第33話 銀髪弓使いは初対面から
「黒き浸透もいいけど漆黒飛刃も……悪くないね」
周囲を警戒しながらセリニは大きい声を出すゴブリンを仕留めたスキルの事を考えていた。
――漆黒飛刃は攻撃に効果を与えるスキル。
――影の刃を飛ばす。
暗影への序開を習得することで得たスキルがどの様なものなのか効果こそ絶大で有用性があるが使用する事が好ましくない理由がある三つを除いて既に一度は発動していた為に先の戦いで発揮していない効果をセリニは把握している。
――やっぱり蹴りのところにもダメージがある。
漆黒飛刃は自身の攻撃に合わせて発動するスキルであったがその攻撃にもダメージが発生する。それを二度目は直接攻撃も当たる距離で使用した為にセリニは気づく事になった。
――黒き浸透とかもあるけど。
だが直接攻撃に使用するなら他にも適切なスキルがあった。
――こっちには別の使い方がある。
漆黒飛刃の斬撃部分の与えるダメージはプレイヤーの攻撃力が関係する。その点は黒き浸透と同じである。
――貫通するから。
――頑丈なモンスターにも通用する。
そして相手の防御力を無視してダメージを与える効果がある。硬い敵との交戦して苦戦したゲーム経験があった為にその効果の利便性をセリニは理解できた。
――けど……威力を上げる事は出来ない。
貫通ダメージ故なのかプレイヤーに一時的なステータスの上昇が発生して、敵側にステータスの減少が発生しても斬撃部分のダメージ量が上昇しない仕様であった。
――……浸透なら。
だが黒き浸透の場合は一時的に上昇したステータスの数値がダメージ量に関わる。
二つのスキルを脳裏で比べていたセリニだがとりあえずの結論を出した。
「使い分けが大事って事だね」
そう言った直後にセリニの目の前にパネルが出現する。
「アイテム……スキル?」
先にレベルが上がったばかりの為にそれを除いた事を口にしながらセリニはパネルを見ると現れた文字を口にする。
「『スキル欠片・騒音』?」
それは初めて見るものであったがとりあえず取得したセリニはそのままパネルを操作してアイテム欄を確認した。
「ある」
すると他のアイテムと同様に欄に収まっていた。
「スキルの……欠片?」
しかし初めて見るものである事に変わらない為に疑問を言葉として紡いだその瞬間――セリニの耳朶に届くのは草を揺らしながら何かが歩み寄る音。
「スキルの欠片を手に入れられるなんて運がいいわね」
それに連なる女性の声が突如背後から聞こえた事に驚いたセリニは反射的に前に跳躍して距離を離す選択をした。
――さっき……聞いた。
手頃な地点であった巨岩の上に直地していたセリニであったが聞こえたそれは一度だけ届いた端正な女性の声である事に気づいた。
――なら敵じゃない。
何故かこの場に再び姿を現したこと以外に関しての驚きは皆無であった。
そして警戒する必要性はないと判断したセリニは身体を声がした方向に変えながら着地すると恐る恐る相手の姿を見た。
細身で長身な女性でセリニよりも頭一つ大きい。髪色は萩色。髪型はシンプルな長髪で腰に届いていた。
目の色は赤く、顔立ちは整っていて真面目な雰囲気であった。
服装は白いロングコートに黒いズボンの組み合わせであり、黒い手袋と靴を履いている。
――な……なんだろう?
――わ……わたしに……何か?
理知的な風貌で何らかの研究する人の様な姿だと思いながら顔を逸らしたセリニに向けて女性は話を始めた。
「その動き……あの戦闘の時もそうだけどやっぱり只者じゃないわね」
唐突に気軽な口調でその様な事を言い始めた女性であったが全然話が見えなかったセリニは少しだけ勇気を出すと相手が何者なのか問いかける。
「その……わたしとあなたは初対面……です……よね」
物陰から聞こえる様なぼそぼそとした声でセリニは今の自身と女性の関係を口にする。
「初対面な事は間違いないわ」
セリニの疑問を女性は肯定する。
「けどわたしが――」
何かを言い掛けた女性だったが一度それを塞き止めるた後に再び喋り出した。
「そういえば名前を聞いていなかったわ」
――わたしも……この人の名前を知らない。
その言葉に心の中で同意したセリニは自身の名前を名乗ろうとしたがそれよりも先に女性の声が届いた。
「わたしの名前はアルーセよ」
「アルーセさん……」
相手の名前を呟いたセリニであったが自分も名を言わないといけないと気づく。
「わ……わたしはセ……セリニです」
――ゲームの名前を言ったよね。
間違えても現実の名前をゲームの中では口にしない様にと爽陽から重ねて言われていたセリニは自身がゲームでの名前を言えていたのか不安を抱く。
「セリニちゃんね」
――言えてた。
相手がセリニと口にした事で自身はちゃんとできたと安心感を抱く。
――見……見られてる。
緊張から色々と考えて無言の最中にアルーセからの視線をセリニは感じる。
自身に何かあるのかと思い始めている間に声が聴こえる。
「このゲームにお似合いな名前でセリニちゃんにも似合うわね」
「え……」
いきなりその様な事を言われると考えてもいなかったセリニは困惑する最中にアルーセは先に話そうとした事を口にする。
「セリニちゃんからしたらわたしとは初対面だろうけど、わたしは違うのよね」
「?」
アルーセからそんな事を言われたセリニは緊張感が上書きされる形で疑問符が頭部の上に現れる気持ちとなった。
――ここで以外で……見た事ない人。
直視できない為に瞥見にてアルーセの容姿を確認する。
一目見れば心に留まりそうな印象の長身美人な女性だが記憶の中にはないとセリニは感じ取る。
――なら……いつ?
