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第11話 銀髪弓使いは強敵から

「どうしてわたしはここにいるのかな」


 勝利の余韻が落ち着いたセリニは唐突にそんなことを暗い色で口にしている。しかし哲学的な意味もなく、さして深い意味で言っているわけでない。

 自身が大岩の上に立ち続けている事に対しての言動であった。


 ――きっと……変な風に見えるよね。

 周りに他のプレイヤーいる可能性を少し考えたセリニは今の姿をそう俯瞰した。


「下りよう」


 どの道長居は無用である為に身体を動かそうとした先にセリニの視界に入るのは爆煙の残影であった。


「近い」


 それは一歩踏み出せば到達する場所であった。


 ――今の武器で戦う必要あるのかな。

 遠距離に対して攻撃できる。それが弓矢を選んだ理由であった。しかし遠距離での戦いは一度もしていない。放った矢も近距離のモンスターに命中している。

 ならば弓矢にこだわる必要があるのだろうか? 白兵戦の主役である剣や槍等で戦った方が良いではないか? 戦っている間に至る事がないそんな正論がセリニの身体の中を通り過ぎる。


「けど……今の武器も……」


 しかし弓矢を得物とした戦いの楽しさ――それも身体に染み渡る様に感じている。

 それは愛着として沸き上がっているのも事実であり、どうするべきかと悩み始めるセリニ――そんな悩む彼女を更に揺さぶる様に物音が鳴る。


「!」


 それが敵襲の合図であると悟ったセリニは下りる事を中断して弓矢を構える。


 ――黒いの。

 脳裏を過るのは黒衣を纏い。短剣を得物とするゴブリンであり、最大に警戒しながら音が鳴った方向にセリニは身体を向ける。


「やっぱ……」


 その姿は全身をローブで覆うゴブリンであり、自身の予想が当たったと思ったセリニだが……


「り……?」


 ローブの色は紫色であり、その手に握る武器は杖であった。


「そっちのほう……」


 自身が予想したものとは異なる敵が現れた為にセリニは恥ずかしさを感じる。


 ――誰もいなくてよかった。

 他の誰かがいた際の事を想像してセリニが冷汗を流す傍ら――ゴブリンは杖を前に突き出した。


「魔法?」


 その動きを見たセリニはその恰好から後に起こる事を予想する。


 ――止めないと。

 相手が攻撃を仕掛けてくる予兆を見た以上、本来なら動くべきだとセリニは思ったが……

 

 ――でも……。

 ――魔法を見てみたい。

 周囲に他の敵がいない一対一の状況である為に余裕があった。なら静観にするのも悪くないかもしれないとセリニは脳裏で答えを出した。


 ――魔法タイプならあれも……実戦で使えるかな。

 ついでに試したい動きがあったセリニは弓はそのままに矢を手放したその刹那に――


「――――!」


 ゴブリンは声を放つ。それが何らかの言葉に聴こえたセリニであったが意味がある言語には一切聴こえない。


 ――ちから

 しかし声が届くと同時に力場としか言い表す事ができない仔細不明な感覚が不意に身体に伝わったセリニは少々困惑する。

 その間にゴブリンの杖の先端が輝くと粒子を現出――そして集束すると一つの透明な結晶に変化する。


「結晶属性の魔法」


 それを見たセリニに驚きはない。ゴブリンが使う可能性がある魔法に関しての予習は既に済ませていた。


 ――本当に土じゃなくて結晶……なんだ。

 しかしセリニは内心では疑問が生じている。


 ――属性は……。

 大半のRPGと同様にツインファンタジーワールドにも戦闘に関わる要素である属性が存在する。

 種類として『無』『爆発』『火』『水』『氷』『風』『雷』『結晶』『闇』『光』『龍』と合計で十一種類の属性がある。

 RPGのゲームもよく遊んでいるセリニにとっても馴染み深い要素であったのだが結晶――属性の中にその単語が紛れている事が気になっていた。


 ――土とか岩は違うんだよね。

 属性に結晶がある事を知った時は誤記なのではと疑ってしまった。

 だがその反応はゲームの開発者とって想定の範囲内であった様で注釈として『土と岩は無属性に分類』と電子説明書には書かれていた。

 とは言えセリニは詳細を知ってもしこりが残っていた。 

 しかし――ゴブリンが出現させた結晶はそこにあるか曖昧な程に透き通った透明であった。


「綺麗」


 それを見たセリニは称賛の言葉が自然と漏れ出した。


 ――あれはあれで……ありかな?

