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第31話 銀髪弓使いは油断から

 数秒前に人が消えて深閑とした空気となった中心に巨岩が置かれた広場に新たな――それは否だ。 

 その人物は既に一度現れている。

 紫の衣装を纏い、髪を白銀色に染めたプレイヤー――セリニが百草を突き破りながら姿を現した。

 手には既に弓と矢を携えている。


「……」


 手早い動作で弓に矢を番えたその刹那――追う様に新たに登場するのは剣を持つゴブリンであった。

 至近距離に近づいたゴブリンの得物たるその剣は既にセリニに向けられていた。 


「これで普通のゴブリンは最後」


 だが揺り動こうしたその刹那に淡々と紡がれるセリニの言葉と共に放たれた矢が直撃した事でゴブリンの身は霧散する。


「後二体……だったよね?」


 そう口にしながら周囲に目を向けたセリニだが巨岩が目に映ると同時に驚きの感情が身体に奔る。


「え! ここって……」


 そんな彼女の姿を捉える影が一つ――それが立っていた場所は植え付けられた木の枝の上。

 その姿はフードを被ったゴブリン。油断するその背後を見た一弾指いちだんしに手にする短剣の刀先を対象に向けると同時に奇声を上げながら跳躍。

 凶刃と共に降下するが――


 ――叫びのおかげで()()()()()()

 今の形勢を心の奥底で冷たく呟いたセリニは素早い動きで後ろに下がる。

 それが終わると目の前にゴブリンが地面に落下する。その手の短剣が地面に突き立つ。


 ――叫びが聴こえなくても何とかなったかな。

 誰にも聞こえない確信の呟きを身体の内に置きながらセリニは隙だらけなその姿を確認すると弓本体に力を込めた後に振り下ろしてゴブリンの頭部に強烈な一撃が直撃する――それは振れる攻撃ならば素手や蹴りでも使用できる溜め攻撃でその効果は威力と衝撃値が1.2倍上昇である。

 その後に起きた光景を見ながら少女は喜びの声を出した。


「やっぱり」


 意識しながらモンスターの頭部に攻撃を仕掛けたのは初めてであったセリニ――大きく体勢を崩したゴブリンを見るとある事に気づいた。


 ――頭を当てると怯みの時間が少し長い。

 ――蹴りが当たった時も……そうだったね。

 攻撃を当てた部位によってダメージの数値が変わるゲームはよく遊んでいるセリニであったが怯み時間に変化が起こるゲームは遊んだ事がない為にその事に気づいた時は半信半疑であったは今の一撃でそれは明確に示された。


