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第16話 銀髪弓使いの幕間 その1

 大岩を中心とした広場の宙に広がる黒き粒子は少し前までプレイヤーがいた証であった。しかし程なくして消え去る。

 それから先の広場は微かな風で揺れる草木の音で覆われた静寂の空間に戻る筈――だったがそれはほんの一瞬の間で崩壊する。


「いなくなったか」


 爽やかな声が響き渡ると同時に袖が長い緑を主体とした民族衣装を着こみ、小顔で爽やかな顔立ち、黄緑の目で短めな髪を鮮緑で染め上げた青年が広場に踏み入る。


「やれやれ、俺達は軽く話したかっただけなんだけどなぁー」


 軽い調子でそう言いながら周囲を見渡す青年、そんな彼に向けて。


「相手がそう認識するとは限りません」


 几帳面が形となったかの様な硬質な男性の声が放たれた。


「まあ確かにそうかもな」


 届いた言葉の主の名前を口にした青年は後ろに目を向ける。

 そこには金髪をオールバックで整え、サングラスを身に着けた細めで硬そうな顔立ちの男性が立っていた。

 身に着けている服装は深緑を主体として金色を加えたマント付きの軍服であった。


「エクスト」


 エクトスと呼ばれた金髪の男性は言葉を返した。


「故に断られる可能性は考えていましたが、言葉を交わす前にいなくなってしまうのは想定の外ですね、ヴェルフ」


 サングラスに触れながらエクトスは少し楽しそうな口調で鮮緑の青年の名を口にする。


「そうだな、中々な動きだったぜ」


 まるで見てた様子のヴェルフを気にする事なく、エクトスは会話を続ける。


「成程、フォスが興味を持っただけはあるようですね」


 会話の中には別のプレイヤーの事が含まれていた。


「フォスちゃんが興味か」


 それはヴェルフも知っているプレイヤーの事であった。


「意外だなマノンちゃんの方かと思ったよ」


 ヴェルフも別のプレイヤー名を会話の中に入れる。


「いつもはマノンですが今回は違いますよ」


 そのプレイヤーの事はエクストも既知している様子であった。

 そしてヴェルフは不敵な笑みを浮かべていた。


「なら、相当なプレイヤーってことか?」


「相変わらず彼女は何も語りませんよ、ですがまあ……そう言う事でしょう」


 傍から聞くと言葉足らずな会話であったがフォスの事を既に知っていた二人にとってはそれで十分であった。


「しかしあの動き、まるで俺達から逃げたみたいだ」


 もうこの場にいないプレイヤーの動きの事を口にするヴェルフ。


「逃げた……ですか」


 その情報が耳に入ったエクストは沈黙する。その間にヴェルフは語る。


「足音に気づいた……それとも俺みたいにスキルを使用したのか……」


「スキルですか」


 何気に語った言葉にエクストは反応する。その反応が早いと感じたヴェルフは「それがどうしたんだい?」と言葉を返した。


「そのスキルは遠見の眼ですね」


 するとエクストはスキルの名を口にする。


「そうだけど」


 それは先に使用したスキルであり、ヴェルフは肯定する。しかし同時に疑問が現れた為にそれをエクストに問う。


「なんでそんな事を聞いた?」


「――少し気になる事がありましてね」


「気になる事?」


 訳が分からない事を言われてヴェルフは困惑するがその最中にエクストは言葉を続ける。


「試したい事があるので私が移動したら、遠見の眼を使用してください」


 聞いた言葉は唐突なものであった。それに対してヴェルフは反応しようとしたがそれよりも先に――


「【瞬迅しゅんじんはるか】」


 エクストはヴェルフも使用する事が可能なスキルを口にした途端にその場から姿を消す。


「やれやれ」


 それを確認したヴェルフは呆れながら周囲を見渡した。

 エクストはこの場から消えた訳でなく、高速で移動しただけである事を理解していた為であった。

 そしてあっさり見つかる。


「何をしたいのやら」


 エクストは大岩の上に立っていた。その意図を一切理解できないヴェルフであった。


「意味なくしないだろう」


 しかしエクストには何らかの意図があると考えたヴェルフは言われたスキルの名を口にする。


「【遠見とおみまなこ】」


 スキル発動と同時にヴェルフの視力が強化されると瞬く間に遠い場所に立っているエクストの姿を確認する。


「ん?」


 しかし姿を確認すると同時にエクストは大岩から降りる。その動きがどういう意味なのかヴェルフは怪訝に感じるがとりあえずその姿を目に留め続ける。


「あの動き?」


 するとエクストは視線を避ける様に動いている事にヴェルフは気づいた。


「なんだ?」


 全く理解できない動きであったがエクストは並行してパネルに文字を打ち込みながら自身に近づいてくる事を把握したヴェルフはスキルの使用を停止した後にその動向を見守る事にした。

 そして数秒後――


「協力ありがとうございます」


 パネルを閉じて正面を見ると先と変わらない様子でエクストはヴェルフに言葉を向ける。 


「協力って何の事だい?」


 ここまでの話の流れを一切汲み取れないヴェルフはエクストが口にした言葉を追求する事にした。


「一言で表すならばバグですよ」


「バグ?」


 悪い意味でゲームには付き物である存在を突然言われるヴェルフ。


「そして先程運営に報告しました」

 

 パネルを操作していた意味を先んじて口にするエクスト。

 その言い回しや先からの流れを思い出すと何の要素がバグがあるのか自ずと理解できたヴェルフ。


「もしかして遠見の眼に何らかの不具合が?」


 自身が先から何度か発動したスキルの名を出したヴェルフにエクストは頷いた。


「ええ、ですが不具合ではなく仕様なのは間違いない」


「どういう事だい?」


 自身が知らない何かがあると思ったヴェルフはエクストに疑問をぶつける。


「そうですね……まずヴェルフ、貴方はコロシアム……pvpの時に戦闘スキルの中に普段とは違う仕様になる事もある。それを知っていますか?」


 エクストに問われたヴェルフ。

 プレイヤー同士が戦えるコロシアムの事は知っていて利用したことがあるがそれ以外は彼にとっては初耳の情報であった。


「初めて知ったよ」


「まあそうでしょうね」


 するとエクストはあっさりと納得するとそのまま言葉を繋げた。


「そもそも遠見の眼に適用されるまでは前例がない事ですからね……製品版に関してはですが――」


 エクストの説明を聞いたヴェルフは呆れる。


 ――製品版?

