第13話 銀髪弓使いは髪飾りから
「早速ポイント振らないと」
レベルが1から一気に5になった事でステータスを上げれるようになったセリニは軽快な気持ちでパネルを操作しようとする。
しかしそれを阻む様に別のパネルが出現する。
「?」
疑問を抱いたセリニであったがとりあえず何が表示されているのか確認する事にした。
「暗影の誘い?」
表示されていたのはクエストを開始するかどうかの通知であった。
「このタイミングで……クエスト?」
別に望んでいない事柄であった為に困惑する。
そしてその困惑は当然であった。クエストが発生したのはクエストモンスターである暗影のゴブリンを倒したからである。
しかしその様な条件でクエストが発生する事をセリニは露程も知らない為であった。
「せっかくだから……やってみようかな」
確かに想定外であったが興味を抱いた為にクエストを受注する事にしてパネルにタッチするとクエストを進める為にするべき事が新たに表示される。それを見たセリニはパネルを消した。
「『暗影の髪飾り』を探せ?」
クエストを進める為に必要な情報を口にするセリニだがその声は疑問の色に染まっている。
「聞いた事も見た事もない」
思った事を素直に口にしながら周囲の捜索を始めるセリニ――するとそれはあっさりと見つかった。
「もしかして……あれ?」
黒衣のゴブリンを倒れて消滅したその場所にそれはあった。
黒を主体とした色付けであり、装飾品として桔梗を模した桔梗紫に染まる宝石が飾られている
「綺麗」
一目見た瞬間に感想を口にするセリニだが……
――多分装備できないよね。
クエストの流れから誰かに渡す為に回収するものだと思い込みながら触れた。
すると髪飾りは目の前から消失する。
「ん?」
すると髪に何かが付けられる感覚が現れた事に少し驚くと同時にパネルが出現する。セリニは内容を見るとさらに驚く事となる。
「『暗影の髪飾り』が装備され……え!」
内容が本当なのか確認する事にしたセリニはクエストを一旦保留にするとステータスのパネルを表示する。
プレイヤー名 セリニ
Lv5【ステータスポイント割り振り可能】
HP30(-10) MP70(+20)
攻撃力【40(+15)】
防御力【0(-2)】
攻撃魔力【0】
回復魔力【0】
器用力【20(+5)】
疾走力【40(+10)】
技巧力【0(+10)』
装備品
武器
右手【始まりの弓】
左手【始まりの矢】
鏃【通常鏃】
サブ【装備不可能】
防具
頭【始まりの狩人帽子】【表示】
体【始まりの狩人フード】
腕【始まりの狩人手袋】
靴【始まりの狩人靴】
見た目装備【無効】
装飾品
【暗影の髪飾り】【装備無し】
【装備無し】【装備無し】
武器スキル【無取得】
戦闘・アクティブスキル【無取得】
戦闘・パッシブスキル【探知軽減Lv1】
装備スキル
暗影の髪飾り【暗影への序開】
探索スキル【水中適応・移動LV1】【水中適応・潜水LV1】
【隠密採取Lv1】
技巧スキル【鏃作成Lv1】
エクストラスキル【無取得】
イディオススキル【無取得】
融合スキル【無取得】
契約【契約不可能】
「装備されてる……暗影の髪飾り」
状況を口にしながらステータスを細かく見たセリニはそれ以外にも変化が起きている事に気づいた。
「8あった防御力の数値がマイナスになってる……けど攻撃力と疾走力が上がってる……MPが20増えて、HPが10減ってる」
口にしながらセリニは暗影の髪飾りの詳細を確認する。
「思った通りのステータス変化……」
そこには計算していた数値が書かれていた――だがセリニは説明不足だと感じている。
――暗影への序開の事が何も……
ステータス以外に書かれている事はRPGではよくある説明文だけであった。
――それにサブの武器も装備できない。
初期装備の中には始まりの短剣も含まれていた。しかし今は装備品から強制的に外されてアイテム欄に移動している。
「装備……不可能」
ステータスの欄に記された文字そのままに始まりの短剣を再び装備する事が出来なくなっている。
「まだ一度も使ってないけど」
今の所弓矢だけで戦う事が出来ている為に弓矢と違い愛着も特にないセリニであるが……
「なんか……落ち着かないね」
今迄使えた筈のものが急に使えなくなる事にセリニはもどかしさを感じていた。
――もしかしてクエストが関係しているのかな?
