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第4話 銀髪弓使いは設定から

「ゲーム空間だよね?」


 眠りから覚めた感覚が過ぎ去ると辺りの空気が明らかに変わった事に気づいた月影は恐る恐る周囲を見渡していた。


「よかった」


 周囲は水色に染まる果てしなく広がる現実とは異なる空間であった。それはVRゲームを起動すると最初に訪れる空間であり月影は安心した様子で息を吐いた。


「身体を動かせて……喋れるようになってる」


 今は声を出せて身体を動かせる月影であったが開始した当初はそれらが不可能に空間にいた。


「LODCさんの声も……聞こえない」


 アカウントの制作やインターネットの接続等、NEW WORLD2に関わる様々な作業をしてくれた自称『現代の妖精』の存在も知覚できない――それは周りの静寂が答えであった。


「本当にいたのかな……実はこの段階まで眠っていて」


 存在を証明する証拠が何処にもない為に幻覚や夢だったのでは? 月影はそんな事を考え始めたが――


「それは無いよね」


 いなかった事にする――その様な逃避を答えとする――曖昧に終わらせる気は月影にない。


「LODCさんはきっといる……いるんだよね」


 先まで声が届いた感覚に噓偽りがないと根拠は空っぽだが確信していた月影――しかし同時にその事ばかり考えるよりもゲームに集中したいと思ってもいた。


 ――爽陽ちゃんもあの場面をスキップしないよね……きっと。

 ――今度聞こうかな、

 LODCが自分だけが知っている存在でない事を証明しそうな人物の事を思い浮かべながら月影は今の自身の状態に目を向ける事にした。


「やっぱり不思議」


 息を吐いた感覚はある。しかしここは電子の世界。ゲームをプレイするのは二回目である為に初めて来た時以上の感動は得られない月影だが得難い感情が心の奥底から湧き上がった。


「……始めないと」


 感動が身体を過ぎる最中に呟いた月影は手元にパネルを出現させるとツインファンタジーワールドを起動させようとしたが――手が止まる。


「――何か……違うような」


 初めて遊んだときと根本的な感覚が異なる――そう身体が告げているように月影は思えた。


「気のせい……気のせいだよね!」


 非現実的な感覚に呑まれそうと感じた月影は振り払う様に声を出すとパネルの操作を始める。

 だが空間に目新しい変化は起こらず、パネルの表示が変わる。


「この場所でするんだ……」

 

 そう呟きながらパネルを見る。そこにはプレイヤー名を記入する様に表記されていた。


「自分の名前は……駄目なんだよね」


 オンラインゲームを初めてする月影であるが必要な知識は既に身につけており、既に本名とは異なるプレイヤー名は決めていた。自身の名前である『月影』から『月』を貰って、そこから名前を考えた結果、別の国で月を意味する単語を拝借する事にした。


「セリニ」


 サクサクと記入したプレイヤー名を呟いた後に溜息を吐いた。


「こんな私がこの名前でいいのかな……」


 語感が好きな事から気に入った一方、自身なんかに相応しくない、そんな後ろめたい事を考えが現れる。


「……似合わない名前なんて言われたりしないよね」


 これから先は不特定多数の人物に名前を見られた時の反応のイメージが脳内に次々と湧き上がる。


「せっかくやる気になったのに」


 だがネガティブな事ばかり考えている事を自覚すると頭を横に振って、悪いイメージを追い出すとポジティブな考えを浮かべる。


「……ゲームの世界なんだから」


 これから行くのは現実ではない、そう考えると少し気が紛た。気持ちが移り変わる前に急いで確認場面をタッチするとパネルの場面が切り替わる。


「……髪色と髪型の変更?」


 パネルの表記を呟いたセリニの前に鏡が出現していた。


「……わたしだ」


 鏡に映される自身の顔を見てセリニは息を漏らす。

 髪色は黒で腰に届く程の長さ、真っ直ぐで艶やかな髪質。前髪は短めに切り揃えていて後ろ髪は細めの二つ結びで括り、背中に流している。真っ暗な夜空に浮かんで光を纏った月の様に綺麗な色白の肌。顔は小柄でありながら整った顔立ち、目は鋭く全体的の雰囲気は年齢以上に大人びた雰囲気を与える。


「眼鏡は付けてない……」


 目を使う趣味であった為に視力の低下を懸念した両親から言われて中学校に入学する前から眼鏡を付けていたセリニにとってその姿は新鮮であったが同時に億劫であった。


「お母さんにそっくり……」


 成長するにつれてその容姿は母親に似てきている、親戚からよく言われていた。その言葉には悪意は一切なく、純粋な褒め言葉であり、目は父親譲りと言われている。

 それを聞いてセリニは最初こそ嬉しく思えた。しかし中学生になった辺りから聞き心地のよい言葉ではないと感じ始める。

 まるで自分は母親の生き写しで自分自身なんて何処にも存在しないと思われているのでは? 直接口にした事は無いがそう抱いている。


「どうでもいい……」


 その為に自身の容姿に関して興味を失いつつあるセリニであるが163㎝と女子高校生としては平均以上の身長で容姿端麗な事から高校に入学した当初から一部から注目されている。

