第二部 エントの繰り返し
ほっと胸を撫で下ろしているみんなを見ていると、少し罪悪感が生まれる。それにしても、スレクの強打は少し痛かった。でも、度重なる農作業のおかげで耐久力が上がった気がする。僕はセリカの方を向いた。僕にはセリカに不意打ち以外で攻撃できる手段がない。自爆…はエント君に怒られるし、あの不思議な感覚はもうない。セリカは一瞬で目の前に来た。そして、黒い手で僕を攻撃しようとした。僕はやはり反応もできずにくらってしまう。セリカは僕を狙い続けている。そんなに頭突きが嫌だったのだろうか。僕が攻撃しようと手を前に出すと、セリカはすぐに反応して僕の腕を掴む。反応速度が異常に速い。特殊能力なのだろうか。セリカは僕ごと瞬間移動した。視界が開けると、僕は急に押し倒され、影撃ちで動けなくされた。しまったと思いつつも、あれは不可抗力だ。ここはどこだろう。視界の全てがセリカを除いてコンクリートの壁で、地下室なのかもしれない。ひんやりとした空気だった。セリカは奥から何かを取り出して来た。
「ふふ。私は元々戦うよりもこっちの方が得意なの。色々、聞かせてもらうわよ」
急に僕の寝ている床が他の床と垂直になり、セリカは針を僕に見せた。
「あのね、体で1番神経が集中してるのって爪の裏らしいの。だから、この針をあなたのそこに一本一本刺していけば、ちょうどいい拷問になると思わない?」
…拷問、か。なるほど、これで情報を引き出そうとしているのか。でも、これは負けられない。想像しただけでも痛そうだけど。針も結構太いし。僕はセリカを睨み返した。
ソウマとセリカが突然姿を消した。嫌な予感しかない。かと言って、瞬間移動されたら見当もつかない。その時、ふと後ろに気配を感じた。驚いて振り向くと気配の主は木から落ちた。ヒスラだった。
「び、びっくりするではないか!全く、助けに行こうと来てみれば、まるで敵を見るような目で…って、違う違う!さっきの草狐、おそらく闇屋敷に飛ばされたぞ」
「お前が調べたのか?」
ヒスラはわかりやすく目を逸らした。多分先輩忍者が調べたのだろう。全然変わっていないようだ。
「と、とにかく!助けに行くぞ!2人で!早くしないとマズいのだ!なぜなら、あいつは拷問を得意とする奴だからな!」
俺は逆にヒスラの手を引っ張った。
「行くぞ!ヒスラ、お前が囮になってくれ。そうすれば、セリカの不意をつけるかもしれない」
「なんだと!まあいい、これで活躍できれば俺の忍者としての価値も上がるだろうしな!」
ヒスラは地図を見ながら俺を闇屋敷の隠し通路に案内した。なんか、暗い屋敷だ。この通路はその忍者の先輩が作ったものらしい。じゃあお前いらなくね?と言おうとしてやめた。やがて、地下室に出た。ヒスラは迷わず突っ込んでいき、俺はその後を追った。なんだか、声が聞こえる。ソウマじゃない。セリカの声だ。ヒスラはセリカの前に出ると、面倒な自己紹介を始めた。俺はその後を追うと、床にソウマが倒れているのが見えた。俺は一瞬飛び出しかけたが、セリカがヒスラに集中してくれるまで待たなければいけない。焦ったさを感じながら、俺はヒスラを見ていた。セリカがヒスラを攻撃した、瞬間。俺は全力で走り、ソウマを抱えると、物陰に隠れた。幸い、セリカはまだ気づいていない。しかし、俺の手には血がついていた。ソウマはどうやら全く話さず、ずっと耐え続けていたようだ。服の所々に血が滲んでおり、俺は今すぐにでも病院に連れて行きたかった。その時、背後で爆発音がした。ヒスラがやられたようだ。俺は大人しく物陰から出た。セリカは両手に針を持っていた。それで大体わかった。
「あなたたちも、拷問を受けに来たの?気づいてるわよ。あなたがあの草狐を連れ去ったこと。それとも、あの人の分まで拷問を受けたいの?まあ、どっちにしろ倒すんだけどさ」
俺は恐怖よりも怒りが勝ってしまい、セリカに攻撃を仕掛けた。しかし、やっぱりかわされ、セリカの攻撃をくらってしまう。しかし、俺はセリカ腕を掴み、容赦なく服を燃やした。セリカは困惑し、動きを止めた。俺はセリカを引っ張って地上まで行き、庭に池があることを確認した。
「火を消してやっただけありがたいと思え!ここで泳いでろ!」
と叫んでセリカを池に投げた。濡れたセリカは完全に戦意喪失していた。俺は急いで地下に行くと、ヒスラがソウマを担いでこちらに来ていた。
「せっかくの忍者服に血がついてしまうが、そんなことも言ってられんのでな」
「ソウマ!」
俺はソウマをヒスラから奪い、とにかく最寄りの病院まで走った。こんなこと、以前にもあったような気がする。そうだ。オスコの時だ。…また同じことになっちまったのか。あの時とは違うのは、ソウマの体温くらいじゃないか。なんなら、もっとひどくなってる。俺は、本当に強くなってんのかな。だめだだめだ。今は1秒でも早くソウマを病院に届けなければいけないのだ。