攻撃ではモンスターを倒しきれないと判断したセリニはスキルの使用を決断したと平行して――試したいことが脳裏に過る。
――これが無いときに使ったら。
暗影のゴブリンを倒して手に入れた髪飾りを装備した以降にセリニが愛用する暗影への序開は独自のゲージを消費することで使用できる。
しかしゲージが無いときはHPを消費――そしてHPが1になると今度はMPを消費することで使用することが可能となる。
――HPが……減るけど。
今まではゲージを0にしないように立ち回っていたセリニであったがダンジョン探索で初めて0になってしまった事もあり、この状況を逆手に取ることにした。
――HPがあっても無くても……もう変わらないよね。
レベルが13になったがHPに一ポイントも加えていない事もあってその数値はレベル1から一切変化していない。
そんな状態で戦い続けてきた故にHPを1にすることへの躊躇は存在せず――セリニは暗影への序開の使用に踏み切った。
「【暗影流出・黒き浸透】」
冷ややかな色合いでスキルの名を口にした途端に髪飾りは微かに輝きセリニの身体より影が生じる。
その色合いは漆黒であったが――朱殷で塗られた暗き輝きで覆われていた。
「!」
影が現れると同時にセリニは内側より痛みが現れ――動きが停滞に傾き始める。
――撃たなきゃ……駄目!
だがその間にも対峙するモンスターから粒子が放射される。
相手が攻撃を仕掛けてくるのは明白だとしたセリニは踏み留まると構えを乱さずに朱殷で覆われた黒い矢を放つ――瞬く間にモンスターに矢は着弾。
激しい音と同時に頭上に生やす鉱石諸共その身は霧散した。
――さっきの……何かな。
先のスキルを発動した時に身体が受け取った感覚は――ショック状態とも違う初めてなものであったセリニは困惑したが類似した感覚が脳裏に現れる。
――痛み……だよね。
物とぶつかった時の感覚に近いと思ったセリニはそこから先にスキルを使用したゲームの要素が答えだと感じた。
「HPが減る……感覚?」
未だにセリニはツインファンタジーワールドでダメージを受けた経験は皆無でHPを減らした事がない。
それを自覚していた故の推測であった。
「ボスに対して使わなくてよかった」
戦いの中で今の感覚を体感していたら大きな隙が現れたとセリニは思った。
――まだ伝わる。
身体に流れる動揺は未だに収まらない――ゲームでの痛みであると頭では理解しているがそれでも現実にも通ずるリアル感をセリニは感じる。
――けど……きっと慣れるよね。
――他の人も……きっとそうだし。
とはいえ自身よりも長く遊んでいるプレイヤーが沢山いることを知っているセリニはダメージを受ける感覚もその内なんとかなる適応だろう。
そう前向きに考えた最中にパネルが目の前に現れた。
「レベルが14に」
表示されていたのは自身の成長。
だが別の事も表示されていた。
「新しい鉱石!」
それは初めて手に入れるドロップアイテムであった。
「やっぱりトラップモンスターは報酬が美味しい!」
興奮した声風でセリニが口にしたそれが採取地点に罠が仕掛けている事を察しながらも触れた理由であった。
――また見つけたら触れよう!
――目に見える罠なら準備して踏み込む!
テンションが上がりながらも今後の方針を決めたセリニはパネルが表示に変化が現れる事に気づくと同時に楽しい気分となった。
「新しいスキル!」
どんどん新しい要素が追加されて気持ちが昂ぶるセリニ――だがそんな彼女を影が覆う――目に見える形で。
「!」
報酬に目を向けながらも一定の警戒心は秘めていたセリニは即座に気づいて視線を上げるとそこには大型のスライムが存在する。
――気づくよね。
今という瞬間が発生するのはトラップモンスターに攻撃を仕掛ける前から想像済みだった――故にセリニは落ち着いた声で対処する為の呟きを零した。
「【瞬迅】」
スキルの名が現れたと同時にセリニが姿を消した途端に大型のスライムは着地する。
獲物であった銀髪の少女に攻撃を避けられたことに気づいた大型のスライムは周囲に目を向ける――すると即時に見つける。
その位置は岩肌に設置された扉の前であった。
――瞬迅を温存して良かった。
自身の判断が間違っていなかった事を零しながらセリニは扉に触れる。
――モンスターがいる時は……駄目だったりするかな?
状況によって移動手段を封じられるゲームを遊んだことがあるセリニはそんな予想が現れる。
――その時は……倒さないと先に進めなくするボスモンスターと戦う気持ちで……戦う。
その時はその時。
そう思ったセリニの前にパネルが現れるが――
「――え」
それを見た途端にセリニから困惑した声が現れた。
――二択。
現れたのは二つの選択肢。
――どっちを……。
すんなりと進めると思っていたセリニはどうするべきか考え始めたが――その狭間は場が与えない。
――跳んだ音!
大型のスライムの動作を知らせる音色が洞窟内に響いていることを察したセリニは攻撃が飛んでくると予想した。
「とりあえず!」
ここで倒されるのは絶対に嫌だったセリニは選択肢の内容を見ることなく触れる――すると扉が開いた。
「――」
迷える状況でないと判断したセリニはその身を扉の中に投じる――その瞬間に扉は閉まる――その刹那に大型のスライムが扉に衝突した――それ以降に洞窟で発生する事柄を銀髪の少女が知る術はなかった。




