第二部 抗う主と部下
…成程。それならば、説得できなくは無いかもしれん。私は息を大きく吸い込み、思い切り叫んだ。
「聞け!レナ!お前は今、絶望しているからブレックジンなんかにかかっているのだろう?お前は少し勘違いしている。レクフォンは確かに狂っている。だが、もしブレックジンならば、強い者は解くことができる。レナ、もう一度レクフォンの所に行け。そして、レクフォンに自分がブレックジンをかけられていることを教えてやれ。それが出来るのは、お前だけだ」
レナの瞳が揺れ、光を宿し始めた。途端にレナは凄まじい妖気を纏い、こちらに歩いて来た。成功のようだ。
「ありがとうございます。この御恩は一生忘れません。しかし、私にも矜持というものがあります」
レナはマフラーの代わりに蹴りで攻撃して来た。咄嗟に避けたが、その先にあった岩が砕け散った。これが一撃でも当たれば終わりだな。私は透明になった。
「いくら性格が捻じ曲がってしまったとしても、レクフォン様はレクフォン様です。命を賭けてお護りすることには違いありません。かかって来なさい、フォニックス」
先程と比べると同一人物とは思えない程の変わりようだ。
『彼のブレックジンを破った上、覚醒迄するとは大した者だ。見習うのだぞ、ロッセオ』
突然割り込んで来た創造神の声に、3人を安全地帯まで運んでいた。ロッセオは驚きつつも頷いていた。そうしている間にも、レナはアインの薙刀に追い打ちをかけ、バラバラにしてしまった。…いくら凄くても、それは頂けないな。私は翼で飛び、ひたすら光の礫を発射し続けているツーハを休ませるために近くに来た。
「代わってやるから、とりあえずお前は休め。これ以上してると妖力の使いすぎでぶっ倒れるぞ」
「お言葉に甘えさせて頂きましょう。とうとう私以外の方と合体なさったのですね。それ程、心が通い合ったという事でしょう」
ツーハは見えていない筈なのにしっかりと目を合わせて来てそう言うとゆっくり降りて行き、地上に着地すると残っていた柱に背を預けて休み始めた。私は極力日陰に行き、右手で水、左手で闇の弾丸を作って同時に次々と発射し始めた。レナは急に変わった攻撃に戸惑っていたが、すぐに対応した。私も発射のタイミングをずらしたり角度を変えたりして相手を惑わす為の最大限の努力をした。レナはそれもきっちり避けた。しかし、いきなり何者かがレナに蹴りを入れた。改めて見ると、エントだった。先程までロッセオに運ばれていた筈だが。
「この程度でやられてたまるかよ!かかって来い!」
威勢は良いが、大丈夫だろうか。レナは私の攻撃を避けつつエントを攻撃し始めた。だが、またと無いチャンスだ。私はいきなり発射間隔を殆ど無くして見せた。レナはそれらのうちの幾つかに当たり、じわじわと体力を削られて行った。しかし、レナは突然それらを全てカウンターで跳ね返して来た。私はそれをかろうじて避けた。危ない危ない。すぐさまエントの攻撃がやって来る。下手に多く撃つと、先程の様になるのか。気を付けねば。私は常に場所を変えながら撃ち続けてみた。エントには極力当たらない様にしたが、まあ、頑張ってくれ。レナは一拍置いて跳ね返して来るが、その頃には私はそこにいない。レナはまどろっこしそうにしていたが、それが狙撃手の仕事だ。私の弾丸が飛び交う中、安全地帯でアインがバラバラになった薙刀を見てひどく落ち込んだ顔をしていた。大ピンチに陥っていたエントはライトが持ち前の足の速さで救出した。これで気兼ねなく撃つことが出来る。同時に闇屋敷をぶっ壊すことにもなるが、別にここで過ごした時の思い出がある訳ではなく、寧ろ邪魔なだけだ。レナの動きが鈍って来た様な気がする。決着はもうすぐなのかもしれない。
レクフォンは、離れた所からそれを自らの力によって見ていた。レナはもう限界だろう。今日は酷いことをしてしまった。心では大切にしたいと思っているのに、口をついて出るのはあんな言葉ばかり。さらに、無理矢理な強化までさせてしまった。
「これで終わりなの?」
そんな言葉がポロリと零れた。本来ならば、もっと早くに終わらせるべきだったのかもしれない。しかし、気づいた頃にはやめられなくなっていた。心と体の間に出来た亀裂。それが今もなお私を苦しめ続けている。レナだけでは無い。他の部下も大した訳も無くクビにしてしまい、蛇の子供の人生を捻じ曲げてしまった。今、彼らは何をしているのだろうか。そもそも、生きているのだろうか。もし生きていたとしても、こんな私を恨むのだろうか。考えれば考える程私の心はチクチクと傷ついて行く。私は立ち上がった。どうやら、これで終わらせてくれないらしい。私は、移動し始めた。レナは怒るだろうな。部下が戦っているのに自分だけ逃げ出すなんて、最低だと自分でも思う。今の私を見たら、貴方はどんな顔をするのだろう。
―ねえ、またあなたに会えるのかしら?ヒスラ。