 完全に認めた訳ではないがとりあえずこのゲームではそういう事と考えた。

 属性に関して考えている時を同じくしてゴブリンは魔法を放つ準備を完了していた。動いた杖に連動する様に解き放たれた結晶はセリニに目がけて突き進み始める。


「まっすぐ飛ぶ」 


 先程口に出した言葉とは異なり芸術品を鑑賞する心持ちではなく。武器を向けられている事を前提としていたセリニは初めて見る魔法に対して冷静であった。


 ――突き進んで減速しない。

 自身に向かってくる結晶の軌道にブレはない。


 ――矢と……違う?

 それを見たセリニは自身が放つ矢の軌道と異なる事に気づいたが――その事は今は関係ないと頭の端っこに追いやる。


 ――避けないと。

 どんな攻撃であろうと直撃すれば一撃で倒れる事を了解していたセリニはどう回避するか考え始めるがそれはすぐに終わる。


「もしかして……必要ない?」


 魔法に対するその言葉は傍から聞くと理解する事が不可能なものであった。

 その言葉が端に到達すると同時にセリニの頭部に結晶が到達――するが素通りする。


 ――移動しないで何とかできた。

 一直線であった為に軌道を読む事が容易かった為に頭に向かっている事を感づいたセリニは足を動かす事なく頭だけ動かして攻撃を避けれそうと思って実行。

 その目論見は達成した。

 だが間近に魔法が通る事によって多少のHPが削られる事は覚悟していた。


 ――当たらないとダメージはない。

 しかし結晶が通り過ぎた瞬間に多少の衝撃こそ感じたがHPが減った感覚を感じない。緊張が切れたセリニは軽く息を吐くがこれからするべき事がある為に気持ちを切り替える。

 その間にゴブリンは再び魔法を放とうとするが――大岩の上に立つ標的はそこにいない。

 標的は既に大岩の前に下りている。

 

 ――上手くできるよね。

 胸の内で励ましの言葉を打ち込みながら足に力を込める。

 彼女がこれからやろうとしている事はツインファンタジーワールドのプレイヤーであれば誰でも使用する動きの一つ。溜め跳躍である。

 五秒足に力を込めた後に動いた際、最初の動作の速度が増して距離も伸びる。

 疾走力が高ければ高いほど効果が上がる為に自身のステータスの振り方とは相性がいいとセリニは判断していた。


 ――一度使った時の事を思い出せば。

 実のところセリニは遠距離の敵に弓矢を当てようと躍起になっていた時に溜め跳躍を既に使用しており、その効果を実感している。だが効果を発揮すると大きな音が鳴り、モンスターに気づかれてしまう。

 その様な明確なデメリットがあり、モンスターから隠れながら行動していた時とは相性が悪かった為に封印していたが現在はモンスターと出会っても倒せば良いと開き直っている為に解禁する事にした。


「――」


 その場から動かない紫の衣を纏う者に向けてゴブリンは再び魔法を放とうと外部には意味が理解できない言葉を外に漏れるがその言葉に意味があるかそんな事は考える以前の問題となる。

 場を満たすは鋭き音にかき消され――最後には淡々とした少女の声でゴブリンの声は消え失せる。


「やれた」


 ゴブリンから離れた距離にいたセリニは大岩の前から消えている。既にゴブリンの目前まで移動していた。

 既に得物の弓を振り上げており――振り下ろされた弓が直撃したゴブリンは大きく仰け反り魔法を中断される。


 ――威力は上がっても一撃では無理……

 溜め跳躍した直後に攻撃するとダメージが1.5倍となる。しかしそれでもゴブリンは倒しきれていない。


 ――当然だね。

 だが弓での直接攻撃の威力が低い事を知っているセリニの右手には既に矢がある。番えると同時に追撃としての矢を放った。仰け反っていたゴブリンに矢は直撃するとその身は霧散した。


「二回で倒せた」


 セリニは二発目の矢を準備の最中に戦いの結果が目に映った事に驚いた。


「もしかして魔法使いの見た目だから普通のゴブリンより体力が低い」


 ゲームの経験から二回の攻撃で倒せた理由をセリニは推測する。


 ――近くで当たったから威力が上がった?

