第17話 銀髪弓使いの幕間 その2
「謝罪ですか……今なら追いつけるかもしれませんよ?」
エクトスの言葉を聞いたヴェルフであったが首を横に振って否定する。
「フィールドボスを倒しに向かったのなら、出会う事も可能かもしれない、けど移動した先がそっちだからさ」
ヴェルフの真正面が遠見の眼で確認したプレイヤーが向かった先である。しかしキングオブ・ゴブリンが出現した場所は彼の真後ろであった。
「確かに向かった場所が正確に解らない以上、追うのは難しいそういう事ですね」
「ああ……紫色の服に銀か白の髪、それを……」
遠見の眼で微かに確認した容姿を口にしたヴェルフであったが普通のプレイヤーと異なる点があった事を思い出した。
「後、黒い片翼を出現させていたよ」
言葉が止まると同時にエクトスは興味深そうな声を出した。
「黒い片翼ですか……もしや」
意味深長な反応を見せたエクトスをヴェルフは見逃さなかった。
「エクトス、何か知っているのかい?」
「現時点では憶測ですが……」
そこまで言うとエクトスは言葉を切る。
そして――
「考えても仕方ありません」
と、断言した。ヴェルフは気にはなるがプレイヤーを探す時のヒントにならないなら聞く必要はない思う事にした。
「何かの機会で出会える事を祈るよ」
そして紫を纏うプレイヤーに関しては一区切りする事にした。しかし遠見の眼に関して気になった事があったヴェルフはエクトスに尋ねた。
「ところで遠見の眼が対人戦限定で弱体化したのはどうしてだと思う?」
「弱体化……ですか」
するとエクストはヴェルフが予想していない言葉を返した。
「確かに相手に見られた事が気づかれるのは弱体化と言えるでしょう。ですが相手に気づかれる事を逆手にとってその間に味方を接近させる。新たな使い方も考えられます」
「言われてみれば」
新たな遠見の眼の活用方法を聞いたヴェルフは感心する。そしてエクトスは話を続けた。
「とはいえ個人戦であれば相手に気づかれるのは致命的で弱体化と考えてもいいでしょう、遠距離から攻撃を仕掛けるプレイヤーからすればとくに――彼女にとっては」
そこまで聞いたヴェルフはある推測が脳裏を過ぎる。
「なら弱体化した理由は遠距離戦が得意なプレイヤーが暴れたからかい?」
「運営側は明確な理由を語っていませんがおそらくですがそうでしょう、なにせトッププレイヤーの一人が長弓使いですから」
「一人のプレイヤーが理由……本当か?」
たった一人が原因でゲームの仕様が変更される事を正直信じられなかったヴェルフは疑問を零した。
「そう思うのは当然でしょう。ですが『弓聖のアーチャー』と戦う。もしくは戦いを観戦すれば理解できる筈ですよ」
そうエクトスは当然の流れである様にプレイヤー名を口にする。ヴェルフの耳には妙なものを付け足している様にも聴こえたがそれは後回しにした。
「言われてみると……コロシアムで他のプレイヤーがアーチャーの名を口にしたのを聞いた事があるね」
「そのアーチャーの事です、彼女は有名なプレイヤーの一人ですから」
何時の間にかに自身もその人物の名前だけは知っていた事を把握したヴェルフはそれ以上アーチャーの事を聞くと話が今以上に長引きそうと感じ、そして実際に戦えるまで楽しみとしてとっておく事にした。
だがそれでもエクトスが気になる事を口にした為にそれだけは聞いた。
「アーチャーちゃんが有名な事は分かったけど、弓聖と付け加えているのはどういう事だい?」
それがヴェルフが聞いた直後に抱いた疑問であった。
するとエクストは想定済みなのか反射的に答えた。
「圧倒的な弓矢の技術を持つアーチャーに付けられた二つ名ですよ」
「――成程」
疑問を回答されたヴェルフであったが困惑はなお続く。その困惑を口にしようか考えあぐねる。
「二つ名が何処から現れたのか気になる――そんなところですか」
その困惑を掬う様な言葉をエクトスはサングラスに触れながら確信が込められた色で口にする。