これ以上調べられるものがなかったセリニは中断していたクエストを進める。
すると密かに所期していた目的に関する情報がパネルに表示された。
「暗影の誘いの時に暗影の髪飾りを拾うと強制的に装備……だから装備された」
状況と一致している事に頷きながらセリニはパネルに目を向ける。
「暗影の誘いをクリアするには外す事が出来ない……外したら暗影の誘いは失敗……」
髪飾りに関わる事を確認したセリニは二秒程思考が止まった。
「え!」
そして驚きの声を上げた。
「外したら……クエストが無効! それに呪いの装備!」
脳裏に祖母の家でプレイした事があるレトロなゲームで流れる効果音の幻聴を感じながらセリニは再びパネルを見る。
「外した場合は装飾品の効果が消えて、おしゃれ装備に……」
おしゃれ装備とはステータスとは関係ない見た目を彩る装備である。装備品を手に入れれば自動的におしゃれ装備としても登録され、何時でもお気に入りの見た目にする事が出来る。
「消える事……無いんだ」
外しても別の形で手元に残る。それを知ったセリニはデザインが気に入っていた為に声に嬉しさが乗る。
――枠を一つ減らされるのは……
今は装飾品を入手していないセリニであるがいずれ手に入れたいと考えている。そうすると暗影の髪飾りよりも強力な物が手に入れる可能性もあり、そうなってしまっては不便だと思った。
「クエストのクリアするには」
その為に暗影の髪飾りを外す為の条件を確認したセリニだが……
「40レべ……40も!」
言葉を切ったセリニの目に映るパネルに記されている内容。それはレベルを40まで上げる事であった。
「今は50……」
現在のレベル上限を口にしたセリニはそれよりはましだと思いながら続きを見る。
「サブ武器は装備不可能……」
言葉として出てきたのは既に気づいていた。
しかしそれ以外にも制限される動きがある事にセリニは把握する。
「契約が不可能」
そう口にしたセリニだが淡々とした声色だった。
どのような条件を満たすことで契約に関わるものを入手するのか知らない為に使えない事に不満を感じない為だった。
しかし次に発した言葉はショックの色合いが強いものであった。
「魔法も……使用不能」
セリニは魔力関連にステータスを振っていない。その為に魔法を習得しておらず、魔法に制限がある事に今気づく事となった。
「魔法も使用不能」
同じ言葉を二回繰り返したセリニ――その声には動揺が含まれていた。
――魔法……面白そうと思ったけど……。
黒い騎士が魔法を放つ姿や先程の戦いでゴブリンが使う魔法を目撃した事でこのゲームの魔法に興味を抱き始めたセリニは悩み始める。
しかし少し経つとある疑問を噴出する。
「クリアしたら……何が手に入るんだろう?」
クエストであるなら報酬がある。それが果たして自身にとって嬉しいものなのか? 普通のクエストであるならとりあえず受ける! そんなノリで開始したセリニであったが40レベルになるまで先に進めないとなるとノリだけで決める事を躊躇する。
「あ……報酬の確認できる」
クエストの報酬内容を見れる事に気づいたセリニはパネルを操作するとクエストの報酬が表示される。
「契約モンスター?」
書かれていたそれをそのまま口にしたセリニは困惑していた。
「契約モンスター……仲間モンスターと違う?」
スキルを習得する事でモンスターを仲間に出来る事やモンスターを仲間にして共に戦う事に特化した武器がある事を知っていたセリニだが契約モンスターは初耳の情報であった。
「ステータスにある契約が関係している?」
ステータスの欄にある文字に注目が向いた。
――一つの契約を結ぶ事でプレイヤーを強化する……だよね。
セリニは電子説明書に書かれていた事を思い返した。
――けど……今は契約が不可能。
――契約モンスターだと……どうなるのかな?
