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第22話 銀髪弓使いの幕間 その7

「故に私達はここにいた訳です」


「そんなバグが発生していたんですね」


 説明を終えたエクストにレイヴンは納得していた。


「それに……ヴェルフさんが二つ名の事を知らないなんて……エクストさんが事前に話してなかったら、大恥をかくところでした」


 心底恥ずかしそうな色合いでレイヴンは語る。


「まあ驚きはするな」


 二つ名を知った後でもレイヴンが黒翼こくよくと語った。それには少々面を食らっていた為にヴェルフはその言葉を否定する事は難しかった為に苦笑いを浮かべる。


「だけど遠見とおみまなこのバグが直る事が分かったのは良かったですね」 

 

 レイヴンが話した事は傍から聞くといきなりな発言に聞こえるかもしれない。だが――この場にいる者達全員が共有している情報であった。


「まさか話している最中さなかに通知がくるとは」


 冷静な様子のエクストであったが驚きも少量ながら含まれている。


「もう少しで始まるイベントのついでに流したのだろうか」


 軽い調子でそんな事を口にするヴェルフ。その場にいる全員が思い返すのは数分前の出来事だった。

 エクストがレイヴンに遠見の眼のバグの事を話した直後に運営から複数の通知を届いていた。

 その一つがバグに関するものである。フィールドのモンスターがボスと同じ挙動となってしまうバグが修正される事が書かれていたが他にも修正される事があった。

 それが遠見の眼が対人戦でのみ発揮する筈の効果が常時発生してしまうバグに関するものであった。


「聞いた直後に遠見の眼のバグが修正されるなんて思いませんでした」

 

 素直な感想を話したレイヴンはとても喜んでいる様子であった。


「嬉しそうだね」


 その姿に思わずヴェルフは口を開いてしまう。


「そんなに驚いたのかい?」


 バグに関して話した直後にどの様なものなのか試してほしいと言った為にヴェルフは遠見の眼でレイヴンを見た。すると彼女は紫の衣服を纏うプレイヤーやエクストと同様に即座に視界から外れる動きをした。

