第三部 シンとケイルの過去と今
俺は他の奴らが戦っている中、一本の木の枝を睨んだ。
「ずっといる事なんて分かってるんだぞ、ケイル」
すると、観念したように木の葉に隠れて見えていなかったケイルが姿を現し、俺の目の前に降りて来た。
「流石にバレてたか。まあ、お前からずっと隠れながら援護なんて無理だって事は分かってたけど。全然言い当てて来なかったから、もしかしたらと思ったんだけどな…」
俺はケイルを直視出来なかった。やっぱり、ケイルは俺を助けようとするのか。別に迷惑だとは思っていない。寧ろ助かっている。ただ、ちょっと罪悪感があるだけだ。俺はケイルに謝らなければならない程の事をした。その罪は償えていない。ただ謝っただけだ。俺はケイルにそんな事しか出来ていない。それなのに、ケイルが俺にこれだけ協力してくれているのは、何だか割に合わないような気がするのだ。ケイルと俺に血の繋がりなんてない。同じ紫目の闇狐なら多少なりともあるのではないかと思うかもしれないが、本当に無いのだ。なぜなら、ケイルの目の色は、本来水色だからだ。なのにわざわざカラーコンタクトで紫色にしている。自分の目が痒くなる事もあるというのに。なんでそこまでケイルが俺に尽くしてくれるのかについては、少し心当たりがある。戦争が起こる前に、俺は一度、ケイルを助けた事があるとケイルから聞いた時、全て思い出した。ケイルがうっかり崖から落ちそうになっていたのを、俺が瞬間移動で助けた。それだけだ。崖もそんなに深くない上に水が溜まっていて生存確率は高かっただろうし、他の奴らも助けようとしていたけれど、丁度俺が早かったというだけだ。それなのに、ケイルは俺を恩人扱いして来た。戦争が起こって俺だけが生き残ると、記憶が消えきっていなかった俺は人間不信になっていた。そこで、ケイルはカラコンを付けて俺の前に現れたらしい。ケイルは俺を森の外れ育ててくれた。しかし、俺を森の外に出す事は無かった。俺を守ろうとしてくれていたのだ。しかし、ガキの俺にはそんな優しさを理解出来る訳も無く。ただただ他の場所に行けない事を不満に思っていた。しかし、ケイルが真剣な顔で言うので、言いつけを守り続けていた。しかし、そんな時も長くは続かず。俺は反発したいお年頃になってしまった。初めてケイルの言いつけを破り、外の世界へ出て行くと、道ゆく人みんなに避けられた。俺は紫目の闇狐が悪の象徴になってしまっている事も知らず、悲しみに駆られた。オマケに、帰り道も分からなくなってしまい、人前で涙を見せたく無くてそこら辺にあった帽子を被ると、誰も避けなくなった時の驚きは今でも覚えている。そして、その事は噂を盗み聞きした時に知った。それから、俺は二度と人前で帽子を脱ぐかと思って生きて来た。…随分と長い間ぼんやりとしていた様だ。ケイルの呼び掛けで我に帰ると、少し太陽の位置が変わっていた。ケイルがじっと見つめて来るのがなんだかいたたまれなくて、目を逸らしても合わせて来る。本当は礼を言いたい筈なのに、何故かイライラして来てしまった。
「しつこい!落ち着かねえんだよ!」
ケイルは驚きもせず、俺の方が戸惑ってしまった。俺はケイルの弓を眺めながら、言いたい事を必死に整理していた。ケイルは何故か吹き出して笑い始めた。俺はまた戸惑った。ケイルは一通り笑うと、ようやく笑いの訳を説明してくれた。
「シンが必死に考えてる顔が可愛いけど面白くってさ。別に俺は怒ってないぜ。外の世界を知りたくなって出て行ってしまう事はなんとなく予想がついてた。それに、あの頃より立派な姿を見せてくれたんだから寧ろ良かったとも思ってる」
「俺は可愛くも面白くも無い!しかも、あの頃とそんなに…変わって…ねえよ…」
そんな2人の時間も終わりが来るもので。レクフォンの技が丁度2人の間に飛んで来た。当然避ければ2人は離れる。もしかしたら、嫉妬されたのかもしれない。弟が消えたあいつにとっては俺たちが疎ましく思う対象に見えたのかもしれない。まあ、ケイルと話したい事はもう無かったから別にいいんだけどな。ケイルは走りながら弓矢で攻撃していた。俺にはそんな器用な事は出来んだろうな。俺はケイルを見ていたせいか、上半身は人間で弓矢を持っており、下半身は狐というケンタウロスの狐バージョンみたいなのを出してしまった。慌ててしまったが、ケイルとスインにはしっかりと見られていた様で、2人に暖かい目をされてなんか嫌だった。ああもう、こんな事してる場合じゃ無いのに!いつもこの2人とツーハがいるとなんだか気が狂う。俺は一度深呼吸をして、強いものをイメージした。俺の中で強いのは…あのデカい鷲か?いや、あいつは光の神獣だから違うか?って、もう出てるじゃねえか!さっきから俺は一体何をしてるんだ?ああもう、こいつでやれる所までやってやる!これ以上妖力も使いたく無いしな。この戦いが終わったら、少し休むべきだろうか?