 そして本人はこれっぽっちも気づいていないが中学生の頃からも同様に注目を集めていた。友達が存在せずに部活動もしていない為に勉学は得意で時間は十全にあり、成績も優秀であった為に物静かな才色兼備の美少女と噂されていた。

 その事はセリニも教室を移動する時に耳にして知っているが、他者から綺麗と言われた事が一度も無く、他者に関わらない様に過ごす事を考えていた為に自身の事を話しているとは考えに及ぶ等一切なかった。


「……また後ろ向きに考えちゃった」


 爽陽と友達になってから、一緒にいる時は少しだけだが物事を前向きに考えられるようになったセリニだが、一人でいる時は今迄どうりに常にマイナスな考えをしてしまい、溜息が出る。


「髪型は元のままでいいけど……髪色は変えようかな」


 気持ちを前向きにする為にゲームの設定に目を向ける。


「こういうのは良いよね」


 最近登校や下校の最中に髪の色を別の色に染めている人をよく目にしていたセリニは密かに憧れを抱いており、パネルを操作する。


「いっぱいある」


 するとパネルには様々な色の名前とその色合いが記される。驚いたセリニだが染めてみたい髪色を妄想した事があった為にあっさりと決まる。


白銀色しろがねいろ


 選んだ理由は好きな色が一番目が銀、二番目が白だからであった。操作が終わると同時にセリニの髪色が白銀色に着色される。


「……悪くないかな」


 髪に触れながら嬉しそうな声で呟いた。自己評価が低いセリニであったが髪色が好きな色になった事に底意から嬉しく感じた。 


「問題なし……ゲーム内でも変更できるんだ」


 心地よい気持ちで確認をタッチすると設定の進行が進む。


「次は目の色……」


 続いても外見に関しての内容であった。


「こっちは細かく決められない」


 そう言いながらも目の色を決めたセリニ。


「赤……だね」


 その色は四番目に好きな色であった。好きな色の三番目も選べたがそれは別の部分で使いたいとセリニは思っていた。


「次はステータスと武器……」


 どっちを先に設定するか考えたセリニは武器は決めていた為にそちらを先に選択する。


「いっぱいある……」


 しかしパネルに現れた武器の名前は想像を超える量が表記されていて、セリニは驚きの声を漏らした。

『剣』『刀』『盾』『槍』『斧』『短剣』『杖』『槌』等、オーソドックスな武器は無論あるが『鎖』『腕輪』『指輪』『鎌』『魔術本』『蛇剣』『戦輪』『両手盾』等、変わった武器もあった。

 中には『鍋』や『壺』等、武器の一覧に並んでいる事に違和感があるものがある。

 更には『戦車チャリオット』と特殊な読み方をするものまで含まれていた。


「刀も居合い刀や二刀流……いろいろあるんだ」


 他人事の様に呟きながら事前にセリニは決めていた武器を探す。ゲームパッケージで背負っているのを見たのであると確信していた。


「弓……あった」


 セリニが探していたのRPGでは定番の武器である『弓』であった。


「良かった……これで隠れて遠距離で戦えるね」


 選んだ理由は離れた距離で戦闘できる。そんなイメージがあるからであった。

 特定のイベントでpvpがある事を爽陽が言っていた。せっかくするならやり込むつもりでイベントも頑張ろうと思っていた矢先にそんな情報が脳裏に行き届いた瞬間。知らない人と戦う、これから先の事を考えると人の前で怯えて、その隙に攻撃される。

 自身が隙があれば容赦なく攻撃するタイプのゲームプレイヤーである事も相まってその様な後ろ向きな考えに至ったセリニは距離を離せば問題なく戦えそうと結論を出した為の選択であった。


「弓矢は三種類あるんだ」


『弓』と『長弓ちょうきょう』更に『魔弓まきゅう』と三つある事を初めて知ったセリニはどれにするべきか悩む事になった。だが説明文を読んで選ぶ武器を決めた。


「弓……かな」


 弓矢で長距離戦に徹しようと思ったセリニ。オーソドックスな物を使うべきだと魔弓は早々に候補から外した。

 そして最初は長弓にしようと考えた。

 しかし説明文に遠距離では高威力の矢、近距戦では二本の短剣で戦おう。そんな事が書かれていた。

 二つの短剣を手に取って戦うつもりが全くない為に困惑して弓の説明を見ると、複数のやじりを使い分け戦おう。そう書かれていた。

 長弓と同じく、短剣も装備するがこちらは一本だけであった、そして長弓では使えない鏃も装備可能と表示されている事が弓にする決め手となった。


「次はこっち」


 武器の選択が終わると続けてステータスの設定を始めたセリニだが最初に現れた文字を見て動きを止める。


「弓を選んだ人におすすめの振り方……」


 ツインファンタジーワールドにおける、プレイヤーの基礎ステータスはレベルが上昇すると得られるポイントを割り振りする事によって決まる。

 HPとMPだけ、別枠のポイントが割り当てられていて、その二つ以外のステータスポイントが共同である。

 プレイヤー側の自由を尊重する方針である為に敢えてステータスに上限を設定していない。その為にゲームに慣れているプレイヤーにとっては自由にステータスを決める事ができるシステムである。その反面、ゲーム初心者からすると、どうポイントを割り当てるか困惑させるシステムである。