 その様な事を心の中で考えたが放たれた矢の威力が距離によって減衰する事は()()のセリニの状況ではありえない。


 ――モンスターは……。

 考えると同時にセリニは周囲を警戒する。溜め跳躍の時に発生した音で別のモンスターが現れる可能性を考えていた為であった。


「大丈夫」


 しかし周囲に新たなモンスターは出現しない。


「来ないならいいけど……」


 正直新たなモンスターと戦うつもりでもあったセリニは興が削がれた心持ちとなった。だが警戒を解く事はせずにその手には弓矢を持ち続ける。


「拾った攻撃力を上げるアイテムはいつ使おう」


 戦闘を行う前にフィールドで採取をしていたアイテムの中に『闘争草とうそうそう』というアイテムを一つだけ拾っていた。その効果は短時間、攻撃力の上昇である。攻撃力にステータスを多く振っていたセリニは自身と相性が良いアイテムと判断しており、もしもの時に使おうと考えていた。


「いつか使えるチャンスはあるよね」


 そんな独り言を呟いたセリニはある疑問を抱いた。


「そろそろレベル上がらないの……かな?」


 既に四体のモンスターを仕留めている為に普通のゲームなら既に1レベルは上がってるのは当然。そう思っているセリニは首を傾げる。

 それを疑問として表に噴出するのは二回目でもあった。


「もしかして……イベント?」


 ここまでくるとレベルが上がる事を差し止めされている。そんな事態が発生する何かに巻き込まれているのでは? そんな可能性をセリニは考え始めたその瞬間――何かが揺らめく音が耳に届いた。


「小さな音!」


 その音に喜びながら食いついたセリニは上を見る。そこには 黒衣を纏うゴブリンの姿があった。


 ――逃げた訳じゃなかった。

 RPGでは敵側も逃走する事も常であり、逃走した可能性もセリニは考えていた。しかし黒衣のゴブリンは再び姿を現した。


 ――戦える!

 一度戦闘を始めた以上決着を付けたかったセリニは底意からの再戦が開始される歓喜と共に武器を構える。


「攻撃を……」


 上空から姿を現したゴブリンは両手で短剣を握りながら落下している。


 ――落下攻撃? 

 それを見たセリニはゴブリンの攻撃手段を予測する。


 ――なら弓で……。

 既に黒衣のゴブリンの攻撃を受け止めた経験があるセリニは同じ様に受け止めようと考えた。


 ――あれ?

 しかし短剣は黒い粒子に覆われている。それに気づいたセリニは一瞬で考えを変える。


「避けよう」


 黒い粒子を使用した特殊な攻撃を仕掛けてくる。それは既に確認済みであり、別の攻撃パターンを仕掛けてくるかもしれない。その攻撃が初見である事を踏まえたセリニはその場から跳び退く。

 紫の衣を纏う者が離れて数秒後に黒衣のゴブリンは着地すると同時に地面に短剣を突き刺したその瞬間――短剣から解放された黒き粒子は奔流となって周囲を吹き飛ばした。


「避けたの正解……」


 轟音と黒き流れを見ながらセリニは淡々と呟く最中に――残留する黒き粒子の中から飛び出したゴブリンが短剣で切りかかる。


「!」


 驚きこそしたがセリニは冷静に斬撃を躱す。


 ――受け止めるのは。

 ――止めた方がいいね。

 短剣による範囲攻撃がいつ発動するか解らない為に攻撃を避ける方針にしたセリニに短剣が振り下ろされる。


「――」


 既に黒衣のゴブリンの斬撃速度を把握していたセリニはその一撃を躱すと同時に弓による一撃を与える。

 それを受けたゴブリンは軽く仰け反る。


 ――本命。

 弓矢での最大のダメージは矢による射撃であり、その隙を見逃さなかったセリニは矢を出現させると番える。

 