 その姿を見ていた故の言葉であった。


「その……わたしはそんなに驚かなかったんですけど」


 控えめな様子で話したレイヴン。しかし前置き前提の話であり、そのまま言葉を紡いだ。


「ゲームを始めたばかりの頃にいきなりそれで見られたらとても驚いたと思います」


「成程」


 それを聞いたヴェルフの脳裏には紫衣を着たプレイヤーの姿が現れた。


「あ……ヴェルフさんは悪くありませんから、そんなバグが起こってるなんて想像できません」


 レイヴンはヴェルフを気遣う。紫衣のプレイヤーを遠見の眼で見た事によってバグが発覚した事は既に彼女に話していた。


「顔に出てたか」


「出てました」


「ならレイヴンも話したプレイヤーがこの場から離れたのは遠見の眼の威圧感が原因と」


「はい! 間違いないですね……エクストさんが後を追えないなら動きが速い人なのかもしれません」


 即時にレイヴンは断言する。

 自身以外、遠見の眼を習得していない為にヴェルフは見られた時の感覚を体験していなかった。


「そうなのか」


 その為にヴェルフは他のプレイヤーの感覚を信じる事にした。


「ならちゃんと謝らないとな」


「そうですね……けど相手が覚えてないかもしれませんね」


「覚えていない?」


「はい。遠見の眼の威圧感は強力なモンスターと対峙した時の威圧感に近いです」


「あの感覚か」


 モンスターの威圧感とは頻繫に対峙している為にレイヴンの説明にヴェルフは納得できた。


「だから説明してもどの時の事は分からないでその人は逆に困惑するかもしれません」


「成程」


 レイヴンの言い分をヴェルフが理解したその時、エクストが質問をする。


「レイヴン、貴女は町からここまで飛んできた。その時に他のプレイヤーを見かけませんでしたか?」


 エクストが口にしたとおり、空を飛べるのであれば何か発見があると思えたヴェルフは空から降りてきたプレイヤーに目を向ける。


「見てないです」


 レイヴンは淡々と答える。


「この付近は殆どの場所が木で覆われて、上から見てもわからないんです」


「そういえばそうですね」


 言われた事で思い出したのかエクストは了解した様子であった。

 同じく聞いていたヴェルフは周囲を見る。

 今立っている場所こそ開いているが別の場所は木々から生えた葉っぱが空を遮っている。


「イベントの時になら川を泳ぐ人を……」


 そんな独り言を呟いたレイヴン。それを聞いたヴェルフは興味を持った。


「イベントの時に川に?」


「はい」


「大量にモンスターが出現したあのイベントですか」


 少し前に森林を両断する巨川の近くで起きたイベントであると察したエクストは少し考える仕草を見せた後に解を得たのかサングラスに触れながら口を開いた。


「おそらくですがイベントから離れる為ですね」


「離れる?」


 一攫千金のチャンスの時にそんな事をする必要性があるのか分からないヴェルフは困惑する。


「どうしてそんな事を? せっかくの素材を得るチャンスが」


 同じ疑問をレイヴンも抱いたのかエクストに直球の質問をする。


「逆に聞きましょうか。貴女がもしレベルが低い時に複数の強敵と戦うイベントに遭遇したらどうします?」


 問いに問いで返したエクスト。


「わたしのレベルが低い時……」


 対してレイヴンは少しの間を挟んだ後に答える。


「適わないなら逃げるしか」

 

 その答えを聞いたヴェルフも同意見であった。

 しかし同時に漠然としたエクストの問いの意味を把握した。  


「エクストさん。もしかして川を泳いでいたのはレベルの差に気づいてモンスターから離れる為に」


 ヴェルフが既に気づいた事をレイヴンは口にする。


「状況から見て間違いないでしょう、イベントが発生したフィールドは始めたばかりのプレイヤーがレベル上げや素材集めする場所でもありますから」


 問いの意味を答えたエクスト。するとレイヴンは物事を

思い出す仕草を見せる。


「そういえばレベル上げしてたら、いきなり現れた強いモンスターに瞬殺された。みたいな事を口にしている人達がいました」


「まあ当然でしょう、イベントで現れたのは場違いに強力なモンスター。何も知らず踏み込んだら為す術なく倒されるのは必然。故に川に飛び込んで離れるのも一つの手段として有効ですよ」


