第五部 Let’s go on a picnic!
翌日。朝起きると、いきなり瞬間移動させられた。何かと思って辺りを見回すと、見渡す限り広がる野原だった。今は2月の筈なのに、ぽかぽかとした陽気だった。
「ええと、これはどういう状況だ?まだ着替えてもないんだが」
「ピクニック!朝ごはんはここで食べるんだよ!ライ兄の服は家にあるから、シンよろしく!」
「何で俺が寝坊助のために動かなきゃなんねえんだよ!」
と言いながらも、ちゃんと瞬間移動してくれた。俺は大急ぎで着替え、再び野原へとやって来た。みんなはレジャーシートを敷いて、朝飯の準備をしていた。遠目で見てもわかる、二つの白に挟まれたピンクや黄緑や黄色…サンドウィッチだ。俺が近づいていくと、急に人が現れてびっくりしてしまった。誰かと思えば、ギルド様を含む王族たちだった。こちらもランチボックスを提げている。しかも、それで終わりではなかった。ウルベフ、猫の国の王族、穀物屋敷のメンバーなど、知っている人はほとんど来た。しかし、ウンモが風邪をひいたらしく、フェルクたちは来ていなかった。まあ、こればかりは仕方がない。
「弁当パーティーだー!」
とはしゃいだ声が聞こえて、誰かと思ったらエントだった。ツーハよりも興奮している。みんなは人が入り乱れる中一緒に食べたい人を選んでいた。しかし、シンはそこから離れた所にレジャーシートを敷き、サンドウィッチをかじっていた。俺が近づいて行っても、邪魔そうにしているだけだった。1人が好きな性格なのかもしれない。しかし、シンに近づいてくる人も何人かいた。俺は誰と食べようかなと思っていると、イネイが近づいて来た。
「一緒に食べましょうよ。最近、お互いが忙しいせいで一緒にいることも少ないですし」
「じゃあ、そうするか」
俺はイネイからおにぎりを貰った。みんなで弁当を交換し合っているらしい。遠くからウーベイの視線を感じるが、何かして来ることは流石にないだろう。ツムギがオドオドしているが、何かあったのだろうか?やがて、ツムギは泣き出しそうな顔でこちらに来た。
「イネイさん。やっぱり、私、言えません…」
「いや、勢いで突き抜けていけばきっと上手くいきます!」
「それができるのはイネイさんだけです」
俺は一体何の話をしているのか読み取れず、2人の会話を見ていることしかできなかった。
「ツムギさんはキョウさんと一緒に食べたいそうなんですけど、ずっとギーヨ様の側にいるので、困っているそうです」
ツムギは真っ赤になった。…うん、大体分かった。俺はキョウさんに話しかけた。
「キョウさん、ツムギが一緒に食べたいって言ってるぞ」
「別にいいですけど?」
俺はツムギの方を向くのツムギはすぐにキョウさんの所へ行った。
「ちょっといいことしちゃいましたね!」
イネイは嬉しそうだ。ギーヨ様も、口うるさいキョウさんがいなくなったからか生き生きしている。ちなみに、フウワはソウマを連れてアイナとルミの所へ言っていた。ソウマの頭から煙が上がっているような気がするが大丈夫だろうか。ツーハは子供同士で集まって遊びながら食べていた。エントはヒスラと一緒にいた。いつ仲良くなったのだろうか。アインはやって来たギーヨ様と食べていたが、それに対してスインは2人座れそうなレジャーシートに1人で座っていた。
「スイーン!こっち来るかー?」
「いや、ええんや。ムルル君の席も、とっておきたいんや。エヴェルとハクムさんも来てないし」
俺はもう何も言えなかった。そこに、なぜかシンがやって来た。
「馬鹿、じゃあ俺が残してたのは誰の席なんだよ」
そういうことだったのか。スインは元から知っていたが、シンも随分とムルルのことを気にかけているようだ。シンは自分のレジャーシートの半分をスインのそれの下に潜り込ませた。その様子が何処か可笑しく、吹き出してしまった時、シンに思い切り睨まれてしまった。その時、背後に気配を感じ、振り返ると、ぐったりとしたソウマがいた。
「フウワ達の所にいなかったか?」
「抜け出して来た。もう付いて行けない。頭がパンクしちゃいそうだよ」
ソウマは重い溜息をつくと、フウワに見つからないようにするためなのか隠れながらクッキーを食べていた。それを見たエントもやって来た。
「ソウマ、そのクッキー誰に貰ったんだ?うまそうだな」
「アイドルさん達からだよ。フウワさんの長話に耐えられる自信があるなら貰いに行けば?」
「…ソウマが無理なのに俺が出来る訳ないだろ。これと交換しないか?『兵糧丸』って言うらしい。ヒスラに貰った」
「じゃあ、そうしようかな」
俺も兵糧丸を貰った。本来忍者の携帯食らしい。喉渇きに効くというのは本当だろうかと思いながらお茶を飲んでいるのは矛盾しているだろうか。現にエントが『水飲まないチャレンジ』をしているからいいだろう。熱中症にならないかどうかは分からないが。そうして、楽しいピクニックはあっという間に終わってしまったのだった。




