第44話 銀髪弓使いはフレンドから
「そういえば」
何かを思い出した仕草をしながらアルーセは唐突に言う。
それが耳に入ったセリニはその続きを聞いた。
「まだフレンド登録をしていなかったわね」
聞こえた話の内容はオンラインゲームであるなら馴染み深い言葉の並びであった。
――その事も言ってた。
初体験のオンラインゲームがツインファンタジーワールドなセリニであったが今しがたアルーセが話した内容は爽陽から聞いていた為にフレンドに関しては納得できた。
「はい……」
それ故に相手が口にした事に対して何も違和感がなくセリニは返事をする。
――あれ?
しかしそれも束の間。
フレンドの意味をよく考えると交わした言葉はとんでもない意味になるのではと思えたセリニは全身の気温が食い尽くされた心持ちとなった――瞬く間に反転した心境は表層にも現れた。
「え……フレンドですか!!」
「そうよ」
森林全域に広がるような大声を出したセリニに少し驚いた様子を見せたアルーセは疑問の言葉を口にする。
「驚く事?」
それに対してセリニは即時に応じる。
「は……はい……わたしとっては……とてもです」
――始めて初日でフレンド!
――高校生になるまで……友達がいない……こんな……わたしが……。
オンラインゲームでのフレンドの事を聞いたセリニの所感は自分には関係ないであった。
爽陽がツインファンタジーワールドを始めた時にはフレンドになる事を約束している。
しかしそれは現実の関係が延長した形であり、特別な意味等ない――約束した当の本人も『当然だからね』と口にしていた。
――いいの……かな。
かくの如き自身がオンラインゲームを遊ぶ中で出会う見知らぬ人々の誰かとフレンドとなる。
そんなの夢物語と諦めていたセリニからするとアルーセの誘いは驚愕に値するものであった。
――もしかして……。
だが思考を回転させるとフレンドの話題に移る前に話していた事と関連性があるかもしれないとセリニは思った。
そこを起点としてアルーセは自身とフレンドを結びたいのでは? そんな憶測が脳裏で描かれる。
――聞くだけ……聞きたい。
自身が生み出した疎隔があったままフレンドになるのはアルーセに失礼だと思ったセリニは推測を声に出した。
「その……もしかしてですけど……ミストフォルスの盟約はフレンドになる必要があるんでしょうか?」
特別な関係を結ぶには事前に準備が必要だから自身にフレンドの事を話し始めたと思ったセリニ。
その質問にアルーセはからりとした色合いで返答した。
「フレンドは関係ないわ」
「え……」
予想を覆す言葉にセリニは目を見開きながら唖然とする。
そんな様子の少女を瞥見したアルーセは伝えたいことを喋った。
「盟約は盟約でフレンドはフレンドよ、盟約を結んだけどフレンドじゃない。フレンドだけど盟約は結んでいないって事も可能よ」
「そ……そうですか」
おどおどとした声色で応えるセリニ。
――よかった。
心の内では自身の想像が的外れであった事実に安心していた。
その一方でアルーセは言葉を繋げていた。
「フレンド登録するのは巡り合わせな事もあるけど――別の理由もあるわ」
「理由……ですか?」
「貴女と離れた後の事を考えてよ」
そう言われたセリニは疑問を抱くが脳裏に芽生えるよりも先にアルーセの言葉が脳裏に居座り始める。
「わたしはこの後、町に戻るけど、セリニちゃんはフィールドでレベル上げよね?」
と、指摘されたセリニはその言葉がこれから先にやろうとした事柄であったために「はい」と応じる。
「そして貴女のレベルが10になったら、盟約を結ぶけど、フレンド登録をしとかないと探すのがお互い大変よ」
アルーセの意向を知ったセリニは街やフィールドで一人のプレイヤーを探せるか想像してみた。
――人を探す。
――無理……かな。
街やフィールドの探索は殆どしていないセリニであったがこの世界が広大である事は既に身に染みている。
「そう……ですね」
故にアルーセに同意の言葉を向ける。
「一応……フレンドにならなくて連絡手段はあるにはあるけど」
積極的ではないその様子からフレンドになる事を拒んでると思えたような事を話し始めるアルーセ。
しかしそれは勘違いであり、セリニは声を上げる。
「だ……大丈夫です!」
別にフレンドになる事を拒絶している訳ではない。セリニが煮え切らない様子であったのには口には出せない別の理由があった。
――高校生になるまで……友達いなかったのに。
――フレンド……こんなに早くていいのかな。
友人関係に巡られるまでかなりの期間があった舞風月影――そんな自身が僅か一日のVRMMOで他の人と関係を築いている。
その事実に驚いていてアルーセに届ける返答に時間が掛かっていた。
――ちゃんと言わないと。
だがそれで相手を困らせるのは不本意であったセリニは自身の意思をアルーセに向けた。
「その……フレンド……よろしくお願いします」
緊張の色で塗られた言葉に対してアルーセは対照的な明るい声を言い放つ。
「こちらこそよろしくね」
そしてアルーセはパネルを出現させた。
「早速申請するわ」
アルーセがパネルでの操作が終わるとセリニの目の前にパネルが出現する。
そこにはフレンドの申請が表示されていた。
「――はい」
それに従いパネルを操作するとフレンド登録の完了の知らせが表記される。
「できた」
目を通したセリニはそのままフレンド一覧の項目を確認するとそこにはアルーセの名が記されていた。
――初めての……フレンド。
――爽陽ちゃんが知ったら……驚くかな?
事を終えた事を強く実感したその刹那――セリニは柔らかな笑みが零れ落ちた。
「セリニちゃんの事だから今日にはレベルが10になるわよね?」
そんな最中にアルーセの声が耳に届いた。
驚いたセリニだが話の内容は、レベルに関する事であった。
数の多さに困った事があるが黒い影を纏ったゴブリン以外は苦戦せずに倒せている。
故にレベル上げに問題は発生しないと考え、その事を伝える。
「は……はい! 大丈夫です!」
「なら明日以降、ログインをしているの見かけたら誘うわ、けどフィールドにいる時は気づいていないかもしれないから、その時は貴女が誘ってね」
日常会話の様な流れで話したアルーセ。
しかしそれはセリニを驚かせる内容であった。
――わ……わたしが誘う!
友達関係は現実でも既に築いているセリニであったが――誘われた事は何度もあったが自身が誘った事が一度もなかった為に彼女からするととてつもなく難題であった。
「じゃあわたしは街に戻るから」
そうアルーセが口にすると便乗するようにセリニは反応する。
「あ……わたしもです」
「セリニちゃんも? もしかしてクエストを報告……」
その言葉の並びにアルーセは疑問の色を浮かべるが、即座に納得の色に塗り替えられる。
「そういえば短剣の為に街に戻るとか行っていたわね」
アルーセが言った事はこれからセリニがしようとした事を言動に変換した内容であった。
「はい」
したがってセリニは肯定の言葉を口にする。
「わたしもその事が気になったんだけど――話を聞かせてほしいわ、何か力になれるかもしれないから」
笑みを浮かべながら協力してくれる可能性を話したアルーセ。
――フレンドになった……ばかりですけども。
早速迷惑を掛ける事に内心にてセリニは引け目を感じる。
――けど……頼って……いいかな。
しかし向こうから聞いてくれたならそれに乗るのは決して駄目な事ではないと判断したセリニは――
「その……少し前手に入れたスキルが……」
アルーセに二本目の短剣が必要となった理由を明かすことにした。




