第36話 銀髪弓使いは有名から
「え!!」
森を一瞬騒がすのは少女の驚きの声――その主であるセリニはそれを発した後も驚愕は尚も続いていた。
――なんでアーチャーさんの名前が……。
町で少しだけ会話したプレイヤーの事をどうして口にしたのかとセリニは推考する最中にアルーセが話した内容を脳裏で再生した途端に――驚く箇所が増加してしまった。
――どうしてわたしとアーチャーさんが……出会っている事を……。
話した事は事実であったが誰にもそれを明かしていない。だがそれをどうして一切知らない筈のアルーセが語れるのか。
セリニの頭の中で疑問は肥大化していくばかりであった。
「あの……どうして……その……」
その事を訊ねたいと思ったセリニであったが人間関係が関わるものであった為に言葉が詰まってしまった。
そんな少女に助け船を出すかの様にアルーセは口を開いた。
「どうしてわたしが貴女とアーチャーちゃんが町で会話している事を知っているのか。そう言いたいのね」
聞こえたそれはセリニの代弁であった。
「は……はい!」
「理由はシンプルよ、二人が会話しているところをわたしも目撃していたからよ」
聞こえた言葉はアルーセが話したとおり単純明快であった。それ故にセリニの感情も――寄り道なしの一直線に突き進んだ。
「え――えぇ!!」
再び驚きの声がその場に響き渡る――しかしそれは反射的に現れたものであり、少し考えるとそこまで驚く事ではなかったとセリニは思えた。
――周りに人がいたよね。
アーチャーと会話を交わした後に視線を感じ――その場から移動した。そんな動きをした事をセリニは思い返す。
――その中にアルーセさんが……たまたま……含まれていただけ。
すると目の前の人物はその視線の中の一人であった――それだけの話。
そんな結論があっさりと頭の中で完成した――そして同時に恥ずかしさと申し訳なさを同時に抱き始める。
「そ……その変な大きい声を……出してごめんなさい……すいません」
アルーセからしたら自身はいきなり奇声を放った存在と認識されたとセリニは思った為だ。
「大丈夫よ、街の中で普通に会話しているだけの姿を見られたと知り合いでさえなかった人からいきなり言われたら、わたしも驚くから」
微笑みながら気にする様子を見せずに語るアルーセ。しかしセリニは気にしている点があった為にその事を口早に話した。
「あと……その……アルーセさんの事に気づかなくてごめんなさい」
印象に残る容姿であるアルーセならあの時に一目見とけば把握する事も可能だったのでは? そう思ったセリニの心境を現わす言葉であった。
「結構な人数が見ていたから無理だと思うわ」
「そう……ですか」
――沢山の人がいたなら……気づかないのも……。
――仕方……な――。
アルーセが話した内容に納得しかけたセリニであったが――言葉の中に彼女からするととんでもない単語が混ざっていた事を察する。
「け……け……結構ですか!」
アルーセ以外にもアーチャーとの会話を見ていたプレイヤーがいた。その事実を直接伝えられたセリニは驚いた――されどもそこまでの衝撃はなかった。
――あの時のは気のせいじゃなかったんだ。
数多の視線に見られている。町の中でその様な感覚があった事をセリニは覚えており、その感覚が的外れでなかったと認識した為だった。
――けど……どうして……なんでなんだろう?
