第19話 銀髪弓使いの幕間 その4
「しかし由来に気になる点が」
サングラスに触れながら冷静な色合いで語るエクトス。それを聞いていたヴェルフはそもそも由来がどの様なものなのか知らない為に黙って聞くことにした。
「智将の由来は個人の実力以外にもチーム戦での戦績」
それはコロシアムのルールの一つであった。チーム対チーム。そして複数のチームによるバトルロイヤル方式が存在する
「私が入ったチームの戦績は常に良く。そして私が一度も倒された事がなく、敗北をした事が一度もない」
「指揮官として能力が評価された。そういう事だね」
エクトスとパーティーを組む事がよくあるヴェルフは彼の統率力の高さを知っている為に、由来の意味を納得する。
「だが敗北が無い事は運がいいだけですよ」
されどもエクトスはそれを了解していない事を口にする。
想定していない事を聞いたヴェルフはその流れに乗った。
「運がいい?」
「ええ、私は貴方と違って未だに後に名前付きになるプレイヤーや既に名前付きと戦った事がないので」
エクトスが話した内容の中にはヴェルフ個人として気になる点があった。しかし今は個人よりも全体を追う事を優先した。
「話の途中だけど……名前付きは何の事だい?」
会話の中に初めて聞いた単語があったとヴェルフは指摘するとエクトスは即時に答えた。
「二つ名を持つプレイヤーの事ですよ、最初は二つ名付きと呼んでいた。しかし語呂が悪いからと名前付きと呼ぶようになったと」
「……そこまで変わらない様に思えるんだけど」
差を感じないヴェルフの言葉に「私も同じです」とエクトスは応じる。
「まあこだわりというものがあるのでしょう」
そしてエクトスは話を戻した。
「無論、二つ名ではないプレイヤーにも私が倒さねば勝利できなかった強敵はいますよ。しかしながらやはり名前付きのプレイヤーが編成されたチームと戦った事がない状況であるが故に気になります」
「コロシアムの試合はランダムだからね」
コロシアムのモードの一つである練習であれば特定のメンバーと戦う事ができる。しかしクイックマッチ、及びランクマッチでのマッチングは完全にランダムであり、意図して特定のプレイヤーと組んだり、戦ったりする事は不可能であった。
その為に同じプレイヤーと何度も戦う事もあるが逆に同じプレイヤーと一度も戦えない。その様な事も起こりえる。
だからエクトスが公式の試合で一度も二つ名を持つプレイヤーと戦えていないのは仕方ない事であったとヴェルフは把握できる。
「プレイヤーが減れば当たるかもしれないけど、減ってる様子もないからね」
何度かコロシアムに通っているヴェルフは常に賑わっていいる事を知っている。
それは試合をしているプレイヤーが数多くいる事を意味しており、その意図を含めてエクトスに話す。
「おそらくその賑わいには少しばかり二つ名も関係していますよ」
「何故だい?」
今初めてプレイヤーに二つ名が付けられている事を知ったヴェルフはエクストの話に疑問が沸き上がった。
「私の知り合いの中にいるんですよ、二つ名で呼ばれる事を目標とするプレイヤーが」
ヴェルフにとって初耳な事であるが異名で呼ばれる。それに人によっては名誉であり――そんな出来事に憧れるのは理解できる為に「成程」と呟いた。
「募ったメンバー達の中にもいますよ、私みたいに有名になるとっか言ってましたね」
不特定多数のプレイヤーの事を話したエクスト。その集団はヴェルフにとっても知り合いである為に詳しく言及する必要性はなかった。
「それなら確かにコロシアムに人が多い事に関係しているかもしれないね」
「人が多い事はいいですが名前付きと戦う機会が減っているのは何とも」
サングラスに触れながら不満の感情を発露するエクストを近くで見たヴェルフはある願望を持っているのではと考えた。
「もしかして戦ってみたいプレイヤーがいるとか」
それは特定の人物が対象でなければ出てこない言葉だと思ったヴェルフにエクトスは応じる。