「!」


 だがその僅かな時間にゴブリンは体勢を戻した。

 それを見たセリニは目を見開いた。


 ――なんか……変。

 体勢の戻し方に生き物らしさを感じない。強制的に動かされている人形の様だと感じたセリニに横振りの短剣が迫る。


「――残念」


 その一撃を僅かに身体を逸らす事で躱したセリニは反撃の一矢を放ちそれはゴブリンに直撃する。

 自身の矢が直撃する様子を見ながら戦いの時の中で発生するある状態を期待していたが……


 ――あれは起きない。

 その状態になっていないと判断したセリニは再び弓矢を構える。

 その隙に斬撃が放たれたら移動する根端であったが――ゴブリンが後ろに跳んだ。


「え……」


 想像していない展開の為に呆気にとられながらもセリニは矢を放ちゴブリンに直撃する。しかし軌道が変わる事なく着地すると再び地面を蹴って跳躍する。


「?」


 何をしているのか解らなかったセリニだが――跳躍した先を見た瞬間に嫌な予感を感じる。

 その先には木があり、樹皮にゴブリンが到達したと同時に仕掛けてくると見解したセリニは跳躍した刹那――


「やっぱり仕掛けて……」


 フードで隠されたゴブリンの頭部から漏れ出す様に現れた黒き粒子は瞬く間に脚部を黒で染まるとゴブリンが消え去ると同時に爆音が鳴り、木が崩れ去る。

 それから数瞬の合間を縫うと空気を揺るがす衝撃音が再びなった。

 ゴブリンはセリニが立っていた地面に短剣を突き刺している――しかしそこには彼女はいない。


「溜め跳躍?」


 瞬間移動の様な動きを見たセリニは自身が先にした動きと重ねて見ていた。

 そんな彼女が立っている場所は大岩の上であった。


「黒が原因だろうけど」


 黒き粒子によって動きが強化されている事を察しながらセリニは既に構えていた弓矢から矢を放つ。


 ――着地の隙を狩るのは……。

 ゲーム経験に基づいた理論を心で口にしながら矢の先にいるゴブリンを見たセリニは――


「え!」


 セリニの驚きの声と同時に矢が突き刺さる。行き着く先は土であり、そこには誰もいない。本来いた筈のゴブリンは――空中に()()()()()


「どう……なって」


 地上にいない以上空中にいるのは必定であった。

 だがしかしゴブリンが矢を避けた手段もその後に空中に漂う方法も目撃したセリニにとって想定の範囲外であり――言葉を失う。


「羽で――」


 空中に漂うゴブリンには黒き粒子で構成された片羽かたよくが出現している。


「かっこいい」


 黒いローブに蝶の様な造形の黒い羽――その組み合わせだけで映えると思ったセリニは素直な感想を零す。

 

 ――だけど!

 ――倒さないと!

 同時に敵である事も認識したセリニは余計な事をされる前に即座に矢を番えて放った――されどもその矢はゴブリンに届かない。


「それで……」


 羽は迅速な動きでゴブリンの身を包み込んだ。標的が羽に差し替えられた矢は当たる――すると羽は粒子となって霧散する。


「まだ……」


 仮初の片羽を失ったゴブリンは地上に降下する。先は失敗したが着地の隙を狙えるとセリニは弓矢を構えて放つ。

 ――だがまたしても想定外の事態が起こる。


土竜もぐらみたい」


 地上に落ちると同時に矢はゴブリンに直撃しそうになる。だがその身体に周囲が黒き粒子で覆われたと同時に着地地点も穴の様に広がる黒に染まる。それに触れた刹那――地上の黒の中に吸い込まれたゴブリンは姿を消した。


「何処に……」

 

 それを見たセリニは再び現れる時に何処から出てくるか解らない為に警戒心を強めるが――その警戒心は即座に解かれて変わりに戦いに臨む心持ちとなった。


 ――あれは……。

 セリニが目にしたのは黒い点であった。地中に潜んでいながらも見える不可解なものであった為に一目で気づいた。それは線を引きながら自身に近づいてきた。


 ――離れた方が……

 それが姿を消したゴブリンなのかまで解らないが何かの予兆と思えたセリニは大岩から離脱する。


「岩の中に」


 空中に身体を移行しながら黒い点を注目していたセリニは黒い点が大岩の下に入る瞬間が視界に映る。

 そして地上に下りた刹那――大岩の天辺から黒き粒子が泥流でいりゅうの如く噴出する。


 ――次は……。

 現れた攻撃を目視したセリニはそれで終わらないと思った瞬間にゴブリンが勢いよく大岩の天辺より姿を現した。


 ――一度地面に潜った後に攻撃?