「今なら」


 敵が動けない時間が長いなら丁度いいとセリニはいつもと違う動きをする。

 それは跳躍。そこからの後方宙返りであり――宙に浮いた足はゴブリンに直撃する。


 ――できた。

 体勢を崩さずに難なく空中で一回転した後に着地したセリニは怡悦いえつな心持ちとなった。


 ――あの時は……その場しのぎだったけど。

 ――意識してやれた。

 今いる広場に戻ってくる前の事を少し思い返したセリニ――しかし目の前のゴブリンはまだ倒れていない。

 それを倒す事に意識を向けてる故にゴブリンの状態に変化が起きている事に即時に気づいた。


 ――動かない……ショック状態。

 攻撃を連続で仕掛けた事でゴブリンの姿は隙だらけであった。


 ――それなら……。

 確認を終えた後に彼女の内に宿るは強い探求心――それは即座に行動で現れた。

 跳躍したセリニはそのまま前方に回転を開始。


 ――蹴れるよね。

 先に後方に回りながら蹴りを繰り出して成功したセリニの次の狙いはその逆であった――成功を願うあまり自然とその足に力が入ったその瞬間――


 ――この感覚。

 先の蹴りの時に感じなかった感覚が足の全体を覆う。

 それが何なのか刹那の狭間だけ困惑するセリニ――だがそれは先に意図的に使用したゲーム内の技の感覚と同一だと気づくと同時に足を振り下ろした。

 その一撃は強烈な衝撃音を伴いながらゴブリンに直撃する。


「ボールみたい」


 蹴りを終えたと同時に着地したセリニは自身の攻撃で弾んで空中にいるゴブリンが目に留まる。


 ――空中でも溜め攻撃はできる。

 目の前の光景と蹴りが当たった時の感覚からセリニはその様な推測に至る。

 そんな彼女の推測は正しく空中にいる時に溜め攻撃の準備、及び攻撃を仕掛ける事が可能なのは仕様であった。

 但し空中で溜めを持続――或いは溜め攻撃をしている途中で地面に到達すると硬直時間が発生する弱点が存在する。


「隙だらけ」


 だが空中にいる間に攻撃を終えたセリニの時間に硬直は非ず。

 故に既に攻撃を仕掛けており――ゴブリンの姿は粒子となって消失している。


「最後も蹴り」


 その一撃はセリニから出された言葉どうりであったが――朧気に揺れる音が耳に届く。


「最後じゃない」


 自身の言葉を撤回したセリニは一秒考えた後に後ろに跳び退く――着地した刹那に先まで立っていた場所に飛来した一本の短剣が突き刺さる。


「最後の一体」


 敵は単体ではなく二体いる。それを事前に把握していたセリニの視界の先に現れるのはフードを被ったゴブリンであった。


 ――周りにはいない。

 対峙しているモンスターが目の前のゴブリンしかいない事を把握したセリニの心に余裕が生まれる。


 ――油断はしないけど。

 ――もう一度蹴りだけで戦える。

 そうこう考えているセリニであったがその間に地面に刺さった短剣を回収したゴブリンが飛び掛かり、凶刃が宙を裂く。


 ――隙がある。

 一歩動いてその一撃を回避したセリニの眼前には宙に陣取るゴブリンがいる。


「今なら」


 淡々と呟いたセリニは一撃を加える。それは蹴り上げ。ゴブリンは宙を飛び――溺れる様に身体を動かしながらそのまま落下する。


 ――追撃で倒せる。

 その姿を見たセリニは落下した時の隙に矢を撃つだけで終わると判断――しかし。


 ――隙だらけで周りに誰もいない。

 ――なら……。


「別の倒し方をしていいよね」


 ワンパターンな倒し方だけでなく、様々な倒し方を考える事が好きなセリニは敢えて矢を番えずにその場で待機する。


 ――数は……。

 並行して倒す方法として暗影あんえいへの序開じょかいのスキルの使用する事を決めていたセリニは自身の視界内に表示されているゲージのかずを見る。

 

 ――()()

 ――その内に無くなるから使わないと。

 手早く確認を終えると落ちてくるものを注視。

 するとゴブリンが目の前に現れその刹那――片足を上げながらセリニは目的しか興味が無き冷たい声色でスキルの名を口にする。


「【暗影流出あんえいりゅうしゅつくろ浸透しんとう】」


 声に呼び出される様にセリニの内より姿を現すは黒き影。

 それは瞬く間に上げられ動く寸前であった片足に集束――そして地上に落ちる寸前であったゴブリンに衝突する。


「――!」


 影が霧散すると同時に轟音が響き渡り――蹴り飛ばされたゴブリンは声にならない音を上げながら広場の中心の巨岩に激突した。


「……」


 それを見るよりも先に弓矢を構えていたセリニは追撃する為に前に出る。


「終わった」


 しかし巨岩に激突したゴブリンは粒子となって消失した。


「二回で倒せた」


 攻撃回数を口にしたセリニは驚きの色で満たされていた。


 ――レベルが上がって攻撃力にもステータスを振ってるけど。

 ――武器を持っている時に素手で攻撃すると四分の一の威力になるのに。

 驚きの根幹を心の中で呟いたセリニであったが――ちょっと考えると何故そうなったのか想像できた。


「スキルの時は蹴りでも普段の攻撃力になる?」


 最後の一撃がスキルでの一撃であった事からそんな予想を口にするセリニ。

 その彼女の予想は当たっている。武器を持っている時の素手でのダメージ量は基本的に四分の一であるがスキルが加わった時は武器による一撃と同等のダメージを与えられる仕様であった。


「スキル……」


 流れでスキルの事を考え始めたセリニは溜息を吐いた。


 ――戦闘の時にスキルを口にすると変な声になるの。

 ――治らない。

 普段は問題ないのに戦いの時に声色が変わってしまう。それを訂正しようと頑張っているセリニであったが功が奏する事は一切ない。

 

