第43話 銀髪弓使いはチュートリアルから
「え……」
自身が話した可能性でしかない言葉が肯定された――その事に気づいたと同時に身体が軽くなったと感じていたセリニにアルーセは言葉を続ける。
「あなたの指摘は正しい――助けてくれたお礼を言いたかったのは本当よ、けど同時に盟約関係を結びたいとも思っていたわ、だから二回もここに来た」
「そう……ですか」
自身の予想が的中していた事に気づいたセリニだがそれに並行してアルーセが照れ笑いを浮かべている事を察していた。
――言わないほうが……よかった。
それ故に口にした事を独りで悔いたセリニはそれが表情として現れる。
「気にしなくていいわ」
そんな様子のセリニにアルーセが言葉が形となった声を向ける。
「話すことを話したらわたしの方から明かすつもりだったのよ」
「そう……だったんですか」
「ええ、そうよ」
きっぱりとした口調で言い切ったアルーセ。その口調から事実だけを述べていると思えたセリニはそれ以上の言及を止める――しかし疑問が尽きた訳でない故に言葉が止まる事はなかった。
「あの……どうしてそこまでして……わたしと盟約を結ぼうと?」
セリニはツインファンタジーワールドを今日始めたばかりの初心者であり、その事はアルーセも事前に察している。
それなのに短期間の間に二度も目の前に現れて関係を結ぼうとしている。
――わたしなら……しない。
――そもそも……話すことが……。
自身が相手の立場であったらどう転んでもその様な発想が浮かばないと断ずるセリニからすると不思議でならない。
常に感じる恥ずかしさよりも――好奇心が上回るっていた心境故にアルーセに対してその疑問をぶつけることにした。
――駄目なら……それで。
駄目元で聞けるなら聞きたい心持ちであったセリニに向けて――少しの間を挟んだアルーセは落ち着いた表情を浮かべながら応じる。
「そういった巡り合わせを感じたからよ」
「巡り……合わせ?」
「貴女は意図していていないけど、広いフィールドでただものじゃないプレイヤーが助けてくれた。せっかくならその縁から仲良くなれたら……そう思ったのよ」
「そう……ですか」
――知り合ったから……仲良くなりたい……そういう事だよね。
アルーセが話したことをセリニが脳裏で整えたその傍ら。
――爽陽ちゃんも他の人と仲良くなるチャンスがあったら……仲良くなったほうが良い。
筑波爽陽が話していた内容を思い返したセリニ。
――とか……言っていた……よね。
しかし交流していく最中に自身が大失敗をした時――疎んじられて影で色々と言われて大勢から嫌われる。
そんな可能性が浮かび上がり、不安となった月影に向けて――『いる可能性を100%否定はできない。だけど今のVRMMOなら大丈夫』と爽陽が真剣な様子で話してくれた事を今も覚えている。
聞いた時に『今は』と強調していることに疑問を感じたが前のVRMMOがどんなものか一切知らない事もあり、時折脳裏を過る程度で詳しく聞こうともネットを通じて調べようと考えていない。
色々な事が脳裏に錯綜したセリニであったがアルーセに向ける言葉は既に決まっており、真面目な声色で口にする。
「そういう事ですね、分かりました」
自身が曖昧な言い方をしている――それは百も承知であったが他者と仲良くなりたい心境を完全に把握することは友達が一人しかいないセリニにとっては不可能だからであった。
そして同時にアルーセに失礼なことを言ってしまった事を強く自覚した。
「――変なことを聞いてごめんなさい」
故にセリニはアルーセに謝罪の言葉を述べる。
「大丈夫よ、いきなりの事だから疑問を感じるのは当然だもの」
するとアルーセは気にしていない事を話すと微笑みながら自身が言いたいことを嬉しそうな色合いで口にする。
「それで……分かったと言ったのは、盟約を結ぶって事も含めてよね?」
アルーセが勢いよくそう言った。言葉を受け止めたセリニは驚きの顔を浮かべるが――それは勢いに呑まれた訳でなく、その理由を心の中で呟いた。
――そういう意味では……ないです。
セリニが話したのはアルーセの言葉の意図を察した意味合いであり、そこまでの内容を込めたものではなかった。
しかし同意見な部分も存在していた。
――けど……盟約は結びます。
アルーセの提案には乗ることにした。
