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11 暴露

 一時滞在していた街を出発して、またテントを張って野営する旅へと出発した私たち一行。


 私にジュリアスの過去を話してからの馬鹿王子エセルバードは、少々様子がおかしい。なんなの。良くわからないけど、なんだか不気味。


 最近はジュリアスが呼ばれて居ない時を見計らって、私の元へとちょくちょくやって来るようになった。


 しかも、これまでに繰り返された暴言など何もなかったかのような、良くわからない好意めいたものを向けられているのを感じる。


 だから、ジュリアスが団長代理のハミルトンさんに急用で呼ばれて、一人で夕食を取ろうとしていた時にも……私はなんとなく「そろそろ、三歳児が来るんだろうな」と、なんだか冷めた気持ちで居た。


「おい。そこのお前」


 さっきの予想通りエセルバードの声が聞こえたし、これはきっと私の事なんだろうなと思った。


 けど……無視する。


 私。そこのお前さんじゃないから。名前でちゃんと呼ばれたら、別に振り向いても良い。


「おい!」


 黙々とご飯を食べていたのに肩をぐいっと強く引っ張られて驚きはしたけど、怒りの感情は浮かんで来なかった。


 実際のところ馬鹿王子に対して、私は諦めの気持ちが強い。


「あの……何の用ですか?」


 冷めた口調で彼に問いかければ、エセルバードはいかにも不機嫌そうに言葉を放った。


「なんだよ。俺が呼んでいるのに……っ、まあ、それは良い。少し、話せないか」


 面白くなさそうに視線で近くの木の下を示したので、あの場所で私と二人で話したいらしい。


 ……一体、何を? 話すことなんて、思いつかないのに。


「あの……ジュリアスにも同席して貰って良いですか? 私。貴方のこと、信用していないんです」


 何一つ。まるっきり。


 それに、私は異世界から召喚された聖女なので国民でもないし、王族と言えどこんな乱暴者を敬う必要性については完全にゼロ。


 慣れないだろう冷めた視線と口調にエセルバードは眉を寄せて、無言で強引に手を引いた。不本意ではあった。


 けれど、ここで揉めたりして誰かが助けに来てくれたとしても、その人が板挟みになってしまう。


 だとしたら、さっさと用件を先に聞いた方が良いのかも……。


「お前は……ジュリアスジュリアスと……そんなにも、あの男が良いのか?」


「あの、言いたいことがわかりません……何が言いたいんですか?」


 そんなわかりきった質問を、今改めて聞いてどうするつもりなんだろう。


「どうせ……お前はジュリアスの父親が、国民からなんと呼ばれているか知らないだろう……異世界から来たんだ。あの男は汚れた英雄と呼ばれ、その息子と結婚すれば苦労が続くだろう」


 え。綺麗な青い目がキラキラしているだけ、イケメンの無駄遣い。


 もしかして、これを私に伝えたかったの?


「……別にそうだとしても、エセルバード……殿下に関係なくないですか? 祝福の能力のない私は魔物退治さえこなしてしまったら、異世界に帰ろうがジュリアスと結婚しようが、殿下にはどうでも良くないですか?」


 真剣に問いかけた私に、エセルバードはふんっとわかりやすく鼻を鳴らした。


「お前。俺は知っているんだ。聖女の祝福がもう使えるんだろう? ……どんな能力だ。特殊な発動方法か? どうして、わかっているのに騎士団に明かさない?」


 確信ある話しぶりのエセルバードに、私はドキッとして胸を押さえた。


 ……え? ジュリアスもハミルトンさんも、話すわけがない。けど、なんでこのエセルバードが知っているの?


