第23話 銀髪弓使いの幕間 その8
「一掃完了です! エクストさん! それと……ヴェルフさん」
周囲は黒き羽が散り――その最中に黒き翼を背中に納めたレイヴンは状況を二人に告げていた。
「流石ですねレイヴン」
淡々としながら誉め言葉を口にするレイヴン。
「確かにそうだね」
ヴェルフもレイヴンの言を肯定する。
しかし驚きもあり、周囲に目を向けながら心の中で呟きを落とした。
――殲滅か。
レイヴンは一人で三十匹のゴブリンを倒しきった。
正直その点に驚きはない。何せ三十匹のゴブリンと戦闘したとしても同じ様に倒しきる自信がヴェルフにはある為だ。
――あの戦い方で。
だがそれでもヴェルフの心の内に驚きの波紋は広がっていた。それを引き起こす要素は目に見えるものである。
――翼だけでこれだけのゴブリンを。
レイヴンがゴブリン達との戦闘時に使用した武器は――武器と表す事が正解なのか困惑する背中から生えた二対の黒羽であり、彼女はそれのみで戦い抜いた。
――翼を翼として使っていない。
そして翼の本来の役割である空への飛行をしていない。
――スキルも未使用。
更にこの場に到着した時に使用していたスキルも一切使っていない。
――翼を振るっただけで終わらせた。
詰まる所――レイヴンは先の戦闘で一切本気を出していなかった事にヴェルフは気づいていた。
――だが。
――手を抜いている様にも見えない。
しかしそれでも動きは流麗かつ鋭利なものであり、何も知らずに本気の戦いと誰かから紹介されたら、納得できるものであった。
――異名で呼ばれる様になったのは伊達でないって事か。
ゲームにその様な仕様があるわけでない。様々な人々が好き勝手に言っている事である為に二つ名を軽く認識していたヴェルフであったがそれを改める必要性があると底意から抱いた。
そして同時に少し前に知った事が脳裏を通り過ぎる。
それは試合を観戦する為だけにツインファンタジーワールドするプレイヤー達の事であった。
――お金を払ってでも見る価値があるかもしれないな。
他のプレイヤーの戦いを見るだけの立場になったのは初めてであったヴェルフはレイヴンがゴブリンを蹂躙する姿を直に見た事でその様な所感が反芻された。
「あの……ヴェルフさん?」
その最中にレイヴンの声が過ぎる。少し驚きながら視線を向けると黒い仮面が自身を見ていた。
「なんだい?」
「エクストさんと話している間に無言だったので」
そうレイヴンは話す。それを聞いたヴェルフは一人で考えている事が中断される事がなかった理由に気づいた。
「君の戦いぶりに驚いたからさ」
隠す理由がなかった為にヴェルフは無言であった間に考えていた事の一部を口にする。
「二つ名を付けられた理由はある。なんて考えていてね、君ならフィールドボスを倒しきったのに納得さ」
「そうですか、ありがとうございます」
言葉を受けたレイヴンは嬉しそうな仕草を見せる。
「ですけどわたしなんてまだまだです、今回のキングオブ・ゴブリンとの戦いだって、他に二つ名を持つプレイヤーがいましたから」
「やはりでしたか」
サングラスに触れながらエクストは淡々としている。彼が口にしたとうりの状況であると察したヴェルフはどんなプレイヤーなのか訊ねようとしたがレイヴンは自ずと話始める。
「あれは……弓だからアーチャーさんで……もう一人はツヴァルトさんですね」
「アーチャーとツヴァルトか」
アーチャーに関しては始まりの七人の一人として既に聞いたプレイヤーの名前である。しかしツヴァルトに関しては初聞であった。
「アーチャーの事はさっき知ったけど、ツヴァルトか」
そんなヴェルフにエクストが答える。
「ミストフォロスに所属しているプレイヤーで堅靭の二つ名で知られています」
「堅靭……防御力が高そうなプレイヤーだね」
名前以外何も知らない為に漢字から想像した事を表に出すヴェルフ。
するとレイヴンは「きっとそうですね」と是認する。
「両手に盾を持つ人でした。ツヴァルトさんがキングオブ・ゴブリンの攻撃を引き付けてくれたから、わたしは攻撃に専念する事ができました」
「一人で攻撃を受け続けるか……凄いな」
フィールドボスの攻撃は苛烈なもので一撃一撃が強烈である。故に避ける事なら自身でも可能であるが、攻撃を一人で受け続けて生存する事は耐久方面にステータスやスキルを振り分けても難しいものであり、ヴェルフはそのプレイヤーに感心した。
「他にも人はいました」