「ええ、いますよ」
すると隠すつもりが元から無いからかあっさりと答える。
「チーム戦で戦う事を望んでいます」
「チーム戦……なら指揮官として優秀って事かい?」
ルールを指定している。そこからヴェルフは推測した。
「統率力が高いプレイヤーですよ」
ヴェルフの問いに解を出したエクストはそのままプレイヤー名を口にする。
「オスクロ、二つ名は魔王です、私と同じ始まりの七人の一人」
「魔王か」
その名は聞くと同時に鮮明なイメージが脳裏に過る。
「映像越しで姿を見ましたが、正に魔王と評せる姿でした」
「姿だけではないんだろう?」
見た目装備を使えば外見をそれらしくする事は簡単である。その事を知っていたヴェルフの問いにエクトスは「当然です」と答える。
「彼もギルド結成の為に多数のプレイヤーと関係を築いている。そしてコロシアムでは前に出て積極的に戦っていましたよ、指揮もしている。彼是非とも戦ってみたい」
闘志を表を出すエクトス。強敵と戦う高揚感はヴェルフも理解できる事からその気持ちに同調した。
「確実に戦える機会はメガロスクエストでしょう」
唐突にツインファンタジーワールドを遊んでいるプレイヤーにしか通じないゲームイベントの名を口にするエクトス。
しかしそれはゲーム内にてその話題で持ちきりな事もあり、ヴェルフからすると唐突に感じなかった。
「コロシアムに参加しているなら、当然だろうね」
期間限定のゲームイベントであるメガロスクエストにはpvp要素もある。更にイベントを進める過程で様々なアイテムを集める機会がある。
そして個人成績で高い順位になると後日に追加されるコンテンツの要素が無料で得られる権利が譲渡される。
コロシアムで圧倒的な実力を見せるプレイヤーがこれらの要素を含んだイベントを見逃すわけがないと二人は踏んでいた。
「メガロスクエストには確実に出るでしょう。個人成績は捨てる事になりますが貴方にも協力をお願いしますよ」
メガロスクエストは個人戦であり、イベント開始時はパーティーを組めない。しかしイベントが開始された後であるならパーティーを組む事が許可されている。
しかしパーティを組んだ状態でも個人成績に関わる要素はあくまでもプレイヤー個人のもの、パーティーメンバー全員に分けられる事はない。そしてその情報は二人とも把握している。
「分かっているさ、今回の個人成績の報酬は俺達みたいなギルドを結成するプレイヤーには関係ないからね」
そう断言する。それを聞いたエクトスも把握している事である為にお互いにそれ以上の言及をする必要性はない。
しかしヴェルフには疑問もあった。
「けど、エクトス一人でオスクロと対峙するのもありじゃないか?」
エクトスの実力を考えると単独で動くのも一つの手ではないかと思ったヴェルフであった。
「向こうも一人であるなら、それが一番ですが」
エクトスはサングラスの位置を戻しながら答える。
「どういう事だい?」
「オスクロもメガロスクエストではパーティーを組む、そう私は予想している。故にこちらもパーティーを組むのですよ」
それを聞いたヴェルフは根拠は? と問おうとした。しかし少し考えるとその根拠が何なのか自ずと分かった。
「俺達の様にギルドを結成予定だからか」
「ええ、考える事は私達と同じ様です」
「だけど何処でその事を知ったんだい?」
二つ名を勝手に付けるサイトは大雑把に捉えると試合を観戦する者達が運営しているだけであり、プレイヤーがどの様にゲームをしているのか調べていない。
そんな印象を持つヴェルフはオスクロの情報を得たのは別の方法だと思いエクトスに問う。
「町を歩いていた時にその話をしていたプレイヤーがいました」
エクトスから返ってきたのは変哲もないものであった。
「そうきたか」
特別な理由があると期待はしていなかったヴェルフだが、少々肩透かしを食らった。
「そのあたりは統制していない様子……まあこちらも同じですが」