 今起きた事をセリニが推測する。それと同時に――


 ――普通のモンスターじゃない。

 攻撃の派手さやその速度から序盤に出会うべき敵ではないとセリニは心の中で溜息を吐きながら――歓喜の気持ちを感じる。


 ――レアなモンスター……だよね。

 フィールドにはフィールドボスの他に稀にしか出会う事がモンスターがいる。そう電子説明書には書かれていた事をセリニは思い出す。


 ――出会いたい時に出会えなさそう。

 ゲームをプレイしていると時折起きた現象の事を考えている間にゴブリンは大岩に着く。


「!」


 確認したセリニはゴブリンが先に行った瞬間移動に匹敵すると動きをすると瞬時に推測。躱す為にその場から跳び退く。


「あれ」


 だがゴブリンの攻撃は短剣の投擲であった。


 ――普通の攻撃。

 予想が外れて驚くセリニだがその最中にゴブリンは着地して地面に刺さった短剣を回収する。


「!」


 それを見たセリニは即座に弓を射る。チャンスと思って慌てて放った一撃だが距離が近かった為にゴブリンに命中する。だが矢を受けながらもゴブリンは短剣で切りかかる。


 ――黒いのない。

 粒子を纏った一撃でない事を確認したセリニは弓で受ける選択を選んだ。

 

 ――鍔迫り合いに持ち込めば。

 黒衣のゴブリンに初ダメージを与えたきっかけをセリニは思い出す最中――弓と短剣は衝突する。


「違う」


 しかし接触した瞬間に鍔迫り合いが起きた時と感覚が全く異なる事にセリニが気づくと――ゴブリンは地面を蹴り後退した。


「!」


 想定外の動きで多少よろめくが体勢を戻す。その最中もゴブリンを行動を見ていたセリニは――再び接近してくる事に気づくと同時に攻撃手段に驚いた。


 ――短剣じゃない。

 ゴブリンは跳び蹴りを繰り出してきた。


 ――弓で受けきれない。

 斧で攻撃された時と同じ感覚を感じたセリニは回避を選択。地面を蹴ったと同時に――


 ――足から刃。

 脚部に流れた黒い粒子が鋭利な形状となる場面を目撃する。しかし肝心の蹴りが外れた為にそれは何も意味を成さない――されどもセリニの警戒を強めるのには十分であった。


 ――まだ攻撃手段が……ある?

 目の前の黒衣のゴブリンがどの様な敵なのか初見故にセリニは解らない。詰まる所――それは攻撃手段に底があるのか見極めるのが困難である事を意味している。


 ――また戦えるか解らない。

 そしてクエストで出会ったボスモンスターではなく、偶発的に遭遇したモンスターである。確実な再戦の機会があるならそれでもいいがそれがあるかセリニは知らない。


 ――次のチャンスで絶対……。

 故に大ダメージを与えるチャンスを虎視眈々と待つ事を決めるセリニ――考えている間にゴブリンは二体の黒い分身を出現させて攻撃させるが既に対処方法を知っている為に容易く凌いでいた。 


 ――黒い粒子を出すと苦しんでるような?

 その傍らに黒い粒子を出すとダメージを受けているような声を漏らしているとセリニは感じるが――その間にゴブリンは跳躍する。


「きた」


 それを見たセリニは短剣に注目する。


 ――大丈夫。

 ゴブリンの両手で握られた短剣に変化はない


 ――チャンス。

 それを見たセリニは不敵な笑みを浮かべながら二歩の幅だけ後ろに下がる。

 数秒後――ゴブリンは地上に短剣を突き刺した。


「……」


 確認したセリニは前に踏み出しながら弓を振ろうと動く。だがその動きを読んだかの様にゴブリンは片羽を出現させると同時に飛翔。しかしその動きも既に想定していたセリニは勢いを付けて跳躍して追いつくと振り上げていた弓を振り下ろした。

 羽が独自に動く兆候を見せるがそれよりも弓本体の一撃がした直撃したゴブリンは――黒き羽を消失させながら地面に叩きつけられる。


 ――もう一撃!

