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第35話 銀髪弓使いは上位者から

「話をしたい……それにお礼……ですか?」


 言葉の意味こそ分かるが自身にその言が向けられている事実に驚愕したセリニはとりあえず言葉を返した。


 ――ど……どうすれば。

 しかしそれ以上の言の葉が繋がらないセリニは表情こそ変えていないが身体の中で何かがあたふたと動き回っている様な心持ちとなってしまっていた。

 その折――アルーセが話を再開する。


「話しはともかくとしてお礼は唐突よね」


 ――どっちも唐突……な気がします。

 口にする勇気がなかったセリニは聞こえた言葉に心の中で突っ込みを入れる――無論それはアルーセに届く事なく言葉はそのまま続いた。


「貴方が戦ったゴブリン集団はわたしを狙っていた」


「え!」


 そうだったとは全く知らなかったセリニの全身に寒気が奔る。


 ――わ……わたし……横取りを……。

 余計な事をしてしまったと感じたセリニは何を言えば分からない為に混乱しそうになった。


「けれどその時のわたしは連戦が原因で戦う余力がなかったのよ」


 しかし次の言葉を聞いた刹那に寒気が消え去り始めた。


「だからあの時、セリニちゃんが現れてゴブリン達と戦ってくれて本当に助かったわ、ありがとう」


 屈託のない声でお礼を言われたが寒気こそ完全に消え去ったが先まで何も知らなかった為に一切の実感が湧いていなかった。

 流石にそれを心の隅に置いておく事はできないセリニは申し訳ない色合いを伴いながら表に出した。


「あの……わたしは戦いたいからゴブリンと戦った……だけなんですけど」


「それは構わないわ、わたしはお礼をしたいだけだから」


 するとアルーセはセリニの言葉が想定の範囲内であった様子を見せる。


「そう……ですか」


 アルーセの声は明るい色合いで本心を告げている事に気づいたセリニはそれ以上言葉を重ねるのは避ける事にした。


「お陰で無事に木を運べたわ」


「木……ですか?」


 フィールドで拾えるアイテムの中に木片があり、それを拾ってアイテム欄にあるセリニであったがそれを運ぶ発想が浮かばなかった為に声に疑問の色が混ざった。

 

「技巧力を上げると木を伐採できるスキルを自動で習得できるのよ」


「そんなスキルが」


 上げたステータスによってできる事が変わる事にセリニは驚いた。


「もう一つの習得手段として木こりのクエストを進めると習得できるわ」


「クエスト……」


 その話を聞いたセリニであったがある疑問が沸き上がり、恐れながらその事を口にする。


「その……木は普通の攻撃で伐採できると思うんですけど」


 アルーセが一度この場から離脱した直後に起きた戦闘の余波でセリニは木を叩き折っていた。

 それ以前にもしていた事の為に抱いた疑問であった。

 

「ええ、できるわ。そして()()事も出来る。けど質が落ちるし量も少なくなるのよね」


「質……量ですか?」


「そうよ、質が悪い木だといいアイテムができないの、それに運べるけど、折角運んでも量も少なくなるわ」


 ――いろいろあるんですね。

 木の伐採だけでも様々な事柄がある事を学んだセリニは先から口にしている『運ぶ』の部分に興味が湧いた。


 ――けど……きっと……そういう事ですよね……。

 しかし木をどの様に運ぶかは先までの会話から既に予想していたセリニは違うかもしれないと考えながらもアルーセに尋ねた。


「あの……運ぶのに使うのは馬車ですか?」


「そうよ、流石に気づくわね」


 ――よかった。

 心の中で一息吐いたセリニにアルーセは言葉を紡いだ。


「倒木になった木をアイテム欄に収める事も可能よ、けど一つのアイテムとしてしか入手できない。だけど馬車を運んで町まで運ぶと複数のアイテムになる」


「だから……馬車に乗ってたんですね」


 良質なアイテムを一度で沢山入手できる手段があるのなら自身も活用したいと思ったセリニは納得する。


「けど明確にメリットがあると同時にデメリットもあるのよ」


「デメリット」


 聞こえた言葉を返したセリニは利点であるアイテムを起点として発生する欠点は一つしかないと思えた為に口にする。


「駄目な事をすると、アイテムを失うとかですか」


「そうよ、運んでいる時にモンスターの攻撃を受けて馬車が壊れる。そうすると中のアイテムも消失するわ」


「馬車は……壊れる事があるんですね」


「ええ、おまけに壊れると次に使う時は修理費が必要になるわ、それが中々の金額よ」


 ――運ぶのも面白そう。

 ――けど馬車を使うには事前にゴールドが必要。

 ――言ってないけど作る時にもゴールドを使う事になりそう。

 話を聞いている最中に沢山のアイテムを溜めて一気に町に運ぶ。そんな状況も楽しいかもしれないと思えたセリニは今後の事を考えて引き続きアルーセの話に耳を傾ける。


「後、馬車を所有するプレイヤーのHPが0になった時は町に戻されてアイテムが消失するわ」


「HPでも……クエストみたいですね」


「そうね、アイテムを町に運ぶクエストみたいなものよ」


 そう言われたセリニは同時にある事に気づいた。


 ――もしかしてアルーセさんがお礼をした理由。

 ――ゴブリンに倒されたら運んでたアイテムが消えてたから?

