第25話 銀髪弓使いの幕間 その10
「そこまで戦いたいのならフォスと同じ様にある程度は……」
二人の雰囲気を察した様子のエクストが何らかの提案をしようとする。しかしそれよりも先にヴェルフが声を上げる。
「殲輪は何の事だい?」
口にしたそれはレイヴンの口から伝わった言葉。脳裏に届いた文字は明らかに造語であり、それが自身と関係ある様にヴェルフは思えた。
「少し前に話していたそれを考えれば自ずと察する事が出来るはず」
淡々とした色で紡がれるエクストの言葉――その意味を縫い合わせた先にある意味にヴェルフは直ぐに気づいた。
「俺の二つ名か」
『智将のエクスト』『黒翼のレイヴン』と目の前の二人が異名が付けられていた事を先に知ったヴェルフであったがそれは自身も同じであったと前触れなく叩きつけられた。
「本当は私が明かすつもりでしたが」
変わらない口調でエクストも既に知っていた事を明かした。
「いつ?」
「ある一人と言った事は覚えてますか?」
そんな事を話していたと覚えていたヴェルフだがその話を再び聞いた刹那に何を話そうとしていたのか結びついた。
「もしかして俺の事かい?」
「そのとうりです」
ヴェルフの問いに答えるエクスト。二人の会話を聞いてたレイヴンは口を挟んだ。
「そうだったんですね、わたしが先に明かしてすいません」
「別にいいですよ、どちらが言っても結果が変わるわけではありませんから」
「そうですね……間違ってなくてよかった」
心底安心した様子の呟きが聞こえたヴェルフは自身と関係がありそうと感じる。
「間違ってなくて?」
聞こえた事をそのままヴェルフが返すとレイヴンは慌てながら口にした言葉の意味を説明した。
「エクストさんと違ってわたしは殲輪のヴェルフが目の前のヴェルフさんと同一人物なのか分かりませんから」
「確かに同じ名前のプレイヤーがいる可能性もあるな」
ツインファンタジーワールドはプレイヤー名が被っても問題なく遊べるゲームである。その事を知っていたヴェルフはレイヴンが言いたい事の意味を把握する。
「ヴェルフさんがわたしが知っているプレイヤーなのか今迄分からなかったのですごく緊張してました」
照れくさそうに先までの心情を明かしたレイヴン。
それを聞いたヴェルフはある種の納得を得る。
「だからか」
実のところ、自身のプレイヤー名を明かしてからレイヴンは時折挙動不審な様子になってた事を気にしていたヴェルフはその理由を知った事で気持ちがすっきりした。
だが根幹部分がどうなっているのか知らない為にその事を問う。
「俺に二つ名が付いたのはいつからなんだい?」
それはとくに意味が無い素朴な疑問であるがとりあえず表に現した。
するとエクストが対応する。
「昨日からですよ」
「昨日か……」
「わたしの二つ名の『黒翼』はさっきです」
レイヴンの二つ名が何時付けれたのかを聞きながらヴェルフは更に問う。
「どうして俺に二つ名が付いたんだ?」
それはシンプルなものにして至極当然な事であった。それに対してエクストが回答する。
「それは私にも分かりませんよ、付ける側の人間ではない。しかし名前付きになるプレイヤーの傾向はある程度分かっています」
「傾向?」
「まず一つはコロシアムの戦績がほぼ無敗である事」
「無敗……俺は確かに負けた事は一度も無いな」
エクストからの指摘は外れていない為にヴェルフは肯定するがその内容に気になる点があったが――レイヴンが喋り始めた為に現れかけたそれを飲み込んだ。
「ほぼって何ですかエクストさん?」
レイヴンから出てきた疑問は自身の脳裏に過ったものと同等であった為に言葉にする事なくエクストの言葉で解とする事にした。
「その時点で名前付きだったプレイヤー。もしくは後に名前付きになるプレイヤーと引き分けか負けた。そうなった場合も二つ名が付けられている事が確認できます」
「二つ名同士なら、勝ち負け引き分けがあるのは当然って事かい?」
聞いた話をまとめた事をヴェルフ。聞いたエクストは当事者でない為か「おそらくそんなところでしょう」とぶっきらぼうな調子で返した。
「二つ目は圧倒的な実力である事でしょうか」
「大雑把だな」
具体性がなく釈然としない内容を口にしたエクストに対して呆れ口調で反応するヴェルフであった――逆にレイヴンは納得する様に頷いていた。
「とても理解できます! 名前付きの人と何度かコロシアムで戦ったことがあるんですけど、圧倒的な威圧感を感じました」
「圧倒的な威圧感――」
レイヴンが口にしたそれを追言するヴェルフ――すると脳裏に二つの映像が浮かび上がる。
一つはレイヴンがゴブリン達を蹴散らす光景である。それは鮮明に映り込んでいる。
だが二つ目の映像は大半の部分に靄がかかってはっきりと見えない。明確に確認できるのは自由自在に振られる大鎌だけであった。
――何で今?
