第1話 銀髪弓使いのプロローグ
「ツインファンタジーワールド……だよね」
寝転びながら舞風月影は困った様子で呟いていた。
その横には天を貫く複数の塔が建ち並び、武器を持った数多の男女が歩んでいる構図のゲームパッケージが置いてあった。
「筑波さ……じゃなくて……爽陽ちゃんの誘いだけど」
月影は唯一無二の友達である筑波爽陽の姿を思い浮かべていた。
「陰キャの……わたしが誘ってくれたけど」
舞風月影は自己評価が低く物事をプラスに考える事が出来ず、出来たとしても内気で他者との関わりを恐れる人見知りである為に他者に伝えるのはとても下手である。
小学生を卒業した時、クラスメイト達が友達と泣きながらも楽しそうに語らう姿を背に家族と一緒に帰宅した瞬間にその事を強く自覚する事となった。
それからは中学生に入学した後に自身の性格が露見してクラスの皆からあれこれ陰口を言われたり、変に思われる事を非常に恐れる様になった。
そんな悪夢を避ける為に余計な言葉を口にせずに静かで真面目な佇まいで中学校生活を送る事を決める。
そのお陰で時折視線を感じる事もあったが周りから変に言われる事もなく、平穏な3年間を過ごせた。
しかし最後の時までクラスメイト達と最低限の関わりを徹底した結果、小学生の時と同じく誰とも友達になれないままで卒業式を迎える事となった。
家族以外に気軽に話せる人がいない事を諦めて……慣れてしまった月影はそのまま高校の受験を受けて合格、そして入学したが――転機が訪れる。
入学式が終わると即時に帰宅した月影であったが、その道中で突然話しかけられた。その人物こそ筑波爽陽であった。
実は彼女とは小学1年生から中学1年生まで同じクラスであった。そして偶然にも同じ高校に受験、そして合格して入学していたのであった。
そんな事を言われた月影であったが、一方的に知られているだけで自身から見ると知らない人であった為に思考が追いつかずにひたすら困惑した。
だが爽陽も困惑させる事を承知で話しかけてきたのか、会話が成立しない状態でいきなり声をかけた理由を語った。
小学1年生から中学1年生まで7連続で同じクラスになった事に気づいた爽陽はせっかくの縁だと話しかけようとした。
だが別のクラスメイトと話しかけられていた月影が小学生の時とは別人な様子であり、それを見て話しかける事に躊躇してしまい。そのまま1年過ぎ、2年生以降は別のクラスになって以降、一度から話す機会もなく互いに中学校を卒業した。
爽陽は悔いており、別のクラスであるが同じ高校に入学した事に気づいてそれを機に話しかけた、それが真相であった。
困惑しながらも事の発端が自身にあると思い込んだ月影は後悔の感情に呑まれ、何を言えばいいのか、考え込もうとしたが、爽陽から別の場所で話さないかと誘われた。
その様な誘いは初めてであったが、断る勇気がなく、断る事も失礼だと思い――誘いに乗った。
そして話の中で共通の趣味があることに互いに気づけて意気投合した結果、月影にとっての初めての友達となった。
「楽しめるのかな?」
高校に入学するまで家族と過ごす時間以外は一人でいる事が殆どで外に出かけるのも苦手な月影の趣味は読書の様な室内で出来る事で限定される。読書も嫌いではないがそれ以上に好きな事がある。
「ゲームするのは好きだけど……」
ゲームが趣味であり、勉学の妨げにならない程度に楽しんでいると本人は思っている。そして爽陽も同じくゲーム好きであった。
その彼女からお勧めされて買ったのがツインファンタジーワールドである、しかし月影にとって心配な点が二点あった。
「VRMMO……だよね」
電子空間に入り込んで遊ぶ事ができるオフライン専用のVR。オンライン専用のVRMMOと呼称されるゲーム。今から五年前に発売されて、瞬く間にゲーム産業に多大な影響を与えた。
ゲームが好きな身としてはどんなものなのか興味があり、何時か欲しいと考えていたが、考えるだけで手に入れてなかった。
しかし最近になって次世代のVR専用ゲームハードNEW WORLD2が発売された事を知った月影は思い切ってお年玉でハードは買っていた。
「初めてするのがこのゲームでいいのかな?」
