第28話 銀髪弓使いの幕間 その13
「雰囲気か」
そう呟きながら上空を見上げたヴェルフ。そこには青空が広がる。そしてよく見るととても疎らであるが数匹の鳥が飛んでいる。
今迄何度も見た事があったがそれらがモンスターである事を先に知る事となった。
「あれも倒そうと思えば倒せるんだろうな」
プレイヤーが放った矢が命中した事をレイヴンから伝えられていたヴェルフはそんな言葉を漏らす。
「必須でもない限りする気は起きませんが」
それにエクストは淡々と答えた。
「レイヴンは既にいませんね」
駆ける黒い翼を広げて飛翔した少女は上空にはいない。向かうべき場所に向かったのだろう。
ヴェルフ達も行くべきなのだが彼女と違って一瞬で向かう事が可能な為に焦る必要はなかった。
「けど始まったばかりのオンラインゲームで既にプレイヤーが飛べるってこのゲームはどうなっているんだろうな」
そんな疑問が頭の中に現れて、声として表舞台に姿を見せる。とはいえそんな事を口に出しても明確な答えが現れるとは思ってもいないヴェルフであったが……
「二作目故でしょうね」
その答えをエクストは臆する事なく口にする。
「二作目?」
具体性がある返答があるとは思っていないヴェルフは言われた事を反射的に口にした。
「ツインファンタジーワールド――ツインとワールド。それは二つの世界を意味しています」
エクストは突然そんなことをヴェルフに向けて言った
「合わせたらそうだろうね」
そのまんまの事を口にしたエクストにヴェルフは感情ない突っ込みを入れる。しかし気に留まる点もあった。
「二つの世界は何の事を現わしているんだい?」
口にした以上知っていると断定したヴェルフはエクストに問うとすぐに答えが返ってくる。
「一つは戦えるプレイヤー――私達が今いる世界。もう一つは戦う事が不可能なプレイヤーがいる世界ですよ」
「戦う事が不可能」
一瞬今遊んでいるゲームを全否定するかの様な事を聞いた心境となるヴェルフだが少し考えるとそれは既に知っている内容をエクストが話している事を自然と察する。
「試合を見る為に買ったプレイヤー達の町を言っているようだね」
「今は町だけですが」
肯定するヴェルフであるが同時に意味深長な事を口にするとそのまま言葉の羅列は続いた。
「後のアップデートでフィールドも追加されるようで、追加で課金する事で解放されます」
「フィールドが追加?」
「こちらの世界のフィールドと同じ形のフィールド、モンスターも種類こそ少ないですがいます。しかしこちらと違い友好的で敵対はしないようで、プロモーションを見る限りではモンスターを直接触れる事も」
とエクストは説明をするが一呼吸置くと。
「直接触れるモンスターはこちら側にもいますが」
と口にする。それがなんなのかヴェルフは察している為に聞くことはない。
「なんでそんな要素を?」
その時に浮かんだ疑問をそのまま口にする。
「綺麗な光景を安全に観たい、異世界の様な世界を観光したい。そういった人々の需要を叶える為だそうです」
理由を口にするエクストだが無関心な様子であった。
その訳はすぐに判明する。
「私達には関係ない話ですが」
その言葉の意味をヴェルフは独自に解釈する。
「フィールドに出たら戦う事が当たり前の俺達には確かに関係ないだろうね」
「そうですがもう一つの意味のもありますよ」
その解釈は当たっている事を口にしながらもエクストは更なる理由を口にする。
「戦闘要素が加わったバージョンのツインファンタジーワールドを一度でもプレイを開始するとそのプレイヤーは戦闘要素がない側の世界にログインする事が基本的に不可能になります。
故にレイヴンが現れる前に話したコロシアムの観戦も個別のサーバーで行います」
「ログインできなくなる。二者択一て事か」
片方しか遊べない事実を知ったヴェルフだが少し前まで知らなかった事もあり、それに関しては感情が沸かない。
「だけどどっちか片方しか遊べないのはどうしてなんだい?」
だが気になった点はあった為にその事を尋ねた。
知らないならそれでもいいと考えたヴェルフだがエクストはその疑問に対応する。
「ベータテストの時はどちらの世界も行き来する事は可能だったそうです」
「そうだったのか、俺は参加していないからな」
ベータテストがあるのは知っていたヴェルフであったがそれ以上の事は楽しみとして敢えて調べていない。
故に初めて知る情報であった。
「ですが――それがある原因で問題が起きてしまった様です」
その事を話したエクストであるがサングラスに触れながら見えない何かに呆れる様に溜息を吐き出した。
「問題?」
その様子が意味深長に思えたヴェルフはどういう事なのか更に問おうとしたが――
「とはいえ――今の状態には無関係な事もまた事実、これ以上は私が話すつもりはありませんよ。
故に今以上の情報を知りたければそちらで調べてください」
淡白でありながら真剣な声でこれ以上口で語るつもりはないと宣言するエクスト。
「――分かった」
それを受けたヴェルフはその言葉に従う事にした。
「だけど二度と向こうの世界を見れないのか」
VRでは動画が配信できない事を踏まえると言葉として出したのが当然だと思えたヴェルフ。
「二度とではないですよ」
しかしエクストはそれを否定する。
「可能なのか」
戦闘が不可能な世界に興味はないヴェルフだが、予想していない事であった為に手段が気になった。
「ツインファンタジーワールドの個人データを一度削除。その後、向こう側の世界に行けるデータをダウンロードして始める。向こう側の世界からこちらに移行する時も同じ手段ですよ」
「成程……その手があったか」
ありきたりなやり方であった為にヴェルフは納得する事が出来た。
「とはいえ一度削除すると1ヶ月間データを削除する事が不可能になります、また幾度も繰り返すと処分が下されます」
オンラインゲームのキャラクターは一日二日で完全に育てきる事はどんな人間であろうと不可能である。故にデータを削除する事を気軽に繰り返す事は基本的に有り得ない。
そう考えた故に話を聞いたヴェルフは「それはそうだろうね」とエクストに言葉を向ける。
「まてよ」
だが少し考えると手間や金こそ費やす事になるがオンラインでの手数を増やす手段がある事にヴェルフは気づいた。
――言っていいのだろうか?
しかしそれは例え話だとしても気が引ける内容であった。その為にどうするべきかヴェルフは考える。
――エクストなら最初から気づいてだろうね。
だがオンラインゲームをプレイした事があるゲームプレイヤーなら大抵思いつく方法である為に言ったところで然したる問題ではないとヴェルフは結論を出した。
「俺はするつもり一切ないんだけど」
「何の事でしょう」
「アカウントを二つにすれば好きなタイミングで二つの世界を出入する事が可能になるんじゃないかい?」
ヴェルフが口にしたのは単純で明快な内容であった。