驚きは少なかったが今度は不安な気持ちがセリニの心を覆い始めると――表層に噴出される。
「普通に……会話してただけ」
自身は特別な事をしていない――アーチャーと衝突しそうになった、それがきっかけとなって言葉を交わした。
それ以上の事はした記憶が一切ない為に困惑していた。
そんなセリニにアルーセが声をかける。
「きっと相手がアーチャーちゃんなのが一番の理由よ」
「アーチャーさんだから?」
「ええ、アーチャーちゃんは有名なプレイヤーだから」
「……アーチャーさんも自分の事を……そう言ってました」
自身を有名だと口にしていた覚えていたセリニはちょっとしたある事がアルーセに尋ねてみた。
「その……どれくらい有名なんですか?」
それは実直な興味心から出たものであった。
セリニの言葉にアルーセは即座に応じる。
「すごく有名ね、具体的に言うならツインファンタジーワールドのプレイヤーなら半分は知っているわ。アーチャーを知っているプレイヤー達に最強のプレイヤーは誰? と聞いたらきっと三分の一のプレイヤーはアーチャーちゃんと答えるでしょうね」
「そ……そんなに有名なひ……方……だったんですか!」
アーチャーが想像していた以上の知名度を持っている人物である事を知ったセリニから不安の気持ちは突如現れた強風によって消え去った。
しかし今度は恐れの感情が芽生え始めた。
「わ……わたし……知らないって……その……とても失礼な事を……」
事前にツインファンタジーワールドのプレイヤー事情を一切把握していない為に仕方なかったと思いながらも自身はとんでもない事をアーチャーに向けて言ってしまったと考えてしまった。
後悔の感情に囚われそうになったセリニにアルーセは言葉を向ける。
「別に問題ないと思うわよ」
軽い声色で語ったアルーセはそのまま続けた。
「アーチャーちゃんも自身が有名になった事は他のプレイヤーから言われて知ったみたいで無頓着みたいだから」
「そう……なんですか」
「ええ、町を歩いている時にアーチャーちゃんが自身が有名な事を初めて知る場面を遭遇したんだけどね、とても驚いていたわ」
「驚いた」
自分自身がツインファンタジーワールドを遊び始めてから驚いてばかりであった為にその話を聞いたと同時にセリニは共感できた。
「それにピンチのプレイヤーを遠距離から弓矢で援護して助けたりととてもいい子よ」
「弓矢で」
アルーセはアーチャーに関する事を話した。その中にセリニにとって他人事と思えない情報があった。
――あの時……。
セリニの脳裏に浮かんだのは巨木から川に落ちた後の自身を襲おうとした巨大な狼に突如直撃した矢であった。
――アーチャーさんが援護してくれたのかな?
――もしかして黒い騎士の人はアーチャーさんに合わせて。
その流れで矢が直撃した後に現れた黒い馬に乗ったプレイヤーの事をセリニは思い返した。
――うん……今は関係ないよね。
しかし目の前にアルーセがいる状況で他のプレイヤーの事を考えるのは失礼だと思えたセリニは思考を無理矢理塞き止める。
――アルーセさんも……黒い騎士の人を知ってる?
ふっとそんな事を考えたセリニだがそれを心の奥に仕舞うとアーチャーと自分が言葉を交わした結果どうなるのか。その結論を口にする
「アーチャーさんと会話したらそこが注目されるのは当然ですね」
普通に対話をしただけで他のプレイヤーが見ていた理由をセリニは反省した声色で口にする。
――アーチャーさんを見ていた視線をわたしは勘違いしただけ。
――その後の視線は……アーチャーさんと話していた……それが理由で……。
――わたしを見ていた人は……誰もいない。
それを口にすると同時に胸の内にて自身ば思い違いをしていただけだと断定する。
「――それ以外にも理由があると思うけど」
しかしアルーセはセリニの考えを否定する様な事を口にする。
「他にも……理由があるんですか?」
それを聞いたセリニであるが最早自身で考えても行き止まりであると判断――分からない為にアルーセに問う。
「――」
するとアルーセはセリニを見定める様な視線を向ける。
――な……なんです。
普段とは異なる視線を感じたセリニはどうしてそうするのか理解が追いつかない――しかしそれを直接口にする度胸はなかった。
「貴女が気にならないならそれでいいわ、けど別の理由があった。それだけは覚えておいてね」
はっきりとした口調で紡いだアルーセ――されどもその内容は聞いた者にとっては曖昧模糊で満たされたものであった。
「――はい」
故にその言葉の意図を一切の理解ができないセリニは淡々と返事をした後に首を傾げる事となった。




