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第20話 銀髪弓使いの幕間 その5

「今気づいたんだけど」


 喋ろうとしていたエクストよりも先んじてヴェルフは自身が聞きたい事を口にする。


「俺達はキングオブ・ゴブリンを倒す為にここに来たんじゃないかい?」


 ヴェルフが訊ねたのは本来の目的に関する事であった。その為に二人は町からフィールドに出ていた。


「その事ですか」


 指摘されたエクトスであったが想定の範囲内の事である為にサングラスに触れた後に落ち着いた口調で言葉を返す。


「無論忘れていませんが、フォスが話していたプレイヤーの方を優先しましたので」


「それはそうだけど」


 エクトスが話したそれはヴェルフも承知していた事であった。だが交わす言葉を最小限にするべきだった。そう考え始めたが……


「それにかなり前に討伐を終えているでしょう」


 エクトスは事務的な口調で語る。


「既に」


 ヴェルフは手元にパネルを出すとフィールドの様子を確認する。


「終わっているね」


 そこには異常の表記がないフィールドが構図が記されている。


「もしかしてバグを報告した時に確認していたのかい?」


 エクストがパネルを出現させたタイミングから想像したヴェルフ。


「見ていませんよ」


 だがそれは即座に否定される。


「推測ですよ」

 

 淡々とした口調で答えたエクトスは予想の源をヴェルフに明かした。


「モンスター大量発生のイベントを終えた記念に大人数の祝賀会を覚えていますか」


「勿論」


 それはフィールドに出る前に参加していた事である為にヴェルフは当然記憶していた。


「実は参加していたメンバーの中に()()()()()()分を含めると名前付きが五人以上確認されている」


 そして続けて話した事は二つ名に関わるプレイヤーが関わる様子であった。

 どうしてそのプレイヤー達がキングオブ・ゴブリンの話と関係しているのかとヴェルフは疑問を感じる。

 しかし今迄聞いた情報が脳裏を過ぎると疑問は瞬く間に晴れると言葉を止めたエクストに向けて言い放った。


「祝賀会を終えた名前付きがキングオブ・ゴブリンと戦った。そんな事が起きたのかい?」


「ええ、そういう事が起きた様です、寄り道をした時点で他の者に先を越されるのは予想範囲内ですよ」


 そうエクストは自信満々に言い切った。


「けど俺の所為で寄り道が無駄になった」


 自身が遠見とおみまなこを他のプレイヤーに向けて使用した事が原因となって会話する機会を失っている事を自覚していたヴェルフは自虐的に語った。


「仕方ありません、あのようなバグは一度起きなければ気づきようがない」


 それに軽く触れたエクストは話題を元に戻す言葉を口にする。

 自負心で満ち足りた声色で――


「故に対策はとっています」


「対策?」


 言い切ったエクストに対してそれはどういう事なのかヴェルフが訊ねたその瞬間――静かなる風で覆われた空間に異なる大きな足音が紛れ込んだ。

 それが耳に届いた二人の視線は既に音が鳴った方向に向けていた。

 草むらや木々を背景に立つのはホブゴブリンが一匹。そして取り巻きとしての五匹のゴブリンであり、剣。斧。短剣。弓。杖とそれぞれの個体が別々の武器を持っていた。


「ここはモンスターの出現数が少ないと思ってましたが……現れますよね」


 いつ戦闘になっても問題ない心持ちであった為にサングラスに触れながら状況を語るエクスト。


「にしても数が妙に多いような」


 そんな中ヴェルフは疑問を口にする。駆け出しだった頃、この周辺でレベリングをした事があったが、六匹の集団が一度に姿を現した経験がなかった為だ。

 その疑問にエクトスが答える。


「あれはキングオブ・ゴブリンが出現した時に姿を現した集団」


 フィールドボスがフィールドに出現すると同時にその周辺にはモンスターの集団も出現する。その為に本来ならフィールドボスに辿り着く為にそのモンスター達を倒さないといけない。


「今回は名前付きが短時間で倒した。故に取り巻きがフィールドに残ったまま、そんなところしょう」


 状況からの推測を語るエクスト。聞いたヴェルフは納得できたと同時に笑みを浮かべる。


「成程、つまりキングオブ・ゴブリンの残党って所か」


 そしてヴェルフはゴブリンに向かって歩み始める。

 その理由は無論――倒す為であった。


「ヴェルフ」


 だがエクトスの声を聞こえると同時に足を止める。


「貴方は先にホブゴブリンを倒した、故に次は私がやりましょう。周囲の警戒を」


 指示を出しながらエクストはヴェルフの前に出る。


「分かった」


 それを聞いたヴェルフは従う。数が圧倒的に不利であるが、それを軽々と覆す事を知っている。

 そしてエクストは右手を軽く振ると粒子が姿を現し―― 


「さて……」


 ヴェルフは周囲を警戒しながらも心に余裕を持って状況を見ようとしたが――つんざく風切り音が突如上空より木魂こだまする。


「!」


 予想外の出来事に驚きながらもヴェルフは視線を空に向け始めた。

 その最中に黒で覆われた塊がホブゴブリン達がいる地点に落下している事を気づいたその瞬間――黒い塊は着弾。

 森林をざわつかせる衝撃音が鳴り響いた。


「やれやれ」


 事が起きる中。エクストは呆れた色を声として表に出している。

 ヴェルフは黒い塊が落ちた事によって発生した爆煙に視線を向けていた。

 