「町の近くでイベントが発生したらそんな事も起こるんだな」


 起きた流れを軽い調子で総括したヴェルフ。同時に今の話をこれ以上広げる必要が皆無と感じたのかレイヴンは別の事を話し始めた。


「ここに向かっている時に沢山の木が倒れている場所がありましたね」


 目新しかった情報を口にするとそれぞれ反応を見せる。


「また伐採をしているのか」


「馬車も保有してるので大量の木材を再び町に運ぶつもりでしょう」


 二人は周知している様子であり、それに勘づいたレイヴンは追求する事にした。


「もしかして二人の知り合いですか?」


「いいえ、知り合いではありませんよ」


 そうエクストは否定するとヴェルフが続けて話した。


「ここに向かっている途中に見かけたのさ、大量の木を切っているプレイヤー。多分だけどレイヴンが見た場所は違う場所だろうな」


「違う場所?」


 一回しか見ていない為に何を言いたいのか読めなかったレイヴンは困惑の声を浮かべる。


「私とヴェルフが見たのは馬車に伐採した木々を移動した後に町に戻る光景。故にそのプレイヤーは再び木々の伐採にこの周辺に訪れたと考えられる」


 語った内容に納得しそうになったレイヴンだが、エクストは更に言葉を繋いだ。


「まあ私達が見たプレイヤーと貴女が見たプレイヤーが同一人物でない可能性も考えられますが……レイヴンが見たのはどんなプレイヤーがでしょうか?」


「プレイヤーの姿は見てないです」


「成程、なら同じ人物なのか分かりませんね」


 その言い分に納得こそしたレイヴンは些細な事だが気になる点が二つ思い浮かんだ。


「あの、なんとなく気になるんですけどその人ってどんな服装でした?」


「白いロングコートを着ていたな、髪色はピンクだったよ」


 と、ヴェルフが答えた。口にした言葉が全てであったレイヴンは追求せずに別の事を尋ねた。


「その人は木を集めてどうするつもりなんでしょう?」


 手に入れた素材は全て売って金にしている為に大量の木を集める理由が判らなかったレイヴンは二人に尋ねる。


「言われてみると……なんでだろうな?」


 ヴェルフもその意図が読めなかった様子を見せると視線をエクストに向ける。


「他にも用途がありますが……主に木炭ですね」


「「木炭!」」


 エクストから飛び出た単語はファンタジーらしいものを予想していた二人にとって想定外であり、驚きがシンクロした。


「なんで木炭を作るのさ」


 呆れ口調で訊ねたヴェルフ。それが届いたレイヴンは無言で二度頷くとエクストが答えた。


「色々と作成しているようですが……最近は焼き鳥を作成する事が多いようです」


「焼き鳥ですか」


 簡素な色合いでレイヴンは呟いている。


「焼き鳥……店で買えるだろう?」


 ヴェルフはその料理がツインファンタジーワールド内で購入できる事を知っている為にその点を突いた。


「確かに買えますが、プレイヤーが調理した方が美味しいんですよ、店売りの料理よりもプレイヤーが作成した料理の方がステータスがアップします」


 料理を食べると一時間の間プレイヤーのステータスが上昇する。その効果は料理の味によって異なる。

 他にも周囲の木に生えているリンゴの様に嗜好品としての食事も可能であり、どれだけ食べても現実の身体に影響を与える事がない為にそちらを目的とするプレイヤー達も多い。


「そして一部のプレイヤーの間ではより美味しい料理を作る競争が起きている様で」


「そんな競争が起きているんですか」


「美味しさによってステータスの上昇値があがるのかい?」


 と、ヴェルフが聞くと「それは関係ないですよ」と答える。


「ステータス上昇に関わるのは味のみ」


 詳しくない者が一聞すると味と美味しさに差が無い様に思える――だがヴェルフ。そして聞いていたレイヴンにはその意味が通用していた。


「なら美味しさを求めるのはどうしてなんだい?」


 疑問を表に出したヴェルフにレイヴンが応じた。


「モチベーションが上がるんではないのでしょうか? 甘い――でなくて美味しいもの食べると元気になりますから」


「そんな所みたいですよ。最高品質の料理を目指して何度も調理する。最近のブームは焼き鳥で調理の為の木炭が必要となる。故に素材の木の需要が高まってます」


 エクストが一度言葉を切るとレイヴンは訊ねた。


「大量の木々を町に運んでるのはその為ですか」


「そうでしょうね、町でも木は買えますが……フィールドの方の木が買われる理由の説明は不要ですね」


 二人の意思を問う事なく話の終言を一方的に告げるエクストで。しかし彼が話した通り、細かい事を聞かされる蓋然性は二人になかった。


「町に帰ったら誰かが作った焼き鳥でも食べるのもありかな」


 そんな傍らヴェルフは特に意味がない独り言を零しながらふっと上に目を向けたその刹那――異様に揺れる枝の音が耳に届いた。


「ん?」


 その音にヴェルフが気づくと同時に誰かからの視線を感じとる――そして視界に映りこむのはフードを纏り、短剣を得物とするゴブリンであった。


「出るか」


 敵対モンスターが出るのは当然――気概は常にそれ。

 故にヴェルフは武器を出現させて迎撃しようとする。


「!」


 しかしそれは適わない。

 視界を断つ様に現出した黒き翼にてゴブリンの身は両断され――既に消失していた故。

 そして場には凛としたレイヴンの声が届いた。


「この場はわたしに任せてもらいます」


 黒き装飾を纏うレイヴンの身体には墨の如く黒き二つの翼が出現している。


「私達の出番はないですよヴェルフ」


 サングラスに触れながら冷静な様子のエクスト。


「数は多いけど……」


 周囲を見るとモンスター達が群を成していた。

 三人で話している間にゴブリン達に囲まれていた。

 その総数は三十体であった。

 その状況に手を貸そうと思ったヴェルフだが――レイヴンは既に杖を持つゴブリンに接近していた。


「黒翼にお任せを!」


 レイヴンは楽しそうに異名を紡ぎながら敵の蹂躙を宣言する。

 並行して黒衣の少女の黒き翼は舞う。

 黒き羽を散らして――場を乱すゴブリンを切り裂きながら。

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