 ――そろそろ慣れてもいいと思うのに……。

 ――なんか逆に……ひどくなってる気がする。

 考えるとマイナス側に思考が向いている事に気づいたセリニは思考を別方向に向ける為に巨岩に視線を移動する。


 ――岩は壊れない。

 勢いよくゴブリンと衝突した巨岩であったが砕け散る気配は一切ない。


「木は壊れるのに」


 吹き飛んだゴブリンが衝突した結果、倒木が発生する場面を数分前に目撃していたセリニはそんな感想を口にすると同時にパネルが目の前に出現した。


「レベルが8に」


 現在のレベルを確認したセリニであったが他にも表示される情報があり、それに目を向ける。


「スキルを習得」


 それは自身にとって有意義な事であった為にセリニの意識はスキルに向いた。


 ――今度のはどんなのかな。

 少し前に別のスキルを習得していた故に思った事を心の中で漏らしながらその名を口にする。


「【特化強化とっかきょうか脚力きゃくりょく】……特化?」


 初めて見る表記であった為に疑問が生まれたセリニであったがとりあえずスキル説明を読む事にした。


「蹴り攻撃の時、最終威力が10%上昇……レベル1でそんなに上がるんだ」


 今迄のゲーム経験からそんな言葉が飛び出たセリニであったがスキル説明の続きを見終えると同時にそれにはからくりがある事に気づいた。


「変わりに拳での攻撃時、最終威力は10%下降……デメリットありのスキル」


 習得する事で下がる部分がある為かパネルには特化強化とっかきょうか脚力きゃくりょくを習得するかしないかの選択肢が現れる。

 それを確認したセリニであったが現れる前から選択は既に決めている。


「習得……腕は矢と弓で塞がれているから使う事はあまりないよね」 


 今迄の戦いからそう見識したセリニは選択を選ぶが眼前に現れているパネルは消える事も無く、新たな文字を表示される。


「もう一つのスキル!」


 二つも習得できる事は想定していない為に強い喜びを感じながらセリニはどんなものなのか内容をチェックする。


「【仕込み短剣・脚部きゃくぶ】……また変わったスキル」


 口にしながらどんな事が可能になるのかセリニは確認しようとした。


「どんな取得条件なんだろう?」


 しかし連続してスキルを手に入れた根幹の部分に興味が向いたセリニは先にそちらを見る事にした。


特化強化とっかきょうか脚力きゃくりょくは拳での攻撃を使わないで蹴りでモンスターを攻撃を当て続ける倒し続ける事で獲得できる……」


 口にしたと同時にセリニは少し前の事を思い返すと該当しそうな事を自身はしていた。


 ――魔法を使えるゴブリン一体を見つけたから、蹴り攻撃の練習で蹴っていたね。

 魔術師タイプの敵であれば不意を突かれる事はないだろうと考え、様々な蹴り方を試していた自身の行動が反映された。

 そう考えると習得した事に納得できたセリニは続いて仕込み短剣・脚部きゃくぶの取得条件を確認した。


「大体の条件は特化強化とっかきょうかと同じ……違う点は……サブ武装が短剣である事」


 自身が選んだ弓のサブ武装は短剣である為に習得条件を満たしている事を把握したセリニだがその一方で首を傾げていた。


 ――サブ武装……使えないんだよね。

 暗影あんえいへの序開じょかいを使用する為に短剣の使用を封印している事からセリニの頭には疑問が生じていた。


 ――とりあえず確認しよう。

 その疑問を解決する為に習得したスキルの内容に目を向ける。


「スキルを手にすると右脚部と左脚部にそれぞれ一刀ずつ仕込み短剣を装備可能となる……楽しそう!」


 ゲームにて登場人物の手甲から刃が飛び出す場面を見ただけでそのキャラを使いたくなった経験があったセリニは底意からの喜ぶが溢れた。


「効果は刃部分に鍔迫り合い、飛び道具も弾けて、短剣の能力を付与。攻撃力は蹴りでの攻撃の数値に短剣の攻撃力の半分を加える」

 