しかしレイヴンから一人で相手をしていた訳でないと口を挟まれる。
届いたヴェルフは一人で攻撃を引き受けたと一言も口にしていない事に気づいて納得する。
「騎士なプレイヤーと一緒に戦ってましたね」
「騎士ですか……その姿のプレイヤーは町に戻ればよく見ますね」
エクストは淡白に一言差し出した。鎧の恰好をした人々は様々な場所で見かけるのは確かな為にヴェルフは理解する。
「そうかもしれないですね」
レイヴンもそれを理解している事を笑みが込められた色合いで口にする。
「だけどあの人は別格な気がします、すごく騎士でした」
だが即座に反論した。それを聞いたエクストは好奇心を向けた様子で相槌を打つ。
「もしやツヴァルトと実力が拮抗するプレイヤーと?」
「あまり見てなかったですけど、苦戦はしている様子はなかったです」
「成程。興味深い」
そう話したエクスト。隣で聞いていたヴェルフはある予感が身体に浸透するとその予感を口にする。
「ギルドに誘うつもりかい?」
返答は直ぐに現れる。しかしそれはエクストではない。レイヴンからであった。
「きっと無理じゃないですか」
レイヴンが介入するとは想定していなかったヴェルフが面を食らう中、エクストは現れた言葉の真意を問う。
「無理とはなぜ?」
「キングオブ・ゴブリンと戦っている時に何度も魔法で援護している人がいたんですよね、それと倒した後に十人以上の集団と合流していたんですよ」
「十人以上……それは確かにギルドの為に集まったメンバー達と考えるべきでしょう」
「確かにそうだろうね」
レイヴン達の言い分が事実を表しているだろうとヴェルフは思った。ところがエクストはあまり関りがなさそうな事を語り始めた。
「故に先の三十匹のゴブリンが現れたのでしょう」
「関係あるのかい?」
率直な疑問をヴェルフは表す。
「現れた数は確かにいつもより多かったですけど」
同じ疑問をレイヴンが口にするとエクストはそれに答え始めた。
「フィールドボスが出現すると周囲のモンスターにも影響があります。その事は知っているでしょう。その影響は行動にも反映される。今回の場合は集団を見つけたリーダー格のゴブリンが対抗する為に軍団を集めた。それ故に三十のグループが生まれた」
「でしたらどうして今ここに現れたのでしょうか?」
当然の疑問を口に出すレイヴン。それにエクストは即座に答える。
「おそらくですが三十の集団が結成されたと同時にキングオブ・ゴブリンが討伐された事でフィールドボスのエリアに留まる必要がなくなり、プレイヤーの集団に遭遇する事なく他の場所に移動した結果。ここに現れた。適正レベルのプレイヤーであれば大苦戦していたでしょうが二つ名を持つプレイヤー達の前に現れたのが運の尽きでしょう」
断言する様に言い放ったエクスト。淡々と聞いていたレイヴンは相槌を打って納得している様子であった。
黙々と聞いていたヴェルフも特に言う事がなかった為にそれ以上の追及をせずに、話題を元の方向に戻す事にした。
「結局その集団は誰が中心のギルドなんだろうね」
言いだしっぺのヴェルフはその言質を果たすべくどの様な人物が率いているかと考えた。
「もしかしてオスクロの」
そして口にしたのは先にヴェルフが戦いたいと口にしていたギルドを結成するプレイヤーの名であった。
「オスクロさん?」
その言を聞いたレイヴンは疑問の色を表に出していた。
それに気づいたヴェルフは問う。
「違うのかい?」
「実は集まった人の一人が姉さん。と言ってたんで」
「姉さん……つまり女性プレイヤーがその集団のリーダーって事かい?」
「そこまで詳しくは……全部は見てないので」
話し終えたレイヴンはエクストに顔を向ける。
「私も知りませんよ」
無言の疑問に対して解が無いとエクストはサングラスに触れながら答える。
だがそれでも止まる事なく留めなく言葉を流す。
「とはいえ今は有名でないプレイヤーの中に強者がいるのは間違いないでしょう」
言いたい事を概ね把握したヴェルフは猛者達と関わる事になる可能性のイベントの事を口にする。
「メガロスクエストにも出るだろうね」
そのイベント名を口すると反芻する様にレイヴンも「メガロスクエスト」と真剣な口調で反応する。
唐突な反応である為に驚くヴェルフを尻目にエクストもその単語に笑みを浮かべると感情的な色合いで満たされた二の句で応じた。
「それは望むところ、素材集めが私達の目的ですが、強者と戦う事は私個人の望みでもありますから」