今も多少の不安こそ抱いているがそれよりも喜々とした気持ちの方が何倍も強いとセリニは自覚していた。
「はい!」
故にセリニはアルーセに賛同の意思を伝えた。
「よかった」
その言葉を聞いたアルーセは本意から喜んだ様子であった。
「じゃあ早速、ヘイス・ピュルゴスに……」
生まれた活気ある流れに身を任せるかの如くアルーセは言葉を連ねるが途中で塞き止められる。
淡々と聞いていたセリニは始めて耳にするゲームの単語と思われるものも気になったがそれよりも先に話を止めた理由に意識が向かうと同時になんとなくであるがその理由を察していた。
「10レベルにならないとミストフォルスに入ることができないわ」
再び話し始めたアルーセが語る内容。
それがセリニが察していたものであり、それが耳に入ると同時に「そうですね」と言葉を返した。
それと同時にレベルが関わりそうと思ったある要素に関して聞いてみることにした。
「その……領域転移とか言ってましたよね」
「え? それがどうしたの?」
突然の言葉にアルーセは疑問の表情で応える。それを見たセリニは少々疑問を感じたが言いたいことを妨げる程ではなかったために言葉を続けた。
「使えるようになるには……レベルを上げる必要があるんでしょうか?」
領域転移の事は初耳なセリニであったが脳裏を過ぎた文字や倒されて町に戻されたアルーセが数分後に目の前に現れた状況からそれが長距離を移動するスキルに類するものと予想した。
「――――」
だがセリニが言葉を聞いた刹那にアルーセの表情は驚きに変化した。
――え……何かを……。
その変化に即時に気づいたセリニは如何すべきと思考を開始しそうになったが先にアルーセの声が届いた――その色は喜びで満たされていた。
「もしかして……セリニちゃんもチュートリアルをしないでツインファンタジーワールドを始めたのかしら?」
「!」
耳に届いたそれは間違いない事柄であった。
それは聞こえた彼女自身も即時に理解する――然れどもそれはアルーセに一切話していない内容であった。
故にセリニは驚嘆の声を上げる。
「えぇー!!」
「驚くわよね」
その驚きは計算の内であるかのような言い回しをアルーセはする。
驚きの渦にいながらもその様子に気づいたセリニは問いかける。
「あの……どうして……解ったのですか?」
セリニが思考していた事を自覚済みであるのを明かしたアルーセはそのまま言葉を繋げる。
「理由を知りたいのは当然よね?」
その言葉は自身の疑問から汲み取った言葉であり、聞き手であったセリニは頷きを解とした。
「わたしも始まりのチュートリアルを選んでないから」
「……そうなんですか?」
「ええ、他の戦闘系のVRMMOを既に遊んでるから手探りで分かるって思ったのよね……それにそっちの方が面白いから」
「――それは分かります」
自分自身はVRMMO初心者である故に境遇こそ正反対と感じたが同じような理由でチュートリアルをスルーしていたためにセリニは共感の意思を口にする。
「そしたら、チュートリアルの中に領域転移の事も含まれていたってことよ」
「でしたら……領域転移はどう知ったんですか?」
領域転移は今後の為に使えるようになりたいと思ったセリニは情報源を尋ねるとアルーセは応じる。
「ヘイス・ピュルゴスに入った時に知らされたのよ」
返ってきた言葉はゲーム特有の固有名詞であり、場所が想像できずにセリニは困惑した。
――けど……初めてでは……。
だが何処かで見たことが言葉の組み合わせだと思った一弾指に自身の記憶の欠片を探ったセリニ。
するとツインファンタジーワールドでの名前を探していた時に見た二つの単語が浮かび上がる。
その組み合わせを口にした。
「一の塔ですか?」
「ええ、そういう意味になるわね」
自身の言葉を首肯したアルーセ。それを合図としてセリニの脳裏に瞬く間に建設されるのは――町の中に建つ巨大な塔の姿であった。
「もしかして……あのとても大きな塔の名前……ですか」
「そうよ、チュートリアルはあの塔でしている。そうフレンドから聞いたわ」
「あの塔で」
「他にも色々な事ができるのよ、町のミストフォルスの支部に向かうにはあの塔にある本部に入る必要がある。だからとりあえず町に戻ったら、ヘイス・ピュルゴスに向かうのをオススメするわ」
そう言われたセリニは何ができるのか楽しみだと思えてきた――それ故。
「はい!」
明るい声色で返事をした。