故に疑問が膨れ上がっているセリニだがアルーセの言葉はそのまま続いた。
「わたしがセリニちゃんを見たのはこれで三回……じゃないわね、三回目の時は倒されたからこれで四回目よ」
「やっぱり……あの時の……人」
状況からほぼ確信していたセリニであったが少し前にゴブリンの魔法の不意打ちによって倒されたプレイヤーがアルーセであった事を改めて確認する。
「ええ、あの時は油断したわ――だから今回の対策は万全」
そう言うとアルーセは右手を前に出す。すると出現するのは粒子であった。
――武器を出す。
その正体を看破していたセリニはどんな物が出現するのか興味を抱く間にある形に固定された粒子は消失するとアルーセの武器が現れる。
しかしそれは想定していた物と形が全く異なっていた。
「?」
目に映る物が武器なのか、それとも何らかのアイテムを出現させたのか判らずに困惑していたセリニにアルーセは話しかける。
「これがわたしの武器よ」
アルーセの手元に出現したのは灰色に塗られ、黒い装飾品が施された壺であった。
「壺が……武器……ですか」
そう言われたセリニであったが自身がイメージする武器と繋がらない為に困惑を隠せなかった。
だが少し考えるとツインファンタジーワールドを開始した時に見た武器一覧に一際目立つ『壺』があった事を思い出した。
――選ぶ人……いるんだ。
今でも武器とは思えないセリニは目の前のプレイヤーの選択に驚いていた。しかしそれを声として表に現す勇気はなかった為に心の中に留める。
その間にアルーセは――
「【壺秘術・仮初め之小鳥】」
唐突にスキルを発動させる。
「!」
想定していないタイミングであった為にびっくりしたセリニは反射的に一歩後ろに下がるがその間にもアルーセが持つ壺にも目を向けていたお陰でスキルで何が起きたのか把握できた。
壺が微かに光ると同時にその内側より白く輝く手のひらサイズの小鳥が出現した。
「――可愛い」
警戒心が一気に薄れたセリニが素直な感想を漏らす間に小鳥はアルーセの頭の上に留まる。
「でしょ? けどそれだけじゃないわ。この子も少しだけだけど戦う事ができるのよ」
「戦う……」
アルーセの話を聞いたセリニは戦闘に関わる事を急に混ぜた事から、先までの会話を含めて唐突に小鳥を呼び出した理由を推測すると思わず口にする。
「その……もしかして……周囲にその鳥が飛んでいて……ゴブリンとか……狼……ルプスを倒しているんですか?」
「している事は概ねその通りよ、けどこの子を呼び出したスキルとは違うわ」
「そ……そうなんですか」
アルーセと会話を続けるセリニであったが困惑の色が強まっている。
その理由は現れた小鳥が自身の頭の上に止まっている為であった。
――可愛いけど……攻撃してこないよね。
どんな内容のスキルか知らない為にセリニは不安に駆られる。
「けど万全とは言えないわ」
アルーセがそう口にすると同時に壺が粒子となって消失――続いて小鳥も消え去った。
「いなくなった……」
スキルで生み出された存在故にそうなると想像できたセリニであったが恐怖と同時に愛着も湧き始めていた為に少しショックを受けた。
「――ホブが現れても二体までは対処できるかもしれないけど、それ以上は無理」
数秒の間を取った後に言葉を続けたアルーセであったがよく分からない単語が混ざっていた為にセリニは尋ねる事にした。
「あの……ホブ……は何の事です?」
「ホブゴブリンの事よ」
「ホブゴブリン?」
「大柄なゴブリンよ、あのゴブリン集団の中にはいなかったけど見なかった?」
『大柄』と言われると同時に誰かの攻撃によって切り裂かれて消滅した大きいゴブリンの存在が頭に過ったセリニは「見ました」と答えた。
――集団?
同時に大量のゴブリンの事を口にした事が気になったセリニにアルーセは言葉を続けた。
「それがホブゴブリン――大柄だけにHPと攻撃力は高いけど、防御力はそこまでないからセリニちゃんなら余裕で倒せるわ」
断言する様に言ったアルーセ――それを聞いたセリニに疑念が生じる。
――どうして?
自身の事をその様に評価するアルーセであったが――何故その様に評価するのかセリニの身体の内側は疑問で埋め尽くされている。
――間違いなく……初対面……ですよね?
乖離している距離感を感じながらセリニは――アルーセに対して自身が抱く疑問を言葉に変えて尋ねる事にした。




