プロローグ 新たな技
レクフォンは突如、光の無い目から涙を流し始めた。俺たちは困惑し、気づけば攻撃をやめていた。しかし、それは間違いだったのかもしれないと、レクフォンの妖気が異常に高まり始めてから思った。でも、手遅れだった。辺りが闇に包まれ、足が地面から離れなくなった。俺は技を出そうとしたが、少しも出なかった。一方、すぐ隣にいたアインの技は出た。これはどういう事だ?アインもレクフォンが見えず四苦八苦していた。俺たちがピンチに陥っている中で、もう一つ膨れ上がっていく妖気があった。こちらには覚えがある。…お前に託すしか無いのかもしれないな、シン。シンが凄い勢いで走り抜けていったのが妖気の動きで分かる。2人が攻撃し合ったのが聞こえた。
てっきり遠距離タイプかと思っていたが、結構近接も出来るんだな、こいつ。一撃の重さが半端じゃねえ。腕が少し痺れてるし。近接戦闘において影で作った生物は妖力を無駄遣いするだけだ。俺にもっとパワーがあれば…。これはなるべく使いたく無かったが、こんな状況で出し惜しみなんてしていられない。俺は意を決して影から『自分』を出し、身に纏った。そして、レクフォン目掛けて突っ込んで行った。レクフォンとやり合っても、当たり負けすることはない。しかし、1番恐れていた事はきっちりやって来た。アインもこんな感じだったのかもしれない。戦いたくて仕方が無いという、闘争本能の暴走。もう止める事なんて出来なかった。俺は自分の体が動くのをただ見守っているしか無かった。これは、やっぱり、やめた方がい…
『愚かな事を考えるな。其方らに於いて、此れは大切な成長の過程だ。其れから目を逸らして居ては、いつ迄経っても強く成れんぞ』
創造神か。この衝動を抑え込めとでもいうのか?…いや、それだと少し違う気がする。確かにこの状態は強い。この力を常に、それも安全に使う事が出来たらいいという事なのかもしれない。あいつ、匂わせておいて合ってるのか合ってないのかも言わないとかタチ悪いな。レクフォンのこの技はおそらく今までに無い種類のものだ。今までのような単発的な技とは違って、周りの環境を自分が有利になるように変える技なのだろう。効果は暗闇になる、光関連の技が使えなくなるといった所だろうか。とは言いつつも、まだ何か隠しているような気がする。レクフォンが急に近接戦闘に切り替えたのと関係があるのかもしれない。レクフォンと俺がぶつかり合う。それの繰り返しだ。自分の意思で動いている訳では無いから自分が勝ってるのか負けてるのかすら分からない。確かに本能任せの戦いは不便でリスキーだ。俺は一旦考えるのをやめて俺の主導権を俺に戻すのに集中する事にした。俺の中の俺と、闘争本能。何が違う?そこには明らかな妖力の差は無い。ソウマを思い出してみろ。いつもどうやって元に戻っている?…フウワ、なのか?だとしたら、絶対に傷付けたく無い人を見てブレーキをかけている事になる。しかし、俺が今するべきなのはこれを止めることじゃ無い。例えるならばリレー、パワーはそのままに、主導権だけを俺に替える。多分これで合っている。しかし、あいつが自らバトンを差し出すご親切な奴だとは思えない。だったら、取りに行くしかないだろ。俺は無理矢理体を思い通りに動かしてみせた。すると、いつもより速く走れたり、レクフォンの打撃を受けても一歩も動かずに受け止められたりしている。…パワーは上手く引き継げたみたいだ。あとは、俺の戦闘技術が勝敗を分けるって訳か。俺はレクフォンの蹴りを敢えて受け止めて足の動きを封じ、身体中の妖気を足という一点に集中させて蹴り返した。レクフォンがぐらついた瞬間、僅かに光が差した。この技はおそらく今までに無いもので、周辺の環境が自分が有利になる様に作り変えるものだ。今までに分かっている効果は二つ。一つは一面暗闇にする事によって相手の妨害と同時に影撃ちなどの適用範囲を広げさらに闇属性の技を強化するという一石二鳥効果。もう一つは闇では無いものを除くという行為が間接的に光寄りの技を使えなくしたという無意識な妨害。光は闇に強く、闇は光に強い。結果的に弱点を無くしたという訳だ。強すぎる効果だ。だが、いい事ばかりではないらしい。レクフォンの妖気が一気に弱まった。つまり、この技は相当な妖力を消費する。その上、ダメージによって揺らぎが生じるようだ。俺はこの技を破るまでは倒れる訳にはいかない。全く、あの馬鹿どもはいつも俺に面倒事を運んできやがる。俺は誰かとぶつかった。全く気づかなかった。一体、誰とぶつかったんだ?まあ、それは後で考えるとしよう。俺が負けたら俺らは多分全滅だ。レクフォンは元々身体能力が優れているのだろう、動きに疲れを全く感じさせなかった。こっちは結構ギリギリなのにな。悔しいが、俺とレクフォンの間には大きな差がある。それを群れる事で埋めているだけなのだ。