その声色から二つ名の情報を得ているとヴェルフは確信した。
「その様子だと二つ名に関して知っているのかい?」
「ええ。知ってますよ」
ヴェルフは言葉を肯定するとエクトスはそのまま疑問に答える。
「簡単に言ってしまうと戦いを見た集団が勝手に付けた。それが二つ名の真相です」
「勝手か」
あっさりと明かされたが特に理由があった訳でないと分かり、ヴェルフは呆れてしまう。
「勝手なのは間違いないですが、案外馬鹿にできないですよ」
エクストの性格から一言二言で話が終わると思っていたヴェルフは意外性を感じる。
「しかしそもそもその集団はなんだい?」
少し興味を感じたヴェルフは詳細を訪ねる事にした。
「言い表すのは難しい集団ですが……コロシアムの戦いを観戦するプレイヤー達ですね」
コロシアムでのプレイヤー同士の戦いは観戦エリアと呼ばれるエリアに移動する事で観戦が可能である。
その事はヴェルフも知っている。
「つまりツインファンタジーワールドのプレイヤーが二つ名を付けている」
故にヴェルフはその様な結論を出した。
「貴方の考えも間違ってはいないのですが、少々異なりますね」
「少々異なる?」
「ええ、その集団はツインファンタジーワールドのプレイヤーである事は間違いないのですが……私達と出会う事はありません」
「何が言いたい? まるでツインファンタジーワールドには複数の種類があるような言い方だけど」
疑問を口にしたヴェルフに……
「そういう事ですよ」
エクストは淡々と言葉を返した。
「初耳だね」
「成程……貴方の事です、私と同じく戦闘を求めてツインファンタジーワールドを買ったのでしょう」
「そうだね、君の言う通りで間違いない」
戦闘以外にも物作りや釣りに馬車を使った素材集め等の要素がある事は知っているが戦闘に関わる要素ばかりしている自覚はある為にエクストの言葉をヴェルフは否定しなかった。
「しかしダウンロード版限定の発売ですが現時点ではフィールドに出る事が不可能で機能が限定されている変わりに値段が安いツインファンタジーワールドもあります」
「そんなのがあるようだね」
パッケージ版を買った為にその存在を知らなかったヴェルフ。だがその買い方がある事を知ると同時にエクストが唐突な話を始めた理由に見当がついた。
「もしかしてプレイヤーに二つ名を付ける集団は安いバージョンを買っている」
「私も含めた他のプレイヤー達の予想はそうですね」
「そんな事の為にゲームを……」
自身ではその様な理由が購入する動機にならないヴェルフは戸惑うが――
「それは違うようですね」
しかしエクストは考えを否定する。
「彼等の目的は観戦、二つ名は後で付いてきたものとの事」
「観戦が目的?」
意味が解らないヴェルフは疑問符が脳裏を過る。
「VRMMOにはテレビゲームと異なり、写真を撮る機能はありますがゲームを録画する機能も運営は可能ですが外部から録画する事は不可能。それが理由の様です」
「ゲームを……録画?」
いきなり今と全く関係ない事を口にしたエクストにヴェルフは再び疑問符が出現する。
しかし少し考えるとそれはある事が出来なくなったも同然である事に気づいた。
「ゲームの動画をサイトに投稿や配信ができない?」
「そうです、動画サイトで観戦できない以上、ゲームの試合を観戦するにはゲームを買うしかありません。しかし試合を見る為だけにゲームを購入するのは高すぎる。その苦……要望を叶えられた結果、安いダウンロード版が開始された。VRの開発者がインタビューで答えてましたよ」
「そんな事情があったんだね」
ゲームのプレイ動画をそれなりに見ていたが実際にプレイしている時間の方が圧倒的に長い事もある為に生まれない発想であったが需要はありそうと感じたヴェルフは感心した。
「そこから派生したのが観戦しながら勝手にプレイヤーに二つ名を付ける集団――なのかい?」
そしてヴェルフは話を元に戻す、そして先から抱き続けていた疑問をぶつける事を兼ねた言葉をエクストに言い放った。