そもそもモンスターとの契約がどの様な効果をもたらすのか解らないセリニはどうするべきか迷うがその最中に契約モンスターには注意点がある事に気づいた。
「仲間モンスターは使えなくなる」
「そもそも仲間モンスターがいないから関係ないね」
仲間モンスターに興味こそ抱いているが今は契約モンスターに対する興味が勝っている為にさして気にならない注意点である為にセリニは問題ないと考える。
「けど40」
しかしセリニにとってネックなのはレベル関係であったがパネルには続きがある事に気づくと目を通した。
「クエストの間、暗影の髪飾りには【暗影への序開】のスキルが追加……」
その内容とスキルの欄と照らし合わせる事でセリニは腑に落ちる。
「だから暗影の髪飾りに書かれていない」
そのままセリニは最後までパネルに書かれている事を読んだ。
「【暗影への序開】はクエストクリア、クエスト失敗時に消えるけど、クリアすれば同じスキルを別の形で使う事が出来る」
末文に到達したセリニは目を瞑って考えるとその文章がどの様な意味なのか理解する。
「つまり……暗影への序開は契約モンスターの体験版?」
同じスキルを続けて使う事が出来ると書かれている以上、そういう事だろうとセリニは納得した。
――けど暗影への序開はどんなスキル?
40レベルまでの付き合いになる事を考えると能力の内容を確認してからクエストを開始したいと思ったセリニであった――
「もしかして……」
暗影の名が付きそうな技を使っていたモンスターと既に交戦していた事を思い出した。
――あの黒いゴブリンが使っていた技?
戦ったゴブリンが黒い粒子を纏っていた事に強い印象を抱いていたセリニはそう推測した。
「うん! 間違いない」
推測すると同時に全身に電流が奔った様な感覚を察したセリニは確信する。
「色々できて楽しそうだから……40まで頑張ろうかな」
細かい事は後で考える! 自ら生み出した勢いに乗る事にしたセリニはクエストの続きを受ける事を決める操作をする。
するとパネルが消失するが――
「――!」
同時にセリニは痛みに耐える声を出しながら頭に手を添える――痛みこそ唐突だがその理由には見当が付けられた。
「こんなに……あるんだ」
クエストを開始した事で暗影の序開のスキルを使用可能になったセリニだがそれと同時にスキルの情報が一気に身体に入り込んだ。それはまるで周囲の環境が一気に変化した様な感覚であり、慣れていない為に起きた事であった。
「早速スキルを使いたいけど」
ゲームの世界でアクティブスキルを入手する。そんな事は生まれて初めての経験であるセリニだが即座に使用する事は可能であった。
――息とか身体を動かす感覚に近いかな?
その感性を自身が知っているもので例えて所感するセリニだが……
「それよりも髪飾り」
今のセリニが気になっていたのは暗影の髪飾りを身に着けた自身の事であった。
「鏡を出現……」
パネルの操作するとセリニの言葉の波に乗る様に宙に浮かぶ鏡が目の前に出現する。
「便利だね」
プレイヤーが使用できる機能の一つであり、感想を口にしたセリニであったが――数秒の空白の後にある事を思い返した結果、全身に寒気が通り過ぎる。
「あの時も……こうすれば」
自身の容姿を確認するのは今回で二回目であった。一度目はゲーム開始した直後の町の中であったがその時は建物の窓を通して確認していた。しかしそんな目立つ事をせずに容姿の確認が可能であったと今更ながらもセリニは気づいてしまった。
だがどうしてそんな事になったのか、その判断は可能である。
――気持ちが浮かれてたね。
ゲームを開始した当初からセリニは楽しみたい一心であり、使用可能なゲームの機能を一時的に忘れていたからであった。
そしてその気持ちは今も継続している。
「髪飾り」
その事を感じながらセリニは自身の頭部を見るが――映るのは帽子を被っている姿であった。
「……非表示にしないと」
自身の迂闊さに呆れながらセリニは周囲に目を向けながらステータス場面を表示すると頭の防具を非表示にすると再び鏡を見る。
そこには白銀色の髪に桔梗の宝石が付けられた黒い髪飾りが付けられた自身が立っている。
「いいのかな……」
現実でおしゃれな装飾品を身に着けた経験が皆無であったセリニは自身に似合っているのかどうか疑問を感じる。
「とりあえずこのままで……」
帽子を被りっぱなしでも問題ないと思っているセリニであったが、外すのも問題ないと今の姿のまま過ごそうと決めたその刹那――何かが疾駆する音が耳に届いた。
「――」
その音と同時に鏡とパネルを消したセリニは流れる様に音が鳴った方向に身体を向ける。
「――来るよね」
この場が町ではなくモンスターが蔓延るフィールドである。その事実を強く実感していたセリニに驚きはない。落ち着いた様子で己の武器である弓と矢を手元に出現させると――臨戦態勢の心持ちとなった。