呆れた色の声を出したエクストはそのまま言葉を続ける。
「とは言え興味深い事を話すプレイヤーもいましたよ」
「どんな事だい?」
「オスクロのギルドにも名前付きがいること」
「オスクロは二つ名を持つプレイヤーだろう? 当たり前じゃないか?」
「違いますよ、オスクロ以外にも二人の名前付きが所属していると」
「二人……オスクロを含めると三人か、まだいるかもしれないな」
総数を理解したヴェルフだが、二つ名を持つプレイヤーがどの様なものなのかピンとこない。
それを置いてエクストは喋り続けていた。
「その二人はおそらく、メガロスクエストの時にオスクロと合流するでしょう」
「どうしてそうすると考えるんだい?」
「今の時点でギルドを組む事を前提にメガロスクエストに参加するのなら、私と同じで個人成績は気にしないでしょう。ならば個人で戦う必要はなく、生存率を引き上げる為にも誰かと組むのが得策。しかしメガロスクエストは開始時は一人。そして他のプレイヤーは基本的に敵で数多のモンスターも現れるPvPvE形式。運が良ければ直ぐに合流できるかもしれませんが……都合よく物事が動くとは限らない。
ならばメガロスクエストが開始される前に生き残る可能性が高い実力者と事前に結託するのは当然の事」
エクストは一度言葉の羅列を一度切る。それを合図にヴェルフは喋り始める。
「だからフォスちゃんとマノンちゃんにも合流する様に伝えたのか」
メガロスクエストの時に合流する様に呼びかけたメンバーの名をヴェルフが口にすると「それが理由ですね」とエクストは応じる。
「貴方を含めた三人が私の知り合いの中でメガロスクエストの個人成績を気にしない有数の実力者です」
淡々とそう語るエクスト、それを聞いたヴェルフは実力を認められている事を感じるが、同時に自身と実力が拮抗するプレイヤーが個人成績に固執している事を知る。
だがまだ見ぬ実力者よりも他に気にかける点がある為にそちらを聞くことにした。
「ならもっとメンバーを集めた方がいいんじゃないか? あと四人は組めるだろう?」
ツインファンタジーワールドで一度に組めるパーティーメンバー数は八人である。数こそ多いがパーティーの人数によってモンスターの強さやクエストの難易度が上昇する為に少数でパーティーを組む事にもメリットが存在する。
しかしメガロスクエストにはその補正が無い。
故にその点を踏まえると人を追加しても問題ないと思ったヴェルフはエクトスに話した。
「それは私も一度考えました。だが広大なフィールドが舞台である以上。合流する事に時間を使いそれ以外が疎かになったら本末転倒。メガロスクエストには時間制限がありますから。しかし組めるなら組む様に頼んでいます」
4人以上の人数を集めない理由をエクトスは話してそれを聞いたヴェルフは納得した。
「そしてそれはオスクロも同様と」
同じプレイヤーである以上、敵対する者も鏡写しの様な状況なのかとヴェルフは推測する。
「推測の上であります……無論、オスクロの知り合いの中に二つ名を持つプレイヤーが複数いて結託している可能性も考えられる。故にこちらも万全を期して当たりたい」
熱を帯びた声でエクトスは語り、その姿を目にしたヴェルフは対峙した事がないプレイヤーに対して興味が沸き上がった。
「とは言え、パーティーを組むのには他にも理由があります」
「他にもあるのかい?」
口にした事が脳裏を過るヴェルフにエクトスは語り始める。
「メガロスクエストに現れるモンスターの為。どうやらフィールドボスを超える強力なモンスターが現れる様で……」
「フィールドボス……」
その名は知っている。
フィールドに赴いたのは先刻に現れたフィールドボス。キングオブ・ゴブリンと戦う為である。なのにエクトスは途切れる事もなく言葉を紡ぎ続けている。
理由が音色として耳に届いたその結果――ヴェルフは今更ながらも今の状況に疑問を抱く事になった。