 とても興奮したセリニは仕込み短剣の詳細を口早に表に出す。

 だがそれは誰かが近くにいたら奇行に見られる事に気づくと慌てて口に手を当てる。


 ――誰もいないよね。

 周囲に目を向けて人影が皆無である事を確認したセリニは黙々とスキル説明の続きを見た。


 ――このスキルにもデメリットがある。

 特化強化とっかきょうか脚力きゃくりょくと同じ様に装備すると損失するものがある事の確認ができた。

 その為だろう。スキルを習得するか否かの選択肢が出現していた。

 スキルを入手する事は決めていたセリニであったが目は通す事にした。


「一つはサブ武装が装備不可能になる」


 その点は暗影あんえいへの序開じょかいと同じだと気づいた。


「二つ目は蹴技しゅうぎ関連のスキルの習得が不可能になる……蹴技しゅうぎ?」


 初めて聞く単語に疑問を抱いたセリニだがその答えはすぐに現れる。


「もしかして蹴り関連の攻撃スキル」


 漢字の繋ぎから予想する。

 そしてその予想は的中しており、このまま蹴りによる攻撃を続けていけば蹴技しゅうぎを習得する事が可能となる。

 されどもその事実を知らない。そして仕込み短剣・脚部きゃくぶの興味心を奪われていたセリニは一考さえ刹那に終幕となる。


「仕込み短剣は習得だね」


 パネルのボタンを押してスキルを習得したセリニはそのままパネルを操作して自身の装備品を見る。


「仕込み武装が装備できる」


 確認を終えて安心したセリニであったが疑問は生じていた。


暗影あんえいへの序開じょかいでサブ武装は装備できないけど……いいのかな?」


 そんな事が頭を過る。それに近い疑問を別のスキル得た際に抱いたとあるプレイヤーが既に運営に質問をしていた。そして回答は既にされていた。

 仕様の穴を踏み倒してスキルを構成する事は運営側も意図したものなのでスキル構成に活用して問題ないとの事であった。

 しかしその様な話が進行しているとは露知らずなセリニは迷う事となったが――


「装備できるなら大丈夫だよね」


 仕込まれた武器を使いたい。その思いが強かったセリニは細かい事は気にしないで状況を受け入れた。


「早速装備しよう」


 善は急げと実行に移したセリニ――しかし。


「あれ……できない」


 スキルを習得したのに装備不能とパネルに表示されて驚きそうになったセリニだが装備できない理由が同時に判明した事で落ち着きを取り戻した。


「仕込み武装を装備するには二本目の用意……」

 

 追加された装備欄は二つあり、二本の短剣が装備可能であった。しかし右足だけ短剣を装備して、左足にはなにも装備しない。その選択は不可能であり、仕込み武装は両足に短剣を装備する事が絶対条件であった。

 そしてセリニが現在持っている短剣は『始まりの短剣』の一本だけであり、使用条件を満たしていなかった。


「つまり……もう一本短剣が必要」


 状況確認を兼ねた言葉が表に出たセリニはこれからどうするか考え始める。


 ――武器はゴブリンから入手しているけど剣と斧だけ。

 既にそれなりの数のゴブリンを倒していたセリニはドロップアイテムとしてゴブリンから武器を入手していたがそれらは今の様相に左右される物ではなかった。


「短剣の為に一度町に戻ろう……」


 今のセリニが最優先にしたいのは仕込み武装を装備する事であった為に新たな短剣が確実にもう一本手に入る場所に行こうと口にしたその途端に――


「ならいい話があるわ」


「!」


 突如背後から端正で落ち着いた女性の声が響き渡る。


 ――い……いきなり……何!

 予想さえしていないタイミングで知らない人の声を聴く事となったセリニは緊張で全身が震えあがり、心臓の音色が全身に広がり始める。

 

 ――油断してた。

 ――NPCで敵……それとも……他の人!

 気が緩んでいた事を自覚しながらも事態がよく分からないセリニはどうするべきか考え――それを即時に実行する事にした。


 ――とりあえず……離れる。

 その場で跳躍したセリニはそのまま巨岩がある方向に移動。

 着地すると同時に矢と弓を出現させながら前を見る。


「驚かせ……」


 セリニの目の前には既に知らない人物が立っている。 

 一体誰なのか確認しようとしたが――


「――――!」


 意味を成す人語とは思えない叫び声の如き大音量の言葉の羅列が森林の中に響き渡る。


 ――これって……。

 不快感さえ抱かせる声であったがセリニは聞いた事があると思い。一秒程思案すると似た特徴がある声と一致している事に気づいた。


 ――ゴブリンが魔法を詠唱する時の声!

 音量の差はまるでテレビの音量を一気に上げた様な大音量であると思ったセリニであるがそんな感想はどうでもいい事を察する。


 ――魔法が来る!

 詠唱された以上、攻撃が仕掛けられたも同然であり、セリニは全方位に視線を巡らせる。だが景色に変化は起こらない。

 しかしそれは当然であった――既に解き放たれた後であり魔法は既に直撃していた。


「え……」


 正面から硬い物が砕け散る音と戸惑う声が聴こえたセリニは視線を前に戻す、そこには女性が変わらずいたが――背後には氷の粒が散っている。


「油断……したわ」


 自虐的な色合いの声を漏らしながら女性が倒れると身体は粒子となって消失した。


「!」


 想定していない事が立て続けに起きた事によって面を食らってしまったセリニ――されども既に戦いの準備は整えている。


 ――どう来るかな。

 女性を葬った魔法を放った杖を携えてローブを着たゴブリン。そして隣に立つ既に弓矢を構えているゴブリンを見定めたセリニは動きの観察に徹している――その二体を穿つ事は遭遇した時点で既に決まっていた。

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