 妙な言い回しだと思案したヴェルフだがそれは置いておくこととして、現在の部分に突っ込みを入れる。


「形骸になってないかい、それ?」


「そう思っても仕方ないでしょう、ですがメガロスクエストの形式を考えると慎重になるのは当然」


 唐突に会話の中に加わった「メガロスクエスト」なる単語。それを聞いたヴェルフは楽しそうな声色でその事に追求した。


「メガロスクエストの情報が解禁」


「イベントクエストクリア記念のパーティーをしている最中に流れてきましたよ」


 言葉を交わした者達だけが理解できる会話。

 しかしそれは今回の本題ではない為にエクトスはサングラスに触れながら言葉を切ると遠見の眼の話題に戻した。


「本題に戻りましょうか」


「そうだな、結局のところ対人戦ではどんな効果を見せるんだい?」


 プレイヤー同士の戦いはコロシアムで幾度もしていたヴェルフは今後の事も考えてエクトスに聞いた。


「対人戦の為に調整された遠見の眼の効果は……見た者に威圧感を与えるでしょうか? どの方角から見られているのか、感覚で判断できます」


「随分と抽象的だね」


 聞いた時に感じた素直な感想を口にするヴェルフ。対してエクトスは淡々に「仕方ないですよ」と反応する。


「貴方と違い、私は遠見の眼は習得不能です、故にそうなりました」


 ツインファンタジーワールドにはスキルの習得数に上限はない。しかし一部のスキルに関しては、一度習得するとそのスキルを破棄しない限り、条件を満たしても習得する事が不可能となってしまう。

 その事を知っていたヴェルフはエクトスの言い分に納得する。


「成程……これからは」


 ――スキルを使用すると居場所がバレる事を前提にしないと駄目か。

 そして自然と今後の遠見の眼の使用方法の模索を開始したヴェルフであったが……


「おかしな点があると思いませんか?」


 疑問を提示する様な口調でエクトスは横槍を入れる。


「おかしな点?」


「今私が口にした効果は()()()限定です」


 真面目な色の声で語るエクトス。それに対してヴェルフは計らずも同じ言葉を口にする。


「対人戦……!」


 遠見の眼の効果が当たり前の事だと思っていたヴェルフであったがそれは見当違いである事に気づいて目を見張る。

 その反応を返す様にエクトスはサングラスに触れる。


「気づきましたか、遠見の眼を使用したプレイヤーから見られていると発覚する効果はあくまで対人戦だけで起こる。故に対人戦でない今この時に効果が発生するのは――普通ではない」


 戦闘可能なフィールドではパーティーメンバー以外のプレイヤーとpvpを前提としたVRMMOゲームも存在する。

 しかしツインファンタジーワールドは特定のクエストや互いの同意無しでなければプレイヤーとプレイヤーが戦う事が出来ないVRMMOゲームであった。

 その事を考えると今の状況で対人戦用の効果が付与されるのはありえないとヴェルフは判断したと同時に先までのエクトスの不可解な行動が何だったのか気づくことができた。


「エクトス、君が色々していたのはその事に気づいたからか」


「ええ、そうですよ。pvpの状況であれば逃げられるのは当然ですが、私達は今後のアップデートで追加されるギルドの初期メンバーにならないか誘おうと思っただけです」


「突然ギルドメンバーに誘われるのも驚くと思うけどね」


 相手の気持ちを考えてヴェルフは口を挟むと「一理あります」とエクトスは返答する。


「ですが最初は誰もが初対面ですよ」


「確かにそうだね」


 その言い分も理解できたヴェルフは肯定的な言動をするとエクトスは話題を戻した。


「だがそのプレイヤーは逃げる様に移動したと貴方は話しました。故に不自然だと感じて、遠見の眼で見られたらどうなるのか試しました」


「その結果……スキルが変な事になっていると気づいた。そんなところかい?」


「そんなところです、因みに先に言いましたが報告は既に済んでいるのでその内に不具合は直るでしょう」


 エクトスは淡々と答える。その言葉後ことばじりを聞いたヴェルフは上空に目を見据える。それは謎のプレイヤーが跳んだ先であった。


「なら俺は……」


 遠見の眼で見られた感覚をヴェルフはまだ体感していない。しかし見られたと気づく効果が発揮している事を知らされた今。改めて銀髪で紫色の衣服を着たプレイヤーの動きを思い返すと。


「知らないプレイヤーを驚かしてしまったのか」

 

 とんでもなく速い動作で動いていた――まるで何かから必死に逃走している姿。

 何度思い返してもそう確信できた。

 そして同時にヴェルフはある決心を言葉として表した。


「今度会ったら謝らないとな」

ここまで読んでいただきましてありがとうございます。

銀髪弓使いの幕間がタイトルの回の時は主人公が殆ど登場しないです。

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