「何が落ちたか」


 落下速度が速かった事もあり、色以外の要素が判らなかったヴェルフは警戒心を強める。

 そんな中、影が現れて――そのまま爆煙を突き破った。


「ゴブリンですか」


 エクストが淡々と口にしたとうり、現れたのは黒い塊に襲われたモンスターであった。 

 しかし――突然姿を現した暴風によって爆煙諸共引き裂かれてその身は消失する。


「……」


 何かが現れてホブゴブリン達を消し飛ばした――それだけは把握したヴェルフであったが何が原因なのか。その判別が出来ずに困惑するがひらひらとした黒い物が多数散っている。


「羽?」


 それは翼の一部分である事にヴェルフは気づく。そして同時に鳥型のモンスターが何らかのイベントで襲来したのではと警戒心を強める。

 その最中にエクストの声が聴こえる

 それは警戒とは程遠い呆れた色合いであった。

 

「相変わらずですね」


 エクストが口にしたその言葉は空から落ちてきた相手の正体を把握している。それを察したヴェルフは散る黒き羽の中を歩む黒き人影がいる事を視界に捉えると同時に――


「まだこんな場所にいたんですかエクストさん」


 真面目でありながらも清らかな空の流れを思わせる少女の声が場に響く。

 その声の主はエクトスとヴェルフの前で足を止める。

 その人物はひたすらに黒い。辛うじて靴とスカートの端が見えるフード付きの全身を隠す黒を主体に灰色で染まるマントを着込んでいる。

 頭部も同じ色合いで染まっている。フードを被っている為であるが顔も鴉の形で造形された仮面で覆い隠されている。そしてほんの少しだけ見える髪の色も黒であった。

 独創的なその恰好に面を食らっていたヴェルフに気づいた黒き少女は改める様に言葉を紡む。


「初めて会う方ですね、わたしの名前はれん……レイヴンです、よろしくお願いします」


 少し慌てながらも丁寧な口調で自己紹介をされたヴェルフは返そうとするがレイヴンはそのまま言葉を続ける。


「それと――本日から二つ名としては黒翼こくよくと呼ばれる様になると思います」


 しかし現れた言葉の組み合わせはヴェルフにとって想定外であり、目を見開いた。

 同じく聞いていたエクストは興味深い様子で頷いている。


「あ……ひょっとして二つ名の事」

 

 まごまごした。そして恥ずかしそうな色合いの声を表に現したレイヴン。その対象が自身である事に気づいたヴェルフはその心配が不要である事を明かした。


「このゲームのプレイヤーの二つ名の事はさっきエクトスから聞いたから大丈夫だよ」


 穏やかな声で語ったヴェルフ。それが届いたレイヴンは深い息を吐き出した。


「よかった……」


「そうですよ、しかし全ての人が二つ名の事を知っているわけではないので安易に口にするのは避けるべきですね」


 口を挟んだエクスト。それに対してレイヴンは「はい」と答えて頷いた。

 

「もしかしなくても二人は知り合いかい?」


 そんな様子を見たヴェルフは推測した関係を口にする。


「はい! 始めたばかりの時に助けていただいて、色々と教えていただきました」


 するとレイヴンは明るい口調で知り合った経緯を語った。


「まあそんなところですよ、レイヴンはVRMMOが初めてらしいですから色々と教えました」


「成程」


 二人の関係を知ったヴェルフは意外な関係に驚きながらも納得した。


「とは言っても私が教えた事は基礎――故にレイヴンに二つ名が付く程の実力があるのは、目標に向けての研鑽の結果ですよ」


「研鑽」


 エクストが口にした気になる言葉をヴェルフが呟いた直後。


「可能性があるなら目指したいじゃないですか、二つ名で呼ばれる事に」


 レイヴンは心底楽しそうに語った。


「そういう事か」


 現れた憧れに共感したヴェルフは頷くと聞きたい事を尋ねた。


「そういえばレイヴンは俺らのギルドに入るのかい?」


 ヴェルフは自分達のギルドにどの様なメンバーが入るのか全てを把握している訳ではない為にレイヴンがギルドメンバーの一人なのでは? 

 そう考えたが――


「何処のギルドにも入るつもりはありませんよ」


 きっぱりとした口調で告げる。そして考えたのと違う事を返されたヴェルフにレイヴンは意気揚々とした語調で自身の意思を伝えた。


「わたしは傭兵ですから」

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