ゲームハードを買ったのなら同時にゲームソフトを買うのが当然である。しかしVR用のゲームソフト数はオフライン用、オンライン専用を合わせて既に千を超えていて、ゲーム売り場には膨大な数が並べられていた。
そんな状況の為にどれを選べばいいか解らずに月影は困惑、人集りも出来ていて、それに恐怖した為にゲームハードだけを買ってそそくさと家に帰った。
それ以降、ゲームハードに最初から内蔵しているオフライン専用のVRゲーム。Virtual Reality challengeを遊んだが、爽陽にお勧めされてツインファンタジーワールドを買うまではゲーム売り場に立ち寄る事が嫌になっていた。その為に今から始めるゲームソフトが月影にとっての初めてのVRMMOでそれが一つ目の理由である
「……オンラインゲームだよね」
そして二つ目の理由はツインファンタジーワールドはオンライン専用ゲームな事であった。
他者とコミュニケーションが苦手である月影にとっては最悪に相性が悪いとしてその話を聞いた瞬間は拒絶した。
「爽陽ちゃんとなら何とかなりそうだったけど……」
入学式に再会したその日に自身が陰キャである事は伝えていた。その為に拒絶される事は織り込み済みだった様であった。
爽陽もまだ始めてさえいない状態であり、月影も関わるある理由から猛烈な勢いでするべきと言われた。
そして一緒に頑張ろうと勇気づけられ、一緒なら楽しくプレイ出来そうだと購入を決意した。
「一緒にやれないなんて」
だが同日に始めるのが無理だと電話で知る事となる。
その理由はツインファンタジーワールドと並行してプレイするつもりだった別のVRMMOゲームがいきなりサービス終了を発表したからであった。
予想外の出来事である為か爽陽は有終の美を飾る為にツインファンタジーワールドはそのゲームがサービスが終了してから始めると月影は言われる。
「けど仕方ないよね……かなりやり込んだって言ってたから」
月影はそれを快諾して自身がツインファンタジーワールドを始めるのは爽陽も遊べるタイミングに合わせようと考えたが――
「それにしても……なんであんなことを言ったんだろう」
それを口にする前に月影は「今から始めればイベントで凄いものを無料で手に入るかもしれないわ! 是非やってね」と爽陽に言われて先にプレイする事を強く勧められてしまった。
「わたしは陰キャだって言っているのに……適性があるからって……」
不満が口から漏れる。だが身体は自然と起き上がる。
「けど……遊んでみたい……かな?」
VRを既に体験していた月影にとってそれはとても新鮮な感覚でとても楽しいものであった。
唯一したVirtual Reality challengeもあっという間に全クリしている。その余韻は未だに続く――それは冷めない熱であり不可視の導線となっている。
再び体験したい、本格的に楽しみたい。
気持ちが前のめりとなって誘惑の流れに逆らう事は不可能であった。
「やるだけやって……駄目なら爽陽ちゃんを待とう」
準備は常に万端にしないと落ち着かない月影は既にゲームハードの電源を入れるだけで始まる段階までのセッティングは済ませている。
しかし念の為にゲームハードを直にチェックする。
「オンラインをする時は……ちゃんとセットされているね」
一度ゲーム空間に入るとゲームの環境を変更する事は現実に戻るまで不可能となる為に確認は大切であった。
その作業中に月影はある事を思い出していた。
「初めてオンライン状態でゲームを動かすと……特殊な演出があるんだよね」
そうとしか書かれていない為に それ以上の事を月影は分からない。
「――変な演出じゃないといいけど」
どろどろとした質感を伴った不安が脳裏を過るがそれでも心が示し、自身に満たされているのは好奇心であった。
「嫌だったらスキップ可能だから――」
故に吹っ切れて身体だけは動いている――少し経つと月影はVRMMOの準備を完了していた。
「大丈夫だよね……」
ゲーム空間に意識を移すのは既に何度かしている。だが未だに慣れていない為に耳まで届く高鳴る心臓の鼓動を意識しながら目を瞑る。それから10秒後に電源を入れる。
その瞬間――月影の全感覚はゲーム空間に転送された。