 身体の内側で気合を込めながらセリニは空中にて弓を振り下ろした。

 

 ――少し早く。

 落下速度が上昇した様に感じるセリニだがその最中に地上に到着――そして体勢を戻しているゴブリンに弓による攻撃が直撃する。

 するとゴブリンは無防備な姿でその場に立ち尽くす。

 今までとは明確に異なる状態と一目で解るものであった。


「衝撃を与え続ける事でなる――ショック状態」


 それを見たセリニは淡々とゲーム内の用語を口にした。


 ツインファンタジーワールドには衝戟力しょうげきりょくという要素も含まれている。それは攻撃力とは別枠であり、プレイヤーがどれだけ攻撃力を上げても変化せずに攻撃の種類によって数値が設定されている。

 そして落下した時やオブジェクトに衝突した時にも発生する。

 矢による攻撃は与えるダメージこそ弓を装備している時に一番高いが衝戟力は一番低く。衝戟力だけなら弓による直接攻撃が一番高い数値となる。

 それを弓の説明を見て知っていたセリニは意図的に黒衣のゴブリンに弓による直接攻撃を続けていた。

 そして衝戟力が与え続けると画面では確認できない数値が溜まり、その数値が一定の値まで蓄積するとショック状態と呼称される状態異常を引き起こすになる。

 その状態になると数秒間動かなくなり、その間はダメージ量が増大する。

 一度解除されるとしばらくショック状態にする事が出来なくなる為に、一度のチャンスを逃すと致命的であった。


 ――今がチャンス!

 大ダメージを与える機会を得たセリニは気持ちを昂らかせながら手元に赤い草を出現させる。

 それは闘争草とうそうそう――効果は短時間の攻撃力増加。正にこの瞬間の為にあるようなアイテム。そう思いながら少女がそれを握ると粒子となって消失。そして一瞬だけ身体は赤くなる。再び手に新たに現れたのは矢であり、瞬く間に弓に番える。


 ――念の為。

 そのまま矢を射るセリニはゴブリンの反撃を警戒して少しだけ後ろに跳躍する。


 ――後二回くらい。

 跳躍している狭間に弓矢の準備を終えていたセリニは着地と同時に矢を放つ。未だに近距離であった為に矢は即座に直撃。その間に矢を出現させるが――突如ゴブリンの叫び声が届いた。


「え……」


 セリニが声に反応すると同時にゴブリンは糸が切れた人形の様に仰向けに倒れこんだ。


「倒……した」 


 黒衣のゴブリンを強敵と認識していたセリニはショック状態が解除される事を前提にしていた為に驚きを隠せなかった。

 

 ――もしかしてとても素早いからHPが低い?

 だが戦っている時のゴブリンの動きを考えると攻撃を当てる事が難しいがその変わりに防御力等の耐久関係のステータスがそこまで高くない

 そうセリニが考え始めた矢先に――倒れたゴブリンに変化が起きた。

 

「黒く?」


 微かに見える倒れたゴブリンの緑色の肌が黒に染まり始める。それはまるで蟲の群れに喰い尽くされる光景にも見えた。


「!」


 その光景を見たセリニは嫌な予感が身体に突き刺さると反射的にその身を後ろに跳躍させる。

 それに合わせてか――将又はたまた偶然なのか同時にゴブリンは全身から漆黒の光彩を解き放つ。


 ――どうしてかな?

 その光景を目にしたセリニは自身に対して疑問符を浮かべる。


 ――幻想的に思える。

 それは漆黒の光彩を目にした自分自身の感想に対してあった。


 須臾しゅゆにしてゴブリンの身体は消失。そして身体に秘められていた漆黒の光彩が衝撃として――誰もいない空間を消し飛ばした。


「……大丈夫だよね」


 漆黒の光彩から逃れていたセリニは大岩の背後に隠れていた。


 ――第二形態が始まるとかないよね?

 そしてRPGのお約束の要素がある可能性をセリニは考えている。


 ――ゴブリンの皮を被った別の何かとか……?

 他にもゲーム的にあり得そうな事を考え込んでいた。

 それから十秒後。周りで何も起きていないと考えたセリニはそろりと漆黒の光彩が発生した場所まで移動していた。


「黒い粒子だけ」


 空中に漂うのは戦いの後の残骸。満たすは静寂の場――セリニは深い息を吐き出した。


「終わりだよね」


 周囲を見渡して動く者がいない事を把握したセリニの内に宿るのは歓喜の熱。


「強敵を――倒せた!」

 

 弓に目を向けながら右手を強く握ったセリニは勝利した事を確信――喜びを強く実感した。

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