浮かんだ映像に唐突感を抱いた故に心の中に疑問が零れる。
されども数秒前に呟いた事を思い起こすとそれは合致したとヴェルフは確信する。
――圧倒的な威圧感を感じた瞬間か。
それはレイヴンが話していた事が自身の経験の中にあった事を告げていた。
――なら大鎌使いは……。
故に脳裏に突如現れた登場人物の正体に心当たりができた最中――エクストの声が届いた。
「三つ目は……これは違うかもしれませんね」
自信なさげな様子を見せるエクストを珍しく思えたヴェルフだが言及は避ける事にした。
「二つ名のプレイヤーと互角の勝負を繰り広げる」
それを聞いた瞬間、エクストがあまり乗り気でない理由をヴェルフは察する。
「エクストは名前付きのプレイヤーと戦った事がないようだから、違うと思うのかい」
エクスト自身が口にしていた事を仕切り直す様にヴェルフが言うと「そういう事です」と繋がりを認める返答がくる。
「そうだったんですか」
内に現れた驚きをレイヴンは表に現した。
「わたしとヴェルフさんは戦った事があるからエクストさんも経験があると思ってました」
「ツインファンタジーワールドは色々と注目度が高いゲームですから、そのぶんプレイヤー人数も多い。
故に戦いたいプレイヤーと戦えないのは仕方ない事ですよ」
「なるほど」
そんな二人の会話を聞いていたヴェルフだがそれが途切れると同時に自身が関わる部分を問う。
「俺も二つ名を持つプレイヤーと戦った事があるみたいな事を言ってたんだけど」
交差する会話の中に自身の名が混ざっていた事をヴェルフは指摘する。
「はい。わたしと同じでヴェルフさんもコロシアムで二つ名を持つ人と戦った事があります」
先に話した事を再度口にするレイヴン。聞いた事が気のせいでない事を認識したヴェルフは戦闘した異名を持つ者に関係ありそうな事を二人に尋ねた。
「もしかしてその名前付きの武器は大鎌かい?」
「おや? そうですが」
ヴェルフが二つ名に関して知ったのは今日である事を知っているエクストはサングラスに触りながら驚いた様子を見せる。
「もしや私が知らないところでも有名なプレイヤーですか」
自身が知らない伝手から共通の情報を得ていると思った様子のエクストの物言いであった。
「いいや。俺はその人の名前さえ分からないよ」
知らないプレイヤーである事は間違いとヴェルフは言う。するとそれ聞いていたレイヴンは口を開いた。
「もしかして強い人だったから印象として残っている。みたいな事ですか?」
レイヴンが言ったその羅列は心の中に現れた映像そのものであったとヴェルフは抱く。
「まさに君が口にしたとおりさ」
故にヴェルフはレイヴンの言葉を全肯定する。
「成程……つまり貴方は二つ名はともかくとしてプレイヤー名は知らない様ですね」
妙な言い方をしたとヴェルフが感じる胴中にエクストはそのまま言葉を奔らせる。
「私が知る限り――貴方が対峙した二つ名は始まりの七人の一人である『死神』。プレイヤーの名はモルスですよ」
「『死神』か……確かに言っていたな」
覚えがある事をヴェルフが口にすると同時にレイヴンも喋り出した。
「わたしが知っている事と同じですね、因みにミストフォロスに所属していて、わたしと同じくらいの身長と同年齢な女の子ですよ」
詳しい事を口にしたレイヴンにエクストは反応を見せる。
「詳しいですねレイヴン。貴女方は知り合いですか?」
直球な事を言ったエクストに「そんな訳」と反応する寸前となったヴェルフであったが――それよりも先んじてレイヴンの屈託のない明るい色の言の葉が場に響き渡った。
「知り合い――と言うよりもフレンドですね」
何気ないエクストの推測は見事に的中していたのだった。




