第三部 立派な勇気
レクフォンは最後の力を振り絞って猛攻を始めた様だ。地中からでもそれが分かる。僕は足、というか手がすくんでしまって動けなかった。しかし、味方が地面の揺れと共にやられていく度、僕はこのままでいいのかと自分を問い詰めてしまう。姉ちゃん…。僕、やっぱり怖いよ。母さんみたいに堂々と出来ないし、頭は悪いし、運動神経もあんまりだし、音痴だし、絵も下手だ…
「うわっ!」
姉ちゃんの声。そのまま姉ちゃんは落ちて行った様だ。今出なかったら、姉ちゃんそのまま落ちる…?僕は穴を掘って姉ちゃんの真下に行き、地表に出て姉ちゃんを受け止めた。その時、初めて分かった。もう、戦えるのは僕しかいない。姉ちゃんも気を失っているし。僕は慌てたが、もう手遅れだった。レクフォンは僕に集中攻撃を仕掛けてくる。僕はとりあえず姉ちゃんを穴に突っ込み、完全に地表に出た。僕は懸命に走った。レクフォンの攻撃が僕の走った所を無惨な姿に変えていく。ずっと妖力を温存して、特殊能力で戦っていた。それはちゃんと意味がある。妖力を大量に消費するこれを、万一の時に使うためだ。
「空間術、無限地下!」
そう、僕は一応空間術が使えるのだ。と言っても辺り一面が地中になるだけだが。レクフォンは困惑している様子だった。ちなみに、空間術は属性や特殊能力によって決まる。僕はレクフォンに連続攻撃を当て続けた。レクフォンは疲れもあってか反撃して来なかった。このまま、やり切るんだ、絶対!レクフォンは瞬間移動をした。僕は必死に探す。しかし、レクフォンは外に出てしまったようだ。やり切れなかったか…。僕は最後の妖力を振り絞り、空間術を解除してからレクフォンに突進して行った。レクフォンの拳と僕のモグラの爪が交差してから、記憶がない。
あれ…?さっきまで戦ってたはずなのに静かだ…。私は翼に痛みを感じた。これは当分飛べないな。それでもゆっくりと立ち上がり、辺りを見渡してみると、レクフォンとハスが相打ちになって倒れていた。夢じゃないよね?あの文句タレで、泣き虫で取り柄が空間術しか無い様なハスが、レクフォンと同等にやり合ったの?てっきり瞬間移動で空間術を抜けられてやられると思っていたのに。誰かやって来る。もしかしたら増援なのかもしれないと思い身構えたが、それは杞憂に終わった。なぜなら、やって来たのは見た事ある人だったからだ。
「終わった様ですね。手伝いに行こうかと思っていましたが、余計な仕事が増えてしまい来れませんでしたし。てっきり負けているかと思いましたが、引き分けですか。しかも、他人の力を借りて。これは要努力ですね。さて、病院まで運びますか」
なんかこの人、怖い。でも、瞬間移動した後私たちは病院にいたので悪い人ではないのだろう。見かけは警察官だし。その後、私たちは治療を受けてフォニックス本拠地に来た。なんかお手伝いさんみたいな人があの…えーと…草狐さんの方へ向かって行った。
「終わったー!今日は打ち上「フォニックスの皆さん。まさか、決着を自分たちで付けられなかったのにも関わらず打ち上げをしようなんて思ってはいませんよね?」
また怖い人が来た。エントさんは固まった。でも、その反応は8人の中でも割れていた。ライトさんとフウワさん、ソウマさんはやる気を見せていた。スインさんとアインさんは別に普通だった。エントさんとツーハちゃんは嫌そうにしていた。じゃあ、シンさんはどうなのかというと、レクフォンと一対一で戦った時によっぽど無理をしたらしく風邪を引いてしまった。本人は不服そうだったが、ライトさん曰く『風邪でも引かない限り休もうとしないだろうから、丁度良かったんじゃ無いのか?』との事だ。確かにあの人と関わりない私が言うのもなんだけどゴロゴロしているイメージは皆無だ。いつも気を張っている様な気がする。この戦いが終わって緊張の糸が切れたのだろうか。フォニックスたちが強制連行されていくのを見送った後、帰ろうとしていた私たちをイネイさんが引き留めてくれた。焼きたてのシフォンケーキが特に美味しく、みんなで楽しく食べた。フォニックス、ご愁傷様。ハクムさんがシフォンケーキを持ち帰る為にラップを出そうとして盛大に失敗していた。それを見て笑ったフェルクにケトクちゃんの拳骨が落ち、フェルクは床に埋まった。特殊能力じゃないのにウンモちゃんと同じくらいの腕力があるのではないかと思ってしまう。まあ多分ウンモちゃんは規格外なんだろうけど。今中庭で木を引っこ抜いていたのを目撃した。…みんな凄すぎる。確かにこんなメンバーが揃えばレクフォンを倒せるのも納得だ。ちなみにフェルクは出て来てハクムさんに土下座している。確かにハクムさん怖いよね。なんていうか、迫力がある。でも、優しいのは分かる。きっとあのシフォンケーキはムルル君にあげるんだろうし。あれ?そういえばハスは?後ろを向くと、グースカ寝ているハスを発見した。きっと、疲れたんだろう。