 そんな初心者の為に用意されているのが、レベルが上がると自動でポイントが割り振りされるモードであった。


「……どうしよう?」


 初めてVRMMOをする為に使用する事も少し考えたセリニであった。


「……使ったら」


 そのモードを使用するとどんなステータスになるか、パネルに表示されていた為にそれを確認したセリニは……


「……駄目だね」


 申し訳なさそうな口調で否定する。ステータスの振り方は平均的であった、だが彼女が望む戦い方に合うのは特化型のステータスである。それなりのゲーム経験がある為にセリニは確信している。  

 

「自分でしよう」


 する事を決めたセリニは黙々とステータスの項目に目を向ける最中に……


「服の色を変更できるんだ」


 髪の色の様に装備の色合いも変えられる項目を見つけると弾む様な声を出しながらパネルを操作する。


  ※     ※    ※      ※


「こんな感じかな」


 初期ステータスを決めたセリニは確認のパネルに触れる。すると初期装備と共に現在の状態がパネルに表記される。


プレイヤー名 セリニ

 

Lv1 HP30 MP70


攻撃力【40(+10)】 


防御力【0(+8)】 


攻撃魔力【0】


回復魔力【0】


器用力【20(+5)】 


疾走力【40(+5)】


技巧力【0(+10)』


装備品


武器


右手【始まりの弓】


左手【始まりの矢】


鏃【通常鏃】


サブ武装【始まりの短剣】


防具


頭【始まりの狩人帽子】【表示】


体【始まりの狩人フード】


腕【始まりの狩人手袋】


靴【始まりの狩人靴】


装飾品


【装備無し】【装備無し】

【装備無し】【装備無し】


見た目装備【無効】


武器スキル【無取得】


戦闘・アクティブスキル【無取得】


戦闘・パッシブスキル【無取得】


装備スキル【該当装備無し】 


探索スキル【無取得】


技巧スキル【鏃作成Lv1】


エクストラスキル【無取得】


イディオススキル【無取得】


融合スキル【無取得】


契約【無契約】


「これぐらいにしないとね」


 ステータスの確認を終えたセリニは満足気に呟いた。

 一目で分かる極端なステータスであるがそれは意図的である。

 まず魔法にRPGにおける醍醐味である魔法に興味こそあったが、今回は不要だと決断して一切ポイントを振っていない。

 そして技巧はアイテムを制作するのに必要なステータスだが、弓を選択すると鏃が作成する技巧スキル【鏃作成】を自動的に習得する仕様があり、そのスキルを習得すると技巧力のステータスポイントが10上昇する。

 実のところ色々なアイテムを作成したいと思っているが武器を使用する戦闘には直接関係ないステータスであると表示されていた為に仕方ないと諦めた。

 セリニは遠距離から弓矢で狙い撃つ戦い方をする予定である。その戦い方をする以上、被弾する可能性は低いと思案。防御面にステータスを振る必要が無いと思い切ってHPを必要最低限の数値にして防御力を0にしている。

 そして与えるダメージに影響する攻撃力、戦闘における様々な状況に影響を及ぼす器用力、プレイヤーの移動速度等に影響する疾走力は必要不可欠だと、その3つにステータスポイントを振り分ける事にした。


「ようやく始められる……」


 開幕に起きた事に面を食らいながらも自身のステータスを見た事でモチベーションが一気に上昇したセリニはパネルを操作するが現れたのは想像とは違う文字列であった。


「基本のチュートリアルと……弓のチュートリアル……」


 それは本格的にゲームを開始する前に本来なら必要不可欠な事である。チュートリアルを始めるか、チュートリアルをせずにプレイを開始するか選択肢がパネルに現れる。


「…………」


 それを見たセリニは数秒間、押し黙った後に答えを口にする。


「しなくていいよね……」


「説明書もちゃんと読んだし」


 現実では事前準備は万端で事前確認はしっかりとする。しかしゲームでは電子説明書を読んでアイテム等必要なものは山の様な数を準備こそするが事前に攻略情報を一切見る事をせずに、場当たりで向こう見ずに攻略する事が好きであったセリニは敢えて二種類のチュートリアルをスルーする。


「……遂に始まるんだね」


 ゲームを開始する操作をしたセリニの胸の内には沢山の人と顔を合わせる事になる不安が現れる――しかしそれ以上に初めてするVRMMOを楽しみたい気持ちも強かった。

 そんな二つの気持ちが混在する最中にセリニの視界の先に変化が訪れた途端――神々しく、そして清らかな大人の女性の声が脳裏に現れた。


『ようこそ――びと――歓迎します』


 だがそれは視界に映り込んで消える――小雪を思わせるフワリとした微かな声量であった。

 故に緊張感に包まれながら視界に注目を向けているセリニに響かない――届かない。

 生まれて初めてであるVRMMO。ツインファンタジーワールドに少女は意識を向け続ける。

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