 馬車内のアイテムの仕様を知った結果、その様な予想をしたセリニ。


 ――聞く必要はないよね。

 偶然助けた以上の事は無い為にその話をぶり返すのを避けたいセリニは心の中に留めておくを決めた間にアルーセは別の話題を口にする。


「今は木がプレイヤーの間で特に売れるのよ」


「木が売れる……」


 言われた物が売買される光景が脳裏を過ったセリニはゲームの中でどの様に使われるのか想像した。

 

 ――そのまま武器……違うよね。

 木を持ってモンスターと交戦する人々――刹那だけ原始的な物語で起こりそうな光景が浮かべたセリニであったがそれを掻き消すとある建物を建築が浮かび上がった。


「もしかして……家を作るのに使うんですか?」


 オンラインゲームではプレイヤー専用の家を作成できる。そんな話を爽陽さやがしていた事を覚えていたセリニはその可能性をアルーセに尋ねた。


「使う事になるかもしれないけど違うわ」


 しかしそれは即座に否定される。


「武器作成とか色々と使えるけど、今は木炭を作成するのに使うわ」


「木炭?」


 全く想定していない物をアルーセが言った為にセリニは首を傾げる。


「料理に使うのよ……それはともかく」


 話を流したアルーセ。

 聞いていたセリニもゲーム内の料理に関して興味こそあるが今は関係ないと思った為に深く訊ねようとは考えもしなかった。


「家ね」

 

 アルーセが新たに口にした事はセリニが数秒前に出した単語であった。


 ――駄目な事を言……言ってないよね……。

 それが耳に入った瞬間に寒気を感じていたセリニにアルーセは口を開いた。


「もしかして、マイハウスが欲しいのかしら?」


「マ……マイハウスですか!」


 緊張状態で未知の言葉を聞いた為にセリニは驚きながらも反射する様に早口で聞き返した。


「ツインファンタジーワールド内のプレイヤー専用の家の事よ」


 そんな様子を見ていたアルーセはクスッと笑いながら自身が口にしたそれを説明する。


「プレイヤー専用……」


 アルーセが口にした言葉を瞬時に理解したセリニは即時に答えた。


「欲しい……です……とても」


 ――ゲームの中でものんびりしたい。

 オンラインゲームである為に周囲に別のプレイヤーがいる事は当然と考えるセリニだが――それでも一人でいられる空間があるならそれに越したことないと思っていた。

 それ故にアルーセが言った事に対して食いついた。


「ならよかったわね、七月のアップデートで追加される()()()()()()で実装されるわ」


 自身が望んだものが後々に得られると言われたセリニであったが同時にアルーセが話した別の事が気になった。


「マイワールド……ですか?」


「詳細はまだ分からないけど、プレイヤーだけの世界みたいね、マイハウスはその世界の中にある家の事よ」


「プレイヤーだけの……世界」

 

 詳細こそ分からないが耳に届いた言意げんいはセリニにとって魅力的なものであった。


 ――でも……簡単には手に入らないよね。

 しかしゲームである為に入手するには何らか手順が必要であるとセリニは予想した。


「ゴールド集めないと」


 とりあえず想像できた手段の一つをぽつりと呟いたセリニ――するとアルーセは落ちた雫を掬い始めた。


「入手手段の一つはゴールドよ」


「そう……ですか」


 ――やっぱり……ゴールド集めもしないと。

 聞いたからにはマイワールドを手に入れたいと思ったセリニは心の中でこれからするべき事の一つだと決心する。


「けど今だけの入手手段があるわ」


「今……だけ?」


 先にまだ実装されていないと話したのにその様な事を言い始めたアルーセにセリニは疑問を口にする。


「メガロスクエストよ」

 

「メガロスクエスト?」


 ――何処かで……聞いた様な。

 アルーセが話した事をそのまま返しながらもセリニはメガロスクエスト――その単語を聞いたのは初めてではないと思えた。


「メガロスクエストは全プレイヤーが同時参加可能な超大型のイベントクエストよ」


「全……プレイヤー」


 その規模を聞いて驚いたセリニに向けてアルーセは話していた話題との関連性を口にする。


「個人成績が上位者になると――賞品としてマイワールドとマイハウスが手に入るのよ」


「賞品……ですか……つまり」


「ええ、上位者になれば無料で手に入れるも同然よ、後に設置する設備にはゴールドを使うことになるけどね」


 その話を聞いたセリニにとってその賞品は途轍もなく嬉しい。欲しいと思った。だがしかし歓喜雀躍かんきじゃくやくとなる事はない――冷静な面持ちであった。

 その理由は明確である。


「ですけど……上位にならないと駄目ですよね」


 ゴールドを節約して手に入る。

 とても魅力的に感じるセリニだが自分以外のプレイヤーもその賞品を目当てにイベントに参加するだろうと思えた。

 故に手に入れるのは至難の業だと即時に認識できた。


「そうよ、上位になる候補達で有名なプレイヤーである数多の名前付なまえつきもきっと揃って参加するわ」


 ――名前付き?

 言葉の中によく分からない単語が混ざっていると気づいたセリニ――しかしそれが無に帰す程の衝撃を受ける事となる。


「貴女が()()()()()()アーチャーちゃんも参加するでしょうね」


 アルーセがさりげなく口にしたのは――セリニがツインファンタジーワールドで初めて会話したプレイヤーの名であった。

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