「まだ……それは、わかっていません」


 エセルバードがどういう情報を持っているかまだわからない以上、下手なことを言う訳にもいかない。慎重に言葉を選んだ私に、目の前の彼はわかりやすく顔を顰めた。


「おい……あんまり良い気になるな。俺はお前が祝福を発動出来ることを、知っているんだ……だが、何故それを明かさない。もしかして、何か隠しているのか……?」


「そんなはずは、ありません!」


 エセルバードは表情を険しくし私の手首を再び強く掴み、木へと押し付けて顔を近づけた。


 エセルバードは、王子様っぽい美形ではある。ただ、顔が良いだけでは悪すぎる性格などはカバーなんて出来る訳なくて、好感度は全然上がらない。


 私は顔だけの男は、絶対に無理だと思う。


「……ちょっと、離して! 離れてよ!」


 近くに人が居るはずだし、ここまでされるとは思って居なかったさっきまでの自分の警戒心のなさを責めたい。


 こんな奴はろくでもないことをするに、決まっているのに!


「おい。少し優しくしてやれば、生意気なのも良い加減にしろよ。ジュリアスはジュリアスでも、俺が逆らえないあの男は、ここには居ないんだからな!」


 両手首はしっかりと握られているから、足をばたつかせてもびくともしない。男女の体格差をここで思い知らされてしまった。


「もうっ……いい加減にしてよ!!」


 叫んだ瞬間に急に手を離されたので、私は思わず尻餅をついてしまった。いきなり変わった目線の先には、逆にジュリアスに詰め寄られているエセルバードの姿。


 首元を掴まれて木に押し付けられて、足は浮いている。


 二人とも高い背丈は変わらないけど……ジュリアスが、腕を伸ばしてエセルバードを軽々と持ち上げているんだ。


「っ……離せ! 俺を誰だと思っている!」


「女性への暴力行為は……いい加減にされた方がよろしいんじゃないですか。父上もさすがに庇いきれなくなりますよ」


「お前。なんだと……うるさい! うるさい! もし、それ以上、何か言ってみろ。お前を破滅させてやるからな!」


 静かに淡々とした態度のジュリアスに対し、真っ赤な顔のエセルバードは激高しているようだ。


「……ジュリアス。私は大丈夫だから。もう良いです」


 けほけほと咳き込みながら私が言うと、どさりと重い音をさせジュリアスはエセルバードを離した。


「聖女様。大丈夫ですか?」


「ごめんなさい……私は大丈夫。もう行きましょう」


 手を差し伸べてくれたジュリアスに掴まり、私は面白くない表情で座り込んでいるエセルバードを冷たく見てから背を向け歩き出した。


「……おい! 俺は知っているんだ。お前、宿屋で祝福を使っただろう? 俺付きの魔術師が言っていたんだ。祝福は魔法とは原理が違うためにかなり近くでないとわからないが、あれは祝福の波動だったと……お前ら、何を隠しているんだ?」


 しまった……私が宿屋のエセルバードが居る近くの部屋で『祝福』を使ったから? 魔術師にわかってしまうなんて、聞いてないよ!


 私があわあわと焦っている前に、ジュリアスは至って冷静な様子でそれに答えた。


「エセルバード殿下。聖女様は、まだ自身の祝福を知りません。何かと誤解されたのではないですか?」


「おい……馬鹿にするなよ。あいつがそれを俺に嘘をついて、何の得があるんだ……? いいや。お前、ジュリアス……父親に似過ぎているな。さっきの話し方もまるで、一緒ではないか」


 私たちの中に、緊張感が走った。剣術指導でジュリアスはエセルバードが幼い頃から一緒に居たと言っていた。


 長年一緒に居る人特有でわかることだって……あるのかもしれない。


「親子だから、ある程度は似るでしょう」


 ジュリアスは全く動揺を見せずに、素っ気ない。


「……おいっ……! 馬鹿にするな。よく考えて見るとある程度どころか、うり二つではないか。もしかして、お前はジュリアス本人か? ああ……おかしいと思って居たよ! いきなり帰城? 代理に息子? ……今回の聖女の祝福の能力は、過去に戻す力か?」


 エセルバード……なんでそういう推理だって出来るのに、人間的にとても残念なの?


 ほんっとうに、不思議だよ!

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